ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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After days
挿話集
劫火を纏いし死神
前書き
もうレイはチートキャラと割り切ってしまおうか……
ラスボスの鎮座する最奥の部屋は黄金にまみれていた。黄金の山は手前から部屋の奥まで続き、果ては暗くなって見ることが出来ない。
そして、
「……小虫が飛んでおる」
広間に響く重低音の呟き。圧倒的な情報量を持つ存在が地響きをたてながら歩いてくる。
「ぶんぶん煩わしい羽音が聞こえるぞ。どれ、悪さをする前に、ひとつ潰してくれようか」
ダンジョンでは飛べないだろ。というツッコミはしていいのだろうか?現れたのは上裸のムキムキ超巨人だ。
「ふっ、ふっ……アルヴヘイムの羽虫共が、ウルズに唆されてこんな所まで潜り込んだか。どうだ、いと小さき者共よ。あの女の居場所を教えれば、この部屋の黄金を持てるだけ呉れてやるぞ?」
随分と安っぽい挑発だが、真っ先に反応したのは意外にもハンニャとアルセだった。
「相変わらずアホな脳ミソだな、スリュムよ。ちょっとは進歩しろや」
「ムリムリ、コイツ絶対脳ミソまで筋肉なヤツだ」
「……貴様ら!?……そうか、またワシの邪魔をするか、《戦神》ッ!!」
「ははは。懐かしい名前を出すなぁ。……しっかし、個人を覚えてるたぁ……随分と高性能なAIだな」
「ビックリだね。……すると、意外にも脳ミソの出来はいいのかな?」
何やら最初に言っていた『因縁』とはコイツとの間の事だったようだ。
「まぁいい。今回は何企んでるか知らんが……止めるまでよ」
それにアルセが不適に笑って応じ、彼女独特の構えをとる。残りのメンバーも各々の武器を手にとり、スリュムに向けた。
「ほざけ!!……小虫共々地獄に送ってくれるわ!!」
と、ここで戦闘が始まれば中々様になったのだが、次の瞬間、打って変わってニヤァと危険な笑みを浮かべた。
「ほぅ、そこにおるのはフレイヤ殿ではないか。檻から出てきたということは、ワシの花嫁になるということか?」
……本来、このセリフがさっき出るはずだったのだろう。釈然としないものがあるにしろ、これもシナリオの内なのだから我慢しよう。
「は、ハナヨメだぁ!?」
「そうとも。その娘は、我が嫁としてこの城に輿入れしたのよ。だが、宴の前の晩に、ワシの宝物を盗もうとしたのでな。仕置きに牢屋に繋いでおいたのだ」
少々話が複雑になってきたが、まあそうゆう事らしい。
「誰がお前の妻になど!かくなる上は、剣士様達とお前を倒し、奪われた宝を取り返すまで!」
「ふむ。威勢の良いことよ。流石は、その美貌と武勇を九界の果てまで轟かすフレイヤ殿。小虫を捻り潰した後で、念入りに愛でてくれようぞ、ぬっふふふ」
―ビキッ
という音が前に立つアルセから聞こえ、手に持っているメリケンにヒビが入っているのはきっと気のせいだ……。そうに違いない。
「どれ、ヨツンヘイム全土がワシの物となる前祝いに、まずは貴様らから平らげてくれようぞ」
ずしん、と巨人が一歩踏み出し、長大なHPケージが三段視界端に表示される。
「――来るぞ!ユイの指示をよく聞いて、序盤は様子見だ!」
レイドリーダーのキリトが叫び、決戦の火蓋が切られた。
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霜をまとった拳が深紅の炎の壁とぶつかり、そのスピードが大幅に減速する。
「くっ……」
エクストラ効果を無理矢理破られ、回避に僅かに遅れが生じた。
「旦那、大丈夫か?」
「……一応は、な」
後退したその場所でHPの回復を図るが、
「――ッ、あぶねぇ!!」
咄嗟に横へ跳び凍てつく氷のブレスを回避する。ハンニャと再び合流するのももどかしく、ポーションを飲み干すと、キリト、クライン、セインが固まっている所に拳を降り下ろそうとしているスリュムの足の腱辺りに斬撃を食らわす。
「……っ、はぁ!!」
慣性をそのままに体を捻りながら構え、ソードスキルを発動。
大太刀4連範囲攻撃《螺旋刃》
緑色の旋風と共に腱を4回切り付け、ターゲットを移させた。
「やれやれ、俺も出し惜しみしている場合じゃないな!!」
技後硬直している俺を狙ってスリュムが氷ブレスのモーションをとる。
「「「レイ(君)(さん)!!」」」
後ろから仲間が叫ぶ声が聞こえた。
……俺がそう簡単にやられる訳ないだろ。
―轟ッ!!
熱波が部屋中に吹き荒れ、氷ブレスを吹き飛ばす。
「『焔鎧・弐式、《灼焔霊衣》』」
手に持った大太刀は無く、代わりに深紅の業火が彼の身を包んでいた。それは形は定かではなかったが、羽衣のように揺らめいて氷ブレスの奔流を昇華させていた。
「小癪な!!」
スリュムが怒りの咆哮をあげながら殴りかかるが、それをレイは上に飛び上がって回避すると、腕を伝ってスリュムの眼前に到達した。
「よぉ」
燃え盛る拳を握りしめて目に叩き込む。堪らずスリュムは仰け反って俺は宙に放り出されたが、固い床に軟着陸を決めると、灼焔霊衣を解いた。
「……ふぅ」
『灼焔霊衣』は『焔盾』と違って物理攻撃から身を守ることは出来ないが、魔法攻撃やモンスターの特殊攻撃に対しては絶対の防御力を有し、少し自己強化も出来る。
しかしその反面、発動中はその炎によって少しずつHPが削られ、持続時間も長くはない。
失ったHPを回復させるためにポーションを飲みながら戦況を確認する。
前衛はキリト、リズ、シリカ、リーファ、クライン、セイン、アルセ。
後衛は攻撃にシノン、ヴィレッタ、レーヴァテインを弓に変化させたハンニャそしてNPCのフレイヤ。
支援にアスナ。ただし、ヴィレッタは臨機応変に支援にも回っているようだった。
「……っ、まずい!!」
最初のHPケージが消滅し、スリュムが怒りの咆哮をあげる。パターンの変わる前触れだが、スリュムは突然大きく息を吸い込み、大規模な範囲攻撃の予備動作をする。
「みんな、防御だ!!」
瞬時に間に合わないと判断したキリトが全員にそう指示し、防御姿勢をとる。灼焔霊衣のクールタイムが終了していなかった俺はやむなく後方に待避し、再突撃の体勢を整える。
アスナは既に広範囲の回復スペルの詠唱に入っている。それを見て俺は残りの後衛に矢継ぎ早に指示をした。
「シノン、ヴィレッタ。攻撃が終わったら、前衛が建て直すまで時間を稼ぐぞ。俺とハンニャがタゲをとるから、2人は顔面の弱点を狙ってくれ」
「了解」
「わかったわ」
ハンニャもレーヴァテインを通常の両手剣サイズに戻すと、支援スキルで自分と俺のステータスを強化した。
広範囲のブレスは射程距離こそそこまででは無いものの、スリュムの視界内ほぼ全域に効果が及んだ。
氷の彫像と成った前衛7人をスリュムは足のストンプによる衝撃波で吹き飛ばした。
「中々えげつねえな」
ハンニャと左右に散開し、両側面から距離を詰めていく。その間にアスナの高位全体回復スペルがキリト達を癒し、シノンの火矢とヴィレッタの火炎弾がスリュムの喉や鼻にヒットしていく。
スリュムが体の向きを後衛の2人に向けた瞬間、両側面の俺とハンニャが斬りかかった。
「……ッ!!」
両手で大上段に構えた大太刀が鮮烈な赤のライトエフェクトに包まれる。
大太刀単発重攻撃《轟山剣》
腕力を余すところ無く乗せた一撃がスリュムの分厚い毛皮のレギンスを切り裂き、ボロボロにする。
硬直時間を課せられた体はどう頑張っても動かない。しかし、装備品は別である。
何時もマントの裏に隠し持っている小太刀がスルリと落ちて来るのをタイミング良く硬直時間が終わった足で蹴り上げ、左手で鞘から抜き放ってそのまま投擲する。
《投擲》の上位派生スキル《投剣》スキルは装備武器を投げるため、SAOでは使いづらいスキルだった。しかしALOにおいては、『どちらの手に○○を装備する』というシステム上の設定は要らない。
スキルスロットに使用したいスキルをセットすれば言い訳だ。システムアシストによって加速された小太刀はスリュムのもみ上げ辺りに命中し、きりもみしながら落下してくる。
それを鞘でキャッチすると再びマントの裏に隠し、その場を離脱した。
俺がちょこまかやっている間に前衛陣は殆ど建て直し、ハンニャは強烈な攻撃でもう片方のレギンスを破壊していた。
「…………」
しかし、もう戦闘が始まってから随分と時間が経ったにも関わらず、HPバーは後2本残っている。スリュムヘイムのアルン浮上までの時間も幾らもないだろう。
その時、キリトが雷をまとったソードスキルを地面に暴発させ、いきなり壁際に走っていった。
「何やって……」
キリトが壁際の財宝の山から引っ張り出したのは、金槌。それをオーバースローで投げる。フレイヤさんに。
「おいっ……!?」
一連の不可解な行動に俺が戸惑っていると、それはすぐに解決した――視覚的に。
すちゃ、とその重そうな金槌を見事に片手で受け止め、しゃがみこむ。
「………ぎる………」
「ん?」
しゃがみこんだフレイヤさんが低く何かを囁く。
「……なぎる……みなぎるぞ………」
「…………はい?」
「来たか」
いつの間にか隣で腕を組みながらにやにや笑っているハンニャは既に訳知り顔だ。
「そういやお前。門の前で何か「みな……ぎるうぅぅぉぉおおオオオオオ―――!!」……って、えぇ!?」
セリフをぶった切られた俺が音源へと顔を向けると――決して誤字ではないが――フレイヤさんが膨張し、四肢は逞しい筋肉の塊へ。金槌もたちまち巨大化し、その武骨な手に握られた。そして、お顔には立派な………おヒゲ。
「ワーオ、ナイスミドルナオッサンダナ……」
「おう。気持ちは分かるが、壊れるな、旦那」
ロボットダンスのような動きでキリトのチームの平均HPバーをクリック。
1人1人の詳細なHPを表示する。
【Freyja】と表示されていたそこに現在は【Thor】とあった。
後書き
次回、キャリバーラスト
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