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戦国異伝

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第百二十六話 溝その十五

 そしてそのうえでだった。
「あの将軍に憑いたが」
「我等がな」
「よいな、やがて織田と朝倉は戦になる」
「そしてじゃ」
 さらにだった。
「浅井じゃな」
「あそこか」
「あの家もか」
「うむ、あの家にも仕掛けようぞ」
 彼等の名前も出た。
「是非な」
「浅井を朝倉につければ面白い」
 何故浅井を動かすのかという理由も話される。
「織田が朝倉を攻める時に横か後ろから突けばそこで崩れる」
「上手にいけば織田信長を始末出来るぞ」
「では煽るか」
「そうじゃな」
 こう話す、しかしだった。
「じゃが浅井長政は織田信長の妹婿」
「しかもかなり義理堅い男じゃ。おいそれとは裏切らぬ」
「だからあの者に仕掛けるのは難しい」
「織田信行の様に操るか」
「しかしそれもじゃ」
 伸行の時のことも話される、それがだった。
「横に織田信長の妹がおるからな」
「市とかいったな」
「大層綺麗な女らしいが」
「ただ綺麗なだけではないぞ」
 市が美貌だけの女だけではないことは知る者は知っていた、信長の弟や妹達の中で最も彼に近いとさえ言われているのだ。
 その市が常に傍にいるとなのだ。
「織田信行はまだ織田信長が常に傍におらんかった」
「だから仕掛けることが出来た」
「しかし浅井長政の横にはあの女がおる」
「それで仕掛けるのは難しいな」
「しかし浅井を動かすと大きい」
「ではどうする」
「ふむ」
 ここで中央の者が言った、見れば闇の中にいる影は十一だ。
 その中央の者、その者が言ったのだ。
「あの家は浅井長政だけではないぞ」
「確かに、もう一人主がいましたな」
「前の当主浅井久政」
「あの者ですな」
「あの者は息子より落ちる」
 若き英傑と言われている長政よりはかなり落ちる、これは事実だ。
「だからじゃ」
「あの男を操ればですか」
「仕掛けられますか」
「無理をして浅井長政に仕掛けることはない」
 これが長老と呼ばれた男の考えだ。
「楽な相手に仕掛ければよいのじゃ」
「為せることが同じならですな」
「それでは」
「そうじゃ、だからじゃ」
 まさにそれならというのだ。
「浅井長政は親孝行でもある、父親の言葉には逆らえぬわ」
「無理に隠棲させたのを今でも悔やんでいますし」
「だからですな」
「そうじゃ、それ故にじゃ」
「では浅井家のそこに付け込み」
「そうして」
「織田信長が越前に入り」
 普通に戦になれば信長が勝つ、だがだというのだ。
「一乗谷まで迫ったところでじゃ」
「そこで、ですな」
「あと一歩のところで仕掛ければ」
「織田家は袋の鼠となる、その軍と共に」
 そして後はというのだ。 
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