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牙狼~光の王国~

作者:黄金兵士
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出逢

冴島鋼牙……森羅万象あらゆる者に憑依し、人間を喰らう魔獣ホラーから人々を守る魔戒騎士の最高位「黄金騎士・ガロ」の称号を持つ男。
鋼牙は魔戒騎士が所属する機関である番犬所から、人間界に降臨した魔獣ホラーの中でも最凶と呼ばれる7体の使徒ホラー撲滅の指令を受けていた。
7つのエレメントに罠を張り、高度な知能と能力を駆使して人間を襲う使徒ホラーは幾人もの魔戒騎士・魔戒法師が戦いを挑んできたが、その強大な力の前に敗れ去っている。
そんな敵に鋼牙は勇敢にも1人で立ち向かい、撲滅寸前の残り1対まで片づけていた。
残るホラーは魔雷ホラー バクギ。
雷鳴の如き速さで移動し、古の時代は雷と共に出現していたが、現代では電気を伝ってどこにでも出現する。
鋼牙はバクギを夜の深い森の山間部に追いつめていた。

「もう逃げ場はないぞ?」

そこは木や草が覆い茂り、頼りになるのは月明かりのみで、まさしく暗闇であった。
電気がなければ、バクギは逃げる事はできない。
バクギも逃げれないと観念したのだろう、振り向いたその容姿はまさしく雷神そのもの。
雷神と言えば、鬼の様態で、牛の角を持ち虎の革のふんどしを締め、太鼓を打ち鳴らす姿が馴染み深いが、バクギの姿はまさしく絵に描いたような雷神。

お互いに数秒間、睨み合う……そして鋼牙は剣を構え、バクギは雷に包まれた太鼓の棒を鋼牙に向ける。

今まさに、戦いが始まろうとした時、空中から巨大なの輪が出現し、あっと言う間に鋼牙とバクギを呑み込む。

「なんだこれは!?……ぐあぁぁぁぁぁ!?」

全身が真っ逆さまに急降下している錯覚を覚えると同時に、自分の身体が光の粒子になって消滅していく。
鋼牙も光から抜け出そうと必死に抵抗するが、身体が鉛のように重く、思うように体が動かせない。
鋼牙は当初、バクギの技と思っていたが、バクギも光の中でもがいている姿を見るに、この光はバクギが出現させたものではないと気づく
そして十秒もしないうちに、光の輪は消滅。
その輪に呑み込まれた鋼牙とバクギも光の輪と共に姿を消した。

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『光の国、トワイライトは邪悪なる者の手によって光を失う      
 放置すれば闇は拡大し、いずれトワイライト以外の王国も魔の手に堕ちるであろう
 しかし、必ずや、その闇に立ち向かう勇者現る。
 そして勇者と共に異界から来る、黄金の狼が闇を切り裂き、我々は再び、光を取り戻すだろう
 ただし、トワイライトの姫が勇者と黄金の狼の懸け橋とならなければ、この世界は闇に堕ちる』

遥か古より光の国、トワイライト王国に伝わる予言の書……その予言書を今の私はひたすら読み返すことしかできなかった。
勇者が現れる……黄金の狼が闇を切り裂く……昔はそんな伝説信じていなかった。
今も信じてはいないが……でも今は少しでも可能性があることを試したかった。

光の国トワイライト王国……多くの人間が住み、戦いとは一切無縁であった……数日前までは……。
数日前に現れた、エルフ族の男ルシファーは私の全てを奪っていった。
もはや光の国と呼ばれたトワイライト王国の面影はない……今は邪悪な魔王「ルシファー」が支配する、暴力と犯罪、闇が蔓延した影の国となってしまった。
元トワイライトの王国の姫だった私は家族や国を奪い、国民を塵のように扱うルシファーを到底許す事はできない。

でも私一人ではどうすることもできないのが目に見えている。
非力な自分が情けなかった……言い伝えにある勇者や黄金の狼たちが現れるのを待つことしかできない。
しかも、それは単なる言い伝えで本当に現れるかどうかも疑わしい。
今は身を潜め、好機を窺うしかない。

______________________________________________

俺は……どうなったんだ?……。

そして、ここはどこなのか……。

見渡す限りの平原が広がっている……。

バクギとの戦いが始まろうとしたとき、光の輪が飛来し、それに呑み込まれた後の記憶が一切ない……夜の森の山間部にいたはずが、目の前にファンタジーの世界を絵に描いたような、晴れ渡る空と平原が広がっていて、俺は呆気に取られていた。

「ザルバ、ここは何処だ?」

こういう時に頼りになるのが、共に修羅場を潜り抜けてきた戦友のザルバだ。
ザルバは俺の指に嵌っている髑髏を模した指輪のことだ。

「どうやら、あの光のせいで異界に飛ばされたようだ。バクギのオマケつきでな」

頭の中で理解しようにも、混乱して整理できない。

どう見たって、自分がいた世界ではないのだから。

とにかく、今はバクギを撲滅する事だけを考えよう……元の世界に戻れる方法を見つけるのはのはそれからだ。

「ザルバ、バクギの居場所はわかるか?}

「いや……完全に気配を見失った。この世界に飛ばされたことは間違いないんだが」

「そうか……」

となれば、地道に探していくしかない。

ここで突っ立っていても埒があかないので、俺は足を前に進める。
土地勘も地図もなく、何処に向かっているのかは分からないが何も行動しないよりはマシだ。
しかし今日の寝床に食事など、問題は山積み……これでは先が思いやられる。

どこからか、歌声が聞こえてくる……美しくも優しいその歌声は自然と涙が出そうなくらいだ。

「この歌声は?……」

その声に導かれるように、俺は足を進めた。
すると、俺の肩位の高さの岩の上に十四五歳の幼い少女が腰を掛けて、美しい美声を発している。

「ちょっといいか?」

「うわっ!?人間!」

少女は怖ろしいものでも見たかのように驚き、岩から落ちて、尻餅をつく。

「何を言っている?……お前も人間だろ」

「えっ?あっ……あぁ!そうだった!」

俺は少女の言動に違和を憶えたが、あまり深く追及はしなかった。
特段、少女に特別な要件はなく、今晩寝泊まりできる場所を聞きたかっただけなのだから。

「この近くに村はあるか?」

「ずっと西に行けば、村はあるけど、着くのは夜になるかも……」

「そうか……邪魔したな」

俺が少女に背を向けて、西を目指そうとしたとき、少女が慌てて、通せんぼする。

「ダメ!夜にこの平原を歩くなんて自殺行為だよ!」

あまりに少女が必死な必死になって止めるので、理由を聞いてみる。

「何故だ?」

「夜にはすっごく怖いモンスターが出るんだ!」

「悪いが、くだらん嘘に付き合っている時間はないんだ」

俺は使徒ホラー6体を倒すのに、1ヶ月半もかかっている。
とっとと全滅させて、自分の帰りを待っている人達を安心させたかった。

「ウソじゃない!これは命令です!」

「命令か……お前が俺を心配してくれるのは嬉しいが安心しろ。俺は負けない」

「襲われても知らないんだからね!」

それは今まで、ガロとして何度も強敵と戦い、勝ち抜いてきた自信からだった。
モンスターが万が一現れても、返り討ちにすればいいだけの話で難しい事じゃない。

不機嫌そうな少女の頭を撫でると、俺は西に向かって歩き出す。

もう、歩いて三時間くらい経っただろうか……。
ギラギラと照りつける太陽は沈みかけて、綺麗な夕焼け空に変わっていた。

それはそうと、ずっとついて歩いてきている奴がいる。
それはさっきの少女であることに俺は気づいていた。
時間が経てば、歩き疲れて、諦めるだろうと思っていたので何も言わず、歩き続けていた。

「待ちなさいよ!か弱い女の子を置いていくつもりなの!?」

言わんこっちゃない……後ろを振り向くと、息を切らしながら膝をつく少女。
俺は呆れ顔で少女に近づく。

「何の用だ?」

「心配だからついてきてあげたの!ありがとうでしょ!?」

「はいはい……それはどうも。それはそうとお前歩けるか?」

「見てわかんないの!?」

俺はため息をついた。
このまま放っておくわけにもいかず、背中を少女に下す。

「何よ?……」

「早く乗れ。夜になったらモンスターが出るんだろ?」

「べ、別に……貴公がそこまで言うんならオンブさせてやってもいいぞ?」

俺の背中に少女が乗っかると、俺は再び歩みを進める。

「そう言えば、貴公の名前を聞いていなかったな。名はなんて言うんだ?」

「一つ教えといてやる。人に名前を聞く時は自分から名乗るもんだ」

「うるさいなぁ……わらわはスプラ。よろしくな!」

「冴島鋼牙だ」

今はこの少女が俺をトワイライト王国の戦いに巻き込むことを俺はまだ知る由もなかった。














 
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