| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

鋼殻のレギオス 三人目の赤ん坊になりま……ゑ?

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一章 グレンダン編
道化師は手の中で踊る
  食べられて、キスされて、殴って

 
前書き
ずいぶん遅くなりました&ちょっと短いです。
申し訳ありませんでした。 

 
 荒野は名前のとおり荒れている。
 管理していない地面がどうなるのか、移動都市にいる住人は外縁部から外を覗けば知ることができる。
 汚染物質のせいで自然が育たない地面は硬く、戦闘衣に合わせて作られた靴でもその感触は嫌でもわかる。
 レイフォンは荒野に目を向ける。標的は当に視認していた。
 慎重に、なおかつ大胆に着地したレイフォンは腰に付いている錬金鋼に手を伸ばす。
 手に持ったのは、天剣ではなくシキが使っていた刀だった。
 なぜ、天剣を使わないのか? 理由は二つある。
 一つはシキの武器で初めての老生体を倒すことで、彼への見舞いの品にすること。
 もう一つは天剣の調整不足が理由だ。
 レイフォンは天剣の設定を何一ついじっていない。完全に自業自得の形となって出てしまったのだが、そのくらいのハンデは欲しかったところだから問題はない。
 そうしているといよいよ、老生体の全貌が見えてきた。グレンダンの地下に通るパイプよりも太い胴体、半透明の羽に異様に長い顎からレイフォンよりも大きな牙が見えている。目は緑色のガラス玉のような目だった。
そこでデルボネの声がレイフォンの耳に届いた。
『あらあら、この老生体繋がっているように見えて、二体みたいですね』
「え? そうですか」
『えぇ、油断は禁物ですよ? 相手は老生体なんですから』
「わかりました」
 レイフォンは剄を刀に収束させていく。
 リンテンスとの訓練が功を奏したのか、以前よりも剄のコントロールが上手くなっている。今なら無茶な姿勢で斬っても刀は思うどおりに斬ってくれるような気がした。
 最後にデルボネはこう呟いて、上空に端子を退避させた。
『では、良い戦場を』
 それを区切りに、老生体は急降下しレイフォンを捕食しようと迫ってきた。
 レイフォンは足に力を込め、跳躍した。
 下の顎は地面を削り取りながら、上の顎がレイフォンを追う。
 何時かに戦った老生体の触手の動きを思い出しながら、レイフォンは空中で身体を捻って重力に従って、落下した。
 老生体はなんの躊躇なく上の顎の口を開ける。余裕でレイフォンを飲み込める大きさだが、レイフォンは臆せず、その口に飛び込んだ。
 そして飲み込まれる瞬間に、貯めていた剄を開放する。
 外力系衝剄の変化、轟剣。
 一気に質量を増大させた刀は老生体の喉奥に突き刺さる。
 絶叫が響き、レイフォンは吹き飛ばされそうになる。
 だが、レイフォンは力負けしないように背中から剄を爆発させる。
 外力系衝剄の変化、背狼衝。
 背後に放った衝剄の反動を利用して、さらに奥に刀を押し込む。
 血しぶきがレイフォンに降りかかるが、それに気にせず、レイフォンはさらに追い討ちをかける。
 老生体のタフネスさはわかっている。だが、内部から切り刻まれて生きている生物はおるまい。
「あぁあああああああっ!!」
 レイフォンは轟剣にしていた剄を、内部の四方に分散して浸透させる。
 剄が浸透したことを確認したレイフォンは、そのまま衝剄を放ち口から脱出する。次の瞬間、上の顎がバラバラに切り刻まれた。
 空中でバランスを取りながら、レイフォンは上手くいったことに安堵した。
 未完成天剣技、桜。
 今はまだ未完成だが、将来完成し、幾度もレイフォンの危機を救うために振るわれる剄技の前身が今、振るわれた。
 半身を失った老生体は苦悶の声をあげる。
 無理もないだろう。人間で言うなら、気づいたら上半身がバラバラに引き裂かれたようなものだ。痛みなど想像を絶するものだろう。
「シッ!!」
 チャンスだとレイフォンは思った。
 敵は重傷を負った。驚異的な回復力を持った老生体といえども、もう一度今の攻撃を加えれば倒せる、そう思った。
 事実、レイフォンは追撃に向かった。
 油断はなかった。全身には剄が漲り、最高のタイミングで斬りかかっていた。
 刀はもう一体の老生体を両断し、速やかに生命活動を止める……はずだった。
『退避してください、レイフォンさん』
「えっ?」
 刀が届く直前、デルボネの珍しく焦った声がレイフォンの耳に聞こえた。
 そしてレイフォンの視界が真っ暗になった。


『まさか……もう一体いたとは』
「珍しいな、婆さんが見逃すとは」
 レイフォンの戦いを見ていた二人は、状況を冷静に見極めていた。
 簡潔に言えば、レイフォンは地下から出てきた大型の汚染獣に戦っていた汚染獣共々丸呑みされたのだ。
『生体反応は……ありますね。しかし、なぜ事前に察知できなかったのでしょうか』
「わからん。だがスーツを着込めば、汚染獣の体内でも数時間は生き残れる。これは事実だ」
『えぇ、しかし死ぬのには早すぎる歳ですよ』
 デルボネは寂しそうに言う。
 天剣になり、数多くの武芸者を見てきたデルボネはその分だけ死を見てきた。
 感情が希薄である念威も、感情がないわけではない。むしろ出ない分、出た時の反動は大きいものがある。
 あが、そんな感傷はリンテンスには無意味だった。
「都市が滅びれば、そういった奴らが理不尽に殺される。それから守るのが武芸者である俺たちの役目だ。弱い武芸者なぞ、存在価値すらない」
 ふと、リンテンスの脳裏にはとある都市の記憶が蘇ったが、くだらないとすぐに忘れた。
『弟子なのでしょう?』
「あいつが勝手に来ただけだ。弟子はあいつだけで十分だ」
『素直じゃないですね』
 コロコロとデルボネが笑うとリンテンスは不機嫌そうだった顔を、さらに不機嫌で上乗せする。
 その間も状況は逐一変わっていく。
 レイフォンを飲み込んだ老生体は、進路をグレンダンに向けたからだ。
『これは好都合ですね。陛下から伝言です。レイフォンさんを王宮庭園に向かわせて欲しい、とのことです』
「ガキの遊びに付き合っている暇はない」
 バッサリとリンテンスは言い切る。
 事実、老生体という驚異がすぐそこまで迫っているのだ。たかが、個人の思い込みからの反乱に介入する気は毛頭ない。……はずだった。
『それが……シキさんを人質にとっているようなのです』
「ほう」
 眉を曲げたリンテンスは無音で鋼糸を操作する。
 そしてレイフォンの様子を見ていた鋼糸を老生体の周囲に張り巡らす。
「陛下に伝えろ。……二分待てと」
『了解しました』
 そして蹂躙が始まった。


 時間は少しだけ戻る。
 アルシェイラは目の前の光景をつまらなそうに見る。
 そこにはたった一撃で戦闘不能になった複数の武芸者がいる。
 もちろん、先程まで戦っていた天剣の面々である。傷を見る限り、致命傷にまで至っていないようだが、誰ひとり立てない状況であった。
 手加減した一撃で、だ。
 アルシェイラが本気になっていたのなら、今頃天剣はおろかこのグレンダンという都市は地上から姿を消していただろう。
 それほどまで女王の力は強大だ。
「まっ、誰も死ななかったのだから及第点ね」
「こ、れほど……とは」
 唯一、カルヴァーンだけが血反吐を吐きながら喋った。
 残りもなんとか意識があるようだが、しゃべれるほど回復していない。
「まったく、わたしのせいでもあるんだろうけど、あんたら我慢しなさすぎ」
「へ、陛下、どう、か、ご寛恕を」
 なんとか立ち上がったカルヴァーンは、アルシェイラに跪く。
 元々、カルヴァーンは負けるつもりもなかったが勝つつもりもなかった。
 王家の人間に勝てば、それはグレンダンの混沌の始まりであり、来るべき戦いに女王という因子は必ず必要だからだ。
 だからこそ、許しを請う。
 その行動に意味があったのかわからないが、アルシェイラは目を閉じて考え、こういった。
「これからサイハーデンの武門は拡大する。援助金出す気だったけど、あんたら出しなさい」
「陛、下!」
「こんなくだらないガキの遊びで、剣を折るつもりはない……ん?」
 その時のアルシェイラの顔を、天剣たちは忘れることはできないだろう。
 そして天剣たちも忘れることが出来ないだろう。
 そこに『あった』のは――
「これはこれは女王陛下、汚らしいものを見せてしまい申し訳ありません」
 左腕を切り落とされ、腹部を錬金鋼に貫かれているシキと錬金鋼を手に持ったミンスの姿だった。


 次に目が覚めたシキの目の前に広がっていたのは、漆黒の空間だった。
 またか、とシキはため息を吐きながら自分の身体の調子を確かめる。
「……てか、俺は起きてるのか? この前もそうだが」
 この前、とはシキが顔のようなものに取り込まれかけたことだ。
 あの時もそうだったが、夢なのか現実なのか曖昧な感触がシキの身体に残る。
 が、シキはどうにかなるだろうと楽観的な考えをしていた。
 元々、レイフォンとの戦いで死んだと思っていたのだ。夢なのか、現実なのかわからないが生きているならどうにかなる。
「ん?」
 身体を動かしていく内に、シキはあるものが無いことに気づく。
 左腕が無いのだ。おかげで体のバランスを取るのが意外と難しい。
「あれ? 無かったっけ?」
 それだけだった。
 普通ならもっと取り乱して泣き叫ぶような場面だろうが、シキの場合は「あぁ、無くなったのか」程度にしか思っていない。
 顔に取り込まれるなんて奇妙奇天烈な現象に立ち会ったのだ。大抵のことには驚かない自信がある。
「まっ、いっか」
「あら、意外と落ち着いているのね」
 そこに女の声が混じった。
 シキは目を見開いて驚く。気を抜いたはずはなかったのだが、女の声はシキのすぐ後ろから聞こえたのだ。
 随分とぬるくなったな、と思いながらシキは後ろを振り向き、めんどくさそうに息を吐いた。
 そこには闇という文字を体現した少女がいた。
 美しさ、という点ではシキが見てきた中では一番になるのではないかというほどの美貌の持ち主であり、身体からにじみ出る妖艶さはどんな男すら魅了するほどであった。
 だが、それまでだ。
「本当にそっくりね。憎らしいほどにね、シキ」
「俺を知ってるのか?」
 少女は笑みを浮かべながら首を縦に振る。
「ええ、よく知ってるわ。でも、今のあなたは何も知らない、知っていない」
「……えっと?」
「ふふ、存分に悩みなさい。その表情は最高よ」
 シキは直感的に答えを出した。
 ――あぁ、最高に面倒な奴に出会った、と。
「その顔は何。こんな美女がいるのよ? 少しは嬉しそうにしたら?」
「……」
 ため息を吐きながら、シキはここからどうやって逃げ出そうか算段を立てる。
 普通に走っても無駄だろう。
 少女を殴るのもダメ、というかそうしたらダメと本能が最大級のサイレンを鳴らしていた。
 残る手は剄による力任せの破壊なのだが……。
(駄目だ、剄が練れない)
 やはり、剄が練れずにいた。
 まぁ、練ってどうするという話なのだが、練ってから考えるのがシキである。
「いいわ、答えないないのならそれでも」
「……というか、あんた誰?」
 シキは諦めて、少女との会話をすることにした。
 暇つぶしにはなるのだろうと。
「答えないわ。そっちのほうが面白そうだし」
「さいですか」
 暴君という言葉よりもワガママな姫という言葉が似合いそうな少女であった。
「あらあら、腕が無くなって滑稽なことね」
「いつの間にか無くなってたんだよ」
「まぁ、あなたには足枷にすらならないんでしょうね」
「……俺は人間止めたつもりはねえぞ」
 さすがのシキも、片腕がなくなっていつも通りの戦闘が出来るはずがない。
「あら? あなた自分が人間だと思ってるの?」
 その少女の一言に、シキはハッとしたような表情をする。
 そんな表情を見て、何を思ったのか少女の笑みはさらに深くなる。
「本当に思っていたのね。この時のあなたはなんてお気楽な思考をしてるのかしら」
「うるさい」
「いい気味だわ、存分に悔しがりなさい」
 シキは目の前の少女を睨みつける。
 ここまで言われて不快にならないわけがない。それが初対面の人間ならなおさらだ。
 そんな時、少女は真剣な表情をしてシキに語りかけた。
「そろそろ起きなさい、シキ」
「……どうやればいいんだよ」
 シキは頭を掻きながら、少女に向けて質問する。
「自分で考えなさい」
「お前、本当に嫌な奴だな」
「ありがとう、褒め言葉よ」
 シキの精一杯の嫌味は軽く流された。
「安心しなさい、あなたはこれから地獄すら生ぬるい経験をするんだから」
「俺が何をしたって言うんだよ」
「した、というよりもしてしまったが正し……あら、もう時間ね」
 そんな言葉を言って、少女の身体が薄くなっていく。
「残念ね、わたしがもう少し力があればもっと弄ってあげたかったのに」
「そうかい、二度と会わないことを祈るよ」
 少女は消えそうな身体を動かして、シキに近づく。
「わたしが誰か知りたい?」
「……あぁ」
 正直言って気になる、というのがシキの感想だ。
 なぜだか、この少女を知ればこの前の顔のことも知れるかもと言った、漠然な考えがシキの脳裏をかすめた。
「そう」
 そう言って、少女はくすりと笑いながら、シキの唇と自分の唇を重ね合わせた。
「!?!?!!!?」
 頭の中が真っ白になった。
 熱いとか、気持ちいいとか、柔らかいとか様々な感触がシキを襲う。
 そしてたっぷり十秒ほど合わせたところで少女が息を吐きながら、シキの唇から離れる。
「ツェルニ、よ」
「あ、あぁ」
 パクパクと口を開きながら、茫然自失になるシキを尻目に少女は話しかける。
 ギュッと腕でシキの頭を抱えながら言うので、その姿は年の差のカップルのように見える。ただし、少女は足の先から太ももから消えているので、幽霊のように見えてしまう。
「わたしを知りたいならツェルニに来なさい」
「……」
「失って、失って失って失い続けて、ボロ雑巾になるくらいまで失いなさい。その時……」
 
――わたしだけのものにしてあげる。
 
そう言って、少女は完全に消えた。
「……なんだよ、なんなんだよ」
 唇を摩りながら、シキは少女との会話を思い出す。
 初対面のはずだ。あれだけ印象に残りやすい少女なら嫌でもシキは覚えている。
 少女はシキのことをよく知っていたようだった。親しい仲なのだと思う。でなければ、キスなんて行為に……行為に。
「ッ~~~~!?」
 そこまで考えてシキの顔が真っ赤になる。
 『そういう』知識はまだないが、キスくらいは年相応に興味があるのだ。
 さらに初めてで、あそこまでの美女(本人談だが間違っていない)にされれば嫌でも意識してしまう。
 夢だと断言するには、少女の唇は柔らかった。
 だとすると、ここは現実ということになるのだが、何がどうしてこんな場所にいるのかという疑問が膨れ上がってくる。
「……まっ、出てから考えるか」
 試しにシキは拳を握ってみる。
 開いて握って振って、その動作を何回も繰り返す。
 シキは考えるのが苦手だ。頭は悪いわけではないが、回りくどいやり方は性に合わない。父親であるデルクがそうだし、レイフォンもそうであるから、ある意味サイハーデンの特性なのかもしれない、とシキは苦笑した。
「たく、俺もバカだなぁ」
 ニヤリと笑いながら、シキは握った拳を引く。
 相変わらず剄を練ることはできない。だが、それがどうしたというのだろうか?
 シキの根本になっているのは、サイハーデンの教え、つまりは最後の最後まで生き残るための努力だ。
 だからこそ、生きるための努力をする。
「ふー……だぁあああああっ!!」
 息を吐き、力任せにシキは拳を地面と思われる場所を殴った。
 ピシリと、漆黒の空間に白い罅が入る。それは徐々に大きくなり、シキの視界いっぱいに広がる。
 そして完全に空間が破壊され、風景がガラリと変わる。
 そこには頬を引き攣りながら、こちらを見る。
 腹部が物凄い痛みを発しているが、無視して相手を見る。
 青年程度の身なりのいい武芸者だ。もしかしたらそれ相応の地位の持ち主かもしれないとシキは当たりを付けた。
 さらによく見ると、青年の手に持っている錬金鋼がシキの腹部を貫いていた。
 シキはギロリと青年を睨むと、久々に練った剄を纏わせた拳を相手の鼻先に近づける。
「お返しだ」
 次の瞬間、シキの容赦ない打撃が青年の身体を空中に吹っ飛ばした。
 
 

 
後書き
受験生舐めてました……暇がないお。
次回はシキとレイフォンがハッチャケます。やったね、シキちゃんミンチが出来るよ!


Q、二ヶ月以上経ってるんだが?(#^ω^)ピキピキ
A、スランプと勉強、レギオスの外伝読んでました。

Q、原作より天剣たちノックアウトしてね?
A、ちょっと強くしたそうです。

Q、ブラコンがデレデレな件について。
A、作者の趣味ですが? 正直、レギオスの女子キャラの中ではヴァティについで好きです。……人間がいない? ハハハ、今更ですな。

Q、シキはなんで剄が練れなかったの?
A、仮面野郎が細工しましたが、今は使えます。

Q、シキの剄脈大丈夫?
A、川´_ゝ`)なに、気にすることはない


ではちぇりお! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧