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戦国異伝

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第百二十六話 溝その一

                  第百二十六話  溝 
 信長が上洛し近畿の殆どと四国の大半までも手中に収め七百六十万石、十九万の兵を擁する天下随一の者になってから数年が過ぎた。その間信長は内外の政に専念していた。
 田畑を開墾し町を整えた。川には橋をかけ道や堤を整えた、港も船が出入りしやすい様にし金山や銀山も開いた。
 検地を行い国人や荘園を取り込み寺社の勢力もかなり弱めた。そして寺社に対しては檀家を設けさせた。
 楽市楽座と関所の廃止を行い人の行き来も多くさせた、罪は徹底的に懲らしめ容赦しなかった。
 信長の治める国は見違えるまでいよくなり人々は泰平を楽しみだした。米以外にも様々なものも作られそれがさらに豊かなものを作りだした。
 朝廷には献上を怠らず御所もみらびやかなものにした、そのうえで彼以外の家臣達にも官位を与えていった。
 朝廷からの覚えもさらによくなり武田や上杉とも緩やかだが手を結んだ。織田家の政は万事において順調に見えた、だがだった。
 信長は岐阜において一つ厄介なものを見ていた、それは何かというと。
「この岐阜城ではもうな」
「はい、天下を治めるにはですな」
「もういささか」
「都に少し遠い、しかも東に寄り過ぎでおる」
 これが問題だというのだ。
「前から考えておったがな」
「城を傷かれますか」
「あらたに」
「そう考えておる」
 まさにそうだというのだ。
「ここはな」
「城をさらにですか」
「何処かに」
「観音寺の辺りがよいか」
 かつて六角氏が拠点としていたあの献上のことだ。
「あそこは近江にある、水の便も陸の便もよい」
「だからですか」
「観音寺の辺りに」
「あそこじゃな」
 正確に言うと観音寺ではないというのだ。
「あの辺りじゃ」
「観音寺には入られませんか」
「あの城には」
「堅固じゃが治めるにはいささか不向きじゃな」
 これが信長の観音寺城への見立てだった。
「この岐阜にしてもそうじゃが」
「山城だからですな」
 こう言ったのは石田だった。畏まった態度で言ったのである。
「だからこそ」
「そうじゃ、山城は行き来が難しく政がしにくい」
「だからこそですな」
「観音寺城には入らぬ」
 信長は言い切った。
「あの辺りではある」
「では何処に」
「何処に城を築かれますか」
「安土じゃ」
 そこだというのだ。
「そこに城を築くと」
「安土山ですな」
 蒲生が言う。
「あの山にですか」
「あの山は山じゃが緩やかじゃ」
 そうした山だからだというのだ。
「守りにも適しておるしな」
「しかも穏やかだからこそ」
「政にも向いておる」
 そうだというのだ。
「山城と平城のよいところが共にある」
「では安土山に城を」
「そうする、あそこは都の護りにもなる」
 こうした意味もあって築くというのだ。
「だからこそじゃ。よいな」
「さすれば」
 石田は信長の言葉に頷いた、だが信長が考えていることはそれだけではなかった。彼はこうも言ったのである。 
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