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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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GGO編
  百二十一話 墓参り 弐

 
前書き
はい!どうもです!

では、今回は、GGO編ラストになります!
いやぁ、長かった!
しかしこれでようやく、原作、第六巻までを突破です!

では、どうぞ! 

 
「んじゃ、後でな」
「うんっ!」
「すっぽかすんじゃ無いわよ!」
「わあってるっつの」
翌日、涼人と美雨、杏奈は、生徒会室の中にいた。
今日は授業は午前中までだったのだが、朝から少し溜まり気味の仕事を処理する為に三人で学校に出向いており、美雨と涼人に関しては、この後共通の予定があった。
一足先に仕事を終えた美雨と杏奈は、あと20分程掛かるという涼人を置いて、一足先に、杏奈は帰ろうと、美雨は、目的地に向かおうとしていた訳である。

……と、そんな道程、学校の階段を降りている時、本当に不意打ちで……美雨が聞いた。

「……アンってさ」
「え?」
それも、爆弾を使って。

「涼人君の事好きなの?」
「……は?……はあぁ!!?!?」
いきなりの問いにすぐに反応出来ず、相当に驚いた声を出した杏奈はしかし、持ち前の反応速度故か即座に言葉を返す。

「な、何よいきなり!何がどうなってそんな話がいきなり出るわけ!?」
「えっと、いきなりってつもりは、あんまり無いんだけど……」
杏奈の過剰な反応に苦笑しつつ、美雨は返した。

「アンってさ、涼人君と何時も喧嘩してるよね?でも何て言うか……そう言う時のアンって、何となく楽しそうだし……それに、桐ヶ谷君が生徒会来ないと、逆にアン何時もつまんなそうだから、もしかしてそうなのかなー?って思ってたり」
「…………」
苦い顔をしながら美雨の話を聞く杏奈の表情はしかし、分析を聞く度に少し驚いたような顔をするので、美雨に自分の推測があながち間違いでは無いことを伝える。
やがて観念したように、杏奈は口を開いた。

「桐ヶ谷君には言わないでよ……?」
「う、うん!」
「何て言うかね……好きとかそう言うのよりは……尊敬してる。って方が正しいと思う」
「尊敬?」
杏奈から涼人に向けるにしては意外な言葉を聞かされ、美雨は聞き返した。若干頬を染めながら、杏奈は続ける。

「桐ヶ谷君の態度は、はっきり言って基本的に気に食わないけどね……けど、桐ヶ谷君って基本的には何でもこなすでしょ?こっちがちょっと無理な頼みごとしても何だかんだ言ってやってくれるし……」
「まあ何も言わずにやればもっと良いんだけどね」と言って苦笑した彼女は、すぐに真剣な表情に戻ると、言葉を選ぶように言った。

「唯……SAOの時からずっとそうやって命賭けても余裕かましてる桐ヶ谷君を見てるから……やっぱり、凄いって思ったりするのよ。結局、あの世界にケリつけたのも、彼……リョウコウだった訳だしね」
そう結んで、杏奈がふう、と息を吐いた丁度そのタイミングで、二人は昇降口へとたどり着いた。
通う学年数の多さに対して、一学年の人数がまちまちな為に異常、とは言わないものの元々と比べ少々広めに改装された昇降口を、二人は歩く。

「って言うか、さ」
「え?」
少し考え込むように俯いていた美雨は、顔を上げて杏奈の方を見る。

「私的には、美雨の方にそれ聞きたいくらいだったんだけど……もしかして、そのために聞いた?」
「えっ!?いや、えっと……うん……ごめんなさい……」
「別に良いけどね」
俯いて申し訳なさそうに小さな声で謝罪した美雨に、杏奈は再び苦笑して返した。しかしその顔は、すぐに真剣さを帯びた物へと変わる。

「美雨の心は、美雨の物だから私は何も文句を言うつもりはないわ……でも、一つ聞かせて?……そのつもり、なの?だって貴女……」
その言葉に、美雨は焦ったように返した。

「わ、分かってる。分かってるよ!今までで、もう、大分拗れちゃってるし……今度の事で、もっと涼人君の事分からなくなったし……」
「……距離は縮まってるみたいだけどね」
「えっ?何で……?」
肩をすくめながら言った杏奈に、訳が分からないと言った様子で美雨がその顔を見る。と、若干呆れたように、杏奈は言った。

「だって美雨、貴女今桐ケ谷君の事何て呼んだ?」
「え?涼人君……う」
「ほら、下で呼んでる。こないだまで私と同じように桐ケ谷君って呼んでたじゃない?それって距離が変わった証拠でしょ」
言いながら、杏奈は自分のロッカーからスニーカーを取り出し、上履きと履き替える。その横で同じように靴をはきかえながら、美羽はまた焦り気味に言った。

「いや、これはその、そう言うのじゃなくて……ただ、向こうでずっとリョウ、リョウ。って呼んでたし、こっちの方が呼びやすいって言うか……」
「ならりょうって呼べばいいじゃない。こっちでも」
「そ、それじゃ親しそう過ぎだよ!」
杏奈のもっともな指摘に、手拍子で反応した美雨はしかし、再び苦笑しながら自分を見た杏奈に、失敗を悟った。

「ほらね?やっぱり、距離が近くなってるっては自分でも感じてるんじゃない?案外、麻野さんなんてやきもきしてるかも」
「うぅ……アンは意地悪だぁ……」
「先に聞いてきたの美雨だけど」
そう言って杏奈は昇降口から出て校門に向かう。そうして、少し言葉を選ぶような様子を見せてから、ゆっくりと言った。

「まぁ、よく考えてみて、それでも聞いてみたいなら、好きにすればいいわよ。別に桐ケ谷君が誰かと付き合ってるとか、そう言う事は無い訳だし、麻野さんには悪いかもだけど……ただ自分の事は、ちゃんと納得させなさいよ?」
「うん……ありがと」
俯きながらそう言った美雨を連れて、二人は駅へと歩いて行った。

────

「……ここか?」
「うん。此処」
その、一時間半程後。
美雨と涼人は、都内の、ある寺……その、墓地に来ていた。二人の目の前には、綺麗に磨かれた一つの墓石が有り、其処に「小野和田(おのわだ)」と名字の打たれた、墓石が有った。

「小野和田 舞」

そう。
美雨の親友。SAOに置いて、「アイリ」と名乗っていた少女であり、同時に、リョウコウが、あの世界で殺した、オレンジプレイヤーの一人だ。
あれから、涼人は美雨に指定された駅まで電車を乗り継ぎ、其処から一件の和菓子屋に向かった。其処は彼女……舞の実家だと言う家で、そこで涼人を待たせつつ美雨は舞の両親に挨拶をしていた。無論、涼人の事は《友人》だと言う事にして。

そうして其処から更に寒空の下を十分程歩き二人はこの墓の前に立っていた。

「…………」
「……こんにちは。舞」
そう言って、美雨は墓に持ってきた花と元々会ったそれを入れ替え、軽く墓を手入れすると、線香を立てて手を合わせる。
そして涼人は問言うと、少し道具などを手渡したりする以外は、終始後ろで彼女の事を見ていた。祈る事もしない。
今美雨が祈っている相手を、この墓の中に叩き込んだのは自分だ。それを考えれば、此処で手を合わせる事は寧ろ馬鹿にしているとしか思われないだろう。
そしてそんな涼人の心情を知ってか知らずか、美雨は何も言わずに手を合わせ終えると、振り向いて言った。

「うん……付き合ってくれて、ありがと。いこっか」
「……おう」
これが、美雨があの時言っていた、「お願い」だった。
「一日だけ、自分の用事に付き合って欲しい」それが彼女の望みだったからだ。そうして、涼人はそれを受領した。

「舞ね、あのお店継ぐんだって、ずーっと昔から言ってた。和菓子とか、作るの大好きだったの。だから……」
「……そうか」
俯きながら言う美雨に、涼人の返す言葉は少ない。尚も、美雨の言葉は続いた。

「私ね……あのお店で、働こうと思ってるんだ。お菓子の作り方、教えてもらって、ちゃんとした所で修業とかして……それで……」
「……あの店、貰うのか?」
「っ、う、うんっ……」
頷いた美雨の顔が、どんな表情をしているのか、涼人から見る事は出来なかった。
本当なら……謝るべきなのかもしれない。たとえ本心からは悪い等と思えてはいなくても、形だけでも、謝罪を送るべきなのかもしれない。

しかし本心からそう思えないのならば……それは、単なる逃げでしかないような気もした。自分の自己満足の為の……

「あ、でも、ちょっと悩みもあってね。結婚相手、居なくなったりしちゃったりするかな。とかさ」
「女で、和菓子職人、か……まぁ、確かになぁ……」
そうして、其処までの間、会話は、二人の内心はともかく、在る程度は穏やかに進んでいた。

「だからさ、そうなったら……」
美雨が、この発言をするまでは。

「涼人君、私の事貰わない?」
「……は?」
涼人が呆けたように立ち止まる。俯いて居た筈の美雨の顔は、何時の間にか真っ直ぐに自分を見ていた。

「……って、どんな冗談だよそりゃあ」
しかしすぐに気を取り直し、涼人は苦笑してまた歩き出し……その進路に、美雨が割り込んだ。

「……冗談じゃないよ。って言ったら?」
「な……」
極真剣な顔で、真っ直ぐに自分を見て来る彼女に、流石の涼人も戸惑った、慌てたように、言葉を返す。

「な、何言ってやがる。お前と俺の関係考えりゃ、んなの絶対在りえねェ話だろ?冗談にしちゃ長いぜ?天松」
「冗談じゃないって言ったよ……?答えて、私と涼人君の今までの関係とか、全部無かった事に出来るなんて思ってない。でも、今だけで良いの。もしそれを除いたら……一人の人間として、一人の、お、女として……私が涼人君に“ずっとそばに居て欲しい”って言ったら……君は、私の気持ちに答えてくれる?」
「…………」
少しだけ顔を朱くして言った彼女に今度こそ、涼人は眼を見開いて固まった。
少しの間その表情のまま凍りついたように固まり、次いできつく目を閉じると、最後には真剣な顔で再び真っ直ぐに美雨を見る。
彼女と彼の距離は、いつの間にか、ごく近くまで近づいて居た。それはそれこそ、少し動けば互いに互いへとどいてしまいそうな距離だ。
そうして、涼人はゆっくりと口を開く。



「……悪い。俺は……お前のそばには居られない」
「…………」



そのまましばらく、二人は固まっていた。
冷たい空気が空間を流れ、二人に吹きつける。そして……

「……そっか」
いつも通りの、美羽の明るい声が響いて、会話は終わりだった。そのまま歩きだした美雨に、涼人が続く。

「ま、分かってたけどね。涼人君には相手も居るんだし」
「……あぁ、そうだな。ってん?相手?」
手拍子で答えそうになって、涼人はふと気が付いたように首を傾げる。身に覚えのない点でもあ、あった。と言った様子だ。
それを見て、美雨はあきれ果てたように涼人を見る

「……あのねぇ……いや、もう、何か……いいや。うん」
「は?なんだよ、その冷たい視線は」
「ベッツに―。あ、涼人君、この先に喫茶店が有るんだけど、ケーキ食べない?涼人君のおごりね!」
一方的にそういって、美雨は走り出す。行き成りの展開について行けず、慌てたような反応をしながら、涼人は続いた。

「は?お、オイ天松!?待てコラ!」
「待たないよ!今日一日!って約束だもんねー!」
「いや、卑怯じゃねェ!?」
そんな事を言い合いながら走って、美雨はふと空を見た。

『私はまだ、貴方の事が頭から消えない……でも、ごめんね?アイリ……』
その視線を、後ろから追いかけて来る青年に戻して、胸の奥で、小さく呟く。

『私は……やっぱり、この人に復讐なんて、出来そうにない……身勝手な私で……ごめん』
そう思って、正面を向き、駆けだす。
そんな頭の奥に、小さな、声。

──良いよ、スィ──

声の主が誰なのか、気付くよりも前に、アイリは走り出した。

────

「ったく、彼奴散々連れまわしやがって……」
悪態をつきながら、涼人は住宅街の中を歩いて居た。
あの後、美羽に散々いろいろな場所に連れて行かれ、しかも内幾つかは強制的におごらされた。

ちなみに現在いるのは埼玉県川越市。自宅の近くだ。今日は駅まで自転車では無かったので、徒歩だ。

「はぁ……」
一人で歩きながら溜息をつき……ふと、考える。

『“ずっとそばに居て欲しい”って言ったら……君は、私の気持ちに答えてくれる?』
完全に、不意打ちだった。言われて、言葉に詰まった時点で、自分の負けだ。そして同時に、もう一つの言葉もまた頭の中に響く。

『相手も居るんだし』
「…………」
今までは、考えないようにしてきたつもりだった。だが……自分はもう19で、彼女は同じ年齢だ。
例えば来年、互いが成人した時。例えば、今いる学校を卒業する時、この先、いくらでも、彼女が“それ”を言いだす可能性のあるタイミングはある。
しかしもし……そうなったら?

『…………っ!』
頭の中で、幾つもの言葉と、自分の知る事実が反響する。
幾つもの出来事と、思い出、不幸、幸福、罪、喜び、悲しみ。積み重なった時間の上に在る今。そして更に積み重なった先に有るはずの……未来。

何時の日か、もし本当に彼女に“それ”を口にされる時がきたら……その時……

『俺は……』
其処まで考えて……不意に、背中に気配を感じた。

「っ……!?」
反射的に振りかえる。

「…………」
何も居ない。しかし……

「……俺は、馬鹿か」
感じた気配の質量は本物で、きっと今も、自分を殺したがる人間がこの世界の何処かには居るだろう事を、涼人は勘から感じ取る。
頭の何処かの冷静な部分がそれら全てからの復讐を、自分は受け入れなければならない事を自らに告げている。其処までを考えて、

「…………あ」
不意に、目の前にちらちらと白い物が舞った。

「……初雪か。早いな」
見上げると、後から後から、白い物が涼人の下へと降り注ぐ。
記憶の底に、それと同じ光景を見た記憶が思い起こされて……同時に思い出す。

そう。きっと誰かが、自分に、リョウコウに、桐ケ谷涼人に死んで欲しいと願っている。例えば……

「彼奴見てぇに、か……」
そう言って、涼人は歩きだした。

白く舞う雪が霞ませる街灯に薄く照らされた景色の向こうへと消えて行くその背中は、ほんの数年前に、たった一人で幾つもの死線が交差する世界を歩いて居た青年の背中を、思い起こさせるものだった。


物語の歯車は、まだ、小さな音を立てたまま、回り続けている。

Act 3 Seventh story 《銃と火薬の世界》 完
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか?

まぁいろいろと怒涛の展開を描きましたが、楽しんでいただけたかな。と思います。
ただ今回に限っては人によって解釈などの方も変わってくる話かな。と思っているので、そのあたりで納得がいかないなどのご意見もございましたら、よろしくお願いします。

そして、今回のような雰囲気の話、この先、少しずつ増えていく予定です。

そのたびにこんな微妙な空気感になりますが、どうかよろしくお願いいたします。

ではっ!


追伸、今回のサブタイで、気がつかれた方もたくさんいるかと思いますが、それぞれの話のラストシーンを、見比べていただけると……少し、予想が出来るかもしれませんw 
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