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戦国異伝

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第百二十六話 溝その十一

「即座にな」
「離さねばどうする」
「この槍が見えぬか」
 前田や慶次、加藤清正等の槍に比べれば流石に落ちる、だが万石取りに相応しいだけの槍の刀身を男達の前にぬっと突き出した。
 そしてそのうえでこう言ったのだ。
「わしとて無闇に振らぬし突かぬがな」
「くっ、わし等は幕臣ぞ」
「公方様の家臣ぞ」
 男達は槍に怯んだが尚も言い返した。
「それで無体を働くか」
「後が怖いぞ」
「何とでもせよ、どちらにしても無体は許さぬ」
 山内は男達にまた言った。
「若しまだ言うなら真に容赦せぬぞ」
「狼藉者を成敗するぞ」
「それでもよいのか」
 供の者達も腰の刀に手をかける、それを見てだった。
 男達はそれぞれ三歩程後ずさりをした、そのうえでだった。
「覚えておるのじゃ」
「公方様に言いつけるぞ」
 こう言ってそのうえであった。
 彼等は山内達に背を向けて逃げ出した、この場はこれで終わった。
 だが山内は都で幕臣と称する者達の狼藉を他にも見た、それで義昭がいる幕府の御所に入ったのだった。
 明智にこのことを話すと明智は曇った顔でこう言った。
「実はです」
「ではやはり」
「はい、近頃公方様は侍達を多く召抱えておられます」
「あれは侍でございますか?」
「それを言われますと」
 明智は曇った顔で返した。
「それがしもどうも」
「あれではやくざ者ですが」
「実のところは」
 明智はその顔をさらに曇らせて答えた、
「侍とは名ばかり、いえ勝手に名乗っておるだけの」
「そうした者達を召抱えておられるのですか、公方様は」
「幕府にも侍が必要だと仰り」
 それでだというのだ。
「そうした者達を多く召抱えだしておられます」
「そしてあれですか」
「実は他にも」
 まだあった、明智の今の悩みは。
「公方様は朝倉殿にも文を送られ」
「そのことですか」
「御存知でしたか、このことを」
「はい、殿も仰っていました」
 信長もだというのだ、山内は明智にこのことも話した。
「それはどうかと」
「どうも今のお立場をよく思われておらず」
「それでなのですか」
「織田殿に思うことがある様です」
「いや、殿はです」
 山内はあらたまって明智に話した。
「別に公方様をないがしろにされるおつもりはありませぬ」
「そうですな。しかし」
「しかしとは」
「あえて言わせて頂きます」
 明智はありのまま話すことにしそれが何かと厄介な話であるとわかっているのでこう前置きしてから山内に話した。
「今の幕府には何の力もありませぬ」
「そのことですか」 
「はい、公方様はそのことを意固地なまでに否定され」
 それでだというのだ。
「どうしてもと仰られ」
「ああした者達を召抱えられていますか」
「我等は何とかお止めしています」
「お聞きになられませんか」
「どうも近頃は」
 ここで明智の顔が曇った、これまで以上に。 
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