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IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐ 

作者:やつき
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第一章 『学園』 ‐欠片‐
  第16話 『蒼い雫』 前編

――対峙するのは 『白』と『蒼』 『白き鎧』を持つ少年と『蒼い雫』を持つ少女が今、空を舞う

――その中で少年は『己の信念』を見つけ出す そして『少女』は、その彼に対して何を見るのか

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……織斑先生と呼べと、そう言っただろうが――馬鹿者が」

一夏がピット・ゲートからアリーナへと飛翔し、それを見送った後に俺達は織斑先生と山田先生と共にアリーナの管制室に移動していた。そして、管制室で不意に織斑先生はそう呟く。口では馬鹿者、とは言っているが、その時の先生は笑っていた。

俺はてっきり、織斑先生は怒るものだとばかり思っていたので少し驚いた。まぁ…一夏は先生の弟で、それで先生は姉である以上表情には出さないが、織斑先生もやはり心配はしていたのかなと勝手に思う。

さて、俺達が今居る管制室にあるスクリーンには、今アリーナ内部で起こっている事がリアルタイムに映し出されていた。

オルコットさんと対峙すると、何やら会話をする一夏、それに応じるオルコットさん――そして、オルコットさんが何の前触れもなく自身の獲物であるレーザーライフルを一夏に向けて発砲した。そして、その直撃を受けて空中で吹き飛ばされる。

……確かに会話で何かしらあって、それが原因でオルコットさんが発砲したのかもしれない。だがしかし、『織斑先生も誰もまだ試合開始とは言っていない』のだ。

流石に今のは、俺としてもどうかと思う。ISという存在は一歩間違えば……というより、ISという既に『競技名目で兵器として使用されている』存在は相手を文字通り壊したり、殺したりする事だってできる。

仮の話をしよう。俺はフランス空軍に居た、だから戦場がどんなものかは俺も……よく知っている。だからこそ、『戦場ではいつどこから撃たれてもおかしくはない』と言われてしまえば、今の状況は仕方ないのかもしれない。
だが、『ここは戦場ではない』のだ、ましてやIS学園という学校で、別に殺し合いをする戦争ではない。無論、俺はISを兵器としてだけ使用して、それを戦争に利用するなんて認めないし、俺もそんな風には見たくない。

とにかく今のオルコットさんの行動は俺としても容認しかねるものがあったし、アリアや篠ノ之さんも険しい顔をしている。篠ノ之さんに至ってはモニターに移るオルコットさんを睨みつけてさえいる。
織斑先生も今のは俺同様容認できないのか、管制室にある備え付けのマイクを取るとアリーナに向かって言葉を放つ。

「オルコット、いつ撃っていいといった?私はまだ試合を開始しろとは言ってない筈だが、今のはどういうつもりだ?」

「……申し訳ありません、織斑先生」

「まぁいい……織斑に直撃して減少した分のシールドエネルギーは差し引いておく――さて、トラブルはあったが……試合を開始しろ、織斑、オルコット」

織斑先生がため息混じりにそう宣言すると、今度こそ試合が開始される。なんというか、マイクでアリーナに向かって話ししていた時の織斑先生、一瞬だけどゾクッとした。冷え冷えしたといったほうがいいかもしれないが。

やはり自分の弟の初陣で、自分はその弟の事心配していたのにいきなり対戦相手にあんな事されて内心でかなり怒ってるんじゃないだろうか。先程一夏と会話していたときは満足げに笑っていたのに、今はその欠片もない。もしかしてオルコットさんは地雷踏んだんじゃないか。
そんな恐らく地雷を踏んだオルコットさんに、後々の対戦相手でありながらも内心で合掌。オルコットさんのこの先の学園生活に幸多からん事を、織斑先生の逆鱗に触れて在学中に一生モノのトラウマを植えつけられる、かもしれないが俺には同情する事しかできない。南無。

そんな事を考えつつ、モニターに写る試合を開始した一夏とオルコットさんに目を移す、おお……一夏の奴、かなりいい動きしてるな。

「……やっぱり、オルコットさんの機体は第3世代型の遠距離機体だったんだね」

「『やっぱり』? アリア、お前オルコットさんの機体の事を知ってたのか?」

モニターを見ながら口を開いたと思ったら、何やら意味ありげな言葉を放つアリア。彼女は今『やっぱり』と言ったのだ――つまり、アリアはオルコットさんの機体についての情報を入手していたという事になる。

しかし、イギリスの代表候補生で専用機持ちともなれば、その情報というのは外部に公開されず特秘にされる筈だ。というより専用機という存在自体かなり希少であり特別な存在でもあるんだし、ましてや政府や企業が技術協力などして製作しているだから情報は基本的に漏れないはずなんだが。
という事は、アリアは何かやったという事になる……うん、大体の予想というか、確信に近い予測はある。外れて欲しいんだけどうちの『へんたいたち』じゃないかなあと。

あの『へんたいたち』――もとい、『仏蘭西国企業連』の一角を成す『ネクスト・インダストリー社』は、所属している俺から見ても規格外だ。俺がISに関わって、アリアと共に企業所属となる前までもあの企業は有名だった。

技術力やコネクション――という意味だけではない、俺が最も規格外だと思ったのは、レオンさん――『レオン・ハルベルト』その人だ。

世間からの評価は『篠ノ之 束に並ぶ天才』、実際の所俺が企業所属になるまではISの製品や競技用の兵装は生産していたが、IS本体についてはあの人は手をつけなかった。よくよく考えればそこが疑問なのだ。

噂の域だし、俺自身も聞いた程度だが、あの人は『ISのコアの基本原理を理解している』、『IS用の対策兵器を隠している』という一種の噂話を聞いたことがある。だが、仮に本当にそんな技術をあの人が持っていたとしよう。何故今までそれを表に出さなかったのだろうか?

確かに、噂だと言ってしまえばそこまでだが、たらればを考えたとして もし本当にそんな技術を保有していたら と考えたら疑問が残るのだ。そして俺が出した結論は『恐ろしい』の一言だった。
といっても、所詮は俺の勝手な想像の域を出ない――確証も何もないのにそんな事を考えてしまうのは、レオンさんに失礼だ。

だが、あの企業は間違いなく、まごうことなき『変態』である。それは確実なのだ。

話を戻そう、どうしてアリアがオルコットさんのISについての情報を知っているのか――まあ、俺には大体の推測はついた。そう、アリアが今生活しているのは『個室』なのだ。つまり、誰にも邪魔されない。いや、私生活的な意味ではなくて……プライベートの連絡的な意味でだ。

「そういえばユウに言うの忘れてた……えっとね、こないだシャルロットから連絡あったでしょ?」

「ああ、あったな その時にこれでもかっていうほど向こうの愚痴と相談話聞かされたがな それがどうかしたのか?」

「うん、私のところにも連絡きててね、その時にレオンさんに伝言を頼んだの」

ここで俺は確信、やはり推測はあたっていた。やっぱりあの『へんたいたち』か……!

「嫌な予感がするけどあえて言うわ、それでレオンさんに何を頼んだんだ?」

「えへへ、ユウ今日はノリがいいね? えっとね――『イギリスの第3世代ISのデータの詳細が可能なら欲しい』ってお願いしたらね 翌日やけにテンション高いレオンさんから連絡あってね、データ送ってもらったの。 そういえば、随分あの時機嫌がよかったけどなんでだろうね?」

「……やっぱり連絡してたか。 いや、あの人なら本当にやりかねんからなあ。テンション高かったのは多分シャルロットの『専用機』開発で発狂してるからだと思うぞ、うん。 それで アリア、オルコットさんのISの詳細は?」

そう俺が言うと、俺が知っている普段の――真面目に話をするときの彼女の目つきになり『うん』と言うと彼女は言葉を続けた。

「オルコットさんのISは "ブルー・ティアーズ(蒼い雫)"、『第3世代特殊遠距離型』。第3世代の兵装のBT兵器を搭載してテストデータを取る事を目的とした実験機。私がレオンさんに言って貰ったデータにはそれくらいの事しか書かれてなかったから実物を見るのは今が初めてかな。 色々私自身で考察したけど、もし私とオルコットさんが戦うと考えた場合、相性はお互い良くも悪くも最悪。こんなところかな」

「……教師として言いたい事はいくつかあるが、この際それはもういい。 だが、流石は『仏蘭西国企業連』所属という事だけあるとでも言っておこう。 ローレンス、今の状況を見ながら思った事を言ってみろ」

唐突に織斑先生に話しかけられて、少し驚いたアリアはリアルタイムで進行するアリーナの内部映像を真剣な目つきで見ながら言葉を続けた。

そして、その時のモニターに写る一夏は、俺から見ても凄まじかった。オルコットさんの放つ遠距離からの狙撃、そしてBT兵器の射撃攻撃を『予測』して避けていたのだ。
この予測するという技術は、俺が一夏に教えたものだ。『とにかく自身の回り全ての情報を処理して、そこから先の行動や攻撃を予測する』、説明と言葉だけでしか言っていないのだが、今の一夏は――オルコットさんの攻撃やモーションを情報として捕らえて、それを元に攻撃を避けているように思えた。
だが、一夏のそれは完全ではない――やはり何発か被弾はしているようだが、俺が言葉でしか教えていない『先を読む』という技術の欠片を見せ、そしてその吸収力に俺は嬉しく思うと同時に内心で驚愕していた。

「今、アリーナで戦っている織斑君とオルコットさんですけど――オルコットさんが今射撃モーションに入ってから射撃を終えて次の行動まで移すまでの一通りの動作に『結構目立つ行動の遅れ、ディレイがあります』」

「えっ……で、でも私にはそんなディレイ(遅れ)はオルコットさんに無いような気もしますが……」

不思議そうに疑問を述べる山田先生。まあ山田先生の言う事もわからなくもない。『俺にもオルコットさんのモーションは完璧に見える』からだ。

だけど、アリアは一種の天才だ。特に近接戦闘という意味合いではまごうことなき神域の人物。彼女だからこそ見えているものが、きっとあって――そしてアリアの話を聞いてニヤリと笑っている織斑先生にもそれが見えているのだろう。

「本当に僅かなモノですから。だけど、それは武装を使用したり、トリガーを引いた時に発生する反動やラグに硬直、そういった必ず発生するものではなくて、本人でもきっと気がつかないような『行動の遅れ』、それが僅かですけどオルコットさんには見えます」

「……素晴らしい観察眼だな、ローレンス。 確かに私の目にもオルコットにはそんな点があるように見えるのは事実だ――では、仮の話をしよう」

そう織斑先生は言うと、アリアの隣に移動して、今まさに画面の中で死闘を繰り広げる一夏とオルコットさんを見ながら言った

「仮の話だ。ローレンス、次にお前はオルロットと戦う事になる訳だが……お前の『専用機』がどんなものかは私は知らん。だが、もしお前が一夏の立場だとして、どう戦う?」

「……オルコットさんの弱点は、今こうしてモニターで見る限り『BT兵器を使用している時は本人は動けない』という事と、先程も言ったように無意識に発生していると思われる動作の『遅れ』です。こうやって見る限りではオルコットさんの遠距離戦闘という部類での技量は確実に最上位、しかもその中でも恐らく上、エリートと言っても過言ではありません、ですが」

そこでアリアは一度言葉を切ると、織斑先生の顔を見ると自信に満ちた表情で笑ってみせる。

「『私とこの子は負けません』 絶対に負けませんよ、その理由は幾つもあります、ですが――最も大きな理由は 『オルコットさんは自分がわかっていない』そして、私の思い込みかもしれませんが……『きっと、自分に無理して嘘ついて、そして本当はそんなことしたくもないのに自分のどこかで虚勢を張っている』 だから、私が勝ちます」

「……ふっ、そこまで言い切るか、ローレンス。 ならば期待しているよ、見せてみろ、お前の力を。 さて……どうやら、局面が動いたようだぞ 」

織斑先生のその言葉で俺とアリア、そして篠ノ之さんはモニターに視線を戻す、そこには――オルコットさんの放った『追尾弾(ミサイル)』の直撃を受ける一夏の姿があり

「まったく……己の機体に救われたか、馬鹿者が」

そう織斑先生が言った直後、モニターに写っていた一夏が居た場所の煙が晴れて、そこには――『形状を変えた白い騎士が存在していた』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

なんだ、どうしたんだ、どうなったんだ――俺は。
己の状況が理解できずに、自身の頭の中が困惑しているのがわかる。そうだ、俺はどうしたんだ――確かオルコットさんと試合をしていて、それで……攻撃を回避して切り込んだとそのまま思ったらそれは罠で、ミサイルの直撃を貰って――

<<初期化・最適化が完了しました 一次移行完了。 確認ボタンを押してください>>

そんなマシンボイスで、俺は現実に引き戻される――そうだ、まだ……まだ終わってないッ!
俺はすかさず、その確認ボタンを押すと、己の纏う鎧――『白式』に急激な変化が訪れる。
膨大なデータ、それが処理され、整理されるそのデータ。そして……『白式』が光に包まれたかと思うと、次の瞬間には、俺は先程より白さを増した――いや、まさに純白という言葉が相応しい姿の鎧を纏っていた。


「これは……」

「ま、まさか一時移行"ファーストシフト"!?今まで初期設定だけの機体でこの私と戦っていたというの!?」

そうか――つまり、今この瞬間にコイツ、『白式』は……本当の姿で生まれ変わったんだ。そして、本当の意味で俺専用の機体、『力』に――いや、違うな。
そうだ、確かに力かもしれない。だけど俺は……白式がただの力ではないと思った、そして――いつも俺に対しての弄りやツッコミ、それから色んな事を教えてくれるアイツの言葉を思い出す。

『俺はさ、ISっていうのは力かもしれないけど――空を駆ける為の、いんや空じゃないな……そうだ、どこまでも飛んでいくための、どんな所にでも飛んで行くための『翼』だと思ってるからさ』

この1週間――アイツ、悠にISの基礎を教えてもらっている時にふと『悠はISをどう考えてるんだ?』と聞いたことがある。そしてその時のアイツは、どこか悲しそうに、でも力強く――そう言ったのだ。
そうさ、俺の白式は『力』ってだけじゃない……俺の分身で、俺の翼で――そして、これからの俺の信念を貫いていくための力だ!

ふと、目の前にウインドウに『展開可能装備一覧』と表示され、そこに 『雪片弐型』と表示される。雪片――雪片って、確か……千冬姉が使っていた武器だ。
雪片、それはかつて自分の姉が振るっていた刀であり、今己が持つこの刀は……その雪片の名を冠する、『俺自身の雪片』だ。
ああ、そうか――俺は、俺は……最高の姉とそして最高の友人、それからいい幼馴染を持ったよ。 だったら、悠、ローレンスさん、箒、それから――千冬姉に恥じないように、俺はこの戦い、勝ちに行く。

「俺は、俺は……世界で最高の姉さんと、最高の友人を持ったよ」

「は? あなた、何を言って――」

「オルコットさん、あんたにはわかんないだろうさ……この、俺自身が誇りとする最高の姉と、そして友達、その尊さが、大切さが!」

俺は、雪片弐型を構える――オルコットさんのIS、ブルー・ティアーズとの距離はそれなりにある、さあ考えろ、考えろよ織斑一夏。この状況下で相手に勝つための方法は何だ?有効な手段は何だ?考えろ、そして行動しろよ織斑一夏!

俺は思い出す、この1週間で悠から言われたのは『戦況を読むこと』。視るのではなく、自身で理解できる限りの情報を集めてそこから有用な戦法・戦術を考え出して行動する事。

そしてローレンスさんに言われたのは『相手の得意なレンジに入らない事 最も自分が優位に戦える状況に持って行くために、自分が最も得意とするレンジで相手を叩く』という事。

自分の幼馴染、箒から言われたのは――『諦めない事』。箒は、『自分には悠やアリアのように高度な事は教えられない、だが私は 諦めない事が全てに繋がると信じている』と言っていた。

そして俺が、最も自分の心に深く残っていたのは、箒の言葉だ。そうだ、諦めなければ『可能性』は必ず存在する。その可能性から先を掴み取る、それが――俺の戦いだ!

「面倒ですわ――少し残念ですが、このままこの私、セシリア・オルコットと"蒼い雫"の奏でる円舞曲を終わりにしますわ、貴方の敗北という形で!」

そうオルコットさんが言うと、巨大な砲身を持つライフル――スターライトmkIIIでこちらに対して再び狙撃を行ってくる。だが俺はそれを回避、今の白式なら――コイツならやれる、俺にはそんな確信があった。

俺はスラスターを吹かせながら加速する、そしてオルコットさんからの攻撃を回避する、避けきれない攻撃は『わざと掠らせる』、そうやって己の加速の乱れを少なくしていく。
スターライトmkIIIからの攻撃に、未だに1基も落とせていないあのBT兵器――状況としてはあまりよくないとも言えるが、俺と、白式の加速なら殆どの攻撃は見切れる。

そうして、オルコットさんからの攻撃を掻い潜り、雪片で一閃するが、それを後方に下がる事で回避するオルコットさん。

だが、俺は簡単には距離は明けさせない、この白式と俺の最も優位に立てるレンジ、それは――近距離だ。 だったら可能な限り接近する!そして叩き切る、それしかないだろうが!


「逃がすかッ!――これで、終わりだぁぁあああああ!!」

再び一気に距離を詰める、オルコットさんが射撃とBT兵器で応戦してくる、だが……今の俺にはその対策はわかっているし、攻撃も見えている だから、行くぞ白式ッ!
飛翔するビームの嵐を俺は自身が制御できる最大速度で加速しながらかわし、その中を進み続ける――そして完全に距離をつめて雪片を振り上げた瞬間、いける と確信する。 そうして次の瞬間、己の刀が膨大なエネルギー刃を構成し、俺はそれをオルコットさんに――振り下ろした


『試合終了、勝者――セシリア・オルコット!』

しかし、俺の刃はオルコットさんに一撃を叩き込む事はなくて、無慈悲なそのアナウンスがただただ響いた。


「あれ……なんでだ……?」

「は……?」

最後の一撃を叩き込もうとした状況のまま、俺自身も、そしてオルコットさんも何が起こったのか分からないというような表情で、ただその場で固まったまま佇んでいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「おうおう一夏、まさかあれだけ大言吐いて大見得張って、カッコつけた挙句負けるとは情けない、途中まではすげえカッコいいとか思って俺の感動を返せ――今度の昼飯で」

「うるせぇよ!俺だって今すげえ恥ずかしいと思ってんだから!あれだけのことやって負けたんだからそれくらいの自覚あるわ! それと最後の随分安い対価だなおい!」

とまあ、一夏がピットに戻ってきた後、俺達と先生方はピットに移動、そしてピットインした一夏を迎えたわけだが、そこで俺と一夏はいつもと変わらず漫才をかましていた。

いや、真面目に途中まではカッコいいと思ってたんだ。あれだけ大言吐いてカッコつけて、それであのまま最後の一撃を叩き込んでいたらどれだけ輝いて見えただろうか。だが現実は非情である、結果として一夏はオルコットさんにどんな形であれ負けて、今こうしてピットに居る。

そして織斑先生も篠ノ之さんも一夏に対してなんともいえない視線を送っていた。ちなみにアリアは俺と一夏の漫才見て笑いを堪えてる。

「……よくもまぁ、あれだけ大見得張って無様に負けてくれたな、この大馬鹿者が」

「一夏……お前の言っていた事は確かに正しいと思うし、私もその、カッコいいと思ってしまったが……負けてしまっては全て台無しだ、この負け犬」

「うぐっ……」

織斑先生と篠ノ之さんからそう言われて項垂れる一夏。確かに、あれだけ見栄張ってすげえカッコいい事言ってるんだしなあ。もし俺が女なら確実に一夏に惚れてるぞあれ。というより、アリーナの観客席で観戦していた女子生徒の内の大半は先程の一夏の姿を見て惚れたんじゃないだろうか。
つまり、俺の知る限り篠ノ之さんに続きまた一夏の毒牙にかかったやつが増えたって事だ。本人に自覚がないんだから尚更恐ろしい。ああ、俺としては篠ノ之さんの恋路を応援してやりたいんだが、これは同情するなあ。

「なあ千冬姉――なんで俺はあの時負けたんだ?確実に最後の一撃は入ったと確信したんだけどな、あれ……」

「織斑先生だ、まあ今ばかりは大目に見てやろう。確かに、あのまま行けばオルコットに雪片の刃は届いてお前の勝ちだっただろう――だが、お前は現にこうして負けている。織斑、お前の敗因は白式の『単一仕様能力』(ワンオフ・アビリティー)が原因だ」

「単一仕様能力……?えっと」

そこで織斑先生が頭を抱えてやれやれという素振りを見せると、俺の方を見て言葉を放つ

「月代、お前は確か一週間織斑にISについての知識や技術について教えていたんだったな?まさかとは思うが、単一仕様能力について教えてないという事はあるまいな?」

「流石にそれはないですよ、織斑先生――おいこら馬鹿一夏、ちゃーんと説明して教えただろうが。ったく……いいか?単一仕様能力っていうのは、その専用機だけが持つ簡単に言えば必殺技、切り札だ。だけど基本的に単一仕様能力は『二次移行(セカンドシフト)』してる機体じゃないと発現はしない って教えたろうが…… 罰として飯奢れ飯、無論さっきのに追加な」

「わ、悪い――って飯さっきのに追加!?おいおい、そうすると俺の財布がヤバいんだが……」

「んなもん知るか、少なくとも俺に害はない事だし関係ない」

「うっわひでぇコイツ……とんだ外道だよ」

「ははは、褒め言葉をありがとう一夏君」

「……漫才は済んだか?」

「はい、すみませんでした」
「はい、すみませんでした」

織斑先生に睨まれて俺と一夏はハモりながら先生に頭を下げる。さて、話を戻そう

「話を戻すが、織斑。先程も言ったようにお前が負けた原因は白式の単一仕様能力だ。そしてその能力は――『バリアー無効化攻撃』だ」

バリアー無効化攻撃、それについては実例がある。織斑先生が過去に第1回IS世界大会(モンド・グロッソ)でISに搭乗した際に使用し、そして優勝にまで上り詰めた武装の能力だ。
実際に有名な話でもあるし、フランスに居た頃はよく知識として聞かされた事もあるので知っている。

「バリアー無効化攻撃……?」

「そうだ、簡単に言えばこの単一仕様能力は、相手のバリアーを切り裂いて本体に直接ダメージを与えるというものだ、ここまで言ってわかると思うがこれは非常に攻撃的な能力で、強力だ。だが、その代償としてこの能力を使うには自身の機体――つまりは白式のエネルギーを攻撃に添加するため、自身のエネルギーを雪片に食わせなければならない。いわば諸刃の剣だ」

「そうか、だからいきなり白式のシールドエネルギーがゼロに……」

「まぁ……なんにせよ、 織斑、これでお前も晴れて専用機持ちだ。ついてはこの本に色々と必読事項があるから読んで置くように――それから、今日はこれまでだ」

「は?」
「え?」

織斑先生が一夏に『鈍器のような本』を渡すと、俺とアリアに向かってそう言った。そして俺達はそれに対して気の抜けた返事で返す事しかできなかった。
いや、確かこの後俺とアリアの試合もあると思っていたんだが、これはどういう事だろうか?

「ええと、織斑先生……」

「ちゃんと説明するから少し待て月代、簡単に言えば、先程確認したがオルコットの機体損傷が予想以上に酷い。基本兵装に問題はないようだが、先程の織斑との戦闘で予想以上にダメージがあったらしい。確かに連戦を希望したのはオルコットだが、そんな状況を確認してしまえば教師としては一度止めろとしか言えない。よって――明日、また時間を取った。場所は今日と同じでこのアリーナだ。それと…少し事情が変わった」

事情?一体なんだろうか。そう考えていると、少し複雑そうな表情をして織斑先生が言葉を続ける

「単純に言えば、今日の織斑とオルコットの対戦でよくわかったように、1戦行うだけでこの有様だ。本来ならばオルコットの希望や自推他推という事もあって全ての試合を行う予定だったのだが……流石に連日続けてアリーナを使う事はできん、そして明日使えるのが恐らく最後だ」

「……何が仰りたいのでしょうか、織斑先生」

「結論から言おう、月代、ローレンス、お前達の専用機については私は一切何も知らん、だがお前達2人の技量については織斑からの話や今までの立ち振る舞いで理解しているつもりだ――今日はオルコットも感情が高ぶっていたようだし、『決闘』という発案者であるオルコットの提案もありあの場は受理したが、幾ら代表候補生で実力のあるオルコットでも、流石に企業所属者2人を相手に連戦など、到底不可能だ。そしてアリーナの使用時間のこともある。よって、月代かローレンス、どちらかとオルコットが戦う事にする」

俺は、黙って話を聞いていた。そして同時に『何か裏があるんじゃないか』とも考えた。何故最初は俺達とオルコットさんを戦わせる事を許可しておいて、今になって拒否したのか――織斑先生が言うように、要するに『学園の事情』ならばそれで筋が通るが、俺には何か他に意図があるんじゃないかと思えて仕方なかった。

それに、俺だってあの時にオルコットさんに結構な言葉を吐いてるんだ、彼女に対する礼儀としても、俺としてはちゃんとケジメはつけたいと思っていた。

「……事情はわかりました。納得はしていませんが、先生がそうしろと仰られるのであればそうするしかありません。では、オルコットさんと対戦する件ですが、俺が――」

「ユウ、待って」

「アリア?」

俺が行きます、そう言おうとした時にアリアに後ろから制服を引っ張られて止められた。そして俺が彼女の方を向くと――アリアは、物凄く真剣な眼をしてこちらを見ていた。

「ユウ、私に行かせて」

「……理由、聞いてもいいか?俺もオルコットさんには結構な言葉吐いてるんだ。できればケジメはつけたいと思ってる――俺が納得できるだけの理由、聞かせてくれるか?」

アリアはコクリと頷くと言葉を紡いだ。

「……オルコットさんから『決闘』という提案が出た時点で、喧嘩を売ったのは私。だから私にも理由はある、後ね……オルコットさん、なんか昔の私に似てるから」

最後の方だけ小声で、俺に聞えるように言われ、それを聞いた俺は――ただ黙るしかなかった。

「それにね、どうしてもオルコットさんに伝えたいことがあるんだ。絶対にこの機会じゃなきゃ伝えられないことが。後……汚いかもしれないけど、私はあの時クラス代表に自推してるんだよ?だったら自推してる私がやらないとだめなんじゃないかな――お願いユウ、私に行かせて」

「……本当に汚いよな、自分で自推してるって言ってそれだけの覚悟というか、理由見せられたら俺が小さく見えるな。 ただしアリア、1つだけ条件がある」

「条件?」

「ああ、簡単だよ――オルコットさんに勝て、そしてお前がやりたいって思ったこと、伝えたいって思ったこと全部伝えて、それでやれるだけやりきって来い やれるか?」

「……勿論、だってその為に私は――オルコットさんと戦う事を望んだんだから」

俺は『アリアには敵わないな』と呟くとやれやれといったような仕草を取る。本当、なんていうか――心の芯が強くて、俺と出会った頃とは別人みたいだと思った。

「話は決まったのか?それで――月代か、ローレンスか、どっちだ?」

「私が行きます、織斑先生」

「ほう、ローレンスか――いい目をしている。お前の目を見ていると、若い頃の私を思い出すよ」

「織斑先生はまだ十分お若いと思いますが……?」

「っははは! うまいこと言うなローレンス――だが、お前のその目は私は純粋に評価しているんだぞ?何を思っているのかなどは私は知らん。だが……織斑にも言ったが、悔いの残らないようにな。 それでは、明日ローレンスとオルコットの試合を執り行う事にする、オルコットには私から説明しておこう」
「お手数おかけします、織斑先生」

「何、こちらの都合で予定が変更になったのだ――ひとまず、お前達は今日はもう戻れ。織斑は試合で疲れているだろうし、ローレンスも明日に備えたほうがいいだろう、今日はこれまでとする」

そう織斑先生は言うと、山田先生を引き連れてピットを出て行く、なんというか―― 一人の人という面でも、『ブリュンヒルデ』としてもやはり凄い人だ、そう俺は改めて思った。
アリアにはアリアの成したい事がある、か……俺も、オルコットさんの力を持つ本当の理由が知りたかったんだがな、だけど――きっとその答えはアリアが明日、見せてくれるんじゃないかなと俺は心の中で思った。

「ひとまず、一夏 お前明後日から毎日放課後特訓な」

「そうだね、織斑君はあれだけ無様に負けたんだから今後はちゃんとしてもらうためにも、ね」

「ああ、私も2人に同意だ。 ちょっとばかり鍛えなおす必要があるということが、よーくわかったよ、一夏」

俺達三人がそう言うと、一夏は苦笑いしながら一歩後ずさる。だけどその時の一夏はどこか、覚悟を決めたような顔をしていた

「…おう、俺ももっと強くなりたいしさ――頼むわ」

そんな一夏の言葉に対して俺達は『任されました』と返した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――オルコットさんを見ていると、私は胸が痛くなる。 辛くなる。まるで、死に急いで自分を偽ってた過去の己を見ているようだったから。

偽る事はとても辛くて、自分に嘘をつくことは本当は悲しくて。
そんな『偽り』と『虚勢』を私は、見てるのが辛くて、私みたいになってほしくなくて。

――だから教えて?オルコットさん 本当の貴女の気持ちを、貴女の本当の思いを。
貴女の持つ『蒼い雫』は、迷いや偽りなんてなくて、本当は澄んでいると言う事を。
そして貴女のその子の力を……私に見せて?

『きっと、全部終わったらお互い 少しでも歩み寄れるって私は信じてるから 歩み寄れて、そして未来で笑顔で笑えたら、嬉しいなって思うから』
 
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