『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』
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第二十七話
「今すぐにでも帝国の帝都を爆撃するべきだッ!!」
特地派遣司令部で海軍派遣航空隊副司令の小園安名中佐が緊急招集で集まった将官達に具申する。
「……小園中佐、貴官の気持ちは分かる」
「ですが司令官ッ!!」
「帝都爆撃は私でもそう思っている。しかし、事は重大だ。何せアメリカ人とドイツ人までも帝国に誘拐されていたのだ。慎重に成らざるを得まいのだ」
伊丹と菅原からの報告で流石に今村司令官も仰天していた。
「帝都爆撃の使用機体は海軍さんの一式陸攻でやる。爆撃手も陸海のベテランを募らせてやるつもりだ」
今村司令官はそういい終えると溜め息を吐いた。
「問題はアメリカとドイツの出方だ。最悪の場合、奴等が干渉してくるのは間違いないだろう」
誘拐されていたのが日本人だけなら今村も躊躇せずに爆撃隊に出撃命令を出していたが、外国人もいれば話は別である。
「爆撃の攻撃目標は皇宮、議事堂、元老院の建物のみに絞る。爆撃高度は三百で護衛には海軍さんの零戦隊に任せる」
「分かりました。戦闘機パイロットもベテラン揃いにさせます」
海軍派遣航空隊司令官の斎藤正久司令はそう告げるのであった。
「指定場所のみだ。もし、帝都の街並みを爆撃してみろ。そこに他のアメリカ人やドイツ人がいたら洒落にならん。勿論民間人もだ」
「分かりました」
こうして三時間にも及ぶ会議の末に帝都爆撃が決定された。
零戦二七機、一式陸攻九機であり、使用爆弾は一発必中を兼ねての八百キロ陸用爆弾である。
攻撃時間は払暁となり、整備兵達は徹夜で機体を整備する事なるがそれでも整備兵達の士気は高かった。
「日本人を奴隷にしていたなんて……許さねえな」
「故障機なんぞ出すなよッ!!」
帝都の爆撃とその理由を今村司令官から直接聞かされていた整備兵達はベテランを中心に機体の整備をしていたのである。
そして翌日の0300には全機の整備は終了していた。
出撃は0500であり、爆撃隊の搭乗員も全てベテランで集められていた。
「司令官、攻撃隊は何時でも発進出来ます」
「うむ。時間は?」
「は、0458です」
「全機出撃せよッ!! 目標は敵帝国の帝都の皇宮及びその周辺の建造物也ッ!!」
「全機出撃ッ!!」
飛行待機所で待機していた搭乗員達は愛機に駆け寄って乗り込み、零戦隊の一番機がプロペラを回し始めた。
「発進ッ!!」
零戦が滑走を始めてゆっくりと離陸していく。それに続いて二番機も離陸する。
「帽振れェッ!!」
見送りに来た整備兵や陸軍兵士や司令部の参謀達が帽子を振っている。
兵士達の帽振れは攻撃隊が水平線に消えるまで続いた。
「……ハミルトンさん……」
見送りに来ていた樹は飛び去っていく攻撃隊を見ながらそう呟いた。
樹としては皇帝や帝都がどうなろうと知ったこっちゃじゃない。向こうが自爆するような事をしたまでだ。
ただし、ハミルトンだけは何故か気になった。あの皇宮から去る時、樹を畏怖の対象を見るような視線に樹は心が痛んだ。
「……出来れば無事で……」
樹は帝都の方向を見ながらそう呟いたのであった。
「隊長、もうすぐ帝都です」
「うむ、爆撃準備に入る」
副操縦士の言葉に攻撃隊隊長の宮内少佐はそう命令をした。
もうすぐ日の出である。攻撃隊は乱れたりせずに編隊を組んで飛行している。
「見えました隊長ッ!! 帝都ですッ!!」
「よし、皇宮を探せ。零戦隊は万が一に備えて高度一千で飛行するように伝えろ」
正操縦士がハンドサインで零戦隊に知らせる。指令を見た零戦隊隊長の中島少佐はバンクして他の零戦と共に高度一千に上昇して辺りを警戒する。
「爆撃進路に入る」
「ヨーソロー」
一式陸攻は小隊に分かれて爆撃進路に入る。
「目標皇宮ッ!!」
「用ぉ意……撃ェッ!!」
宮内機から八百キロ陸用爆弾が投下された。列機も爆弾を投下した。
爆撃高度が三百なので三発とも命中して皇宮を吹き飛ばした。他の小隊も議事堂と元老院の建物を爆撃を敢行して二ヶ所とも皇宮同様に吹き飛ばした。
「隊長、全機爆撃完了しました」
「よし、帰投しよう」
攻撃隊は再び編隊を組んで意気揚々とアルヌスへ帰還するのである。
「陛下にお尋ねしたい。この未曾有の恥辱と損害にどのような対策を講じられるおつもりか?」
カーゼル侯爵は議事堂があったはずの瓦礫の山に立つと玉座の皇帝モルト・ソル・アウグスタスにそんな言葉を突きつけた。
周りは瓦礫の山である。全てが破壊されていたのだ。
「事の次第は開戦前に敵を知るために異境の住人を数人ばかり拐ってきた事に始まる。異国の使者はこの事を知るやたいそう怒り、事もあろうに陛下の面前において皇子ゾルザルを打擲するに及んだそうだが、陛下、間違いありませんな?」
「俺は殴られてなどいない。地揺れに足を取られ転んだだけだ……」
「転んだだけでそうなりますか?」
「階段から……転げ落ちたのだ」
歯を失ってまでもゾルザルは懸命に否定し続けている。そしてその時に数人の近衛兵が慌てて駆け込んできた。
「大変です陛下ッ!!」
「何事だ騒々しいッ!!」
近衛兵の言葉にカーゼル侯爵はそう叫ぶ。
「お、皇子ディアボ様が……」
「何だと?」
近衛兵の言葉に皇帝モルトの眉がピクリと動いた。
その頃、ハミルトンとはピニャの館で悲報を聞いた。
「そ、そんな……あの人が……」
ハミルトンは顔面蒼白であり、膝からがっくりと床につけ右手を口に添えて嗚咽を漏らした。
「……あの人が死ぬなんて……」
悲報とはハミルトンの婚約者が攻撃隊の爆撃で死亡したとの事であった。
後書き
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