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恋姫~如水伝~

作者:ツカ
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十四話


黄巾の乱が終わり、曹操の名は大きく上がった。そして、領土も増え如水ら文官の仕事も以前以上に多くなった。
まず、首謀者の張三姉妹だが曹操の監視下に置かれ、黄巾の残党を鎮める様に命じさせた。
何でも、乱の発端は歌の興行で大陸を歌で制覇すると言った事が、下の者達が勘違いしたらしい。今後は、曹操のお抱えの楽曲団としてほとぼりが冷めた後、活動するらしい。その事について如水は切っ掛けはどうであれ、漢王朝には既に民衆を統べる事が出来ないと理解した。
張三姉妹に至ってはしばらく、黄巾の残党を鎮めさせ、その後、曹操が主催する興行で歌を披露するらしい、おそらくそれもいずれ大きな財源となるだろう。
いずれにせよ、能や狂言を自分から主催した事も無く、茶道についてものめり込む事も無かった、芸術分野に疎い如水には、自分にあまり関わりの無い事だと思った。
そして、曹操は為政者として新たに増えた領土に良政を敷き民力の向上に、専念した。
手始めに曹操は、荒廃した都市や集落への支援や、新たに増えた領土の安定と発展の施政を行う様に如水ら文官に命じた。
文官として働く一方で、曹操の軍でも有力な将の一人の如水は、兵の鍛錬にも力を入れ、更に、自分に預けられた三人を将として指導していた。

その他、如水は華琳に頼み、以前は出来なかった、技術研究の予算を設けて貰う事を許され、特別に部屋を用意して貰い、研究に力を入れていた。
その事を聞き、興味を持った真桜はそれを見てみたいといい、如水もそれを許可した。

城内の外れの小屋

部屋に入ると見た事が無い物が多く並んでおり、真桜は如水に次々に質問した。
「なあ、先生。この竹の筒は何や?」
「これは火箭と言って、火薬を含めた竹筒に矢を入れて、火薬の爆発で矢を飛ばす武器だ」
「じゃあ、この、丸い鉄は何や」
「それは、鉄玉と名づけた物だ。鉄の中に大量の火薬を入れてある、衝撃で爆発するから、気をつけてくれ」
「じゃあ、こっちの壷は?」
「これは、私が製造した火薬が入っている、不純物が少なく爆発力が格段に高い。この火薬が製造できたから、これらの武器が完成した」
「さっきから言ってる火薬って何や、先生」
「ああ、火や、衝撃で爆発する粉の事だ」
「それが、この粉かいな」
「領内に硝石と硫黄が採れる場所がいくつかあるのでな、華琳と相談し、その土地は税の代わりにこれを収める様に命じた」
「それを混ぜたんがこの粉か、そう言えば、この前、皆に見せてくれてたな」
「あれは、花火と言って、どちらかと言えば見て楽しむものだが、この部屋の物とは少し違うな」
「物騒な物ばっかりなんやな、この部屋」
部屋を見渡した真桜は感心した
「ああ、だから、私と華琳しか鍵を持っていない部屋だ」
「先生って、絡繰だけやのうてこんな事も知ってたんやね」
「真桜の様に、作った事は無かったがな、知識だけは持っていた。それに、今までは予算の都合で出来なかったが、ようやく予算が許された」
「なあなあ、これって、量産するんか?」
「ああ、いずれはな、だが、火薬は製造法を秘匿しなければいけないから今の所難しいか、火箭や鉄玉は作り方を教えれば、城内の鍛冶職人でも作れるだろう。だか戦場で使うなら、それなりの数を揃えないといけないから、時間が掛かるだろうな」
そこに、華琳が入って来た。
「調子はどう、如水。あら、真桜も居たの?」
「あ、華琳様。先生に頼んで見学させてもろてます」
「許可を得ているならいいわ。如水、上手くいってる」
「いいところに来てくれた、華琳、この武器を城内の鍛冶職人達に作るよう依頼できるだろうか」
「作れると思うけど、まだ試作段階でしょ、その武器。もう少し安全が確保できる様にしなさい」
「そうだな、火箭はともかく、鉄玉は輸送で誤爆する可能性もあるしな、そこのあたり何か考えて見るか」
「火箭の方も、実戦なら、少なくとも五百、理想を言えば二千や三千以上は揃えないと意味が無いわ、今はそれだけの予算が割けないからしばらく待って頂戴」
「そうだな、確かに、予算の事もあったな」
二人の話を大人しく聞いていた真桜だったが、華琳に願い出た。
「華琳様、うちに、先生の研究の手伝いさせて貰ってええやろか?」
「いいわよ。如水もいいでしょ」
「真桜なら私と違った発想を期待できだろう、私も異存は無い」
「それなら良いわ、真桜、この部屋に入るときは、如水に必ず許可を取りなさい、それが条件よ、わかった」
「はい、わかりました」

そして、以前同様、如水は大陸各地に諜者を撒き、情報を集めていた。
その中で興味を持ったのは劉備と朝廷の動きである。
劉備は乱が終わると朝廷から平原に小さな領地と城を貰っていた。曹操と劉備は以前、陣中で会っただけの縁だが、史実では曹操の覇道の最大の敵だった。今後の為にも注意して問題は無いだろうと如水は思ってだった。
しかし、集めた情報を調べると如水は疑問を持った。劉備の領地は作物の物成りも良くなく、目立った産業も無い様であり、更に、前任の領主が圧政を敷いた為、民力が落ち、食糧、資金が思うように集めらない様だった。更に、連れて来た義勇軍を解散させずにいる為、資金、食糧不足は慢性的に続き、市中の警備が上手く回らず、夜には治安が良くない事、そして日々の糧にも困り、以前、曹操が渡した食料を使っているとの情報も入っていた。
「この情報筋は信頼できる者達だが、どうも信じられないな。諸葛亮と言えば劉備を助け蜀の建国の功臣だったはず、それがこんな施政を行うのか、甚だ疑問だ、それとも、こちらの動きを知り、偽の情報を流しているのか」
しかし、向こうが防諜に使う予算があるかと言われれば、無いとしか考えられない。となれば、この情報は真実味を帯びていると言う事になる。一方で、劉備らのその施政に対し、街の父老らは好意的であると言う事が確かだとわかった、その方面から見れば真実に近い。だが、如水はそれはおそらく前任の者が、重税を課していた事が大方の理由だとうと推測した。その事はとるに足らない理由だとしても、現在、地下の者から慕われている為政者はこの大陸では少ないその事を考えると今後、脅威となるかもしれない。
現時点では劉備の判断に困る為、如水は一定の観察を続ける事にした。

そしてもう一つ興味のあるのは朝廷の動きだった。

黄巾の乱の終わった後、官軍の将軍、何進と宦官達との対立が激化していった。特に、何進は今回の遠征で、曹操に功を独占された為、何進の実力を疑う声が出ており、異母妹の皇后もその言葉を聞き、その為、擁護出来ず、朝廷内での求心力が下がり、孤立しているらしい。しかし、以前、何進が禁軍の大将であり、宦官も表立って動けないらしく、何進の周りの者を仲間にしていき何進の勢力を崩している様だった。

その報せを知った如水は、朝廷はしばらく内部抗争に明け暮れ、おそらく大きく動かないだろうと思った。そして、いずれ、窮したどちらかの勢力側が有力な外部の諸侯を頼り、上洛させ、それを裏で操る。その時に再び世は荒れるだろうと思った。

その事について、一つの疑問を持ち、一度如水は華琳に直接尋ねてみた。
「私が上洛するのかですって、馬鹿を言わないでよ。何で、私がそんな面倒な事引き受けるのよ。確かに私の祖父は何代か前に大長秋だったわ、当然、世間から見て私は宦官派よ、それに、今回の行賞は宦官連中が私に優位に運んでくれたわ。宦官が私を利用しようとする事は不思議では無いわ、でも、そんな面倒な事より、如何考えても、今は地盤固めが優先よ、今、言われたとおり上洛すれば、間違いなく、私に敵対する連中が増えるわ、後々潰すにしても、わざわざ好んで汚名を着る必要なんか無いわよ」
そう言って華琳は如水の疑問を否定した。如水としても同意見だった為、異論はなかった。

如水としては、それまでにまず第一に、曹操の領内の富国強兵を図り地盤を整える事を目的とし、第二に凪、真桜、沙和の三人を将として育てる事。そして、最後に開発した兵器をいずれ実戦で投入できる様にする事を目的とした。

 
 

 
後書き
火薬の発明は正式には七世紀から、八世紀なのですが黒田孝高は十五世紀末期の人間なので知っています。また、中国は昔、火薬資源が豊富でした。作中で創ったのは黒色火薬ですが、如水の知識で爆発力を格段に上げています。
鉄玉とつけた物は「てつはう」とよばれた武器を私が勝手に変えました。
火箭を含め戦場で使用するのは袁紹との戦いあたりからです。 
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