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戦国異伝

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第百二十七話 五カ条の掟書その十

「そうしようぞ」
「有り難きお言葉、それでは」
「これからお願いします」
「?大殿、宜しいのですか?」
 久政の急変に傍の者達も驚いた、そして唖然とした顔になってそのうえで久政に対して問うたのだった。
「あの、お二人を召し抱えられて」
「そうされて」
「何か不都合があるか」
 久政は視点の定まらない目で彼等に問い返した。
「わしが僧達を召し抱えて」
「いえ、そう言われますと」
「特にですが」
 ひさ様は浅井家の前の主だ、隠居しているが主だったことには変わりない、その権威は確かにある。しかしなのだ。
「ですが大殿が人を召し抱えられるなど」
「これまでありませんでしたから」
 当主の座を退いてからそれはなかったのだ、それで彼等も言うのだ。
「あの、それでもですか」
「召し抱えられますか」
「いや、大殿がよろしいのなら構いませんが」
「それでは」
「ではこれからも頼む」
 久政は僧達に顔を向けて言った。
「よいな」
「畏まりました」
 僧達は頭を垂れて応えた、ただ僧を二人召し抱えただけの筈だった。
 しかしこの日からだった、浅井家はおかしくなった。
 これまで全て長政に任せていた久政が表に出る様になった、そしてだった。
 あれやこれやと命を出す様になった、これには浅井の者達も驚きを隠せなかった、これではまさにだった。
「家に二人の殿がおられるのと同じぞ」
「大殿がもう一人の殿じゃ」
「これまで何も仰ることのなかった大殿がああなられるとは」
「一体どうしたことじゃ」
 こう言って驚きを隠せないのだった、それは長政もわかっていた。
 それで家臣達の中でも親しい者達に漏らしたのである。
「父上はどうされたのじゃ」
「いえ、それがしにもわかりませぬ」
「それがしにもです」
 彼等もこう言うばかりだった。
「大殿は急に変わられました」
「主だった頃からあまり何も仰らない方でした」
「そして隠居されてからは全て殿に全てを委ねられていますし」
「それが急にです」
「何か違います」
「そうじゃな。わしの知る限りでもじゃ」
 長政も己の中にある父の記憶を辿りながら答えた。
「父上は物静かな方じゃった」
「ああも動かれる方ではありませんでした」
「人が変わられた様です」
「あれでは戦の場にも出かねぬな」
 長政は戦のことも考えていた。
「そうなりそうじゃな」
「はい、確かに」
「それも有り得ますな」
「本当に変わられた」
 真剣にいぶかしむ顔での言葉だった。
「どうされたのか」
「どうやら延暦寺から二人の僧を召し抱えられたとか」
「それから変わられたそうですが」
「ああして動かれる様になられたとか」
「その様です」
「延暦寺か」
 延暦寺と聞いてさらに考え込む長政だった。 
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