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万華鏡

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第三十話 江田島その二

「起きた時もある程度以上にベッドを整理しておかないと帰ったらそのベッドが大変なことになっていたりしますから」
「大変っていいますと?」
「どんな感じですか?」
「台風といいまして解体されます」
「えっ、ベッドがですか」
「解体されるんですか」
「はい、最悪毛布とかマットが窓から外に放り投げられます」
 そうしたことにあるというのだ。
「凄いですよ、実際」
「厳しいですね、ここは」
「何か無茶苦茶ですね」
「うちの寮なんかそれこそ」
 生徒達の中で寮に住んでいる子もここで言う。
「お布団簡単に畳んで終わりですよ」
「そうそう、アイロンなんかあるだけだしな」
「靴磨くのなんてないし」
「そんなの全然したことないっていうか」
「埃も気にならないし」
「お掃除もそこまでは」
 しないというのだ、彼等は話すのだった。しかもそこには男子だけではなく女子もいてそれで口々に話すのである。
「同じ団体生活でも違うなあ」
「何ていうか」
「ここって刑務所?」
「それよりも厳しいんじゃ」
「実際に兵学校の頃は赤煉瓦の監獄と呼ばれていました」
 その規律のあまりもの厳しさ故にだ。
「しかも海軍時代は鉄拳制裁がありましたから」
「それで監獄ですか」
「そう呼ばれていたんですか」
「しかも逃げられないですから」
 このこともあったというのだ、監獄と呼ばれた根拠は。
「ここ島ですよね」
「はい、文字通り島です」
「江田島ですね」
「泳いで渡ることも出来ませんから」
 実は今彼等がいるその赤煉瓦が前にあるグラウンドのすぐ左手には海がありすぐ向こうに人家が見える、だがだというのだ。
「あの海鮫いるんですよ」
「えっ、鮫ですか」
「鮫もいるんですか」
「いるのよ、これが」
 広島人の宇野先輩もここで言う。
「怖いわよ」
「ええと、それってやっぱり人食い鮫?」
「それ?」
「シュモクザメといいまして」
 自衛官はその鮫の種類も皆に話す。
「トンカチみたいな頭をして目が横にある鮫でして」
「ああ、あの図鑑に絶対に載ってる鮫ですか」
「ハンマーヘッドシャークっていうそうですね」
「あれが出まして。それでなんです」
「確かあの鮫三メートルか四メートルになるんですよね」
「しかも群れなすんですよね」
「だから泳いで逃げることも出来ないです」
 鮫という自然の驚異も存在しているからだというのだ。
「だからそう言われていました」
「殆どアメリカに昔あった刑務所ですね」
「確かアルカトラズ刑務所ですよね」
 今では人権上問題となり閉鎖されている、記念として建物自体は残されてはいる。
「それみたいですね」
「島にありますし」
「中々面白い場所ですよ」
 自衛官はここでこうも言った。
「少なくとも充実した日々は送れます」
「そうなんですか」
「厳しくてもですか」
「あまりにも忙しくて時間がなくて」
 それでだというのだ。 
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