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万華鏡

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第二十九話 兵学校その十一

「それはね」
「じゃあパンですか」
「パンにルーをつけて食べていたのよ」
 そのうえでだというのだ。
「御飯じゃなくてね」
「ううん、それが日本に来てなんですか」
「今のカレーライスになったのよ」
「そうだったんですね、インド料理かと思っていたんですけれど」
「当時インドはイギリスの植民地だったわね」
「はい」
 これは歴史にある通りだ、当時のイギリスは世界のかなりの部分を植民地にしていた世界帝国だったのである。
「それでイギリスにもインド料理が入ってね」
「カレーも」
「本当はルーじゃなくてシチューだったのよ、牛乳を使った」
「牛乳ですか」
「けれど船の中だと牛乳だと長持ちしないから」
 このことが問題だった、船の中では。
「それで香辛料を使ったカレールーになったのよ」
「ううん、そうなんですか」
「カレーですか」
「そう、カレーの起源はそうしたものなのよ」
「あのイギリス起源ですか」
 彩夏はこのことに真剣に疑問の言葉を呈していた。
「あの国って確か」
「先生もイギリスに行ったことがあるけれど」
 ここでこう言った先生だった。
「凄かったわ」
「お料理の味がですね」
「それが」
「どんな素材でもね」
 先生はその顔を曇らせながら話していく。
「壮絶な味に出来るのよ」
「噂通りなんですね」
「オリンピックでお料理が不評だったのもわかるわ」
 それだけまずいというのだ。
「壮絶だったわ」
「ううん、そんなにですか」
「酷い味なんですね」
「イギリスに行ったらダイエット出来るわよ」
 舌が合わないせいである。
「行けとは絶対に言わないけれどね」
「遠慮します」
「私達普通に身体動かしてますから」
「そんな拷問みたいなダイエットしたくないです」
「まずいものばかり食べるダイエットなんて」
「その方がいいわ。しかもイギリスはお料理はまずいけれど」
 それに加えてだった。
「一食辺りのカロリーは高いから国民お肥満率高いのよ」
「それって最悪なんじゃないんですか?」
「あの、まずくてカロリーが高いって」
「恐ろしい国なんですね、イギリスって」
「お料理に興味ないんですか?」
「二世紀も世界帝国だったんですよね」
 世界帝国だったならば世界中から美味い素材や調味料を集められる筈だ、実際に日本は豊かになってからそうしている。
 しかしイギリスは、というのだ。
「何でまずいままなんですか?」
「それも今もって」
「イギリス人はお料理の味には文句を言わないのよ」
 世界的にも珍しいことに、である。
「それがエチケットなのよ」
「大阪とは全然違いますね」
「まずかったら凄い文句出るのに」
「というか関西とは全然違うんですね、イギリスって」
「まずくても文句言わないなんて」
 五人は先生のその話を聞いて唖然となる。
「常識じゃ考えられないですね」
「神戸でも普通に文句出ますよ」
「あまりにもまずいと」
「ついでに言うとお店の人笑顔じゃないわよ」
 まずくてカロリーだけではなかった、イギリスは。 
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