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転生者拾いました。

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蒼風の谷
  嫌悪

 あたくしは今、ソファーでかつての婚約者と相対している。サイモン・K・イースト、現王家の第一王子。

「いやぁ、お待たせぇ。マイハニー。」
「ええ、ずいぶんと待ちました。」
「つれないな、ここは『待ってません』みたいなことを言うんだよ?だってボクと君の中じゃないか。」
「あなたとはそのような関係にはなった覚えはありません。」
「いいじゃないか。仲良くしようよ。」

 サイモンがソファーを立って隣に座ってくる。あたくしの肩を抱き髪に鼻をうずめるようにして匂いを嗅いでくる。

「さすがはエリザだ。貧相な生活の中でも貴族のたしなみを捨てないところ、好意を抱くよ。」
「あたくしが抱くのは嫌悪感だけです。」
「そんなこといつまで言ってられるかな?」

 頭から顔が離れついで手が伸びる。その手で髪をすき、触感を味わっているようだ。

「クスィー家はボクに君を差し出さず没落。しかし一族郎党は皆僕の慈悲で生き長らえている。仮に僕の気が変わったらどうだい?」

 耳元でささやかれ背筋を汗が走り、身が硬直する。

「ボクの指先一つで君の家が滅ぶ。そんなことはしたくないだろ?」
「……。」
「まあ、君が素直になってくれたらそんなことはないと思うな。」
「……。」
「……ふう。君の心が向いてくれることを切に願うよ。」

 あたくしが何の反応も見せないため興味を失ったのか、髪をとくのを止め部屋から出て行った。
 戸が完全に閉まるとエリザは糸が切れたようにソファーに倒れた。

「はぁ、やはり好きにはなれませんわね。」
『はい、エリザ様。』
「カズヤ様とセリナさんは?」
『地下牢…ですがカズヤ様の魔力反応が強くなってきました。』
「?どういうこと?」
『来ます。』

 すると床が揺れはじめ地響きが鳴り響いた。だが、それはここまで届かずすぐ下の階で止まった。

「?」
『止まりましたね。戦闘が始まりました。』
「せ、戦闘!?」
『この部屋に張られている結界を破るようです。』
「カズヤ様……、やはりあたくしの危機に颯爽と顕れる騎士のような方です。」
『……。』

 エリザが自分の世界に逝ってしまい、世迷い言が口から漏れている。
 それを湿った目でヴェルテが見ていた。


 所変わってエリザの部屋の下の階。
 そこは地獄絵図になっていた。

「こんなものか?」
「やっぱりムチャクチャね。」
「褒めてんのか?」
「貶してるように聞こえる?」 

 彼らの足元には息絶えた(気絶)した兵士が倒れている。

「それで?どうするの?この結界。」
「もちろん正面突破だ。」
「ここの天井は抜けないの?」
「ちょっと無理だな。ドアを探す。」
「分かった。」

 物言わぬ人を踏まないように歩き、上階に上がる階段を探す。
 しかしいくら歩いても上りの階段どころか下りの階段すら見つからない。

「どうなっているんだ?」
「無限ループ?」
「ということはどこかに鍵がある訳だな。」
「鍵って?」
「何かを壊せば解けるだろう。」
「壊すって……。」
「それは困る。」

 突如として背後から声をかけられた。
 振り向くといかにもなキザ男が立っていた。

「ボクの小鳥ちゃんを逃がすわけにはいかないよ。」
「おいおい、早速ボスの登場かよ。豪華だな。」
「君が強すぎてほかの連中が歯が立たないからだよ。」
「そりゃあ悪かったな。」
「どうだ?取引をしないか?」
「取引だと?」

 両手を大げさに広げたキザ男はゆっくりとした歩調で近いて来る。

「そうさ、君がエリザを忘れれば生きて返そう。もしくはエリザを返す代わりにその娘を置いていって貰う。」
「女を得れば何でもいいということか。」
「カズヤ、アイツ殺したい。」

 なんて馬鹿げた提案だ。答えは決まっている。

「はっ!そんなもの蹴るに決まっている!エリザを返して貰う!」
「そういうと思ったよ。いいよ、ここで朽ちるがいい。」 
 

 
後書き
狂人と愚人、互いの意志は強く
戦火起こる

次回 おぼろに 
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