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鋼殻のレギオス 三人目の赤ん坊になりま……ゑ?

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第二章 メルセニク編
滅び行く都市よ
  月を目指した都市

 
前書き
短いけど次回からいろいろ加速していくはず。 

 
 グレンダンでの戦闘の後、本当に一日中爆睡していたシキは起きて、すぐエルミ・リグザリオと名乗った猫の説明を受けていた。

「あんたの左腕なんだが……ぶっちゃけるとあんたの全力に耐えきるのは不可能ね」
「おい、腕に爆弾抱えたまま戦えと!?」

 シキの指摘はもっともである。
 言わば、爆弾を括りつけながら戦闘するようなものだ。今までもそうだったのだが、今回は錬金鋼ではなく腕だ。咄嗟に切り捨てることができるはずもないし、知らぬ間になくなってた腕が自分のせいで爆発するなんぞ聞きたくもない。
 シキの言いたいことを理解しているのか、猫はあくびをしながら言った。……と思っていたのだが、女の声は額の宝石から出ているようだ。

「心配しなくてもそんなミスは犯さないさ。あんたには先ほどの改造で制限を付けさてもらったよ」
「制限?」
「まぁ、その剄脈の元を造ったのもわたしだしね。あなたが寝てる間に、体内に臓器を一つ増やさせてもらったわ」

 なんだか、とんでもない人物を前にしてるんじゃないかと思ってきたシキだったが、口には出さないようにした。どうせ、質問したってはぐらかされるだけだと身にしみてわかっている。というか、臓器を増やしたってなんだ、そう簡単に増やせるものなのか? と場違いな疑問しか出てこない。

「簡単に言えば、あんたのその馬鹿げた力を一定の出力まで制限できるように調整したのよ」
「……つまり、蛇口の口を縛るために、紐を用意したようなもんか?」
「間違ってはないわ。意外と頭が回るのね」
 
 意外と、という言葉にカチンときたシキだったが苛立っただけですませる。
 目の前の猫は危険すぎるとシキの本能が最大級の警告を出していた。

「あんたで言う……そうね、天剣授受者だったか? あれよりも少し下の出力よ」
「十分すぎる。てか、あの錬金鋼が耐えれるギリギリってこと?」
「そうね。ギリギリどころか、余裕で受け止められる計算だけど」

 シキは、目の前の猫の非常識さに叫びたい気分だった。この猫一匹がいれば、世界が救われるんじゃないかと思ったくらいだ。

「実際、救った。まぁ、救ったというよりもある人物への嫌がらせに近い行為だったわね」

 どんな嫌がらせだとシキはツッコミたくなったが、話を続けて欲しいので口を開かずにいた。

「素直な子は好きね。武器に関してだけど、多少の変更を加えつつあんたの武器をそのまま流用してる。鋼糸だったわね? それの形状を剣に直したわ」

 予想外の吉報に、シキは内心歓喜し同時に怖くなった。

「なんで、鋼糸を?」
「さぁ? 気まぐれと思って諦めなさいな。猫は気まぐれな生き物よ」

 そんなもんで片付けられる問題じゃない気がしたが、これもやっぱりシキは無視した。自分の姉、リーリンのような天才みたいだが、レベルが違いすぎる。もう魔法使いのように感じた。

「あとは服。……というか、さっさと着替えなさい。子供がそんな格好をしてるのは見るに耐えない」

 そう言われてシキは、自分の服を見る。
 ボロボロになった病院服、ところどころ焦げていて戦いに巻き込まれた哀れな子供のようになっていた。おまけに左腕部分は血まみれというオマケ付き。
 シキは猫が指差した方に置いてある服を見つけて、それを着た。

「……サイズがぴったりだ」
「さらに伸縮自在、耐久性もあるから大切に使って、いいわね?」

 アンダーシャツとパンツを穿いてから、シキはズボンを手に取る。
ジーパンのような感触だったが履き心地はこちらのほうが上だった。そして幾つかポケットが付いているジャケットを羽織ってジッパーを上げた。
最後に手の甲に錬金鋼用のシリットが付いた指なし手袋とこれまたスリットの付いたブーツのような靴を履いた。
戦闘用であることは明らかだった。腰に剣帯を巻くと、まるで着慣れた服のように心地よかった。

「気に入った?」
「……なんでここまでするんだ?」

シキは呟いた。
なぜ、ここまでするのか。その通りである。
シキとエルミはほぼ初対面である。知り合ってもいない人間を改造し、あまつは戦いやすくするためにここまでしてくれのは異常だ。
エルミは、またあくびをしながらこう答えた。

「あんたには借りがあるのよ。まぁ、今のあんたには身に覚えがないはずさ」
「あぁ」

 身に覚えなんてない。こんな喋る猫に借りがあったら、死んでも忘れないとシキは断言できる。そもそも、喋る猫なんか見つけたら、孤児院の子供たちに持って行って遊び道具にするに決まっている。

「さて、そろそろ紹介してもいいわね? ねぇ、マイダーリン」
「そうだな、今、自動操縦に切り替える」

 シキの耳に男性の声が聞こえた。
 そして運転席の仕切りから、一人の太った男性が出てきた。おそらくは今まで運転していたのは彼だろうとシキは結論づけた。
 荒い足音と共に運転席から歩いてきた男性は仏頂面でシキを見るとぶっきらぼうに言葉を紡いだ。

「相変わらず男か女かわからんやつだ」
「……初対面だが?」

 馴れ馴れしい男性の反応に、シキは眉を曲げた。

「あぁ、ややこしいな、コイツは」
「しょうがないわ。この子はまだ知らないから」

 猫は男性の足に駆け寄ると、身体をすり寄せながらニアと一声鳴く。
 猫の方もそうだが、エルミの声が少し柔らかくなったのでシキは二人の中を察した。
 男性は頭を掻きながらシキにふてぶてしく挨拶をした。

「俺はドミニオ・リグザリオ。エルミの夫だ」
「えっ!?」

 その一言で、シキは身を引いて男性から距離を取った。
 夫とドミニオは言った。つまり、あれがそうなってあぁなって……と嫌な想像をしそうになったところでエルミがため息混じりに言った。

「私は元人間さ。訳あって、この宝石の中にいるだけ」

 シキはびっくりして、マジマジと宝石を見つめた。
 不可思議に色を変える宝石に、シキは少し魅了されたようにじっと見つめた。この中に人がいるとは考え難いが、猫がしゃべっているなんて非常識な行動には合点がいった。

「さて、シキ。あんたは、これからドミニオと私と生活してもらうわね」
「……暇がないんじゃ?」
「それはあんたには、力の制御をしてもらいたいからよ。今までできなかった分、この一ヶ月でやって頂戴」
「まぁ、俺はどうでもいいんだがお前の力は強大すぎるからな。……安心しろ、暴走しそうになったら即刻たたき出してやる」

 その言葉を聞いて、シキは確信した。
 コイツとは仲良くできないな、と。
 かくして、シキとドミニオとエルミの共同生活が始まった。……のだが、早速剄を暴走させたシキは、ドミニオからバスから蹴り落とされた。わずか一日という短期間だった。





「大分安定してきたじゃないの」
「そりゃ暴走するたびに蹴り飛ばされればこうなるよ」

 ソファに寝転がりながらシキはエルミに言う。
 あれから五ヶ月が経った。
 その期間、シキたちは一度も都市に立ち寄ったことがなかった。近くを通ることはあったが。
 この五ヶ月間、シキは自身を鍛え直していた。
 寝転んでいる間も殺剄をしながら、剄を練り続けるという訓練をしていた。
 ぶっちゃけ汚染獣も来ず、ずっと修行できずにいるのが苦痛だったという理由で始めたのだが。
 殺剄の達人であるカナリスに師事してもらったことがあるシキはこの訓練をしたことがある。
 だがシキレベルの剄を殺剄で抑えこむのは荒れ狂う濁流を止めるに等しい行為であり、唯一シキはカナリスとの修行だけは逃げ出した。
 しかし、今はエルミによるリミッターが効いてるおかげと五ヶ月間、ずっと放浪バスという密室空間にいたせいかやることなくずっとその訓練だけをしていたのだった。
結果、シキは剄の制御が格段にうまくなった。五ヶ月前までは、今の全力を出せば垂れ流していた剄も今や、外部に垂れ流すことなく内部で処理することも可能になった。
カナリスクラスの殺剄をするにはもう少し年月が必要だが、いずれは出来るとシキは思っている。
 制御できるようになったのは喜ばしいことだろうが、たまに制御を誤ったりしてドミニオと口論したことも一度や二度ではない。

「にしてもまだ着かないのか? えーと……えーと」
「白炎都市メルニスク……だ」

 ドミニオはぶっきらぼうに言うが、彼自身も着かないことにイライラしているのかここ数週間はいつも以上に眉間に皺が寄っていた。
 そんな中、あくびをする猫の額でいつも通りの口調でエルミが口を開いた。

「そろそろ見えてくる頃さ、あんたも十分力をつけた……ほら」
「ん?」

 シキの耳に振動音が微かに聞こえる。
 勢い良く飛び起きたシキは小走りで運転席まで行き、剄を目と耳の感覚強化に回す。
 どうやら前方に都市を目指している途中の放浪バスが見え、そのまた遥か前方には見慣れたシルエットが見えた……都市(レギオス)だ。

「おぉ…おぉ?」

 シキは目をこすり、更に目を強化し見えた都市を見据える。
 大きな建物があった、いや建物というよりも塔か。明らかにエアフィルターを超える高さで建っていた。

「正気か? あの都市」
「何を見てるか知らんが、お前よりかは正気だと思うぞ」

 独り言を嫌味で返すドミニオを一睨みし、シキはメルセニクを見る。
 正気の沙汰ではないのは誰の目を見ても明らかだった。都市というのはそれぞれ特色を持っている。技術が盛んな場所、食べ物が美味しい場所、学問を学ぶ場所、情報が集まる場所と様々な用途に特化している。だが大原則がある。
 汚染獣が集まるようなことはしない、ということだ。
 だが、あの都市はそのリスクを犯している。アレだけの高さだ、安全性は確かめているだろうが確実にレギオスの歩みを邪魔しているだろうし、物知らずのシキだってわかるくらい無謀だ。

「なんであんなことしてるんだろう」
「さぁ? 私からすれば無駄な努力、と切って捨てるがね」

 いつの間にかシキの足元に来ていたエルミがそう応える。

「無駄な?」
「そっ、無駄。アレだけの資材と人員を割いたとしても月には勝てるわけないのにね」
「月?」
「近いうちに嫌ってほど相手することになるから安心しときなさいな」

 意味深な事をエルミはいうとソファまで戻り丸くなって寝てしまった。
 シキは釈然としない気持ちで首をかしげる。
 しかしその気持ちは激しい衝撃で打ち消される。バスが揺れているのだ。

「な、なんだ!?」
「黙っていろ、都市に着いた」
「へっ!? ってうわぁああああああ!?」

 一気に浮上するフワッとした感覚を感じ、さらには先程よりも酷い揺れがバスを襲う。
 シキは初めての経験なのだが、これが都市が放浪バスを回収する方法なのだ。極稀に止まって回収する場合もあるが基本、動いている都市は釣りの要領で放浪バスを文字通り外縁部まで釣り上げる。
 そして用意されていた緩衝プレートに車体がぶつかり、完全に動きが止まった。


 こうしてシキは滅ぶ都市、メルセニクに降り立った。
 
 

 
後書き
とりあえずメルセニク編、色々交わったり一部原作と交錯したりするかも? もちろん一部の敵が超強化する予定。 
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