魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epic11学校の怪談~DeatH~
前書き
Death/死の正位置/転換期。古い状況が終わりに向かい、新たな希望が生まれる。新しいサイクルが始まる、重大な変化の時。
†††Sideフェイト†††
この世界での活動拠点として選んだ共同住宅の一室。夜も更けて真っ暗な中の寝室で私はベッドに横になって、今までに回収したジュエルシードを眺めていた。この世界に訪れて最初に回収したシリアル1。温泉で回収したシリアル18。
そして、一昨日のゲームセンターとかいう施設で手に入れたシリアル19。回収できたのはこの3つ。テスタメントという子はもう10個も集めて、素人のあの白い子ですら4つ。明らかに出遅れてる。魔導師としてのレベルはきっと私が一番なのに。
「あの子たちには悪いことをしたかな・・・・」
ふとシリアル19のジュエルシードを回収した時のことを思い返して、あの子たちを裏切ったことに対して罪悪感が湧き上がってくる。あの子たちと協力して得た勝利。テスタメントという子は負けを認めて潔く退いてくれた。
そして騎士のような赤い子が言っていた、私とあの子たちのどちらがジュエルシードを封印するかを決める争奪戦という問題に直面した私は、半ば奇襲という形で封印を強行した。その結果、私の“バルディッシュ”とあの白い子のデバイスがジュエルシードを挟んで衝突して、休眠状態だったジュエルシードを暴走させてしまった。
◦―◦―◦―◦回想だ◦―◦―◦―◦
「ぅぐ・・・!」「きゃあっ!?」
ジュエルシードから放たれた魔力の衝撃波によって私は大きく吹き飛ばされたけど、宙で態勢を整えて床に着地。あの白い子も同じように吹き飛ばされて、態勢を整える前にゲームの台に突っ込んだ。
「なのはっ!」「なのはちゃんっ!」
友達の2人があの子を心配して駆け寄って行く。私はあの子たちからジュエルシードに目を向ける。これ以上の暴走を放っておいたら、この辺りを破壊しつくしてしまう。それが判るほどにまずい状態だ。もう一度休眠状態に戻すための魔法の準備をしようにも“バルディッシュ”のボディがヒビだらけで、封印を行えるだけの大魔力魔法に耐えられそうにない。友達に支えられながらも立ち上ったあの子のデバイスも酷い状態だというのが一目で判る。“バルディッシュ”を待機モードに戻して、覚悟を決める。
(だったら・・・!)
「フェイト!? なにを・・・!?」
暴走臨界点までそう長くないジュエルシードが放つ魔力波の中をなんとか突き進みながら、手を伸ばす。するとアルフが「ダメだフェイト! 危ない!」って止めに来るけど、現状でジュエルシードを休眠状態に戻すにはこれしかない。一歩一歩、吹き飛ばされないようにしっかり踏みしめながら近づいていく。
「痛っ・・・!」
魔力がまるで刃となっているみたいで、近付けば近付くほどバリアジャケットや肌に損傷が生まれる。髪を結っていたリボンが片方だけ切られた所為か束ねていた髪が暴れて体のバランスが取りにくくなった。だから、もう片方のリボンを解いてバランスを取る。
「もう・・ちょっと・・・!」
あと数歩というところで両脚に走る激痛。魔力が私のふとももとふくらはぎを切った。その痛みで一瞬とは言え踏ん張る力を失った私は、「しま・・・っ!」衝撃波によってまた吹き飛ばされそうになった。でも、「ほら、しっかり!」テスタメントが私を抱き止めてくれた。私の肩にこの子が手を回して支えてくれたことで、吹き飛ばされる心配はなくなった。一応、お礼を言おうとしたら「あの状態のジュエルシードに近づくなんて馬鹿のすることだよ」なんて言われた。
「ならどうするの・・・!?」
睨み付ける。
「困った時は、周りを頼るんだよ、フェイト・テスタロッサ!」
そう言って、暴走しているジュエルシードに空いている左手を翳す。私たちの足元と、翳している左手の前面に展開される銀色の魔法陣。そしてまた感じる、この子の爆発的に上昇する魔力。
「私だって魔力量はあなた達に負けてないんだよ」
――煌き示せ、汝の閃輝――
魔法陣の中心から放たれる銀色の砲撃が、ジュエルシードの魔力波を突き破りながら進んで行く。そして直撃。あんなに暴れていたジュエルシードがその一発で強制封印された。それを確認した私は「ごめん」この子にも一言謝って、ジュエルシードの元へ飛んで、掴み取る。そのまま逃げるように私とアルフはその場を後にした。
◦―◦―◦―◦終わりだ◦―◦―◦―◦
「バルディッシュ、ごめんね。もう大丈夫?」
≪Recovery complete≫
待機モードの“バルディッシュ”に何度目かの謝罪。暴走したジュエルシードが発した魔力の衝撃波の直撃を受けた“バルディッシュ”は酷い損害を負ったけど、コアにまでダメージが行かなかったのが幸いだった。修復も無事に終わって、早速次のジュエルシードを回収するために、「アルフ。行くよ」リビングでこの世界の食事を摂っていたアルフに告げる。
「あいよ。って、フェイトはまだ食べてないじゃないか! ちゃんと食べないと体がもたないよ!」
「いい。あんまりお腹空いてないし」
私に用意されていた市販のお弁当。そんなことより発動間近のジュエルシードの気配を感じる。こんなに離れた場所に居る私でも感じ取れるんだから、きっとあの子たちも気付いて、もう動き出してるに違いない。ならのんびり食べている暇はあまりないはず。
「ダーメ! 気に入らないけどさ、あのグランフェリアも言ってたじゃないか。何事も体が資本とかだって」
リニスが居なくなってから現れたグランフェリア。あの人との模擬戦に熱くなりすぎていて、食事を蔑ろにしたことがあった。その時に言われた言葉だ。まずは自分の体を万全に持って行く。でないと大事なところで大きなミスをするって。私は渋々食卓について、「いつでも出かけられるように準備しておいて」急いでご飯を食べることにした。
†††Sideフェイト⇒アリサ†††
「――で、今回のジュエルシードはここに在るのね」
「うん。スノーホワイトの広域探索にもバッチリ引っかかってるし、それになにより・・・」
「この魔力の感じはどう考えても当たりよね」
時刻は夜の11時。あたしはバレないように家を抜け出してきて、すずかと合流。ここへはすずかに後ろか抱っこしてもらう感じで空を飛んできた。少し遅れて「ごめん、お待たせ!」なのはとユーノも合流。改めて眺める今回の現場。そこはあたしん家に近い市立の高校。夜の学校って結構不気味なのよね。
「あれ? セレネちゃんとエオスちゃんは・・・?」
揃ったことだし、門を飛び越えて中に入ろうかってところで、なのはがそう訊いてきた。セレネとエオスにはあたしん家とすずかん家にそれぞれ留守番してもらうことにした。万が一にあたし達の部屋に誰か尋ねて来た時、あたし達の声を使って対応してもらうために。そう説明すると、「ごめんね、大変なことに巻き込んじゃって」なんて馬鹿なことで謝ってきた。
「だからさ。あたし達は望んで、あんた達の手伝いをしたいって思ってんの」
「うん。だからなのはちゃんが気にすることじゃないし、それよりもっと頼ってほしいな」
「アリサちゃん。すずかちゃん・・・。うん、ありがとう!」
「んじゃ感動もそこまでにして、そろそろ入るわよ。フェイトやテスタメントがいつ来るか判んないし」
フェイトの名前を出したら、なのはの表情が急に曇った。どうやら一昨日のことでショックを受けてるみたいね。
(まぁ、昨日も今日もどこか上の空だったし)
テスタメントに勝つまでは結構いい感じだったんだけど、ジュエルシードが出た瞬間、まるで裏切る感じで勝手に封印しようとしたフェイト。あたしもあれには怒った。少しは話し合うくらいしなさいよって。でも、フェイトにはどうしても譲れない理由でもあるんじゃないかって思う。なのはに聴いた限りじゃ誰かの為だっていう話だしね。どこか焦ってるようにも見えたし。ま、だからと言って完全に許すわけじゃないけどさ。
「私、フェイトちゃんとも少しは仲良くなれたって思ってた。でも勘違いだったのかな・・・」
「私はそうは思わないかも。私もなのはちゃんと同じで少しは近づけたと思う。でもそれ以上にフェイトちゃんにはやらないといけないことがあったんじゃないかな? なのはちゃん、言ってたよね。フェイトちゃんがジュエルシードを集めるのは、誰かの為なんだって。ちょっと悲しいけど、この前はその気持ちの方が勝っちゃったんだと思う」
「そうかもね。ま、すぐに仲良くなろうとしないで、じっくりぶつかり合いながら仲良くなって行こうじゃない」
すずかが「私たちも最初はケンカからだもんね♪」ニコっていじわるな笑顔をあたしに向けて来た。するとなのはも「にゃはは。そうだったね」って明るい表情に戻った。思い出したくない思い出ナンバー1でありながら忘れたくない思い出ナンバー1でもある、あたし達の出会いのきっかけ。
「ほら、そんな昔話してる暇があったらとっととジュエルシードの回収!」
「アリサちゃん、恥ずかしがらなくてもいいのに♪」
「うるさいわよ、すずか」
あの頃の自分の馬鹿さ加減にはホント呆れるわ。自信家で我が儘で強がりで。そんなんだからクラスメイトをからかったり馬鹿にしたりしてた。心が弱かったから。そんな頃、あたしはすずかのカチューシャを奪ってからかった。周りからやめなよって言われても聞かなかった。他人の言うことを素直に聞いたら、なんていうか負けちゃうって気がして。そんな時、なのはがあたしの頬を思いっきりビンタしたのよね。
――痛い? でも大事なものを取られちゃった人の心は、もっともっと痛いんだよ――
(あの時のなのはの言葉は忘れないわ、これからもずっと・・・)
それからあたしとなのはは取っ組み合いのケンカをして、それを止めたのがすずかだった。その後は、少しずつだけど3人で話すようになって、気が付けばあたし達は大の友達、親友だった。
「ああもう! あん時はごめんなさい!」
改めて自分の最低さに対して謝る。後ろをついて来るなのはとすずかは「ぷっ」吹き出した後、「許します♪」って優しい声色で許してくれた。顔が熱くなるのを自覚する。正門を閉ざしてる門をジャンプで飛び越えて、ズンズン大股で校庭を突っ切る。
「わわ、待ってよアリサちゃん!」「アリサちゃ~~ん!」
後ろをついて来る2人に振り向かないまま校舎の前まで来て、「うわぁ」一度足を止める。追いついて来たなのはとすずかも「これはちょっと・・・」校舎を眺めて引いてる。直感って言うか本能って言うか、それが告げてくる。校舎に入ったら、なんか嫌な目に遭うって。
「スノーホワイト。お願い」
≪お任せ下さいまし≫
――封時結界――
すずかの“スノーホワイト”が結界を展開。これで多少の無茶は出来る。不気味な雰囲気を纏う校舎のどこかに在るジュエルシードを探すために「い、行くわよ」入り口を探す。ま、結界内外ともに鍵がかかってるはずだから、「結局は力づくよね」窓を破壊して侵入。
「なんか泥棒になった気分だね」
「言わないで、すずか。窓を割っただけでも罪悪感があるんだから」
「一応、この結界内での破壊は結界外には反映されないから、ある程度は大丈夫だよ」
なのはの肩に乗るユーノから改めて説明されてもやっぱりね。暗い廊下の中をあたし達は歩いて、ジュエルシードの場所をすずかと“スノーホワイト”が探す。
「う~ん。難しいかも。なんか校舎全体からジュエルシードの気配がする。しらみつぶしに探すしかないかも」
「そう。・・・って、なのは?」
さっきから黙ってままでいるなのは。ユーノも「どうしたの? なのは」ってなのはを心配する。するとなのはは“レイジングハート”をギュッと力強く握り締めて「ダイジョウブダヨ」妙にカタコトな返事をするだけ。
「えっと、なのはちゃんって、お化けとか幽霊の類が苦手じゃなかった?」
すずかに言われてようやく思い出した。「あー、ビビッてんのね」夜中の学校となれば、最高で最悪なシチュエーション。暗くてよく判らなかったけど、気を付けて見ればなのはの顔色は悪くて、体も少し震えてる。しょうがないわね。なのはの隣に立って、「これなら怖くないでしょ」右手を握る。
「アリサちゃん・・・?」
「あー、ズルいよ、アリサちゃん!」
すずかがなのはの反対側の左手を握ろうとしたけど、生憎そっちの手は“レイジングハート”を持ってる。だからすずかは手を握るんじゃなくて、「うん、これでいいね♪」なのはの左腕に抱きついた。
「えっと、アリサちゃん、すずかちゃん。その、ありがとう。もう怖くな――え?」
なのはが目を見開いて廊下の奥を見詰めて、口をわなわな振るわせ始めた。あたしとすずかもなのはに続いてそっちの方を見やると、「oh」目を疑った。ううん。何となくだけど予想は出来てた。願いを叶える魔法の石、ジュエルシード。夜の学校となれば、アレ的な現象が起きることくらい。
「にゃぁぁぁぁッッ!!? 出たぁぁぁーーーーーーーーーッッ!!」
「耳が・・・!」
「うるさいわよ、なのはっ!」
「なのはちゃん。大声・・・」
なのはの悲鳴っていう音波攻撃の直撃を受けたあたし達は、今さらだけど自分の耳を押さえる。なのはは謝りながらも「だって、だって、だって! アレ! アレだよ!?」お約束的なアレ、人体模型を指さす。体に開いてる穴に詰まってる内臓とかがドクンドクンって脈打ってて、目がギョロギョロ動いて最後はあたし達に焦点を合わせて見てきた。改めて見ると、ちょっとずつ近づいて来ている人体模型。あたし達はちょっとずつ後退。
「とりあえず・・・」
「「とりあえず?」」
「逃げるのよ!!」
「賛成、大賛成!」
その場から全力ダッシュで逃げる。中でも「なのはちゃん、速い!」なのはが速い。腕をこれでもかっていうくらいに振って、「やっぱり帰るぅぅーーー!!」そんな叫び声を上げてひたすらダッシュ。人体模型をどれだけ引き離したか確認するためにチラッと振り向くと、「うわっ、速っ!」マラソンランナーみたいな綺麗なフォームですぐ後ろを走ってた。しかも両腕を伸ばしてきて、あたしとすずかを捕まえようとしてる。
「フレイムアイズ!」
≪遅ぇよ、アリサ! 行くぞ!≫
逃げ切れそうにないから迎撃することにした。“フレイムアイズ”の引き金を引いて、刀身に炎を生み出す。走るのをやめて急停止すると同時に半回転しながら、「うりゃぁぁああああ!」“フレイムアイズ”を振るう。
――フレイムウィップ――
横一線に振るったことで生まれた炎の鞭で人体模型を薙ぎ払う。人体模型は簡単に壊れて、バラバラに弾け飛んで廊下の至る所に転がった。
†††Sideアリサ⇒????†††
アリサちゃんの攻撃魔法で、私たちを追いかけて来ていた人体模型がバラバラになっちゃった。廊下に散らばってる人体模型のパーツを見てみる。さっきまでは本物の臓器みたいに鼓動していたけど、今はプラスチック素材に戻ってる。ホッと安心した途端、「ひゃっ!?」人体模型の手首がカタカタ動き出して、指の動きだけでどこかに行っちゃった。
「なに今の。アダム○ファミリー?・・・ていうか、なのはは?」
「え? なのはちゃん?・・・・なのはちゃん!」
近くをアリサちゃんと一緒に捜したけど、なのはちゃんの姿どこにも見当たらない。心の声で会話をする念話っていう魔法を使ってみたけど、繋がらなかった。
「うそ・・・どこ行ったのよ!」
「スノーホワイトっ、なのはちゃんとユーノ君の居場所判る!?」
≪少しお待ち下さいまし≫
――魔力探査――
こういう時にこそ補助を担当する私の魔法の出番。魔導師の位置を正確に探り当てる魔法を発動して、なのはちゃんを探す。
≪申し訳ないですわスズカ。ジュエルシードの影響で発見できませんでしたわ≫
でも“スノーホワイト”の探索能力でも捜し出すことが出来なかった。その代わり≪何か来ますわ!≫警告が出された。アリサちゃんが“フレイムアイズ”を構えて、私もいつでもアリサちゃんを補助できるように警戒する。
廊下の突き当たりの角から姿を見せたのは、「犬・・・?」1匹のブルドッグ。私たちにお尻を向けて、あくびとかしてる。アリサちゃんが「なんでこんなところにブルドッグが・・・?」って首を傾げる。じっーと見詰めていると、クルッと私たちに振り返った。
「そんなに見詰めんなよ。照れるだろ」
「「人面犬・・・!」」
ブルドッグの顔は犬じゃなくておじさんがものだった。すごく有名なお化け、人面犬だ。人面犬は「ま、見惚れるほど可愛いってんだろ?」って言って、蜃気楼みたいに消えていっちゃった。ポカーンとしちゃう私とアリサちゃん。“スノーホワイト”に「もしかして今のが?」って訊ねる。
≪いいえ。違いますわ。もっと強力な何かがこちらに向かって来ていますわ≫
そう言われた通り、私たちを襲う超常現象はそれだけじゃなかった。ドスンドスンって足音のような音と振動が、私たちが元居た場所の方から聞こえてくる。
≪お逃げくださいまし、スズカ、アリサ!≫
アリサちゃんが「2階よ、すずか!」そう言って走り出したから、「うんっ」ついて行く。人面犬が出て来た角を曲がればそこが階段室で、一段飛ばしでU字型の階段を駆け上がる。2階に到着すると、ドスンドスンって足音がパタリと消えた。
≪スズカ。ナノハとユーノの魔力を発見いたしましたわ。右へ進み、一番奥の部屋ですわ≫
「アリサちゃん!」
「ええ!」
急いで“スノーホワイト”の教えてくれた教室に向かう。私たちが居るのは特別教室棟みたいで、私たちが目指してる教室は「美術室!」だった。美術準備室を通り過ぎて、美術室の入り口の扉を勢いよく開ける。
「なのは!」「なのはちゃん!」
「アリサちゃん・・すずかちゃん・・・!」
なのはちゃんは確かに居た。けど1人じゃなかった。美術室の中には椅子と机が無くて、代わりに室内の色んなところに有名な絵画が実体化してた。私に判るのは、ピカソのゲルニカ、ムンクの叫び、ダ・ヴィンチのモナ・リザ、あと名前は忘れたけど、3回見たら死んじゃうみたいな椅子の上にある生首(これだけは視界に入らないようにする)。そして・・・
「あんた! なのはを放しなさいよ!」
「なのはちゃん、いま助けるからね!」
美術室の中央には、両手首をロープで縛られて天井から吊られているなのはちゃん。そんななのはちゃんの絵をイーゼルに掛けられたキャンバスに描いている、ベレー帽を被った男の人のゾンビ。長い舌で唇を舐め回した後、私とアリサちゃんを細くした目で見詰めてきた。一目で判る。この人は変態さんでもあるって。
「エクセレント! また新しい幼女が来た! 君たちも僕のモデルになってくれ!」
仰々しく両腕を広げて、「ムハァ❤」目に見えるほどの息を大きく吐いた。全身に鳥肌が立っちゃった。アリサちゃんは「変態、変態、変態!」って連呼しながら、“フレイムアイズ”の引き金を引いて、刀身に炎を噴き上がらせた。
「すずか。なのはをお願い!」
「うんっ!」
私はなのはちゃんの救出を。アリサちゃんはゾンビ退治を。そんな私たちの前に立ちはだかるのは、実体化した絵画たち。アリサちゃんに「伏せて!」って言われて、頭を抱えて伏せる。
――フレイムウィップ――
頭上を通り過ぎて行く炎の鞭。それが絵画を一撃で燃え散らせた。私は立ち上って、「もうちょっとだけ待ってて!」なのはちゃんの手首を縛ってるロープを、“スノーホワイト”の親指・人差し指・中指に外付けされてる氷の爪で切る。
「ありがとう、すずかちゃん・・・」
「うん。えっと、ユーノ君やレイジングハートは・・・?」
どこにも見当たらないからなのはちゃんに訊いてみると、なのはちゃんはハッとして「食べられちゃった・・・」そう呟いたと思えば、なのはちゃんの目から涙が溢れてきた。耳を疑った。ユーノ君と“レイジングハート”が食べられたって言ったの、なのはちゃんは・・?
「どうしよう、すずかちゃん! ユーノ君が・・・レイジングハートも!」
「落ち着いて、なのはちゃん!」
そうは言っても落ち着ける状況じゃないのは判ってる。私にしがみ付いて泣くなのはちゃんの両肩に手を置いて、「アリサちゃん!」ゾンビを焼き払い終えたアリサちゃんを呼ぶ。私たちに背を向けてるアリサちゃんが「大丈夫よ、2人も」こっちに振り返る。
「「あ、ユーノ君・・・!」
アリサちゃんが左腕に抱えるユーノ君を見て、「よかったぁ・・・」ホッと一安心する。なのはちゃんの「レイジングハートは!?」には、「ほら」開いた手の平の中にある赤い宝石を見せてきてくれた。
「よかった・・・。ありがとう、アリサちゃん!」
「でもヨダレでベトベトなのよねぇ・・・。ピカソが描いたような変な女の腹の中に居たのよ」
「う、うん。私の目の前で食べられちゃって」
目を回してるユーノ君と赤い宝石の“レイジングハート”は、ヨダレに濡れてテカテカ光ってる。アリサちゃんはユーノ君の首根っこを摘まみ上げて、「はい、なのは」ってなのはちゃんの頭の上にまで持って行って、「ほら」手を離した。そんなユーノ君がなのはちゃんの頭の乗っかる前に「にゃっ?」なのはちゃんがそこから一歩下がっちゃった。
「「「あ」」」
すると当然ユーノ君は真っ逆さまに落ちて、ベチャって床に落ちた。
「「ユーノ君!」」
「もう、何やってんのよ、なのは。可哀想じゃない」
「ごめん」
「謝んならユーノでしょうが」
「ごめんね、ユーノ君」
なのはちゃんはもうヨダレ塗れを気にしないで、気を失ったままのユーノ君を大切そうに抱え上げて抱きしめた。そして“レイジングハート”もアリサちゃんから受け取って、「ごめんね、レイジングハート」改めて起動した。
†††Sideすずか⇒なのは†††
美術室から出て、またジュエルシード探索を始めるために2階の廊下を歩く。
「でもさ、なのは。なんであの変態ゾンビに捕まってたのよ」
「実は――」
動く人体模型から逃げるために2階に続く階段を駆け上って踊り場に足をついた瞬間、壁に掛けられてた絵から飛び出してきた手に捕まって、絵の中に引きずり込まれた。気が付けば、そこは美術室らしい教室で、私は手首をロープで縛られて天井から吊られていた。ゾンビさんに絵画のモデルを強要されて、それを断ったら、ユーノ君と、そしてどうやって待機モードに戻されたのか判らないけど“レイジングハート”が変な女の人の絵に食べられちゃった。
「――それがショックで、私・・・」
「なるほどね。そりゃショックだったでしょうね」
「でも、もう大丈夫だよ」
アリサちゃんとすずかちゃんに微笑みかけられて、「うんっ」本当に心の底から安心できた。だから、「もう、何も怖くない!」新しく出て来たお化け、運動会で使う大玉に“レイジングハート”を向ける。
「いっっけぇぇーーーーーッッ!!」
――ディバインバスター――
大口を開けてギザギザの歯を見せてる大玉を砲撃で粉砕した。バラバラになった大玉の破片を見たアリサちゃんは「ホント、あんたの魔法は見てて清々しいわ」呆れてるみたい。
「にゃはは。これが、私のタイプだから」
大威力砲撃による一撃必倒。そして射撃魔法による本命・牽制・かく乱。ユーノ君やセレネちゃん、エオスちゃんが私に組んでくれた練習メニューをこなしていったその先にある私の未来の姿。
「そんじゃあたしも負けじと頑張ろうかしら!」
アリサちゃんが意気込んでいるところに、「何か聞こえる・・・」すずかちゃんが耳を澄ませる。私とアリサちゃんも耳を澄ませて、「この音。パソコンのキーを押してる音だ」私は聞き慣れてるからすぐに判った。美術室とは反対方向の奥にあるパソコン室。そこからカタカタ音がする。私たちは顔を見合わせて、パソコン室へ。
「ジュエルシードはここか!」
アリサちゃんが真っ先に扉を開けて入って、次に私、最後に後衛のすずかちゃんが入る。パソコン室は無人で、でも30台くらいのパソコンは起動していて、それにキーを叩く音も続いてる。私とユーノ君だけだったら絶対に逃げ出してた。よかった、アリサちゃんとすずかちゃんが手伝ってくれて。
「一体なにを打ってるわけ? 透明幽霊どもは・・・?」
アリサちゃんに倣って私もパソコンのモニターを眺めてみる。青一色のモニターに打たれてるのは赤い数字。えっと「42731を繰り返し・・・?」なんだろう、これ。42731の読み方を変えてみると、「うわ・・・」知りたくなかった意味を知っちゃった。
「死になさい、だって。気持ち悪いもんを見せられちゃったわね」
「でもこれくらいなら怖がることじゃないかも」
すずかちゃんの言う通り脅しだけのようだから何も怖くない。パソコン室を出て、「次は3階ね」階段室に向かって、そこに辿り着いたんだけど。
「「「おおう・・・」」」
階下から2階に上って来たのは二宮金次郎さんの石像。石像らしくゴツゴツって足音を鳴らしながら、3階へ上がってく。呆けてた私たちだけど、すぐに気を取り直して足音が出ないようにそーっとついて行ったら、「図書室に入って行ったね」二宮さんは図書室の扉を開けて入って行った。
そろそろと図書室の入り口に近づいて行って、扉をちょこっとだけ開けて3人で中の様子を窺う。二宮さんはカウンターの前に居て、借りていたっていう本を返却してた。
「二金の読んでる本って、いつも図書室で借りてたものなのかしら・・・?」
「あはは。ど、どうなんだろうね・・・。ここのが特別なのかも」
「にゃはは。ところでにのきんってなに? アリサちゃん」
「ん? 二宮金次郎を略した名前よ。って、来た来た。引くわよ」
にのきんさんがこっちに向かって来たから私たちは図書室から離れて、近くの女子トイレに入った。ゴツゴツって階段を下りて行くのを聴いて、遠ざかって行ったのを確認してホッと一息。私が先にトイレを出ようとしたら「あのさ。女子トイレのお化けって言えばなんだと思う?」ってアリサちゃんが訊いてきた。
「「トイレの花子さん」」
すずかちゃんと同時に答えると、アリサちゃんは「試してみる?」なんてニヤリって口端を歪めた。答える暇もなく(嫌だって言ってもやる気だと思う)アリサちゃんは3番目の扉の前に行って、ノックを3回。そして「花子さ~ん♪」名前を呼んだ。アリサちゃんに手招きされて、私とすずかちゃんも扉の前に移動。でも、「出てこないわね」アリサちゃんが溜め息を吐きながらもう一度ノックして、名前を呼んだ。
「は~い❤」
「「返事が来た!」」
「どんな子なのかしら。花子さんって♪」
扉がゆっくりと開いていく。ちょっと後ずさりながらアリサちゃんの後ろから眺める。ついに私たちは花子さんとエンカウントしたんだけど、口から出るのは「え?」だけ。
「は~い♪ トイレの花子さんでぇ~す❤ 呪っちゃうぞ☆」
「「「誰!?」」」
想像してた花子さんとは全然違うから、本人がそう名乗っても信じられなかった。だって花子さんって白のブラウスに赤いスカート、黒髪のおかっぱっていう姿だと思ってた。なのに私たちの目の前に居る花子さんは、長い金髪を5房の巻き髪にして、青い瞳、白い肌、フランス人形のようなロリータ服。どこをどう見てもトイレの花子さんっていうより・・・
「花子っていうよりはトイレのジョゼフィーヌか!!」
うん、そんな感じかな。アリサちゃんのツッコみと同じことを考えてた。アリサちゃんがバンッと扉を蹴って閉めて、「見なかったことにするわ」って真っ先にトイレから出てった。私とすずかちゃんも続いて出て行くんだけど、花子さんの個室から「しくしく。なによなによ。好きでこんな姿になったわけじゃないんだからね」って愚痴っぽいのが聞こえてきた。
「えっと、ごめんなさい」
自称花子さんに謝って、改めて探索開始。途中でユーノ君が目を覚めして、何度も謝られちゃった。私も悪かったから私も謝り続けて、最終的にアリサちゃんに止められるまでごめんなさい合戦を繰り広げた。
「でもユーノ君。もう本当に体とか大丈夫?」
「うん。問題ないよ。って言いたいところなんだけど。なんでか高い所から落ちた見たいにお腹が痛いんだ。なにかあったのかな・・・?」
それ、私の所為だ。それについても謝ろうとした時、≪スズカ。発信者不明の通信が送られてきましたわ。いかがなさいます?≫“スノーホワイト”からそんなお知らせが。すずかちゃんが「繋げて」って応じると・・・
『私、メリーさん。今、校門に居るの』
ハイ来たぁ~。メリーさんの電話だよ、これ。通信が切れる。私たちは奇襲される前にその姿を見ようと思って窓に張り付く。けど残念ながら暗くて見えない。その代わり「あ、にのきんさん」が見えた。台座に戻る途中のようだ。どうやって戻るのかなって眺めていると、助走を始めた。そして体操選手さんみたく台座の前で跳んで、宙でクルクル回って最後に台座に着地。
「「「おお!」」」
みんなで拍手。にのきんさん、すごい運動神経というより運動能力?がすごい。そんな時にも「また通信だ」メリーさんからの通信が来て、すずかちゃんが応じる。また『私、メリーさん。今、昇降口に居るの』そんな自分の居場所を知らせる通信。
「ねえ。メリーさんのオチって知ってる?」
「えっと、最後は背後に居て、振り返ったら殺されちゃうっていう・・・」
「ま、大半がすずかの言ったオチよね。でもさ。こういうオチもあるのよ♪」
アリサちゃんから語られるメリーさんの電話のオチ。メリーさんの電話を意に介さずに、後ろに居るって言われても無視し続けると、メリーさんは泣きながら後ろをついて来る。舞台が超高層ビルで、メリーさんは幽霊だからエレベーターを使えず階段を利用するから、電話のたびに息が絶え絶えになって、最後は背後に来る前にダウン。携帯電話の場合、最後の電話の時に電車に乗ったから、メリーさんはホームを泣きながら走って追いかけて来るとかって。
「――とまぁ、こんな感じでさ。無視してたらどうなるんだろうって思うわけ」
「無視してたら、振り返る前に殺されちゃうかもしれないよ?」
「あ、また来た」
『私、メリーさん。今、1階の階段室に居るの』
「とりあえずジュエルシードの探索を再開しましょ」
メリーさんがどういう結末を持ってくるか判らないけど、私たちはとにかく探索を続ける。次は最後の4階。音楽室から聞こえてきた肌がピリピリ痺れるような壮大な音楽。曲名はえっと「新世界より・第四楽章だね」すずかちゃんが教えてくれた。ジュエルシードの居所が判らない以上、1つ1つ調べて行かないとダメだから、
「ここかぁぁーーー! ジュエルシード!!」
音楽室も探索することに。アリサちゃんがバンッ!と勢いよく扉を開けた。扉の先、教室2部屋分の広さを持つ音楽室には幽霊のオーケストラが居て、しかもお客さんらしき幽霊たちも居た。演奏は止まらないで、お客さん達だけがこっちに振り向いて、「しぃー」人差し指を立てて唇に当てた。
「「「あ、ごめんなさい」」」
そうだよね。演奏中に騒ぐのはマナー違反。私たちはお客さん達に謝って、薦められた椅子に座って演奏に耳を傾ける。曲が変わるごとに左隣に座るすずかちゃんに曲名を教えてもらって、3曲くらいの曲を聴き終えてところで、
「――って、違ぁぁぁ~~~~~~~~う!!」
アリサちゃんが叫びながら立ち上った。お客さん達や私とすずかちゃんも「しぃー!」人差し指を唇に当てる。
「いやいや違うでしょうが! あんた達、ここに何しに来たのよ!!」
「「演奏を聴きに?」」
「なんでよ!!」
えっと、なんだっけ? お客さん達に睨まれながら考える。私たちは・・・演奏を聴きに来たんじゃなかったっけ?
――サンダースマッシャー――
「「「え・・・!?」」」
天井から突き抜けて来た金色に輝く雷の砲撃が、オーケストラを吹き飛ばした。その瞬間、ジュエルシードを探すためにここに来たんだってことを思い出した。オーケストラが消えるとお客さん達も一緒に消えていって、音楽室が静かになった。
「フェイトちゃん・・・!」
開いた天井からマントと長くて綺麗な金髪を揺らめかせて降りて来たフェイトちゃん。アルフさんは居ないみたい。別行動中かも。まずアリサちゃんが「ちょっとぶりね、フェイト」って“フレイムアイズ”を向けた。フェイトちゃんは何も言わずに、私たちと目を合さないように少し顔を逸らしてる。
「フェイトちゃん。フェイトちゃんのデバイス、えっと、バルディッシュ? 大丈夫だった?」
まずはそう話を切り出した。見たら判るようにフェイトちゃんの手には起動してる“バルディッシュ”が握られてる。フェイトちゃんは「問題ない。君のは?」って私の“レイジングハート”も心配してくれた。
「うん。大丈夫だよ」
会話が途切れちゃう。そこにすずかちゃんが「アルフさんはどうしたの?」って訊いた。すると「アルフにはテスタメントの足止めをしてもらってる」フェイトちゃんが言った。テスタメントちゃんも来ちゃってるんだ。外からは戦ってる証と思う爆発音や発光が届いてきた。
「たぶんアルフは負ける。その前に、ジュエルシードを探し出して封印する・・・!」
フェイトちゃんはそう言って、天井に開いた穴から出て行こうとする。けどその前に「待って! どうして助けてくれたの!?」呼び止めて、オーケストラを倒してくれたことについて訊いてみた。
「・・・偶然だ」
「嘘でしょ、それ」
「「アリサちゃん・・?」」
「ジュエルシードを探すだけなら、あたし達を助ける道理がないわ。同じジュエルシードを探すあたし達を見捨てた方が邪魔者が居なくなって万々歳じゃない。なのに、わざわざ姿を現した。しかもあたし達を音楽で捕えてた幽霊どもを倒した。ということは、あたし達を助けてくれた、ってことになると思うんだけど。違う?」
アリサちゃんがそう言い放つと、フェイトちゃんは「知らない」そう返して、天井の穴から出て行った。まだお話ししたいことがあったけど、今は「みんな。あの子より先にジュエルシードを見つけないと!」ユーノ君の言う通りすでに事態は動いてる。ユーノ君に頷き返して、音楽室から出ようとして・・・「ん?」私たちは立ち止まった。音楽室の入り口に、「しくしく」小さな女の子が泣きながら膝を抱えて座り込んでたから。
「どうしたの?」
「ひっく、私・・ぅく、メリー、うっく、さん・・・」
「「「メリーさん!?」」」
さっきの花子さんみたく外国の女の子だった。なんで泣いてるのか訊いてみると、なんと演奏中に何度も通信を入れてたけど、すずかちゃんが出ないから無視されたのかと思って音楽室に来た。それなのに誰にも気付かれなくて、騒ごうかと思ったけどオーケストラの方が幽霊としての格が高いようで暴れられなかった。私たちが目の前に居るのに何も出来なくて、それが悲しくて泣いちゃったってことみたい。
「私、メリーさん。ひっく・・今、あなた達の、ぐすっ、目の前に、ひぅ、居るの・・・」
あ、やっぱり続けるんだ。みんなで「わ、わぁ、ビックリしたぁ~」驚いて見せる。わざとらしかったって思うけど、メリーさんは「やった・・」って泣き笑いの表情を浮かべて消えてった。私たちはそれを見送って、音楽室を出る。と、これ以上足を踏み出す勇気が要る場面に。廊下全面に浮かび上がってる無数の人形の顔。けど目は全部私たちに向けられているのがなんとなく判る。
「フェイトを追ってあの穴から出るわよ!」
あのアリサちゃんですら廊下を歩きたくなくなったみたいで、音楽室の中に逆戻り。私だって床や天井、壁にある顔の中を歩きたくないから賛成。床の顔なんてスカートの中を見られちゃうし。音楽室に戻ってすぐ・・・それは起きた。
「「「きゃああああ!?」」」「うわぁぁああああ!」
音楽室の天井が崩落して、室内が砂埃でいっぱいになって視界が潰されちゃう。ケホケホ咽ていると、「風よ」聞き覚えのある声が耳に届いて、ヒュッと空気が鳴いた。室内の砂埃が集まってヘビのような姿になって、空に昇って行ったことで視界が戻った。
瓦礫の上で四つん這いになってるテスタメントちゃん。側にはフェイトちゃんとアルフさんが倒れ伏してた。3人ともバリアジャケットがボロボロ。急いでフェイトちゃん達に駆け寄りたいけど、私たちに顔を向けたテスタメントちゃんから放たれる嫌な感じ・・・怒りに足が震えて、動けない。
「遅い! ジュエルシード発動から一体どれだけ時間が掛かってると思う! 今回もジュエルシードの封印を任せようと思えば、いつまで経ってものんびりと! 黙って見守っていれば、お化け達を見て楽しんでいるようだしね! ダメでしょうが! 外は大変だよ! ゾンビ達が結界内に溢れ、なんと現実にまで影響与えていたんだよ!
黙って見ているわけにはいかなくなって封印に乗り出そうとしたけど、この2人が到着したから手出しせずにいた! そうしたらアルフにケンカを売られるわ、あしらっていたらジュエルシードの思念体が出て来て暴れ出すわ、アルフとフェイトがやられるわ、私も一撃貰うわ。本当に大変だった!」
テスタメントちゃんが息継ぎなしで怒鳴る。私は、私たちは何も言えなかった。そんな中、すずかちゃんが真っ先に動き出して「スノーホワイト、手伝って!」テスタメントちゃん達に駆け寄って、座り込んだ。そして瓦礫に描かれる藤紫色の魔法陣。すずかちゃんが治癒の魔法フィジカルヒールを3人に使おうとしたけど、テスタメントちゃんだけは「私はいい」って離れた。
「えっ!? でもっ。テスタメントちゃんもダメージを受けたんじゃ・・・!?」
「私は自分の治癒魔法で治す。月村すずかは彼女たちの治癒に専念してくれればいい。さて。高町なのは。アリサ・バニングス。私はこれからジュエルシード本体を抑える。あなた達はどうする?」
テスタメントちゃんは最後に「やる気があればおいで」そう言い放って、空に上がった。私とアリサちゃんは顔を見合わせて、強く頷き合う。
「あります!」「あるわよ!」
すずかちゃんとユーノ君にフェイトちゃん達を任せて、私は飛行の魔法で空に上がって、空を飛べないアリサちゃんには魔法陣を足場とする魔法、フローターフィールドを用意してあげた。
「テスタメントちゃん。ごめんなさい」
「悪かったわよ。あたし、ちょっと浮かれすぎてた」
「その気持ちを忘れないで。どんなにおかしさ爆発な発動内容でも、放置すれば必ず世界に害を成す。私たち魔導師はそれを防ぐ力を持ってる。そろそろ自覚して。この力は、遊びの為じゃないって」
テスタメントちゃんの言うことはもっともだ。だからもう2度と、ジュエルシードの影響を甘く見ないことを誓った。
「・・・・来るよ!」
テスタメントちゃんが校庭に溢れかえるゾンビの群れを指さした。そこを注意深く見ていると、「オオオオオオオオオオオ!!」そんな雄叫びが聞こえてきた。“レイジングハート”を持つ手に力が籠る。そして、ソレは姿を現した。
「「鬼!!?」」
「そう! ソイツがジュエルシードの思念体!」
何百っていうゾンビを一瞬で消し飛ばした鬼。額にジュエルシードが埋まっているのが見える。あんな校舎よりも大きな鬼がさっきまで居たなんて全然気付かなかった。テスタメントちゃんは「さぁ、始めようか」そう言って、鬼がこっちに伸ばしてきた右腕を・・・
――汝の首に走るは義の処刑刃――
まるでギロチンのような巨大な魔力の刃で斬り落とした。血が出ないことが私にとって救いだったかも。切断面から出るのは魔力の霧だから気持ち悪くならずに済んだ。
「あたしだってやれるんだから!!」
――ブレイズロード――
アリサちゃんは両脚に炎を噴き上がらせて、鬼の腕を高速で伝って頭部へ。テスタメントちゃんに「援護!」そう指示を出された。この場合、どうすればいいか。真っ先に出たのは、「レイジングハート!」ディバインシューターによる援護射撃。標的は、アリサちゃんを拒むかのように現れた鬼火。意識を集中して、シューター5基を発射。アリサちゃんに近づく鬼火をシューターで迎撃していく。
「やるね、高町なのは!」
「ありがとう!」
その間にテスタメントちゃんはリングバインドを発動させて、鬼の動きを完全に止めた。私はアリサちゃんの護衛。テスタメントちゃんは鬼の身動き封じ。アリサちゃんが本命の一撃。あともう少しで鬼の頭部に辿り着けるというところで、鬼が雄叫びを上げて暴れ出した。砕かれるリングバインド。そして「アリサちゃん!」が腕から落っこちた。急いで助けないと。けどその心配は無かった。
――フローティングアイス――
アリサちゃんの真下に魔法陣が展開されて、その上に大きな氷塊が出現した。アリサちゃんは氷塊の上に着地。そして『月村すずか、これより参戦します!』って念話が届いた。続けて、「バルディッシュ!!」フェイトちゃんの元気な声が届いた。
――アークセイバー――
黄金に輝く雷の刃がブーメランみたいに鬼へ向かって行って、鬼の両目を斬り裂いた。痛みで叫ぶ鬼。すぐにアルフさんが「さっきのお返しだよ!」魔力弾を鬼の両足に向けて撃って、テスタメントちゃんもまた砲撃を撃つ。
体勢を崩して尻餅をつく鬼。テスタメントちゃんの「集中砲火!!」の指示で、私はディバインバスター、アリサちゃんはフレイムウィップ、フェイトちゃんは雷の砲撃、アルフさんは魔力弾、テスタメントちゃんは銀の砲撃を一斉に撃った。
「「「「「「いっっっけぇぇぇーーーーーーーッッ!!」」」」」」
次々に鬼の体に着弾していって、爆発によって生まれた煙で鬼の顔が隠れる。
「まだ終わってない。油断しないように!!」
テスタメントちゃんの忠告に、私たちはそれぞれ応えた。
◦―◦―◦―◦―◦
そこは金属質な通路で、コツコツと靴音を鳴らして歩くのは1組の少年少女。少年は全身黒づくめで、顔だちは幼いが、キリッとした表情から真面目であることが窺い知れる。
隣を歩く少女はそんな少年より少し背が低い。真っ直ぐ伸びるアクアブルーの髪は膝裏にまで届く長さがあり、アザレアピンクの瞳は爛々と輝いている。身に纏う服は白のブラウスに青のジャケット・赤いクロスタイ・青のタイトスカート・黒のブーツ。
「――で? これから行く管理外世界にロストロギア・ジュエルシードを回収しに行くのが新しい任務だっけ? クロノ」
「ああ。明日、次元世界標準時間0620・・・現地時間1720に転送可能圏内に入る。現地入りするのは僕たち2人だ。朝が早いからと言って寝坊するなよ、イリス」
少年の名はクロノ、少女の名はイリス。共に次元世界の秩序を守る時空管理局の一員だ。彼らが乗る艦、アースラが向かうは第97管理外世界。ジュエルシード争奪戦が繰り広げられている地球の在る世界。
「本局帰りのついでにやるにはデカい仕事だよね~」
「僕と君の2人でもどうにもならないようなら、手間がかかるが武装隊を借りよう」
「楽勝だぜっ♪くらいは言おうよ、男の子」
明日17時20分。高町なのは、ユーノ・スクライア。アリサ・バニングス、エオス・スクライア。月村すずか、セレネ・スクライア。フェイト・テスタロッサ、アルフ。そしてルシリオン達のジュエルシード争奪戦に、ついに管理局が介入する。
後書き
ドーブロ・ユトロ。ドバルダーン。ドーブロ・ヴェーチェ。
今話は学校の怪談をお送りしました。テレビアニメ版、劇場版4作(4はなんかイマイチ)を見直して、出すお化けを選択。
もう少し早くフェイトを参加させてもよかったのですが、彼女やアルフは怖がらないでしょうからやめました。
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