| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第18話

我が友、一夏に生け贄にされて数日、微妙に一夏とすれ違いが続き、奴を捕まえられない。

別段怒ったりはしていないが、せめて少女達のお叱りは、しかも、自ら引き起こしたものは、自身で解決しろ、と言うべく機会を伺っているのだが、一夏も一夏で負い目があるのか、中々チャンスがない。

それに、そろそろ腕の怪我は良くなっており、ヴァンガードも部分展開ならば問題ない、と先日織斑先生から通達が来た。

ブランクを埋めるためにも、一夏には相手になってもらいたいのだが、今もまた見当たらない。

ゼロとは、出来ない。いや、やろうと思えば出来るだろうが、あの男は、恋仲との訓練を優先する。技量に乏しい俺が問おうと、先に質問した宮間さんなりハクトなりにかまけて蚊帳の外になるのが見えている。

どうしたものか、と考えてみれば、ふと、一つの案が頭に浮かんだ。

「…その道は、経験者に聞くのが一番、か。クラス何処だったか…?」

方針も決まり、足を進める。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「失礼します、丹下は居られますでしょうか?」

教室のドアを開け、クラスの生徒に所在を訊ねる。そう、訪れたのは二年の教室。姉の由梨花に頼もうと言うわけだ。

「少し待ってて、ユリー!お客さんだよー!」

近くにいた女子生徒が姉を呼んでくれた。怪訝そうに立ち上がり、こっちを見た姉は、途端に目を輝かせ、あっという間に目の前まで来た。

「弟君!なになに?お姉ちゃんに会いに来たの!?」
「結果だけなら、そうなるね。今日は、頼みたいことがあって来たんだ」

正直、姉でも妹でも、親身になって俺の訓練に付き合ってくれるだろう。しかし、教えてもらうなら、少しでも経験が多い方がいい。

それに、最近は姉妹とコミュニケーションが不足ぎみだ。よくしてくれている姉妹を蔑ろには出来ない。

今度の休みにでも、姉妹を遊びに誘おうか、と考えつつ、姉に指導をお願いする。

姉は、二つ返事で了承をくれた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「いい、弟君?弟君は、機体に『頼りすぎ』なの」
「…頼りすぎ?」

指導するにあたって、先に座学で難点、欠点を知るべき、との姉の判断により、放課後の教室で、一対一で姉の言葉を反芻していく。

「弟君は、ヴァンガードの速さを利用した出入りとストップ&ゴーが基本になってるの。特性とマッチしていて良い戦法だけど、最終的には、接近戦になりがち」
「布石に射撃を交えてるつもりなんだけど…」
「『あんなモノ』射撃に入らない。牽制程度にしか使えてないよ、弟君」

ぴしゃりと冷たく切り捨てられる。普段と違い、厳しく、甘さがない。

「まあ、一番の問題は、ソコじゃないの。言葉では、伝えられない」
「つまり…、ISを使うと?」
「先生から許可は貰ってるから。弟君、しっかり理解するんだよ?」

まるで抜き身の刀の様な姉の視線に、俺の背中に冷や汗が流れる。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「グフッ!」

姉の膝が、腹部にめり込む。浮かされたまま、その細腕の何処にそんな力が、と驚くばかりの右の降り下ろしで、顔面から地面に叩き付けられる。

「腕を出してから撃つまでが長過ぎる。だから、懐ががら空きになるんだよ?」

訓練機の打刀に、俺は指一本触れることすら許されず、容赦なく攻撃されていた。

部分展開とはいえ、胸部と腰が無くなるだけで、外見は他のISに近くなる。但し、強度が下がるため、速度も控えめだ。

専用機と訓練機なら、経験の差も関係無い、とたかをくくっていたが、大きな間違いだった。

太刀を防がんと発した幕は苦もなく真っ二つにされ、エネルギー刃も歯が立たず、下がりながら放とうとしたエネルギー弾は、先程の膝と右で中断。

まるで子供をあしらうように、我が姉は簡単に俺を見下していた。

「どう、弟君。自分の問題は分かった?」

それは、一夏も、ゼロも、ここにいる生徒全員が、持っているもの。

「自分を疑いすぎだよ弟君…!」
「仕方無いだろ…!いきなり専用機持ちになって、勝っていったら!機体が凄いからって思うだろ!?」

ずっと考えていた。今まで勝てたのは、ヴァンガードが優れているからで、俺自身は大したことはないんじゃないかと。

そして、その考えは、ゼロに敗けて加速した。ヴァンガードがこんなに優秀なのに、何故俺が操者なんだと。

「腕がダメなら…!」

姉を指差し、人差し指の先から、一層収束したエネルギー弾を発射する。

求めるのは、速さと正確さ。

「そこまで進めるなら、弟君は分かるでしょ!?」

右に左にと、跳躍を繰り返し、眼前に躍り出る我が姉。

なす術無く殴られ、無様に転がされる。

しかし、殴られながら、俺は、自らに問いかけていた。

痛いか、辛いか、苦しいか?と。

全身が、己の問いに是と返している事に、俺は笑った。

ならば、まだ戦える。

全身痛いわ苦しいわで嫌になるが、逃げたいという想いは微塵もわかない。

そう、自分が信じられなくても、ヴァンガードはいつも力を尽くしてくれた。それを信じ、応えてこそ意味がある!

「例え、これが間違っていても…、俺の道だ!邪魔はさせない!」

右手を力強く前に出す。両足から光が生じ、旋回しながら右手の前で合体し、『柄』になる。

「弟君…、良いんだよ、それで。お姉ちゃんは、その答えが見たかったの」

柄を握り、エネルギーを全開にする。柄から、透き通る翡翠色の刀身が現れる。

同時に、ハイパーモードが起動する。胸部と腰のアーマーが、形を変えて出現する。

胸部の両肩のアーマーがせり上がり、二重の装甲になり、腰の部分も厚みが増している。

頭部の角が開き、背後のスラスターに隙間が生じ、間から黄金のエネルギーが噴出する。

「行くぞ、ユリ姉。これで決める!」
「来なさい弟君!その答え、全力で受け止める!」

俺と姉の、翡翠の刀剣と打刀の太刀が、すれ違い様に交錯した。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「…うん!弟君はもう大丈夫!」

姉は、安心したように、嬉しそうに太鼓判を押す。結果は俺の惜敗。それまでに受けたダメージが大きかったのと、ハイパーモードで負担がかかったらしい。姉のエネルギーを一気に危険域まで追い詰めたが、相打ちで姉の太刀を受けていた俺が先に屈した。

だが、姉に言わせれば、今回は俺の意識改革が目的だったらしく、最初から勝ち負けを度外視しているらしい。

そして、それは見事に達成された。

自分を信じられない俺を、変えてくれた。感謝しても、しきれない。

「ありがとう、ユリ姉。ユリ姉のお陰で、本当の意味で、ヴァンガードの操者になれた」
「…本当はね、もっと速くやってあげるべきだったと思う。弟君、色々考え込んじゃうから…」

ぽつりぽつりと、姉は心情を吐露していく。

初めての試合の時、心配と不安で押し潰されそうだったこと、俺が勝って、凄く嬉しかったこと、竜胆の対策に、狂気の特訓をしていることを知り、心を痛めたこと。

「何より、グランツ君に負けたのが決定的だった。全力を尽くして負けた。しかも、織斑君を残して。不甲斐なさと無力感に自分を責める弟君を見るのは、辛かった…」

悲しげに目を伏せる姉を見て、居たたまれなくなった。妹も、真琴も同じ気持ちで、想いで居てくれていると考えると、情けなくてしかたなかった。

「…ごめん、ユリ姉。俺、一人で抱え込みすぎた。今度から、頼って良い?勿論…、真琴にも」
「…当たり前だよっ!!どんどん頼ってね、弟君!」

そう言って笑顔を見せてくれた姉は、今日一番輝いていた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「そう言えば、弟君。最後の際に、弟君のISの形状が変化してたよ?『二次移行(セカンドシフト)』したのかな?」
「確かに、爪先から出た光が『剣』になったし…」

ヴァンガードは武器を携行していないため、剣を持てた、と言うことは、姉のいう二次移行した可能性が高い。

「後日改めて織斑先生に聞いてみるよ。そうだ、ユリ姉、今度の日曜、真琴も一緒にどこかに行かない?」
「行く行く!弟君が一緒ならドコだって!」

姉と並んで仲睦まじく、休日の予定を立てていく。その後、一日姉と一緒だった事にむくれてしまった真琴を宥め、三人で遊ぼうと誘うと、二人きりが良い、と、駄々を捏ねる妹を見て、苦笑してしまった。

何か引き返せない道に足を入れた気はするが、姉妹との距離を縮められたのは良いことだと思う。だから、姉と妹の熱のこもった潤んだ視線は他意はないのだろう。

と言うか、そうであってくれ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧