戦国異伝
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第百二十七話 五カ条の掟書その二
「竹千代と猿夜叉にも伝えよ」
「その二人には気をつけよと」
「その様にですか」
「徳川家や浅井家に入っても同じじゃ」
やはり奸臣、佞臣の類になるというのだ。
「だからこそじゃ」
「では徳川殿と浅井殿にもお伝えします」
「家中だけでなく」
林兄弟が応える、そうしてだった。
信長は早速筆と硯を出させた、そのうえですぐに書きはじめた。
書くのはすぐに終わった、そして言うことは。
「これをじゃ」
「都の公方様に送られますな」
「そうするとしよう」
こう山内に返す。
「これで公方様がどう思われるかじゃが」
「おそらくですが」
山内は怪訝な顔になり答える。
「今の公方様では」
「わしのことを読んでもじゃな」
「行いをあらためられぬかと」
「わしもそう思う」
信長もわかっていた、そう読んでいたのだ。
「これで公方様が変わられるかというとな」
「行いを正すことはありませぬな」
「公方様だけならともかく」
「佞臣達が周りにいてはですな」
「それは望めぬ」
信長は書いてから苦い顔で言った。
「佞臣達を除かねばな」
「ではです」
ここで佐々が言って来た、織田家の中で最も血の気の多い者として知られている彼がである。
「それがしがあの者達を切り捨ててみせましょう」
「いや、それがしが」
前野も出る。
「佞臣は放っておいては全てを腐らせます」
「ですから」
「いや、待て」
信長ではなかった、森が二人に言ったのだ。森は二人を宥めそれでいて咎める目と声でこう告げたのである。
「軽挙な慎め。それにじゃ」
「それに?」
「それにとは」
「津々木を思い出すのじゃ」
あの男のことは今も織田家で覚えられている、まさに佞臣として。
「あの者の様だったらどうするのじゃ」
「妖しの術ですか」
「それを使って来ると」
「充分にあることじゃ。ましてやあの二人は僧ぞ」
森は二人にこのことも告げた。
「僧は高僧とは限らぬ、生臭坊主ならまだよい」
「つまり妖僧ですか」
池田がこの存在を話に出した。
「それですか」
「うむ、本朝にもそうした僧が時折おった」
妖術、左道に通じ天下を惑わす僧侶だ。こうした僧侶の存在も書にありそして今もだというのである。
「あの二人はそれかというと」
「有り得ますな」
佐々は猛者だが決して愚かではない、すぐにこう察して述べた。
「それは」
「確かに」
前野も愚かではなく気付いた。
「左道の使い手には迂闊に手を出してはなりませんな」
「かえって左道に操られます」
「妖術は一筋縄ではいかぬ」
武術や忍術とはまた違う、そして仙術とも。
「どうもよい妖術と悪い妖術がある様じゃがな」
「それは水滸伝を読むのじゃ」
信長が森に主の場所から付け加えた。
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