ランメルモールのルチア
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第三幕その一
第三幕その一
第三幕 昇天の翼
塔の中にある大広間には何の装飾もない。ただ一つ弱い光を放つ蝋燭がテーブルの上にありその叔母に古ぼけた肘掛け椅子がある。そして扉構えに。窓が一つだけある。エドガルドはその肘掛け椅子に座っている。
彼に従う兵士達も部屋の中にはいない。彼は窓の外を眺めていた。
「恐ろしい夜だ」
そしてこう呟いた。
「雷が鳴り天が荒れ狂う。私の運命を見ているようだ」
こんな言葉も出て来た。
「自然の秩序が覆り全てが破滅してしまえばいい」
出て来る言葉はこんなものだった。
「何もかもが」
こう言っているとだった。不意に気配を感じた。そうして椅子から立ち上がると部屋にエンリーコが入って来たのであった。
「エンリーコだと!?」
「そうだ、わしだ」
紛れもなく彼だった。蝋燭の弱い光の中に二人の青と赤のそれぞれの服が映し出されそのうえで強く睨み合いはじめていた。
「何という大胆不敵だ」
「わしが来て悪いというのか?」
「まさか私の前に今出て来るとはだ」
「貴様に不幸をもたらす為にだ」
来たというのである。
「その為に来た」
「私に不幸をというのだ」
「よくも宴の場を乱してくれたな」
そのことに激しい怒りを見せているのである。
「その借りを返させてもらいに来た」
「よくそんなことが言えるな」
そしてエドガルドもまた怒りに満ちた声で返すのだった。
「ここで何があったかわかっているな」
「わしが貴様の父を殺した場所だな」
「そうだ」
ここでエドガルドの声がさらに強いものになった。
「その通りだ、私の父はここで貴様に殺された」
「貴様も殺すつもりだ」
「父の霊はここに留まっている」
少なくとも彼はそう感じているのだった。
「そして貴様を殺せ、復讐を遂げろと言っているのだ」
「ではわしを斬るというのだな」
「その通りだ。墓場に入るのは貴様だ」
「ふん、そう言うのだな」
「何度でも言おう」
怨敵を前にしてさらに言葉が動いていた。
「貴様は私は斬る。一族の仇としてだ」
「その貴様に面白いことを教えてやろう」
エンリーコの顔に残忍な笑みが浮かんだ。その笑みで彼に告げてきたのだ。
「一つな」
「それは何だというのだ?」
「ルチアだ」
彼女のことを話に出してきたのである。
「あの娘は今どうなっていると思う」
「知るものか」
あえて素っ気無く返すエドガルドだった。しかしエンリーコはその彼に対してさらに言うのだった。宿敵に対する残忍な喜びと共にだ。
「今花嫁の床にいる」
「何だとっ!?」
「それを伝えておこう」
こう言うのであった。
「それだけだ」
「おのれ、それは」
「聞くのだ」
エンリーコは心を痛めるエドガルドにさらに告げてきた。
「わしの館は今幸福と賛美の中にある」
「そして貴様の一族もか」
「そうだ。しかしだ」
さらにエドガルドを見据えての言葉である。
「わしの心の中は違う」
「では何だというのだ」
「幸福も賛美もない」
その二つがないというのだ。他の一族の者と違い。
「あるのは復讐だけだ」
「それは私の言葉だ」
「わしの祖父は貴様の父に殺された」
「その私の父は貴様にだ」
「一族の多くの者が貴様の一族に殺されてきた」
憎しみの念を露わにさせる。それはどうしようもないまでに高まってきていた。
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