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IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐ 

作者:やつき
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第一章 『学園』 ‐欠片‐
  第19話 『正体不明 < Unknown >』 中編

――『彼』と『それ』は映し鏡。 真の意味での映し鏡。

――『彼』がHeだとすれば 『それ』はNobody、だれでもない 

『同じ二人が 今出会う 出会い交差し、動き出す』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「さて、と――」

そう呟くと俺は己の正面に存在するそいつ、<Unknown>を睨みつける。 こいつには、色々落とし前をつけて貰わなければならない。
アリアを撃墜した事、オルコットさんに怪我を負わせた事、二人を殺そうとしたこと――そして何よりも、2人の真剣勝負を邪魔した事。

俺自身のそんな怒りや憤りに呼応してか、『テンペスト』の反応は普段よりどこか荒々しく感じた。こいつも、怒ってるんだろうか――そして目の前の自身に似た奴を、許せないんだろうか。
じゃあさ、こいつを全力でぶっ倒そう、落とし前だけはつけさせて、コイツが何者なのか吐いて貰おう――だから、行くぞテンペスト。俺とお前なら、やれる。そして負けるわけにはいかないんだ。そう俺が思うと、背中の非固定浮遊部位の<ハイペリオン>が光の翼として展開される――まるで、俺とコイツの気持ちを表してるみたいに。

「答えないとは思うが一応聞く、お前―― 一体何者だ?」

形式上、一応聞いておこうかと思った。だけどきっと、お約束とでも言うのか、コイツは答えないと思っていた。だけど――

「……みつけた」
「は……?」

返答があったのだ、だがそれは――俺の問に対するものではなくて、言うならばまるで独り言みたいな言葉だった。
そしてその声は『女』だった。まあISを使用している以上、俺や一夏という例外を除いて全て女性だから当たり前か――だったらコイツは何だ?ずっと思っていたが、何故IS学園を襲撃した?何故この場所を狙った?

<Unknown>はフルフェイスの竜を模した仮面をつけているため素顔はわからなかったが、今の声で相手が『女』という恐らく当たり前であろう情報だけはわかった。
分かった事もあったが、幾つもの疑念を俺は持った。そんな己の中での情報を整理しながら俺と<Unknown>は対峙したまま動かない、まるでにらみ合っているように。しかし暫くして行動を起こしたのは<Unknown>だった。

「―い―――――ん」

何かを呟く<Unknown>、だが俺にはその言葉は上手く聞き取れなかった。何だ、何を言ったんだコイツは――
俺は<Unknown>を睨みつけながら、<インフェルノ>をコール、それを右手で持つと<Unknown>に対して銃口を向けた。
引き金を引くのにも、こいつを撃つのにも躊躇いはなかった。ISを兵器としてだけ見るのはしたくない俺だったが、大事な奴等を傷つけられて『はいそうですか』などと対応できるほど俺は冷血ではない。

「何を言ってるのかはわからないが――これ以上好き勝手にさせるわけにはいかない、それに俺の『相棒』と同じ姿をしてるお前には聞きたい事もあるし、それに『相棒』の姿をしてそれだけ暴れられて、友人を傷つけられて今の俺結構キレてるんだ――だから、墜とさせて貰うぞ」

俺がそう言うと、それまで特に何もせずにこちを見ていた<Unknown>は左手に<インフェルノ>に酷似した武装をコールする。先程オルコットさんとアリアに対して撃っていた奴だ。

「目的対象補足――対象の戦闘意思を確認、プランに従い対応βを実行――目的対象に対しての介入行動を開始……オールウエポン、クリアー――」

よく俺にはわからない言葉を俺に対して放つ<Unknown>
だが、恐らく仕掛けてくる、とは思った。だからこそ俺は<インフェルノ>を構えたまま身構えた。

「対象を同一体と認識、捕獲を最先目的に設定――戦闘行動を開始します」

『相棒』と同じエネルギーウイング、真紅の6枚翼を展開すると<Unknown>は俺から距離を取り、バスターライフルをこちらに向ける――そしてトリガーを引くと、俺に対して赤い閃光、収束砲が放たれた。
それと同時に、俺も<インフェルノ>のトリガーを引き赤い閃光、収束砲を発射――俺の放った収束砲、<Unknown>が放った収束砲、同じ赤の閃光が衝突して、大きな爆発を生んだ。
爆風で視界が塞がれる、だけど俺が予測する限りでは相手はこの爆風での目くらましを利用して何か仕掛けてくる――そしてアイツが『相棒』と同じで、俺が相手の立場で考えるとして、最も有効な方法は――

瞬間的に<インフェルノ>をクローズすると、可変機殻剣<フェイルノート>をバスターモードでコールすると、俺は迷わず何も見えない、ハイパーセンサーを通しても何も見えない正面に対してそれを横薙ぎに一閃した。

次の瞬間、ガキィィン!という鉄と鉄がぶつかり合うような音が発生する――同時にそれまで発生していた爆風の余波が消え去り、一気に周囲の状況がクアリーになる。その状況の中で、爆風が晴れた中で俺と<Unknown>は鍔迫り合いの状態となっていた。

もしも俺が相手の状況なら俺もそうするだろう。爆風という目くらましで恐らく相手は迂闊には動けない、だとしたら爆風と状況を利用して相手に効果的にダメージを与える事のできる近接戦闘に持ち込む。だからこそ、相手が俺と同じならそうするであろうというのはわかっていた。

「残念だったなッ……お前と『相棒』は同じだとしたら、お前がやりたいことは大体わかんだよ!」
「……パターンを修正、目標に対する脅威をレベルAへと変更――殲滅開始」

だが、相手の攻撃を読みきったとしても問題がある――それは根本的な出力差だ。あの時、<Unknown>がアリーナのシールドバリアーを破って突入してきた時の事と、そして考えたくはないがコイツが『相棒』と同じだとしたら――恐らくコイツにはリミッターは掛かってない。
つまり、目の前のコイツは完全な状態の第3.5世代軍用IS"Tempest_Dragoon"そのものだ。そして、同じ存在だとするならリミッターを掛けて3世代まで性能を落としているこちらが分が悪すぎる。

それを証明するかのように、俺が持つ<フェイルノート>と<Unknown>が持つ巨大な機殻剣の鍔迫り合いは、俺が押され、劣勢になっていた。根本的な性能差があるとしたら――後は使ってる本人の技量でなんとかするしかない、そうじゃないければ俺は確実にここで負ける。俺はそう判断した。
鍔迫り合いの膠着状態から俺は<ハイペリオン>とメインブースターを起動させて後方へと飛ぶ、後方へと飛びながら、両手腕部に装備されているビームブーメラン<シュトルム・ハーケン>を相手に放つ――俺を追ってきた<Unknown>はそれを確認すると、<Unknown>自身も<シュトルム・ハーケン>に似た武装を放ち、俺のそれを相殺する。
気がつけば、必死になっていて気がつかなかったが既に戦闘開始から25分が経過していた――

だがこれで、相手の足は止まった――そう思うと俺は<フェイルノート>をクローズして今度は<インフェルノ>を両手にコール、すると<Unknown>は同じというだけあってか、いきなりこちらへ接近しようと真紅の6枚翼を展開すると、こちらへの接近を試みてきた。

「――お返しだ、遠慮なく受け取れよ」
「……!?」

<Unknown>の上空で俺は両手の<インフェルノ>の銃口を向けると同時に、<ハイペリオン>を展開――そしてあいつがやったように、俺もエネルギーウイングから6発の多重圧縮エネルギー弾を相手に放つと同時に<インフェルノ>をトリガー。赤い2本の閃光と6発の尋常ではない速度で<Unknown>に飛翔するエネルギー弾を放った。

<Unknown>は、それに対応できずに俺の攻撃全ての直撃を受けて、再び爆風が生まれる――俺が確認した限りでは間違いなく全て直撃しているはずだ。全兵装の威力を大幅に落としているとはいえ、あれだけの攻撃を直撃として当てたのだ、多少なりのダメージは入っている筈だ。
だが……俺の認識は――甘かった。爆風が再び晴れた先には、ダメージは見受けられるものの、ほぼ問題なく活動できる状態の<Unknown>の姿があったのだ。そして――そこから先は、一方的に近かった。
爆風が晴れて、そしてこちらを見た<Unknown>は左手に先程と同じ機殻剣を左腕にコールすると、それを構えて――

「――貰いました」
「……なっ」

構えた瞬間までは見えた、だけど――次の瞬間には<Unknown>は俺の真後ろに居て、その巨大な機殻剣を振り上げていた。今、何が起こった――?確かに<Unknown>は俺の少し先、前方下方向で俺からの砲撃の直撃を受けた後、『その場で機殻剣を構えた』筈だったのだ。
俺は、後ろで<Unknown>が振り下ろしたその一撃に対応することがてきずに――何が起こったか理解する事すらできずに、背後からその一撃を受けた。

「あ……ぐぁッ……!」

すぐさま体勢を立て直す、何だ、今のは―― だがそんな事を考えている余裕などなくて、俺は急いで<Unknown>の姿を捕らえようとするが、先程自分を切りつけた位置に――<Unknown>の姿はなかった。

「どこにッ――」
「……遅いです」

どこに行った、そう言おうといた瞬間、その言葉は最後まで続かず背後から<Unknown>の声が聞こえた――背後、そう思った瞬間対応を取ろうとして自身の後ろに対して左手にコールした<インフェルノ>を撃とうとしたが……銃口を向けた瞬間、<Unknown>は俺が向けた<インフェルノ>の砲身を掴みにして、そのまま<インフェルノ>破壊すると、俺に対して巨大な機殻剣を振り上げて――そしてそれに対応する術なく俺はまた<Unknown>の斬撃の直撃を貰った。

上空から切りつけられた事で上空から一気に落下して行き、俺はアリーナの地面に叩きつけられる事になる。叩きつけられて、その衝撃とダメージで息が一瞬続かなくなった事で意識が飛びそうになるが、なんとか耐える――それに、どうやら『相棒』が衝撃を軽減してくれたようだ。そのお陰もあって俺はすぐに体制を立て直せた。

体勢を立て直して再び上空へと飛ぶと即座に残った右手の<インフェルノ>をトリガー、<Unknown>に対して放つが――<Unknown>はそれを『機殻剣を一閃しただけ』で弾き飛ばした。俺は内心で焦るが、もう一度<ハイペリオン>から6発の追尾エネルギー弾を放つ――そして、<Unknown>は自身に迫るそのエネルギー弾を見ても微動だにしなかった。

直撃した――そう思った瞬間に、再び<Unknown>が『消えた』。どこに行った――先程と同じくそう思った次の瞬間には、自身の目の前に<Unknown>が現れて、俺がそれに反応する時間も与えられずに――自分の首を鷲掴みにされた。
何だ――先程からまるで<Unknown>が瞬間移動でもしているのかのような感覚に陥る。遠くに居たと思ったらいつの間にか背後に居て、そして直撃を獲ったと思ったらまた己の目の前に居る――なんだよ、これは……!

そして、なんだこの差は――まるで、まるで最初とオルコットさんに攻撃をしていた時は手加減でもしていたと言うのか!? 今の奴、<Unknown>の動きは違いすぎる――まるで何かが引き金になって、一気に動きが変わったみたいに……

「かはっ……」
「……終わりです」

首を鷲掴みにされて、身動きが取れない状態で俺が見たのは――目の前で背中の<ハイペリオン>に似た6枚翼を広げ、超至近距離でエネルギー弾を放とうとしている姿だった――不味い、不味い不味い、この距離であれの直撃を受ければ――間違いなく俺が撃墜される。

首が掴まれて息が苦しい中、なんとか正面の<Unknown>の拘束から抜けようとするが――それは、出来なかった。そして、真紅の翼から俺に対しての無慈悲な宣告――それが下された。
無慈悲にも放たれたエネルギー弾は、全弾俺に直撃した。そしてそのダメージにより一気にシールドエネルギーがレッドゾーンへと突入する、直撃を受けた俺はなんとか意識を保ち、戦闘を継続しようとするが――目の前の<Unknown>は掴んだままの俺を上空に投げると――機殻剣で上段から切りつけた。

再び墜ちていく俺、かろうじで確認できたのは――『相棒』がまた俺を守ってくれたという事。本来直接俺へと来る筈だったダメージは、全てコイツが肩代わりしてくれたらしい、そしてそれに感謝すると同時に――今こうして墜ちていく自分は何も出来なくて、<Unknown>に対して手も足も出なかった自分に腹が立って。 『相棒』の主として、自分の不甲斐なさと情けなさで余計に自分に対して腹が立って、コイツに申し訳なくて――

必ず戻ると約束したのに、『相棒』と同じ姿のアイツをぶっ飛ばしてやろうと思ったのに、アリアとオルコットさんを傷つけたアイツを倒したいと思ったのに――結局は、俺ではどうすることもできなくて。
恐らくこのまま地面に叩きつけられれば、仮にまた『相棒』が俺なんかの身を案じて肩代わりしてくれたとしても、<Unknown>からの追撃が来るだろう――そして既にシールドエネルギーが尽きかけている俺にはそれを防ぐ事もできない。

カッコ悪ぃ…… そう思うと同時に、一夏や篠ノ之さん、アリアにオルコットさん――織斑先生に、フランスに残してきたシャルロットに、『仏蘭西国企業連』の人達の事を思い浮かべる。
負けたくない、俺はまだ何も成してもいないのに、始まったばかりなのに――成したい事や探したい事があるのに、こんな所で負けたくない、そう朦朧とする意識の中で思った。

クソ、なんだよこれ――そしてあの<Unknown>、あれは一体何なんだよ……!

そうして落下していく俺の前に――『相棒』からウインドウメッセージが表示される。意識が朦朧としていて、俺にはその表示をちゃんと見ることは出来なかったが、意識を失う前に、機械的なマシンボイスが僅かにだけ聴こえた。


『搭乗者の生命危機を感知、緊急度Sと断定――緊急時に伴い管理者権限で一部兵装を限定解除、――『A―R―■■―E―■■ System 』起動します』

俺が最後に聞いたのは、そんな途切れ途切れのよくわからないマシンボイスと、アリーナの上空から自分の元に降下してくる<Unknown>の姿だった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「何だ、あれは……」

時間は少し遡る。私、織斑千冬は柄にもなく驚いていた。何に対してか? それは、今アリーナの中で戦闘を行っている襲撃者、<Unknown>と――私の教え子である『月代 悠』に対してだ。
私の弟、一夏とオルコットに対して『行け』、と笑顔で言うと月代はアリーナ上空に存在している<Unknown>の元へと飛び立ち、対峙した。だが、私を驚かせたのは月代の機体だ。

山田先生が操作している管制室のモニター、そこに映し出されているのは――『灰銀』と『真紅』。そして、ほぼ同じ姿をしている教え子と<Unknown>だった。
そして私は察する。どうして月代があの救出作戦を提案したのか、月代は『軍属』として生きた経験のある奴なのだ――しかも軍属として、また自身の恩師でもある大佐の教え子でもある。とすれば作戦を提案したからには何かしらの案がある筈だったのだろう。
管制室へと駆け込み、月代が提案したのは『自分も出る』という作戦内容。私は今、何故自分も出ると言い出したのか理解した。あの<Unknown>と月代の機体はあまりにも似ている、同じといっても過言ではないほどに。

奴と奴の専用機についてわかっている事は殆どない。私でも知っているのは、『仏蘭西国企業連』の企業所属者であり『偶然』ISを動かしたフランス空軍兵。たったそれだけなのだ。だが……実際のところは本当に謎が多すぎる。

何故今まで公にならなかったのか。確かに『仏蘭西国企業連』、正確には『ネクスト・インダストリー社』や『デュノア社』が全力で隠蔽していたとしたら、今まで発覚する事は無かったのだろう。しかし、ならどうした隠蔽したままにしておかなかった?最初から公表しなかった?
それから束、お前は――お前はこの事について何かを知っているのか?ISの生みの親であり、全ての大本となってしまったお前は、今写っているこの2機について何か知っているのか?
とにかく『仏蘭西国企業連』という存在も恩師である大佐も……謎が多すぎるのだ。だが今は、そんな疑問について考えている場合ではない。

モニターの中で対峙し、何やら会話をすると月代は<Unknown>がオルコットに対して放っていたライフルと同じ武装を展開して<Unknown>に対して向ける。
そして銃口を向けられた<Unknown>は口を開き、言葉を放った――それが合図となり、月代と<Unknown>は戦闘を開始した

「山田先生、今の映像は記録しているか!?」
「それが……織斑先生、これを――」
「なっ……何だ、これは――」

本日何度目になるのか、私はまた驚くことになる。山田先生がアリーナ内部の戦闘映像が映し出されているモニターの横にアリーナのシステムステータスの画面を出すと、そこに表示されていたのは……アリーナのカメラ、それが全てハッキングされているという状態だった。
先程からアリーナ外部の教員と精鋭の生徒で学園のデータベースへのハッキングに対しての処置を行っており、ある程度対応はできたらしい――だが、このアリーナに対する干渉だけは異常だ。『IS学園』の教員と精鋭の生徒、その全員の技術力を駆使してもアリーナに対するハッキングだけは対応できなかった。

そしてハッキングされているにも関わらず、アリーナで行われている状況は――この管制室にだけ映像として流されていた。まるで、まるで見せ付けるみたいに。アリーナの出入り口は一度ロックが外れたと思ったら生徒が全員退避した瞬間、再びロックされ、今アリーナの中に居るのは――私と山田先生、一夏と篠ノ之、そしてローレンスと、今アリーナで戦闘をしている月代だけだ――本当に何なのだこの状況は、全てあの<Unknown>が書いたシナリオとでも言うのだろうか。

何も出来ない、世界最強『ブリュンヒルデ』と言われたくせに、今私は生徒に対して何もしてやることはできない――そんな歯がゆさと悔しさに私は、思わずアリーナの壁を叩き付けた。
ドゴン!という音と共に壁を殴ると、それに驚いた山田先生がこちらを見ていた、同時に私は『しまった』と思うがもう遅い、そして山田先生にも、悪い事をしてしまった。

「織斑先生――」
「……すまない、山田君――私は」
「わかってます、先生も何もできないのが嫌なんですよね?――私だってそうです、今ああやって月代君が自分の命を張って戦っているのに、私は何も出来ません。 こうして管制室の制御をしながら現状に対処する事しかできません、私だって――私だって何かしたいですよ」

山田先生の声は、普段のどこか抜けたような、慌てた時のような声ではなく、私が知る『元代表候補生』としての声で、その声は真剣で、強い意志が篭っていた。
そうだな、私らしくも無い――山田先生も、そして恐らく今治療を受けているローレンスやオルコット、そして自分の友人が命を掛けて戦ってるのを見ている事しか出来ない一夏はもっと辛いのだろう。

そんな事を考えていると、気がつけば既に月代がアリーナでの戦闘を開始してから約30分が経過していた――そして、それまで月代が互角か、優位に進めていた状況は一気に変わった。
流れが変わったのは、『月代が放ったあの2丁の収束ライフルと背中のエネルギーウイングから放たれた6発のエネルギー弾が<Unknown>に対して直撃した』瞬間からだった。

私は目を疑った、<Unknown>は――巨大な機殻剣を構えたと思うと『月代の後ろに瞬間移動』したのだ。
<Unknown>がスラスターを吹かせた素振りはなかった、あったのか武器を構えたというだけ、モニター越しにしかわからないが、少なくともモニターの中の<Unknown>は瞬間移動した、私にはそう見えた。

「お、織斑先生――今のって」
「……ああ、多分山田君と同じ事を考えているよ。 奴は今、モーションを一切見せずに月代の背後に瞬間移動した――」

そして画面の中では、それに対応できず背後からその巨大な機殻剣の一撃を受けて空中から叩き落されるが、すぐに姿勢を制御、いい判断だと思うし行動も早い、これならば即座に反撃を――

「なッ……」

月代は『反撃が出来なかった』のだ。空中で姿勢を制御した瞬間、<Unknown>は再び瞬間移動して月代の背後へと移動していた。そして、それに反応して月代が反撃しようとしたが、それをさせて貰えずに再び斬撃の直撃を受ける。

そのまま今度は姿勢を制御できずに地面に叩きつけられるが、起き上がり反撃を開始――だが、その攻撃全てをまるでお遊びだというように<Unknown>は弾き飛ばす、そして――また<Unknown>が消えた。
消えたと思ったら、今度は月代の正面に現れた<Unknown>は、そのまま首を鷲掴みにして――

「不味いぞ……!」

まずい、私自身がそう思った次の瞬間には<Unknown>の真紅の翼から6発の高エネルギー弾がゼロ距離で放たれて、月代に直撃した。そのまま<Unknown>は動かなくなった月代を上空へと投げて――そのまま切りつけて叩き落した。

「山田君ッ!あいつの、月代の機体のシールドエネルギーはどうなっている!」
「は、はいっ……――織斑先生……月代君のあの機体のシールドエネルギー残量はもうほぼエンプティーギリギリです、恐らく――次の攻撃は確実に絶対防御を貫通して、月代君を……殺します」

なんてことだ、そう思うと私は焦る――そうだ、あの<Unknown>の脅威はわかっていたはずなのに、私が作戦を許可したばかりにこうなった。

オルコットとローレンス、そして一夏は助かったが、このままでは月代が助かる確率は限りなくゼロに近く絶望的だ。私にも、私にもせめて生徒を守れるだけの力があれば――みすみす生徒を目の前でやられるのか、私には……何も出来んのか!

ギリッ、と歯軋りをするがそんなことをしても現実は変わらない――これは私の判断ミスだ、そう思い目を伏せると……それは起きた

「せ、先生――月代君が、月代君が立ち上がりました!」

モニターに再び目を戻すと、そこには――満身創痍ながら、ダウンした月代に対して放たれた<Unknown>の攻撃を防ぐ月代の姿があって――開かれる緑色だった翼は、『灰色』へと変わっていた。

「なんだ、何なんだ――あれは」

そして、そこからは――その直後の映像からは、今度は月代が一方的な展開となったのだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アリーナの空に舞う<Unknown>は己の勝利を確信した。恐らく、あの機体はもうほぼ動けないと判断すると、最後の一撃を叩き込むために行動を継続しようとした時に――それは起こった。
己の機体から発せられる警告音、それは対象の再起動を告げる警告だった。しかし、<Unknown>は目の前に居る目標では己には勝てないと思っていた。

なぜならば、いくら『同じ』でもそもそもの規格が違いすぎるのだ。<Unknown>は思考する、己と同じはずなのになぜあそこまで機能が低下しているのかと――だが、『マシン』にそんな感情は不要だと判断した。

背中に真紅の6枚翼を展開すると、己の出せる最大の速度で落下していく対象に対して機殻剣を叩き込もうとする―――しかし

「……立ち上がりますか」

まるで感情の篭っていない、冷たい声でそう<Unknown>は言い放った。<Unknown>が放った一撃はガキィィイン!という音を立てて防がれたのだ。

状況を<Unknown>は確認する、確実に落としたと思っていた目標が右腕に自身の持つ武装に似た剣を握っており、それで最後の一撃を防がれたのだ。

何故、と<Unknown>は思考する――手加減をしたつもりはないし、あれだけの攻撃を叩き込んだのだ、もう立ち上がれないと己の中で判断されたはずなのに、何故だと。理解不能のパターンが発生し、<Unknown>は困惑する。

「対象の再起動を確認……プランに従い、再度戦闘行動を開始――引き続き対象の捕獲を最優先――ッ!?」

<Unknown>の言葉は最後まで続かなかった。何故ならば、目の前の目標、自身と同じ目標が『自身の後ろに瞬間移動』したからだ。そんなものはパターンにもデータにもない、<Unknown>はそう判断すると同時に、理解不能だと判断した。

「……機体の保護を最優先に防御実行」

背後に現れたその目標が振り上げた機殻剣――それを防御を優先で行動を開始する。そして己もまた目標の背後に瞬間移動する

「……貰います」

完全に背後を取った状態、その状態で<Unknown>は己の巨大な機殻剣を振り下ろそうとした、だがしかし――それは叶わなかった。

「かはっ……機体の保護を優先、対象のパターン変更を確認――」

<Unknown>が剣を振り上げた瞬間、その目標は振り上げていた腕を掴むと、そのまま<Unknown>の首を鷲掴みにした。
先程と同じ構図、今度はそれが逆になっている――己の蓄積データから、次の行動は予測できた。

「回避、実行――!」

目標の腕をなんとか振りほどこうとして回避を実行しようとするが、それはできなかった――先程の目標よりも遥かに強い力で、<Unknown>は己の首を掴まれていたからだ。

<Unknown>の正面で、『灰色』に変化したエネルギーウイングが開かれる、そして――今度は<Unknown>がゼロ距離でその圧倒的な暴力の塊、6発の砲撃の直撃を受ける事となった。

直撃を受けた瞬間、その衝撃を利用して対象との距離を取る――ダメージを確認、最初に受けたあのダメージと今受けたダメージを合計して、あまりよくない状態となっているのに<Unknown>は気がつく。そして、今受けた攻撃が――先程の攻撃よりも段違いに威力が高くなっているという事だ。

理解不能、<Unknown>は再びそう思った。先程まで自分自身に一方的にに嬲られるだけだった目標は、撃墜を<Unknown>が確信した瞬間、突如として再起動してこちらに牙を向いた。
しかも、先程までの動きがまるで遊びであったかのように、先程とは比べ物にならないように、<Unknown>自身と同等かそれ以上の機動力で襲ってくるのだ。

<Unknown>は己の中の目標に対するデータを変更、作戦目標であり今戦闘を行っている目標に対しての評価を改める。
目標に対しての評価と脅威を改めると<Unknown>は己の視野に見えている目標に対して武器を構える。

が、それ以上の反撃を<Unknown>は許してもらえないこととなる。反撃を行うとした瞬間、また目標が消えたのだ。

即座にやはり己の持つそれと同じものであると<Unknown>は推測すると、恐らく接近してくるであろう目標に対して備える――そして、次の瞬間目標は現れた、<Unknown>の正面上空に。
だが、<Unknown>は驚愕する――『灰色』の6枚翼を展開し、己の上空から攻撃を仕掛けてきたその目標が両手で構えていたのは、先程までとは違い、己の持つ巨大な機殻剣と全く同じだったからだ。
確かに<Unknown>とその目標は同じ存在だ、しかし<Unknown>は疑問する。『あの武器は己自身にしか組み込まれていないはず』だと。

上空からの攻撃を回避、ならばこちらも目標の後ろに回りこみ、追撃を掛ける、それが最も有効だと<Unknown>は判断する。
そして、左手に持つライフルと両手腕部のビームブーメランを相手に牽制として放った後、<Unknown>は再び目標の背後に回り込もうとしたが――またしても、それはできなかった。

「かはっ……」

<Unknown>が行動するより先に、目標が死角へと現れまた首を掴まれる。まるで、『まるでこちらの思考を読んで圧倒的な反応速度で行動されている』 ように、完全に今まで遊ばれていたかのように、既に<Unknown>の攻撃は一度も通らなかった。
そして――目標は<Unknown>の首を左手で掴む。 完全に逃げられない状態を作り出されて、己の真正面で開かれる灰色の6枚翼を見ると同時に、<Unknown>は見てしまった

その、目標の――魂が篭っていないような、虚ろともいえる『蒼色』の瞳を。

再びゼロ距離で叩き込まれる高エネルギー弾という圧倒的な暴力、<Unknown>は例外的な事態の連続発生に、急激に変化した目標、そして現在の状況から次に取る行動を判断する。
そして判断したのは、『撤退』という選択だった。このまま己と目標が戦闘を続ければどうなるかがわからない。いきなり豹変したあの目標を相手にした場合、戦闘結果はどうなるかが推測できないと判断したのだ。

恐らく向こうも後当てることが出来れば一撃、その一撃で目標を無力化し、己の目的である捕獲を遂行できると<Unknown>は考えたが、データや理論では証明できないような、『マシン』では理解できない何かがこれ以上の戦闘は不味いと告げる。
<Unknown>にはそれがどうしてかは理解できなかったが、状況とデータから確かに不味いということは判断できた。だからこそ――<Unknown>の取った行動はひとつだった。

それまでひたすらにライフルでの打ち合いと、目標がこちらの死角に『瞬間移動』してきての対処、ひたすらにそれを繰り返しながら、突如として<Unknown>は目標ではなくアリーナの管制室、そこにライフルを向ける。

ライフルを管制室に向けた瞬間、その瞬間に目標の行動が変わった。予測した通りだと<Unknown>は思った。ライフルを向けた対象が自分自身ではなく別の対象に向けられた場合どうなるか、恐らくあの目標は自身の感情に従い行動すると自身の持つデータから判断したのだ。

<Unknown>は迷わず作戦目標ではない管制室に対してライフルをトリガー、放たれた赤い閃光の射線に目標が立ち、右手腕部のエネルギーシールドでそれを防ぐと同時に爆風が発生するのを確認する。

それと同時に、<Unknown>は上空に対して連続的に瞬間移動しながら、アリーナ上空に対してライフルをトリガー、上空のシールドに再び穴を開けるとそこから離脱した。

そして、<Unknown>が離脱したアリーナでは管制室の前に浮遊していた『彼』はそのままアリーナの地面へと着地すると同時にISを解除し、その場に倒れ伏した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

管制室、そこ部屋のモニターに映し出されていた映像を見て私はただ唖然とするしかなかった。
今日だけで何度そうなったか、既に数えるのも面倒だが今目の前で起こっていた事が未だに信じられずにいた。
ローレンスとオルコットの試合に対する襲撃者、そして恐らくだが……あの襲撃者の目的は『月代』だったのではないのかと判断した。

襲撃者と同じ姿をしたISを持つから、だから狙われた。 理由はそれだけで十分だった。詳細はわからないが、少なくとも月代があの襲撃者に対して何かしらの関係があるのではないかという事はわかった。
突如として現れる襲撃者、救出行動に入る一夏と月代、そして――月代はアリーナの中で<Unknown>と戦闘を行い、敗れ、そして撃墜されたかに見えた。

私は、そこからがただ『異常』としか思えなかった。落下していく中で突如としてISを再起動させた月代は、そこから逆に一方的に<Unknown>を攻撃し始めたのだ。
再起動した月代のISと<Unknown>の戦闘はただ一言で『異常』だったのだ。恐らく既存のISより遥かに速く飛翔していると思われる速度に、あの『瞬間移動』。既にその映像は人知を超えた高いだった。

互いに攻撃し、隙あらば瞬間移動で敵の死角や背後に回りこむ、そして逆にそれをされれば対応する――私には目で追えていたが、山田君は何が起こっているのか全く理解できていないようだった。

その戦いは、意外な形で幕を閉じた――<Unknown>が私達の居る管制室へライフルを向け、収束砲撃を放ったと思ったら、月代がその射線に瞬間移動してそれを防いだのだ。
いきなりの<Unknown>の行動に、私も山田君も困惑して銃口を向けられた時には『不味い』とも思った――すぐに退避を、そう考えた瞬間に月代に守られたのだ。

そして月代が防いだその砲撃の爆風が晴れる頃には――<Unknown>の姿はもう無かった。どうやら、爆風に乗じて離脱したのか、と私は判断した。

<Unknown>が姿を消すと、月代の機体――<Unknown>と同じその機体はアリーナの地面に着地すると同時に、ISの展開が解除され、その場に月代が倒れ伏した。

「山田君!」
「分かってます!」

私と山田君は急いで管制室を出ると、<Unknown>が消え去ると同時に解除されたアリーナに続く扉へと向かい走り出した。月代の容態を確認しなければならない、そう思ったからだ。
恐らく、オルコットと一夏も向かっているだろう――とにかく、私達もアリーナで倒れた月代の元へと急いだ。

走りながら、私の頭の中には幾つもの疑問が浮かんだ。
あの<Unknown>という襲撃者は何だったのか、何故IS学園を襲撃したのか、そして何故月代のISはあの襲撃者と同じ姿をしていたのか。
そして、最後の戦闘で見せた<Unknown>と月代のあの動き――まるで『瞬間移動』したようなあの動きは、一体なんだったのかと。
私は全ての事が落ち着いたら、一度あの馬鹿――ISの生みの親であり元凶でもあるアイツ、篠ノ之束に連絡しようと心に決める。

そして束、お前はこの件について何か知っているのか?それとも、お前が仕組んだものなのか? 全て、この状況も今の現実も日常も、全てお前が、お前が仕組んだものなのか?

そう私は考えながら、アリーナの通路を山田先生と共に走り、アリーナ内部へと向かった。


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