魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~
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Chapter7「力とは」
機動六課の海沿いの空き地でシグナムと朝の鍛練に励むルドガー。
剣と双剣が激しくぶつかり合いとてもじゃないが朝から並みの人間ではここまでやれはしないレベルである。
「ハッ、セイ!」
「はあぁぁぁぁぁ!!」
カストールが交互にレヴァンティンの刀身にぶつかり火花が散り、そして今度はレヴァンティンがカストールを弾き返す。
…もう一度言おう。もはや朝からやるレベルの鍛練ではない。
「使わせてもらうぞ……」
しまいにはシグナムが自らの奥義紫電一閃を使うという始末。
…敢えて言おう。やりすぎであると。
「その技は……」
自分に向かってくるシグナムに向けルドガーもシグナムと同じように構え走る。
その途中、ルドガーのカストールに変化が起きる。
「見切った!」
「何っ!?」
その変化にシグナムは驚かずにはいられなかった。
ルドガーの両手にあるカストールの刀身には燃え盛る炎が激しく灯っている。
その光景は彼女以外の“それ”を知る者が見ても驚くのは間違いない。
何せ“それ”はシグナムしかできない事なのだから。
だが今止まる訳には行かない。
シグナムは兎に角近づくルドガーと剣を交える為、更に加速。そして互いに剣を振りかぶる。
「「紫電一閃っ!!」」
そして…海沿い一体が火の海に染まる。
再三言わせてもらおう……やりすぎであると。
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「…何か申し開きあるか?」
「いえ、全くないです、はやて様」
「申し訳ありませんでした……」
部隊長室に呼び出され、笑顔と人を地獄に葬れそうなまがまがしいオーラを放っているはやてに、ルドガーはサラリーマンが上司に平謝りするように謝罪し、シグナムが目をつぶりながら自身の主君に頭を下げる。
あの朝の鍛練で2人が使っていた空き地は戦いの際使われた紫電一閃の衝撃で2人が最後にぶつかり合った場所を中心に直径5メートル程のクレーターが見事なまでに完成してしまっていた。
ある意味ではこのクレーターは2人の戦士が互いを高め合う為に出来上った立派な芸術品なのかもしれない。
「朝から何しとんねん!どんだけ張り切ったらああなるんよ!」
「ですから、クルスニクの紫電一閃と私の紫電一閃がぶつかり合ったさ---」
「いや知っとるよ!てかどんだけ高性能なんやルドガーは!」
「それほどでも……」
「誰も褒めとらんよ!?」
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「はぁ…朝から酷い目に合った……」
「これに懲りたら少しは自重するんやなぁ」
部隊長室から食堂へと場所を移り、はやてとルドガー、リインはその中のテーブルでコーヒーを飲んでいる。良かれと思ってやった事が後にやらかしてしまったと後悔する事があるのは今さら気付く事ではないが、実際にやってしまうとどうしようもない気持ちを覚えてしまう。
「それにしてもルドガーさんは凄いですね~シグナムの紫電一閃を物真似しちゃったですよー」
「確かに、さっきはああは言ったけどなかなかできる芸当やないよなぁ…てかルドガー魔力使えなかったんやなかったっけ?」
どこで撮影したか本当にわからないが、ルドガーが二振りのカストールに炎を纏わせ、シグナムと同様に紫電一閃を放っている姿を移したパネルが表示される。うん、本当に見事なアングルだ。もはや魔法だと言いきれば何でもできる世界だ。
「魔力は使ってないし、というかリンカーコアなんて物も持ってはいないから魔法は使えないのは変わらない」
「って事は…アローサルオーブっていう物の力なん?」
アローサルオーブの名前が出て来たので、懐に手を伸ばし件のアローサルオーブを取り出して見せる。
「こいつは前に話した通りエレメンタルコアと呼ばれる属性エネルギーの塊をセットしたアブソーバーに吸収させると使用者の潜在能力を開花させる代物で、俺達の世界では魔物と戦う時には無くてはならない道具だ」
「へぇー、いつ聞いても便利な道具やなぁ」
「俺からすればデバイスの方がよっぽど便利だと思うけどな…」
「ようは隣の芝生は青く見えるってやっちゃな!」
「ですですぅ!」
「………」
何という短絡的思考だろう。これでよく一部隊の部隊長なんて大層な役所の椅子を得られた物だと逆に感心してしまうが、それがはやてのいいところでもあるのは短い間のルドガーでもわかる。
とりあえずそれは置いといてため息を吐き話の続きを話す事にする。
「…話を戻すぞ。さっきの戦闘でアローサルオーブの力は使いはしたが、能力を使ったのは剣に炎を纏わせた所までだ。シグナムで言う炎熱変換だな」
「うん、せやからそれはわかってるって。炎熱変換を魔力の代わりにアローサルオーブの力で再現して紫電一閃をコピーしたんやろ?」
「半分正解で半分間違いだ」
「どういう事ですかぁ?」
「もう一度いうぞ?俺がアローサルオーブの力を利用したのは炎熱変換の再現だけだ」
「ふぇ?だから紫電一閃はアローサルオーブの力で…むぅーごちゃごちゃして分からなくなってきましたー!ルドガーさんが言ってる事わけわかめですよー…」
ルドガーの意図が読めず頬を脹らませるリイン。一方はやてはルドガーの言っている事に気付いたのか手をポンと叩きわかったと声を上げた。
「ルドガーがアローサルオーブの力を使ったんは炎熱変換の再現だけなんよね?」
「ああ」
「なぁーる…ようやくルドガーの言ってる事がわかったわぁ」
「はやてちゃんわかったんですか!?」
テーブルに置いてある自分のコーヒーに手を持って口に付けすすり、コーヒーの香りを楽しむ。大人な雰囲気を出そうとしているのはわかるがその少女の童顔で頑張っても無意味な気もするが敢えて何も言わないが、いつか真にそういった仕草をしても自然体で第三者が見て違和感を感じられなくなる日が来る事を願うところだ。
「まぁあれや、ルドガーはやった事をまんま言ってるんよ」
「だからそれがわからないんですぅ~」
両腕を上下に振り体全体でわからないという事を表現する。
あまりにも似合いすぎる為思わずルドガーは笑ってしまう。
「しゃーないなぁ、教えたげるよリインにも。あっ、ルドガーコーヒーおかわり」
「俺はお前の執事が何かか?」
「超才色兼備で無敵の六課部隊長やよ♪」
「…………」
堂々と言い切られぐうの音も出やしない。全く肝がすわっているというか何といういうか……。
何だかんだ思いながらもルドガーは結局はやてのコーヒーカップと受け皿を手に持ち厨房の中へと消える。今はシフト外ではあるがルドガーはこの食堂で雇われている身だ。利用者の注文を受けるのは当然な道理であり、ましてや相手はこの部隊の(一応)部隊長だ。聞かない訳にはいくまい。
そのルドガーが厨房に入ってからはやてはリインにルドガーの話の謎を説き明かし始める。
「ええかリイン。ルドガーがオーブの能力使ったのは、言葉通り炎熱変換だけでそしてここが問題なんよ」
「はいです」
「炎熱変換だけをコピーしてもそれを有効に使われへんかったらただ剣に炎を燃やしとるだけ…完全に技を会得するにはその技の本質を理解しとらんとダメなんよ」
そう。どんな事でもただ形だけを見て真似してそれを完全に発揮させたとは言えない。何故こうなるのか?これにはどんな意味があるのか?その過程を正確に知る必要があるのだ。
「こういった技の場合はそうやなぁ…相手との間合いとか武器の相性とかが大事になってくるとはずなんよねぇ……なぁルドガー?」
視線をリインから別の方角に移し厨房から歩いてくるルドガーに話を振る。
「まぁあってはいるな。ただ俺はそこまで難しい事を考えて他人の技を真似してるわけでもないからな‥ほら」
はやての話に乗りながら彼女の前にコーヒーを置き、リインの前にも砂糖多めのコーヒーを置く。
リインはとくにルドガーに注文をしていなかったので、はてと疑問符を浮かべ何故自分にも持ってきたか聞くと、サービスだとの事だった。おそらくこういった気配りが他人からの好感度を上げていくのかもしれない。
「俺は単純に気になる技や能力を見たら、自分でも出来るのかと思ってやってるだけだからな」
「それで真似できるルドガーはめちゃくちゃ天才とちゃうか?」
「そ、そうか?」
言われてみれば自分のように相手の技を見て瞬時に自らの技に加えている人間をルドガーは見た事もなければ聞いた事もない。自分が天才とは思わないが、才能には恵まれているのだとルドガーはこの時思った。
「…確かに俺は才能に恵まれて生まれてきたのかもな」
「「 ? 」」
ルドガーの声の質が変わったのを2人は感じて、ルドガーを見る。
軽く笑っているようにも見える顔だが、はやては何故かその顔に深い悲しみが見えたような気がした。
「だが才能があっても…力があっても、守りたい物を守る事も出来なかったらそれは本当に強いとは言えない…」
「ルドガー?」
「なんてな。って事を前にテレビドラマで言ってたのを聞いた事があったんだ」
それだけを話すとルドガーは席を立ち食堂から外に向かう。
「どこ行くん?」
「武器の整備だよ。小まめにやらないと直ぐダメになるんだよ、それに‥さんの‥かた…だからな」
「え?」
最後の部分が声が小さくて上手く聞き取れない。何て言ったのか聞きなおそうと再度ルドガーに声を掛けようしたが、既にルドガーは食堂から出て行っていた。
「どうしたんでしょうかルドガーさん?」
「さぁ…何なんやろうね…」
リインの疑問はむしろはやてが知りたかった。
何であんなにルドガーは時々寂しそうな顔を見せるんだろうか?何があったらああも笑えるのか?
そして何故………ああも自分と同じ顔をしているのか。考えれば考える程ルドガーの事がわからなくなる。
はやてはルドガーの事を最初にあった頃よりも知りたくなっていった。
「ルドガー………」
小さく少女が青年の名を口にする。
その少女の声は距離の離れた青年に届くはない………
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