【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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役者は踊る
第十四幕 「学園最強の変人達のキョウダイ」
前書き
次回でこの一件は終わります
一つの話を書くのに4話消費してるってどうよ?
前回のあらすじ:兄、動く
学園内にあるIS整備室。普段は先輩方が自機のメンテをしたりイロモノ装備を弄繰り回したりしているその場所の片隅で、お茶を飲みながら座談している二人の影があった。
「何時もそうやってさぁ・・・やらなくていい時にばっかり本気だしてさぁ・・・珍しく空気読んだかと思ったらまたすぐにバカやらかすし・・・」
「うん、うん・・・」
「今回もさぁ、ちょーっと僕が困っただけで“生徒会に直訴しに行く!”とか馬鹿な事言い出してさぁ・・・」
「わ、私も昔・・・似たような事された」
「そーなの?あれってさぁ、本人は妙な使命感に駆られてるんだろうけど『そんなこと言って他の人困らせないで!』って正直思っちゃうよねー」
「うん、思う」
「何でこう・・・デキる人なのにそういう所でだらしないのかなぁ」
「・・・凄く分かる」
一挙手一投足が愚痴の多い酔っ払いのような態度だったが、もう一人の方はかなり共感できる所があるのかしきりに頷いている。
互いに初対面だが、余程気が合うのかかれこれ30分は話し続けていた。
「・・・君も苦労してるんだね、簪ちゃん」
「うん・・・人が一番頑張ってる時に、いつも横から何かしてくる・・・」
「あー、あるある。本人たちにしてみれば手伝いたくてしょうがないみたいだけど実際にやられると・・・ねぇ?今までの努力は何だったの、みたいな?」
「弐式のメンテ中にも勝手に使うデータに自分の機体のを混ぜられてるし・・・自力でやらせてくれたって、いいのに」
「もっと別の方向に気遣ってほしいよねー」
「ねー」
仲良しかお前ら。と突っ込みたくなるほど親しげに話を続けているのはユウと更識簪。なぜこの二人がこんな所で兄弟姉妹談義に花を咲かせているのかというと、それはジョウが生徒会室に突撃するその少し前に遡る。
その日のユウは朝の一件で若干疲れてはいるものの、おおむね上機嫌だった。それは、いつも自分に余計なお世話を焼いてばかりのジョウが、クラス代表の件ではちょっかいを出さずに大人しくしていたことに感謝していたからである。
一緒の部屋にいるから分かる、ジョウは口出ししたいのを一週間ずっと堪えていた。
これはユウの人生の中でも初めてと言える出来事だった。(普段なら2秒持たないから余計に驚きだ)だから、自分の思いを汲んで我慢してくれた兄に一言声を掛けようとユウはジョウの下に向かっていたのだ、が・・・そこにいたのはハイライトの消えた目でぼそぼそとなにやら呟くジョウ。その様は紛うことなき不審者である。にへらと笑いながらこちらを振り向いた兄は・・・
「兄さん?」
「ふふふ心配はないぞユウ。兄さんがお前に這い寄ってくる意地汚い女共を一掃してやるからなふふふ」
「は?な、何言ってるの兄さん?何だかどっかのヤンデレ妹みたいな顔になってるよ?」
「心配ないさ嗚呼心配ないとも生徒会の力を利用すればあいつらをシャットアウトできる。朝ごはんもゆっくり食べられるぞはははははは」
「そ、それは有り難いけど・・・何か余計なことしようとしてない!?」
「余計な事?俺のやることに余計なことなど無い。全て必要だからやっていることだよ。ユウは変なことを言うなぁ」
「この状況で変なのは確実に兄さんの頭じゃないかな!?お願いだから騒ぎは・・・」
「何言ってるんだ、俺は生徒会長と“平和的な話し合い”に行くだけだぞ~?」
「いやそれボク的には十分騒ぎの範疇だから!その含みのある言い方からして
絶対何かやらかす気だよね!?止めてってば、ねぇ!」
「だが断る。いくらお前の頼みと言えど、これはやっておかねばならんのだ!!」
「ち、ちょっとでも見直したと思った僕が馬鹿だった・・・兄さんの・・・分からず屋ぁぁ~~~!!」
と言った感じのやり取りがあり、ユウの中で急上昇していた兄の株は急暴落。
今現在地面を突き抜けマイナス値である。
で、何故簪に愚痴っているのかというと、これはユウの悪い癖だ。
兄を止められなかったりストレスが限界に達すると、ユウは誰であろうと目に入った人を捕まえ延々と愚痴を聞かせるという面倒くさい人になってしまうのだ。その態度はさながら絡み上戸の酔っ払い。今回は偶然気の合う人だったが、昔には(本人はそれと知らず)千冬を捕まえて20分ほど延々愚痴を聞かせるという愚行をやってのけたこともある。
・・・ちなみに千冬はジョウに関する愚痴の一部が自分にも当てはまることに気付き、壁に手をついてしばらく落ち込んでいた所を一夏に発見されたとか。
「いやぁ・・・仲間っているんだね。僕、何だか安心しちゃったよ」
「私も、同じ悩みを持った人と会うのは初めて」
話によると、簪の姉も優秀なのに妙な所で手を貸したがるようだ。
本人に一切悪気がないために余計性質が悪い。
ただ、少し違うのは・・・
「でも、それでもお兄さんとは仲がいいんだよね・・・?」
「・・・時々すごく鬱陶しいけど、嫌いじゃないよ。キミは違うの?」
「私は・・・分からない」
今までは、正直好きではなかった。
昔から何もかも自分より優れた姉と比べられ続け、たくさん嫌な思いをしてきた。元々あまり構ってはくれなかったし、人に弱みを見せたりするのが元々嫌いだった簪は自分から姉と接しようとして来なかった。今までの自分なら、嫌いと答えただろう。
でも結章に捕まって話を聞かされるうちに、簪は彼の兄と自分の姉に沢山の似通った行動があることに気付いた。そして、自分も少なからず結章と同じ感想を抱いたことがあることにも気づいてしまった。
最初は無理やり聞かされていた愚痴もだんだん他人事と思えなくなり、気が付けば話に自分から参加していた。初対面の人間とここまでお喋りに熱中したのは初めてだった。そして、その話題は自分のキョウダイの事ばかり。嫌いになったのではない、なったつもりだったのだ。やはり、世界でたった二人の姉妹なのに離れているなんて寂しすぎる。
「私は、お姉ちゃんと仲は良くない。でも・・・お姉ちゃんと仲良くしたいって思う自分もいる」
自分から避けておいて今更虫のいい事を、と自分でも思う。思い返せば、姉が時々しか構ってくれなかったのは更識の仕事だけではなく私が避けていたせいで距離を測りかねていたのではないかとさえ思う。今まで鬱陶しいとさえ思っていたちょっかいが止んだことがなかったのがいい証拠だ。興味もない相手にあれこれ世話を焼く人間なんていない。
でも、今更何といえばいいだろうか?元々人付き合いの得意なほうではない簪は姉にどう接すればいいか、皆目見当もつかなかった。無意識に、話し相手のユウの顔を見る。自分に助言を求めていると解釈したユウは優しい口調で語りだす。
「どうするかはあまり重要じゃないよ。先ずは話しかける!それさえできれば後は何とでもなる・・・
って、ちょっと強引かなこれは?えっとね・・・まず、簪ちゃんは今までお姉さんを避けてたんだよね?」
「・・・うん」
「ならまずはそれを謝ろう。勿論ちゃんと避けてた理由も説明してね?それで謝ったら、今度は本当はどうしたかったかをちゃんと言おう。それだけ言えればきっと二人は今よりいい関係になれると思う」
「駄目、だったら・・・?」
「その時は僕も一緒に頼み込む。それで駄目なら他の人もつれて頼み込む。兄さんもクラスメートの皆も、それで駄目なら近所の知り合いや先生なんかも連れて、どんどん増やして逆に困らせるっていうのもいいかな?はははは」
「そ、それは流石に・・・」
「・・・大丈夫だよ、むしろお姉さんの方がそれを待ってるかもよ?
似てないようでも、案外そういう所は似てるものさ」
経験者かく語りき、ってね?そう言ってユウはにっこり笑う。その笑顔が、簪にとっては何処までも眩しかった。それは自分にないものを持っている相手への羨望ではなく、背中をそっと押してくれる優しさを感じさせる笑みだった。
・・・付け加えるなら、元々童顔気味ではあるが美少年であるユウの笑顔はそれとはまったく別の効果も生みだしていたのだが、幸い簪はそれに気づいていなかった・・・あくまでも今の段階ではまだ。
そして幸せな時間には必ず終わりが来るように、二人のおしゃべりも終わりを迎える時が来る。
「あの・・・いい感じの所悪いけど、君たち残間くんと更識さんだよね?」
「え?いやいい感じって別にそんなことは・・・」
「・・・あなたは確か、フランスの代表候補生の」
「邪魔してごねんね?ボクは2組のシャルロットっていうんだ。よろしくね?」
邪魔、と言われても、丁度話も終わったところだったので問題は無かったのだが、当人以外の目から見れば確かに逢瀬の邪魔をしたように見えなくもない。ちなみにシャルロットはジョウの学園内で出来た友達第一号であり、ユウとも何度か話をしたことがある。
「一体どうしたんですか?兄のことならぼかぁ知りません。人の言うことちゃんと聞かないで勝手なことする人なんて知りません!あと3日くらいは構ってやりません!!」
余程ご立腹なのかぷくっと頬をふくらましていじけたように語るその様はまるで子供のようだった。が、今回はそれでも折れてもらわなければならない事情があった。
「あのね?実はジョウと更識さんが中庭で喧嘩を始めちゃって・・・二人とも熱くなりすぎて誰も止められなくなってるんだ!お願い二人とも、あの二人を止められるのは君たちしかいないんだ!!」
「「・・・・・・」」
パン!と両掌を合わせて合掌の姿を取ったシャルロット。その頼み方何処で学んだの?と思わないでもないが・・・
二人は互いに兄若しくは姉が“熱くなって喧嘩している”という意味を考える。
まずユウが思い浮かべたジョウ。強い。自分も武術を齧っているからこそ良く分かるが、本当に強い。ユウと一夏が二人掛かりでも指一本触れさせないくらいは簡単で、あの千冬を以てして「末恐ろしい」という言葉を吐かせたほど生身の戦闘に強かったりする。あらゆる格闘技や戦法を統合した我流の型は例え達人級の腕前を持った相手でも捉える事は出来ない。というか、織斑先生以外に捉えられたところを見たことがない。(千冬に捉えられることもそうそうない)
そして簪が思い浮かべた更識楯無。裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部「更識家」の当主であり、17代目。学園の裏の守護者。全てにおいて優秀な上に『更識流』という更識家に代々伝わる柔術の達人で、それ以外の格闘技にも精通している。実力は国外からのスパイやエージェントを息一つ乱さずに素手で捻るくらい簡単にやってのけるほどで、命がけの実戦というものも既にこなしている。
そんな二人が、“熱くなって喧嘩している”。
「・・・ね?分かるでしょ?お願いだから二人を止めて!」
二人の顔から、サァッと一気に血の気が引いた。
後書き
この作品にはニコポなど存在しないと思う。
ついでにこの作品の女性陣は全然ちょろくない。
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