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ランメルモールのルチア

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第一幕その七


第一幕その七

「まさかそれは」
「彼は私を憎んでいる」
 それは実によくわかることだった。
「だからこそだ」
「ですがそれは」
「私もまた同じだ」
 その代々に渡る怨恨が彼にもあった。
「この胸の中にある。だからこそ」
「どうされたのですか?」
「聞いて欲しいのだ」
 切実な顔でルチアに言ってきた。
「私のあの裏切られた父の」
「お兄様が殺したあの方の」
「そう、父の墓の上で誓ったのだ」
 彼は言った。
「父が殺されたその時。怒りを込めて君の一族に対する永遠の誓いをだ¥」
「そうだったのですか」
「しかし君に会って私の心に別の感情が生まれた」
「それでは」
「怒りは収まったが誓いはまだ残っている」
「まさか」
「そう、そのまさかだ」
 こうルチアに返してさらに言った。
「私は誓いを果たすことができるのだ、今も」
「どうかそれは」
 ルチアはすぐにその彼を止めた。
「お忘れ下さい」
「忘れるというのか」
「せめて御気を鎮めて下さい」
 こう言って何とか彼を宥める。
「どうか。私もまた」
「君も?」
「苦しいのです」
「君もまたというのか」
「そうです」
 また切実な顔になっていた。
「その苦しみはまだ足りないと仰るのでしょうか」
「それは」
「どうかです」
 そしてさらに言うルチアだった。
「これ以上の苦しみで私を殺さないで下さい」
「ルチア・・・・・・」
「怒りや憎しみはお忘れになって」
 それが彼女の願いであった。
「どうか愛だけを」
「愛・・・・・・」
「そうです、愛をです」
 それだけだというのだ。
「貴方様のその胸に宿されて下さい」
「それが君の望みなのだな」
「そうです」
 これ以上はないまでにはっきりと答えてみせた。
「どうか私に」
「では誓おう」
 エドガルドも彼女のその言葉を受けて述べた。
「それではだ」
「それでは?」
「私達はここで永遠の絆を結ぶ」
 こう彼女に告げたのである。
「天に対して誓おう」
「神に対して」
「そう、ここに神がおられる」
 このことをルチアに対して言うのである。
「愛する心は聖堂であり祭壇でもあるから」
「ではここで」
「これを」
 指輪を出してきた。そしてそれをルチアの指にはめる。
 そして自分の指にも。そのうえでまた言うのであった。
「これを破ったならばその時は」
「はい、大地に倒れ死にます」
「そうだ、そうなってしまうのだ」
 まさにそうだというのである。スコットランドでは誓いを破ったならば天罰が下り大地に倒れそうして死ぬと言われていたのである。彼等はそれを知ってあえて言うのであった。
「それを破ったならば」
「わかっています」
「私達はこれで永遠の絆を結んだ」
 エドガルドは今それを己の中に見ていた。
「これを分かつもの、それは」
「それは」
「死だけだ」
 それだけだと。今言った。
「それ以外の何者でもない」
「では私達は例え離れていても」
「永遠だ。では」
「行かれるのですか?もう」
「時が迫っている」
 だからだというのである。
「私はこれで」
「では私は」
「どうするというのだ?」
「貴方がフランスに行かれるなら」
 そうならばというのだった。
「私はこの心をフランスに」
「送ってくれるのか」
「私の心はいつも貴方と共にあります」
 だからだというのである。
「ですから」
「わかった。それではだ」
「はい」
「私はいつも君のことを感じている」
 今にもルチアを抱き締めようとしていた。しかし今はそれをしなかった。
「フランスにあってもだ」
「御便りもどうか」
 ルチアはこのことも彼に告げた。
「そうして私の儚いこの運命にも希望を」
「わかっている。それもまた」
「御願いします」
「私のこの燃える溜息が」
 ルチアを見詰めての言葉である。
「そよ風に乗って君に届く」
「私に。それでは」
 ルチアもそれに応えて言うのだった。
「貴方は呟く海に私の嘆きが木霊するのを聞かれるでしょう」
「それをだというのか」
「そうです」
 まさにその通りだという。
「それを知って誓って下さい」
「わかっている。では今誓おう」
「はい、その誓いを御便りに入れて下されば」
「ではまた」
「御会いしましょう」
「神が結びつけてくれた幸せに誓って」
 こう言い合い今は別れた。二人は永遠の絆で結ばれた。しかしその二人の上にある空は暗鬱なものであった。そこには雷が無数の竜の如くうねり轟いていた。
 
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