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魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
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第九話

 
前書き
 一週間開けてコノザマですよ本当にすみません 

 
 いよいよ7月も終わりを迎え、世間の学生は夏休みを折り返すころ。海鳴市の海岸線沿いには屋台が立ち並び、まさに祭りの雰囲気。

「いよいよ本番か……」

 海鳴ロックフェス本番の朝。竜二はバンドメンバーを連れて、ステージの機材確認に来ていた。

「すごいこっちにはお金かけてますよね。どこが出資したんでしょう?」
「まぁ企業の回し者みたいなバンドも何組か見かけたし、大手事務所とかメジャーレーベルやない?デビューしたバンドは出られへんってのがまだ救いかな、これ」

 フェス開催は10時。この時間で行うということはもうギリギリの最終チェックだろう。

「俺ら結局ギリギリまでリハに参加できんかったしな」
「もっと早くにしたかったよなぁ……」
「すまん、俺のせいやわ」
「まぁ、あんな難しい曲選ぶからこうなったわけだしな」
「もうそれ以上言わんといてくれ……」

 竜二も痛感してはいるのだろう。ただしそれだけに十分、オーディエンスを盛り上げさせることができるはずだと信じてもいる。矢吹がA4用紙を見ながら話す。

「セトリの紙もらってきたぞ」
「そういや今回は何組きてるんや一体?」
「今日明日の2Daysで40組らしい。一日20組をどうやって回すのかねぇ」
「20くらいやったら回るんちゃうの?1バンド一曲と、あとはジャムセッションかなんかやるらしいし」

 夜の7時まで時間がとられているということはそういうことだろう。またこのジャムセッションに関しては当日の観客者投票と公式サイトのアンケートによってメンバーが組まれるらしく、決まっているのは曲のみで、割り振られるのは連絡が来るまで誰かわからないというとてつもなくギャンブル臭のするものなのだ。

「とすると、物販で気合入れてる連中が後半だとかわいそうだよな」
「まぁ、そんな連中は順番先に捻じ込んでるやろ。にしてもトリが俺らとかマジで笑えん」
「まあいいんじゃない?別に俺らはお祭り気分で来てるだけだし」
「せやな。よさげなインディーズやったら売り上げに貢献したらんでもないし」
「そうそ……ん?すまん、ちょっと外す」
「おう」

 矢吹が携帯を取り出すと竜二の下を離れ、神坂とアスカとの三人となる。

「バンドも観客も参加費無料とかとんだ大盤振る舞いやでな」
「その分審査厳しいんですよね」
「ああ。まぁ俺らはスクール生に声かければ観客つきのスタジオが使い放題やけど、普通は普段からライブハウスとかストリートとかの人前で活動してるバンドやなかったらこんなん出られへんからな」

 このイベントの参加要綱には「オリジナル楽曲の音源審査」があり、それをクリアしなければならないというものがある。最終審査はスタッフの前で生演奏をして、その上で認可を受けなければならない。つまり普段から演奏しなれているバンドでなければそうそう通ることがないというわけだ。そこで重要視されるのは、ミスをしないプレイングではなくメンバーのステージ慣れであり、ミスをしてもうまくごまかして続けられるならなんら問題ない。そこで焦って演奏を止めてしまうようなバンドなら一発アウトというわけだ。

「さてと、ほな俺らは会場の中でもブラブラしてよか。そろそろステージからどけ言われるで」
「ですね。開演時間近いですし」

 そして彼らがステージを降りると、矢吹が戻ってきた。

「なんやったん?」
「たいしたことじゃない。店長がここに来るまでに迷ってるだけだ」
「ったく、あのオッサンだけはホンマにもう……ちゃんと客席のあるエリアまで誘導したやろな?」
「ああ。後で顔出しに行くって言っておいた」
「あはは……」

 呆れる竜二と苦笑する神坂。するとアスカはいつの間にやら運営委員会からTシャツをもらってきていた。

「ところで、出演するみなさんはこれを着てくださいってことらしいですよ」
「わかった。ほな更衣室かトイレか探すか」
「うーん、こういうの見ると、いよいよって感じがするな」
「せやな。いやでもテンション上がってくるわ。しかしこんなん前日にくれてもよかったやろうに」
「まぁそれは言いっこなしだろ。あぁヤバイ体が震えてくるわ……」
「プルプルすんな!鹿かお前は!」

 出演者たちのボルテージもいよいよ上がってくる。



 そんな中、この男はやはり来ていた。何度か竜二と絡んでいる赤髪の青年である。設営されたベンチに座ってステージを眺めながらのんびりしている。今日は白地にさまざまな色で文字がプリントされたタンクトップに紺色のデニム、赤のスニーカーといったコーディネート。

『ふーん、予想以上に本格的じゃねぇか。規模もなかなかだし、結構期待できそうかもな』
『いい女、どれだけいるかねぇ』
『どれだけいようが関係ねぇよ。あわよくば全員いただこうじゃないの』
『うん、旦那はいたって通常運転だってことがわかった』
『俺の楽しみは誰にも邪魔させねぇってな……お、酒売ってる』

 ステージがあるエリアに併設された屋台通りを見たところ、すでに営業を始めている屋台もあるようで、あちこちで店主が声を上げているのが見られる。そんな中青年はドリンクを扱っている屋台の前に来た。

「いらっしゃいませ!」
「このラムネハイ一本もらえる?」
「へいお待ち、200円になります」
「はいはい……ああすまん、小銭ないからこれでお願い」
「はい、1000円からで。ありがとうございましたー!」
「どうもー」

 お釣りと缶を受け取るとさっそく開けて屋台を見回る青年。

『ヒュゥ、早速よさげな女発見』
『見境ねぇなぁ本当』
『いただけるものは全部いただくさ……あれ、そういや俺財布買ってないわ』
『ちょ、現金そのまま持ち歩くとかいくらなんでもかっこつかねえぞ旦那!ていうかあれから何日経ってんのよオイ!』

 大爆笑するグロウルに白目を向けながら、とある小物店へと入っていった青年であった。そこに直人が偶然出くわす。

「っ!?……何や、今の妙な感じは……?」

 彼自身はとあるバンドの助っ人としてこのフェスに参加することになったそうだ。
 都心部から離れてはいるが、国際色豊かなこの町では多少顔つきや髪の色が変わっていても一々誰も気に留めはしない。特に髪の色などは染めればどうとでもなるので、それだけでは彼も気にはしなかっただろう。見た目が整っているのでチラチラと見られはするだろうが、しばらく歩けば記憶から消える程度だ。
 だが彼が気に留めたのはその青年の見た目ではない。彼から漏れ出る魔力と、そこだけ空気が冷えているような異様な雰囲気だった。

「まさか魔導士か?やとすると、連中が派遣した調査隊の人間の可能性が……!?」

 すぐさま直人は携帯を取り出すと写真を撮り、どこかへとメールを送る。



 そことはまた別のエリアにて、翠屋が出張店舗の開店準備をしていた。本来の店舗は休ませて来たらしい。何故かアースラスタッフも何人かヘルプで来ていた。

「忙しいのにわざわざありがとうございます」
「いえいえ、クロノやエイミィがお世話になってますから、これくらいは」

 そういって笑顔で高町家の手伝いをするのは、明緑の髪をなびかせる美人艦長、リンディ・ハラオウン。普段のスーツ姿はどこへやら、白のTシャツに迷彩柄の短パンの上から翠屋のエプロンというラフな格好である。クロノもなのはやフェイトたちと一緒に動き回っている。本来の業務はどうしたのか。

「本当はプレシアさんも来たかったらしいんですけど、まだ動けるほど体力が戻ってなくて」
「そうですか……早く元気になるといいんですけどね」
「ええ……あれ?誰かしら」

 メールの着信を知らせるバイブレーション。リンディがメールを開くと、まるで血の気が引いたような表情をする。それを見た桃子が声をかけた。

「あら、どうかしたんですか?」
「え、ええ……すみませんが、ちょっと外しますね」
「ええ、どうぞ」

 そして彼女たちと距離をとると、あわてた様子で直人に電話を入れる。

「もしもし、直人君!?」
『あ、艦長。さっきのメール……』
「見たわ。『彼』がいたのね?」

 あせっている様子から、ただならない人間であることを察した直人は、自分の勘が間違ってなかったことを知る。

『ええ。もしかしてヤバい奴ですか?』
「……ええ、そうね。ただこちらから何もしない限りは無害よ。いい?絶対不用意に近づいちゃダメ!」
『わかりました。なのはちゃん達はどうします?』
「……ひとまず保留にしておいて。余計なことは喋っちゃ駄目。彼について詳しい話は後で」
『はい。ところで、今どこですか?』
「今は高町のみなさんのところよ」
『……ああ、そういえば店を出すって言ってましたね。向かったほうがいいですか?』
「そうね、そうしてくれると助かるわ」
『わかりました、すぐ向かいます』

 通話を切って携帯を短パンのポケットにしまうリンディ。その表情からは緊張感が抜けておらず、ただごとでない雰囲気を感じ取ったらしきクロノがいつの間にか近づいていた。

「母さん、何かあったの?」
「クロノ、落ち着いて聞いて。『彼』が来たわ」
「……母さんをそこまで追い詰めるなんて嫌な予感がするんだけど、まさか……」
「これを見て」

 しまったばかりの携帯を取り出すと、送られてきたメールに添付された画像をクロノに見せた。彼は絶句してしまったが無理もない。そもそもリンディですら驚いたのだから。何が起こっているのかわからないといったところだろう。

「そんなバカな、なぜ『彼』がここに!?地上本部はおろか、本局にだって救援要請なんて出してないはずなのに……」
「私たちの知らないところで、上が何かつかんだのかも知れないわね……嫌な予感がするわ。『彼』が来た時点で、何も起きないわけがないもの」
「どうする?ただ遊びに来てナンパしまくってるだけならいいけど、もし彼がこんなところで暴れようものなら……」
「……大惨事ね。ただ今のところは動きを見せていないようだから、絶対刺激はしないようにしないと」
「僕らがここにいることがバレるのは、時間の問題のような気がするんだけどね……なのは達にはどうしようか?」
「……黙っておいたほうがいいわ。フェイトちゃんはもしかすると、プレシアさんの関係で知ってるかもしれないけど、なのはちゃんは知らないほうがいい。いや、知ってはいけない人間だから」
「だね。とりあえず、今ジタバタしても仕方ないから、みんなのところに戻ろう」
「……ええ、そうね」

 もはや危険物が服を着て歩いているかのような扱いである。

「父さんがいない今、僕が母さんを守らなきゃ……」



 そんな風に噂をされている張本人はというと、ナンパの最中だった。まったく成功していないが。

『やれやれ、やっぱどいつもこいつもイベント待ちか』
『まぁ、今日明日はみんな忙しいだろうさ。ドサクサに紛れてやっちまうか?』
『そういや、あの兄ちゃん出るって言ってたな。ちょっくら見に行ってみるか』
『お、もしかしてあの兄ちゃん気に入ったのか?』

 ホモォホモォとわめくグロウルに対して青筋を浮かべかけている青年。

『バカか。横の女が目当てに決まってんだろ。後もう一人の女もいただきたいな』
『なんでぇつまらねぇなぁ。全くブレてねぇし』
『ンなことより、例のブツ探せお前』
『失敬な、やってるわちゃんと』

 念話にて、互いに低く息を漏らすような忍び笑いをするグロウルと青年だが、まだ青年の怒りが納まった様子はない。それを見てか、それとも自己防衛本能か、周囲の人々も彼を避けて歩いていく。

『しかしまぁ、さすがにこんな時間じゃ、娼館もやってねぇしな』
『こっちじゃフーゾクっていうらしいぜ。にしても旦那、こっちに来て何人食ったの?』
『数えるのも面倒くせぇな。まぁ全員いい女だったことに代わりはないが』
『むこうからすりゃ旦那がカモに思われてるだろうな。一晩ヤるだけで金稼げるんだし』
『ルックスは悪くないし、金持ちだし、テクも十分だしな』
『まぁこっちじゃ無職かつ住所不定だけどな!その金全部スロと麻雀だろどうせ』
『いい加減握るぞクソデバイス』
『あ、いや、すまん謝るから勘弁してあぎゃぎゃぎゃぎゃ痛い痛い!』

 青年はその右掌でグロウルを強烈に握りこむ。容赦なく、ただ単純に握りこむ。並大抵の攻撃でもビクともしないはずのデバイスがミシミシと崩れるような音を立て、グロウルは念話で絶叫しているが、しばらくすると青年が力を緩めた。

『いっててて、容赦ねぇんだからよぉ旦那は……』
『自業自得じゃボケ』
『国宝級のロートル相手にひでぇや全く……ん?おっ、こいつは……ようやくか』

 そのままステージに向けて歩いていると、グロウルが何かに反応した。

『どうしたアンティーク』
『旦那、例のブツがようやく見つかったぞ』
『ようし、どこだ?』
『ちょうど向かってるイベント会場の方だ。よかったな、女捜しながら探し物できるぜ』
『ブツが先だがな。もし連中が先に持ってたらまた面倒なことになる』
『どうせ殺すんだろ?』
『いや、公の場じゃ殺らん。どうやらこの国はそういったことに厳しいらしいからな。面倒だ』
『公の場じゃ、ってのがミソだな』
『そういうこった』

 そして青年が走り出すと、周囲に風を巻き起こしながら直進していった。 



 そんなことが起こっているとは誰一人気にも留めず、いよいよイベントがスタートした。オープニングアクトは地元海鳴で活動していた古株のバンドが勤めるも、そこからは企業お抱えのインディーズバンドが目白押し。ライブでも安定した演奏力を持つバンドばかりで、かつ選曲も様々ながら知名度の高いロックナンバーばかりということも手伝い、参加者のボルテージは急速に高められていく。そんな中竜二達は屋台巡りをしていた。

「結局ジッとできずに来てしもうたけど、俺らは明日やからなぁ……最前線で暴れたいんやけど、やりすぎて楽器握れなくなったらしまいやでね」
「ですねぇ……しかしここまで本当に有名どころばかりですね、先生」
「Deep Purple、Led Zeppeline、Black Sabbath、AC/DC、Van Halenといった古株バンドから、BON JOVI、Linkin Park、The Offspring、SUM41、挙句Metalicaとかもやるんだから節操ないよな」
「私らみたいな邦楽バンドのカバーは明日ですからね」
「あ、俺そういえば今日明日両方ともジャムセッション組まれたっけか……それ考えると、まぁ来たのは間違いでもないか」

 竜二はどうやらウェブサイト投票によってジャムセッション出演が早々に決まっていたらしく、つい先ほどスタッフから連絡を受けた。

「何やるんだ?」
「MegadethのTornade of soulsやとさ。下手しぃ腕が死ぬぞ」
「うわー……弾けんの?」
「まぁ俺はなんとかなるやろ。むしろもう一人のギターがついてこれるのかが心配でならん」
「やれやれ……」

 などと緊張感を高めつつ歩いていると、竜二を一人の青年が呼び止めた。

「ちょっと待ちな兄さん」
「あん?」

 彼の姿は金髪に白いスーツ、黒のシャツは首元を空けており、シルバークロスが光っている。緩められた銀のネクタイは太陽の光を反射していて眩しい。若い見た目もあいまってどこかのホストのようにも見えるが、少なくとも真夏の海岸付近で着るような服装ではない時点で怪しさ満点と言ってもいいだろう。

「……どちらさまでしょうか」
「どちらさまか、と聞かれてもねぇ。聞く気もありませんってな人に教えるほど俺の名前って安くねぇんだわ」
「それもそうか……お前ら、離れてろ」
「ああ。さっさとすませろよ。そんじゃ行こうか」
「はい」

 矢吹が神坂を連れ、竜二達から離れていく。ただ事ですまない気配を感じ取ったのだろう。ちなみにアスカは現在、食べ歩きをしている内に迷子になっていた。

「ならば、何の用なんです?」

 竜二のあからさまな態度が出ていたか、その男が名乗ることはなかった。その代わりに、彼は携帯を確認してズボンに仕舞うと、いきなりハイキックを飛ばす。竜二はそれをバックステップでかわし、すぐさま構えた。

「っ……いきなり何しやがる!?」
「八神竜二、間違いない。この男だ」
「いきなりかましてくれやがって、何の用かって聞いてんやけど?」
「言う必要はねぇな。ここで死んでもらうからよォ!」
「じゃあブチのめして吐かしたらぁ!」

 ここまで攻撃的な人間相手にへりくだる必要なしと判断したのか、敬語をはずして戦闘態勢に移る竜二。右の掌に左の拳を叩きつけ、自身への気合を込める。

「術式展開……ジギル、セットアップ!」

 すると青年が設置型の結界を起動し、デバイスらしきものも起動させる。竜二も腰に下げられたゼクスを掲げて叫ぶ。

「こいつ魔導士か!?しゃあない、ゼクス、セットアップ!」
「Ya.」

 ほぼ同じタイミングで、両者のバリアジャケットが生成された。男はさきほどまでの服装に白いマントがついた程度。竜二は黒のロングコートに赤いダブルジップパーカーで、中には白いTシャツが見える。黒のスラックスにベージュ色のブーツを合わせており、羽織っているコートの背中には赤い刺繍で「双頭乃龍」と縫われている。ゼクスは両腕に装備されたフィンガーレスグローブとなっていた。

「殺すとまでぬかしやがったんだ。ここで死ぬ覚悟できてんだろうなァオイ!?」
「吼えるなやかましい。頭に響く」

 両者の間合いは約3メートルほど。竜二は充分に気迫を込めて、相手の男はただ静かに獲物を狙うかのように構えている。そして何故か彼らの周りにいたはずの人間が散らばっていた。

「隔離結界を展開した。ここから半径20メートル以内で起きたことは結界外の人間には感知できねぇし、そのエリアに近づくことを本能的に避ける」
「そうかい。どうもご丁寧に。まぁ人前で騒ぎになったら面倒やしな」
「そういうこった」

 やはりそういった意識はあったらしい。

「しかしそうなると、殴り合いなら負けられへんなぁ……」
「悪いがお前が俺を殴る事はできねぇよ。なぜなら……」

 すると、竜二が反応する前に男が彼を吹っ飛ばした。

「ぐはぁっ!?」
「……お前のスピードで俺についてこれるわけがねぇからな」

 どうやら男はスピード重視の戦闘スタイルのようだ。しかし竜二も吹っ飛ばされつつ立て直す。

「今のは挨拶代わりだ。何をされたのかわからないまま死に行くよりはいいだろう?」
「なるほど、一瞬のスピードはフェイトよりも上、か……」
「プロジェクトFの副産物がどうかしたのか?それより、無駄口を叩いてる暇はねぇぞ!」
「……そこか!」

 倒れることはなかった竜二だが、すぐ目の前に男が迫る。しかし、今度は竜二の右拳がワンテンポ早かった。タイミングが一瞬早かったものの、男に当てるには充分だったようだ。

「うがッ!?」
「この一撃で倒れるなんて思っとらん。ここからが正念場……なっ!」

 よろける男に対し竜二がラッシュをしかけようとするも、男が右拳を掴んで止める。

「舐めるなよ野蛮人!」
「ぐあっ!?」

 すると、男は竜二を掴んだまま力任せに引きずり倒すが、すぐに立て直して掴まれた腕を引っ張り、懐に入り込む。

「なんだとっ!?」
「さっさと離さんテメェを恨めや!」

 そのまま後頭部を掴んで顔面に膝蹴りを3発、続いて体勢を落として体重を乗せたストレートを顔面に叩き込み、強引に殴り倒した。

「さぁて、殺しはせんが、動けなくはなってもらおうかいな!ゼクス、モードチェンジ!」
「Ya.」

 竜二は右腕のフィンガーレスグローブを鎧穀殻に変化させ、手の甲の部分にパイルバンカーを装備した。

「舐めるなよサルが……こいつで殺す!」
「……はぁ?」

 しかし男も黙っては引き下がらない。ジャケットの後ろに手を回し、ハンドガンを取り出した。しかしそれを見た竜二は興が冷めたのか、嘲るように語りかける。

「……おやおや、質量兵器は管理世界では禁止だと聞いてたんやけどな」
「確かにそうだが、ここは管理外世界だ。局のルールに縛られる必要なんかねぇんだよ」
「そんなんが公務員とか嫌やなぁ……ところが残念ながら、この国における銃刀法というのは相当に厳しいんやわ。そんなもん持ってて、よぉ警察に見つからんかったな」
「サルを騙すのに特殊な技術など必要ねぇな」
「ああそうかい。まぁもうええ。ここでぶっちめたるわ!」

 しかし、拳銃を向けられているというのに竜二は余裕の表情だった。対処できるという自信の表れなのだろうか。しかし、一人の乱入者によってその空間は破壊されてしまった。

「時空管理局だ。おとなしく武器を捨てて投降しろ」
「何っ!?」

 するとそこに現れたのは、何度か顔を合わせた赤髪の青年だった。男が展開していた結界を破って入ってきたようで、掲げた右手には身分証明となる手帳を掲げている。警察手帳と似たようなものだ。

「おい兄ちゃん、なんでここが……」
「お前さんへの話は後だ。まずはこのクソからブツをいただく」
「ブツ……?」

 普段とは違う剣呑な表情、そして純然たる殺意を男にぶつける青年を見ると、男は完全に縮み上がっている。疑問符を頭に浮かべ続ける竜二に、彼が忠告するように話す。

「お前さんは知らなくていいことだ。まぁあえて言うなら、俺がここに来た原因だな」
「はぁ……まぁええわ」

 竜二は戸惑いながらも、興がそがれたこともあって素直に引き下がる。一気に自分にとって不利な展開になったからか、男が苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべていた。

「くそっ、こんなに早く来るとは計算外だぞ……そもそも、なぜこんな管理外世界にテメェがいる!?テメェは地上本部の人間だろォが!本局の俺が担当しているはずの事件になぜ首を突っ込みやがるんだよ!?」
「それはこっちのセリフなんだよ。テメェが受け持っていると『思い込んでいる仕事』は本来俺の仕事でね。まぁテメェが何者かは知らねぇし興味もねぇが、同じ管理局員なら俺の噂は知ってんだろ?面倒くせぇから大人しくしてもらおうか」
「そういわれて大人しくすると……くっ!?」

 抵抗しようとしていた男の全身にバインドがかけられ、蓑虫状態にされてしまった。地面に叩きつけられてもがいているが、外れる気配はない。

「そうやって吠えてられんのも今のうちだぞクズが。テメェが『アレ』を持ってることは調べがついてんだよ」
「何のことだかさっぱりだな……」
「とぼけんのは勝手だがな。俺としちゃどっちでもいいんだよテメェが喋ろうが黙ろうが。喋ってくれた方が楽にすむってだけの話でしかない」
「何を……」
「一度しか聞かねぇぞ小僧。よく考えて答えろよ」

 相手の話すら遮り、青年がドスを効かせた低い声で尋問でもするかのように圧迫を与えつつ質問する。

「『根源の種』はどこにやった?あれは門外不出だ。ジュエルシードよりタチの悪い代物だってことぐらい、テメェらが知らねぇはずねぇだろ?」
「……知らないな。俺が来た時は誰かに奪われた後だった。反応をこの近くで見たから来ただけだ」
「なるほどな、それがお前の答えか?」
「ああ」
「よしわかった」

 すると青年は、左手で胸元を掴んで引きずりあげると右の拳を握り締める。いきなり目の前で何を始めるのかと止めに入ろうとするも、青年の一睨みで足がすくんでしまう。

「おいお前、何す……」
「兄ちゃん。今ここで見たことは全て忘れろ。そうすりゃお前さんには、この件に巻き込まれることはない」
「いやだから……」
「いいな?忘れろ。でなければ巻き込まれて死ぬ。誰かに漏らそうものなら俺が殺す。それだけの代物なんだよ、アレは」
「……」

 普段の気さくな雰囲気を微塵も感じさせない、まさに研ぎ澄まされた真剣のような表情と氷の如く怜悧な雰囲気に飲まれ、竜二はつい頷いてしまった。

「よし、いい子だ」

 そして青年が拳を引くと、そのまま肉を引き裂くような音と共に男の腹部を貫いた。背中から拳が飛び出しており、様々な臓器がその場に散らばる。凄まじい勢いで吹き出していく血液と舞い上がる血腥く生々しい臭気。

「な……」

 竜二は完全に言葉を失った。人殺しなどテレビの向こうの出来事というほどまでボケたわけではないが、目の前で殺人が起ころうなどとは、普通に生きてきた日本人であるならば誰も想定しないだろう。それも武器などは一切使わず、拳一本で腸を文字通りさばいて見せるかの如く凄惨であったため、度合いも倍増。

「おっと兄ちゃん、刺激は強いかも知れんが、この周りは誰も知らないから安心してくれ。もはやこいつがここにいたことすら、この結界を解けば周囲の皆様からすりゃ忘却の彼方だ」
「そう、いう問題や……のうて……」
「んん?ああそうか、まだお前さんにとっちゃ、目の前でこんなショーは早かったか?」

 腹部を貫き、内臓を握りつぶした肉体を放り出し、まるでなんでもないことかのように語る青年を見て、完全に呆然としている竜二。

「まぁ、こんな世界もあるってことだ。お前さんが知ってることだけが、世間の常識ってわけじゃないからな」

 あまりにも凄惨なことをあっさりとやってのけてしまう彼に、完全に言葉を失ってしまった様子。

「そんじゃま、俺はこいつを片付けてくるわ。今日ステージあるのかどうかは知らないが、もし演ってたら見に行かせてもらうぜ」
「……!あ、ああ……」

 そう言い残した青年は、放り出した肉体を担いでどこかへと転移していった。あとに残された竜二は、矢吹たちが探しに来るまでただ呆然としていたという。 
 

 
後書き
 最近また書く時間がとれなくなってきてつらたん 
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