IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐
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第一章 『学園』 ‐欠片‐
第13話 『IS学園』
――『イレギュラー』について考えてみよう。 特定の存在の特異性、本来ならば存在しない、誰もがそれを何なのか理解できない。
イレギュラーとはつもり異端分子だ。役者が演じる物語に『本来ならば居なかった』例外的存在。
――今ここに、そんな『例外』である2人が出会う。
2人は出会い、そして何を想うのか――何を相手に見るのか
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――かなり辛いな、これは」
我ながらきっとその言葉は疲れきっていて、そしてまるで諦めたかのようだった。
ちなみに別に仕事で忙しかったとか、過労で疲れているとかそんなんじゃない――俺をこうさせた理由はたったひとつ、今の自分の『状況』にあった。
今俺は制服姿――だが決して軍服や企業の制服ではない、男性用に作られている『IS学園』の制服を着ている。
そこまではいい、別に制服を来た事でここまで疲れきっているわけじゃない――そう、問題は別にある……
「――ユウ、かなり辛そうだけど大丈夫……?」
「なんとか、な―― 一応やっぱりこうなることは予測してたんだが、考えると体験するのじゃやはり違うよな……悪いなアリア、気ぃ使ってもらってさ」
アリアが心配そうに俺を見て言ってくる。一応自分では表に今の自分の心境を出さないようにしていたつもりだったが、彼女の反応を見る限り、恐らく隠せてなかったのだろう。
変な心配を掛けてしまった、そう俺は思うと同時に気にしてくれた彼女に対して心の中で感謝した。
俺をこんな風―― 一言で言うと『げっそり』させている理由は1つ、今の周囲の環境にあった。
よく生活環境や空気など、あらゆる人が生活したり活動したりする上での環境というのは非常に重要だと聞く。
ああ、その通りだと思う。
個人的に今の環境を自分の言葉で表すなら――『最悪』という言葉に集約されるだろう。
今の自分ならきっと、監獄に放り込まれた人間の気持ちがよく理解できる。
さて、今の自分自身の状況を説明しておこう。
あの後――『織斑 一夏』がISを起動させて今後について話し合った後、結論として俺とアリアは『仏蘭西国企業連』所属のパイロットとしてIS学園へと通う事となった。
俺とアリアが心配したのはフランス政府についてだったが――実は、フランス政府は俺と彼女が森で殺り合った段階で既に嗅ぎ付けていたらしく、事情と状況をデュノアさん、レオンさん、エディさんが説明――そして話し合った結果としてフランス政府も自分達に全面協力をするという話になったそうだ。
どうやら……フランス政府自体もあの人達のコネにあったらしく、また『フランスで男性IS操縦者』が見つかったという事は国としてもメリットが大きい為という理由もあるようだ。
ここで俺とアリアは再認識。本当にあの人達何者だと。尋常ではないコネを持つ3人に変態とも言える技術を持つ主任。本当に味方で良かった。
話し合った後に『仏蘭西国企業連』の結成と俺自身を『二人目の男性IS操縦者』として全世界に公表した。
やはり他国や委員会には目をつけられたが、既に『仏蘭西国企業連』だけではなくフランス政府まで後ろ盾としていた為、そこまで問題は起こらなかった。
そうして今――今日はIS学園の入学式の日であり、『織斑 一夏』がこの学園に入学する日でもある。 こちらの事情で入学式に間に合わなかったため、今俺とアリアはIS学園の受付で手続きをしているのだが……
――予想はしていた、だけど……ここまで辛いものとは思わなかった。今ならパンダの気持ちが良く理解できる。
手続き自体が少し時間が掛かるため、俺とアリアはIS学園の制服姿で受付と入学手続きを行っている。
そしてそんな俺達を見ている周りの視線、きっと多くの感情が入り乱れたその視線に俺は既に疲れ果てていた。
自身の存在は『二人目のIS操縦者』として公表しているため、企業所属としてIS学園に通うと公表している以上こうなることは何度も言うが予測していた。
まるで珍獣を見るような、珍しいものを見るような――玩具を見るようなそんな視線が、俺は嫌で嫌で仕方なかった。
唯一の救いは、隣にアリアが居ていつも通りに接してくれること。自分をよく知っている存在であり、身内である彼女が居るだけで本当に気は楽になった。
それに――ただでさえ綺麗だと感じてしまう彼女が、こうして学園の制服を着ている少し背が低い彼女も、セミロングの金色の髪も、気の強そうな茶色の目も全ていつもとは違うように見えて、新鮮で……何を考えているんだ俺は。
心身滅却。雑念を一瞬で振り払うと、こうしていつも通りに接してくれる彼女に対して心の中で『ありがとうな』と呟く。
「――以上で手続きは完了です、ようこそIS学園へ 『月代 悠』さん、『アリア・ローレンス』さん」
そうして暫くして、入学手続きが全て完了する。俺は受付の人に『ありがとうございます』とだけと言うアリアの方を向く
「さて、と――これからどうしたらいいんだ?」
「うーん……一応さっきの説明と手続きで私とユウは1組って事は分かったけど……直接教室に行けばいいのかな? でもユウ、18だからてっきり最高学年だと思ってたけど違ったんだね」
「あー……あれじゃないかな、『二人目の男性操縦者』だから、最高学年にすると大体1年で卒業になっちゃうし、それと単位やカリキュラムの関係じゃないか?」
「確かに…という事は、ユウ、まるで留年生だね?」
「まぁ確かに立場と年齢上言われると否定できないな…だけど、これでも空軍の士官学校ではそれなりの成績で卒業してるんだぞ?とはいっても、また1学年からか――まあ仕方ないと言えば仕方な――」
「ああ、ここに居たのかお前達――すまないな、会議で私も予定したより少し遅れてしまった」
俺の言葉は最後まで続く事無く、俺達に対して話しかけてきた人物によって言葉は遮られた。
ふと、俺とアリアが声の主の方向を向くと――そこに存在したのは、『黒』であった。
黒のスーツに長めの黒髪、鋭い吊り目にまるでモデルのようにスラッとした女性にしては長身の人物――そこに居たのは
「――『ブリュンヒルデ』"世界最強"、織斑千冬」
そう俺が呟いた瞬間――目の前から彼女が消えた。そして同時に自身の頭の上から殺気と、『当たっては不味い』という直感が感じられる。
俺はそれを感じると同時に姿勢を低くして後ろにバックステップ。
体制を整えて先程まで自身が居た場所を見ると、そこには『出席簿』らしきものを完全に振り切った『世界最強』の姿があった。
かなり今のはヤバかった、後一瞬でも対応が遅れていたら間違いなく直撃だっただろう。
「どういうつも――」
「何故避けた?」
どういうつもりですか、と俺が聞こうとしたのに対して彼女はそう俺に問いかける。いきなり『世界最強』がこちらに攻撃してきた事によりアリアも一瞬臨戦態勢を取ろうとしたが、その一言で唖然とする。
「単純に、『受けると不味い』――と感じ取ったからですが……ですが、いきなり何をするんですか?」
「手を抜いたつもりは無かったのだがな――いや、すまないな 私がその『ブリュンヒルデ』という名を嫌っているというのが大きな理由でな。後、生徒に対しては厳しく容赦なく何かあれば鉄拳制裁というのが私のやり方だ。先程、私の事を『織斑千冬』と呼び捨てにしただろう?それでだよ」
確かに言われてみればそうだ。俺としては呼び捨てで呼ぼうなどというそんなつもりは全く無かったのだが――よくよく考えると初対面の女性に対して呼び捨てなど最低の行いだろう。
うん、つまり完全に悪いのは俺――しかし何度も言うが、さっきのはかなりヤバかった。もし避けれなかった事を考えると恐ろしくて仕方ない。流石は世界最強、とでも言うのだろうか。
「申し訳ありません。確かに自分に非があります――ええと、『織斑先生』でよろしいのでしょうか?」
「ああ、それで構わん――お前が『月代 悠』でそこにいるが『アリア・ローレンス』だな?フランス政府と『仏蘭西国企業連』のルヴェル大佐から話は聞いている。事情があって入学式には出席できず、遅れるとな」
「確かに…俺――自分が『月代 悠』で彼女が『アリア・ローレンス』で間違いないですが、エディさん――うちの養父をご存知なんですか?織斑先生」
「なんだ、あの人から聞いてないのか?――あの人が『戦闘機でISを倒した』というのは知っているな?特殊な条件下ではあったが、打鉄を使用してあの人に負けたのはこの私だよ」
俺とアリアは織斑先生からその言葉を聞いてただ、唖然とするしかなかった。
エディさんが戦闘機でISに勝ったという伝説は聞いたことがある――だが、どんな状況下であれ理由があれ、倒したのは『ブリュンヒルデ』だと!?
「いや、あの時は私もまだ未熟だったが完全に負けたよ。今は負ける来はしないがな――そして、戦術や戦略についてもあの人から一部教わっている、そうだな……私にとっては『恩師』のようなものだ」
頭痛がしてきた…いや、もう周りからの視線なんて気にならないほどに。
「…ユウ、あのね」
「言うなアリア――多分俺も同じ事思ってる」
うちの身内は化け物だらけかよ。
あとアリアが心なしか疲れた表情してるなんて恐らくだが初めて見たぞ。なんだこの攻性兵器。
「おっと……話が逸れてしまったな。先程も言ったが事情は聞いている、恐らくお前達2人はこれからどうしたらいいか分からなくなっていたのではないのか?」
「確かに、その通りです――手続きを終えたのはいいんですが、自分も彼女もどうしたらいいのかわからない状態でして……」
「だろうと思ったよ。今から私もお前達の教室――1年1組に向かうところだ、着いて来い。それから教室に着いたら、お前達の紹介も行う、自己紹介でも考えておけ」
「は、はぁ……わかりました」
織斑先生にそう言われると、着いて行くしかないのだが……いや、しかしなぁ?
例えありえない可能性だろうとも、そろそろエディさんと袂を別ってしまった場合の対策は考えた方がいいのではないだろうか?
先生の後ろをのそのそと歩きながら、そんなどうでも良い事と一緒に多くの事を考える俺だった。
これから、全てが始まるのだ――真実を探して、そして真実を知った上で未来へと進む道が。
可能性を追い求めて、抗い続けて、その果てにある道が。
まあ、そんな大きな話の前に、まずは小さな話をクリアせねばならない。
大勢相手の自己紹介なんて、一体いつ以来だろうか?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
状況を整理しよう。まず――あの後織斑先生の誘導で1年1組の前まで来た。そこで『少しここで待っていろ』との指示を受けて俺とアリアが待機してる訳だが――
先程から目の前の教室の中からは『鈍器のような物』で何かを叩いたような音や、誰かの叫び声、それから教室の外まで聞こえる黄色い叫び声が聞こえていた。
鈍器と言えば、日本に来るまでの間に呼んでいたノベルを思い出した。
IS学園に行く事になったと空軍時代の友人であり、現在は二児のパパである『アレックス』に話をしたら、彼からの餞別と共に『飛行機の中で読め』との事で1冊のノベル本を渡されたのだ。
彼は日本の文化が好きで、自宅には忍者や侍の事が書かれた雑誌が置いてあったが最近別の方向にも興味を持ち始めたらしく、今回渡されたのは多分それだろう。
渡されたのは――1000ページを超えるノベル。
繰り返すが、ノベルだ。日本語で言うと文庫本。決して辞書ではない。
日本にはたうんぺーじと呼ばれる住所録や、こうじえんという辞書があるそうだが、それを彷彿とさせる厚さである。
最初にそれを見たときは、活字にそれほど強いわけでもない俺としては、流石にちょっと引いてしまった。
しかし、手持ち無沙汰になりがちな飛行機の中では暇潰しとして丁度良い、これはアレックスに感謝だな――なんて思いながら読んでみた。
意外や意外、これがどうして、中々に面白いのだった。
彼曰く、どうやらこの作者の作品に魅せられ、中毒患者や末期患者と呼ばれる人種がいるらしいが、正直それについてはよくわからない。
だが確かに、この面白さなら魅せられるのも仕方ないのかもしれない――うむ、気がつけば1000ページ程度なら普通と思えるしな。どこもおかしくは無い筈だ。
ちなみに、俺がその分厚い本を読んでいた時の出来事。
隣に座るアリアにソレを見られ、その本面白いよね、私全巻持ってるよ――と言われたのは、また別の話だ。
閑話休題。
そんな、通称鈍器のような本についてのあれこれを延々と回想していた俺だったのだが、それはおいておこう。
肝心の教室の中での騒動が、一向に収まる気配がないのだ。
一体何が起こっているのか、もしかすると想像しない方が、いやむしろ気にする時点で俺の精神に深刻なダメージを与えかねないのではないか――そんな思考の逃避に陥りかけた時。
「…さて、バカはこれくらいにしてだ。お前達に紹介しておく人物が2名いる。訳あって入学式とHRには間に合わなかったが、先程到着した――入って来い」
俺達の意識を無常なる現実に引き戻したのは、聞き覚えるのある声なのだった。
来た――そう思うと、俺とアリアは教室の入り口を潜り教室の中へと入った。
「え……男?嘘、まさか――」
「もしかしてもしかしてっ……」
教室の至るところで女子生徒達のざわめきが聞こえる、そうなるんだろうなあとは思っていた。
やはりというか、最初に感じたのは視線、視線、視線――受付のときにも感じたが珍しいものを見るかのような視線。
正直、気分がいいものではなかったが……どうしようもないと割り切る。
「自己紹介をしろ、2人とも」
織斑先生にそう言われて、ひとまず先程歩きながら考えた自己紹介をする事にした。
「初めまして、フランスから来ました『仏蘭西国企業連』所属の『月代 悠』です。名前は日本人ですけど、育ちはフランスです。趣味はツーリング、ドライブ、後機械弄りとかも好きです。皆さんより僅かに年上の18歳という年齢ですが、あまり気にせず仲良くれると嬉しいです。よろしくお願いします」
「同じくフランスから来ました『仏蘭西国企業連』所属の『アリア・ローレンス』です。生まれも育ちもフランスで、趣味は料理に読書――かな?気軽に話しかけてくれたりすると私自身嬉しいです、これからよろしくお願いします」
そう俺とアリアが自己紹介を終えると、いきなり静まり返る教室。もし効果音があるとしたら『しーん…』という効果音が付くだろう。
しかし…俺もアリアも何か変な事を言っただろうか?
ふと織斑先生の方に視線を向けると、完全に笑いをこらえていた。やはり何かしたのだろうか…
俺の視線に気がついたのか、織斑先生は周りに見えないようにこちらに向かってジェスチャーをする
――いいから だまって みみをふさげ ?
何の事だろうか…アリアも織斑先生のジェスチャーに気がついたようで不思議そうにしている
「きゃ…」
そんな声が聞こえて、何か嫌な予感を感じる。例えるなら――アリアと模擬戦してる時にショートレンジに最大加速状態で踏み込まれたくらいに嫌な予感が。
そこで今織斑先生が示したジェスチャーの意味をなんとなく察する、俺とアリアは――ほぼ同時に耳をふさいだ。
「きゃぁぁぁぁあああああああ―――ッ!」
「男ッ!二人目ッ!それもフランスで発見された男性操縦者ッ!」
「黒茶色のミディアムショートに鋭いグレーの目ッ!――全力で頼りたくなるお兄さんタイプッ!」
「しかも年上で礼儀正しいッ!兄にしたいタイプ!私のお兄さんになってぇぇえええ!!!」
「私を愛のドライブに連れて行ってください!お兄様!」
「セミロングの金髪に気の強そうな茶色の目!でも凄く礼儀正しい!尊敬したくなるお姉さまタイプッ!」
「千冬様に続いて更にかわいくて綺麗でお姉さまみたいな存在っ!この気持ち……まさしく愛だっ! 私女だけどッ!」
「私、千冬様とローレンスさんに一目惚れしました!お姉さまと呼ばせてくださいッ!」
「織斑君に加えて二人目の男子ッしかもうちの組!」
「それから綺麗なお姉さんタイプの同級生っ 9月生まれで乙女座の私にはセンチメンタリズムな運命を感じられずにはいられないッお姉さまぁぁあああ!!!」
……もうやだ。可能なら今だけ全力で現実逃避したい。
隣のアリアも引きつった笑みを浮かべていた――うん、気持ちはよくわかる。 俺も今そんな感じだろうし
今朝から疲れる事続きで更にこの追い討ち、これがIS学園か――
「あー、うるさい静かにしろお前達。2人も困惑しているだろう――聞いたとおり、2人は『仏蘭西国企業連』所属として学園に来ている。自己紹介にもあったが仲良くしてやれ、反論は許さん――さて、二人の席だが――月代、お前はそこだ。そしてローレンスはあそこだ」
織斑先生に俺達は『わかりました』と返すと、座席に着く。先程織斑先生が激を飛ばしただけあってか、この時にそれ以上何かされたりすると言う事は無かった。
そして、席に着いた俺の目には――自身の席の少し前に座る『織斑 一夏』の姿が写っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ホームルーム終了後、俺とアリアはクラスの女子、それから恐らく他の教室や他学年からやってきたと思われる女子生達に質問攻めに合っていた。
確かに新しい環境で交友を深める事は大切だと思う。だが、とりあえず俺としては『織斑 一夏』と話をしてみたかったんだが……まあまた機会があるだろうと割り切ってその時は話をしていた周りに対しての質疑応答をしていた。
俺自身、自分のほうの対応で手一杯だったためちらっとしか見えなかったがアリアのほうにも人だかりができており、大変そうにしていた。
無論、その状況は彼――『織斑 一夏』も同じな訳で。同じ男としては気持ちがわからんでもない、同情する。
そうして今は1時間目の『IS基礎理論』を終えて、現在は休み時間。先程ある程度対応したからか、アラアの方を見ても先程のように大量の人だかりが出来たりしているという事はなかった。教室の入り口には人だかりが出来ているけど。
さて――丁度いい、俺以外の『男性操縦者』である彼と話をしてみようじゃないか。
ちなみに、この時アリアは同じクラスの同級生に捕まっていた。確か名前は『布仏 本音』さん、どことなくほんわりとした見ててこっちが癒される少女と、彼女の友人の『谷本』さんと一緒に楽しそうに話をしている。
本当に、最初の頃の彼女と比べて、今みたいな――どこにでもいるような、楽しそうに笑顔を浮かべる普通の『女の子』に変われてよかったと心の中で思う。
それはさておき、俺は立ち上がると自身の席の前のほう――そこに座りながら憂鬱そうにしている『織斑 一夏』に話しかけた
「大分、疲れた顔してんな――まあ、その気持ちはわからんでもないけどな」
不意に話しかけられて驚いたのか、彼は一瞬ビクッとなると俺の方を向く
「えっと、確かさっき自己紹介してた――『月代 悠』さんでしたっけ?」
「ああ、月代でも悠でも好きなように呼んでくれ。それと――別に年上だからとかで気を使う事もないさ、タメ語に呼び捨てでいい、そのほうが親しみが持てると思うしさ」
「そうか、なら…そうさせてもらうかな。 俺は織斑一夏、さっきは人が多くてさ、声掛けようかとも思ったんだけど難しくてさ――これからよろしく頼むな、『悠』」
「ははっ――それは俺も同じだよ、さっきは色々大変だったからな、お互いに。ああ、こちらこそこれからよろしく頼むよ、『一夏』」
お互いにそうやって自己紹介すると、互いに握手を交わす俺と一夏。周りから女子生徒の黄色い声が聞こえているが気にしない。気にしたら負けだ、レッツ現実逃避。
「……ちょっといいか」
ふと、俺と一夏が話しているとそこに割り込んできた一人の女子学生が居た。確か――篠ノ之 箒。篠ノ之 束の妹で、俺の…… 何を考えているんだ俺は。
憎しみの心から出そうになった言葉を俺は押さえ込む。そうだ、何をしているんだ俺は――『彼女』は関係ないだろうが。『彼女』は篠ノ之 束の関係者かもしれないが、篠ノ之 束ではない、篠ノ之 箒という一人の存在だ。
そんな彼女に黒い感情を持つのは間違いだし、それに――『IS』を持つ自身が憎しみに囚われちゃダメなんだと、そう言い聞かせる。
内面でそんな事を考えながら、俺は平静を装って口を開いた
「知り合いか?一夏」
「あ、あぁ――箒、だよな?」
「……」
目の前の黒髪をポニーテールにした、鋭い目をした彼女――篠ノ之 箒は暫く黙っていると、唐突に口を開いた
「すみません、月代さんと言いましたか―― 一夏を少し借りたいのですが、よろしいでしょうか」
「あー、敬語じゃなくていいから。逆にこっちがそれ気にするからさ―― 一夏の知り合いか? なら積もる話もあるんだろうし、俺はここらで失礼するかな――それじゃ、またな一夏」
「悪いな、悠――それじゃまた後で」
そう言うと俺は自分の席に戻ることにした。
しかし――篠ノ之 箒、か…やはり此処は、全ての答えが集って、そして可能性を探す事のできる場所――なんだろうな。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あの後、色々とあった。簡単に言えば俺の頭痛の種が増えて、本格的に保健室にでも行こうかと思ったくらいだ。
まず、一夏と篠ノ之さんが戻ってきた後の授業、1時間目と似たような内容で『IS基礎理論』に現在のISについての歴史や知識についての内容を加えたような授業だったのだが、そこで問題が起こった。
事が起こったのは山田先生――うちのクラスの副担任の『山田真耶』先生が授業中に『ここまでで何かわからない所はありますか?』という質問が発端だった。
俺もアリアも、ISの知識と言うのは持っていたし――『仏蘭西国企業連』所属として稼動データやテストなどをしていれば嫌でも知識は身につく。それと、学園から送られてきた『必読』と書かれた参考書、あれも一通りは目は通してある。
そして山田先生に質問された時に一夏は『ほとんど全部、いえまったくわかりません』と言い切ったのだ。流石に唖然、炸裂する織斑先生の出席簿アタック、崩れ落ちる一夏、それを見てただただ苦笑するしかなかった。
自分の弱さを素直に暴露するのはいいことだと思う――しかし、時と場合、つまりは状況を選べよ一夏。だがその勇気だけは俺は尊敬しよう そう心の中で一夏に合掌した。
確かに分厚いとは思ったが、たかが辞書くらいの厚さじゃないか。普通だろう、普通。それとも、俺の感覚がおかしいだけなのだろうか……?アリアも特に問題なさそうにスラスラと読んでいたし、普通だと思うのだが…
そして現在、その一夏がやらかした授業の後の、つまりは二時間目の休憩時間。俺は今度はアリアを連れて一夏の席を訪れていた。
「一夏……ありがとう、俺に本当の強さと勇気を教えてくれてありがとう――お前は最高に勇気のある『いい奴だった』よ」
「待て待てぇ!色々突っ込みたいが悠、お前のその言葉凄く俺を馬鹿にしてないか!?台詞だけ聞いてればすげぇカッコいいのに、後『奴だった』って何だよ、生きてるよ俺!」
そんな漫才のようなやり取りを見ながら、アリアは笑いを堪えていた
「あー…ローレンスさんだっけ?えっと、そんなに面白かった?」
「ん…ゴメン、織斑君。ユウとのやり取りが面白くてつい、ね――そのままテレビとかで漫才やってもやってけるんじゃない?ユウ」
「うん、そうだなあ――なら芸名でも考えるか?俺が月代で一夏が夏だから、『ムーンサマー』とかどうだ?」
「真面目に考えるなっ! なんだよこの流れ、俺は完全に弄られポジなのか!?そうなのか!?」
「安心しろ――半分冗談だから」
「もう半分は本気かよっ…全く…」
そんな漫才を繰り返していると、とうとうアリアは堪えきれずにかなり爆笑していた。
悪いな一夏、朝から色々ありすぎたせいで俺はもう現実逃避しようかと思ってたんだ。
その矢先お前といういい友人に出会えて、俺は理解したよ――お前は実に弄り甲斐のある奴で、そしていいツッコミ役だ。流石は一夏だ
と、半分冗談は置いておいて、冗談抜きで本心から俺は一夏とは仲良くなれる気がした。
少なくとも、話してみる限り悪い奴ではない。人当たりはいいし、他人を惹きつけるような、そんな力を持っているとも思う。
だけど――その心の奥底に、覚悟や信念はあるのだろうか?彼は決断を迫られたとき、選択できるのだろうか?
――きっと、今は無理かもしれない。でもこれから一夏は強くなっていく、俺はそんな確証のない確信を心に抱いていた。
「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」
「何か用か?」
「何かな」
上から、一夏・俺・アリアと声が掛けられたときに返事をして、その声の主に振り返る。
そこには、一見して『お嬢様』という風貌の少女が立っていた。彼女は、俺が見る限り――まさしく今の時代を象徴しているような、そんな存在に思えた。
戸惑っている一夏を見ていられなくなり、最初に口を開いたのは俺だった。
「何か用か?――イギリス代表候補生にして入試次席の『セシリア・オルコット』さん?」
俺は人当たりのいい笑顔を作ると、そう言った。少なくとも――途中の一言は余計だったのかもしれない。
「誰が次席ですか誰がっ――ふ、ふん……私に声を掛けられるだけでも光栄な事ですのよ?もう少し、ちゃんとした対応は出来ないのかしら?これだから極東の猿は――」
「俺、確かに名前は日本人だし日本生まれだけど、ずっとフランスに居たんだが? 確か自己紹介でも言ったと思うんだけど――」
「し、知っていますわっ――そこの方に言ったんですのよっ」
そういいながら一夏を指差すオルコットさん。
嫌な感じだ、自分の立場をただ振りかざして――周りが何も見えていない。
まさに今の『女尊男卑』社会の、今時の女の子――俺が彼女に対して最初に持った印象はそれだった。
そう思っていると、一夏が俺の肩をポンポンと叩いた
「なぁ、悠」
「どうしたよ一夏、さっきの芸人デビュー本気で考えてくれる気にでもなったのか?」
「いやそれはないな。そうじゃなくて、聞きたいことがあるんだ――質問だよ質問」
ほほう、一夏が質問してくれるとは。しかし一体なんだろうか?授業の内容についてならいくらでも教えてやる事はできるが――
「代表候補生って何だ?教えてくれ悠」
その瞬間、クラス内部でその話を聞いていた女子生徒たちがまるでギャグマンガみたいにずっこけて、オルコットさんは引きつった笑いを浮かべ、アリアも頭を抱えて呆れたような仕草をしていた。
一瞬先程のやり取りを思い出す、これはさっきの漫才みたいな流れの続きなんじゃないかと
――それなら俺もそれ相応のボケで返さなければならないと思ったが、一夏の目は極めて真剣だった。どうやら……マジらしい。
「あー…うん、一夏?一度しか言わないからよーく聞けよ?」
「おう、わかった」
「――代表候補生っていうのはな、国家代表のIS操縦者の候補生の事で、基本的に政府や企業がバックにつく事が多い。簡単に言えば才能のあるエリートって事だよくわかったか?」
「そう、エリートなのですわっ!」
一夏ではなくオルコットさんが大声を出してそう言うと、ビシッと優雅なポーズで人差し指を一夏に向ける。
「本来ならば選ばれたエリートである私のような優秀な人間に――」
「で、一夏、ちゃんと分かったか?」
「おう、悠の説明はすげぇ分かりやすいな――所でさ、さっき政府や企業って言ってたけど悠やローレンスさんも候補生なのか?」
「いや、俺とアリアは候補生じゃなくて企業所属ってだけかな」
「そうだね、フランスの代表候補生は他にいるからね――私達は企業がバックについてるかもしれないけど、候補生じゃないよ」
「なるほどな、それでさ――」
「訊いてますのッ!?」
完全にスルーしていたが、ついにオルコットさんが怒る。流石にスルーしていたのはまずかっただろうかと思ったが、ふとここで思い出す
「あれ、そういえばさアリア――学園入試の主席ってアリアじゃなかったか?」
「うん?――ああ、確か私が主席だね でもただの肩書きだけだよ?」
「おぉ、凄いなローレンスさん――主席なのに見栄張らないっていう辺り大人だよなあ…本当に俺と同世代かと疑うな…」
「ま、待ってください!どういうことですのっ!? ローレンスさん、貴女が入試主席って――」
オルコットさんが最後まで言葉を紡ぐ事無く、その途中で無慈悲にも『キーンコーンカーンコーン』と休み時間終了のチャイムが鳴る。
「っ……ま、また後で来ますから逃げないでくださいましっ!よくって!?」
それだけ言うと、オルコットさんは急いで席に戻っていった
「……なんだったんだ?」
「わからん」
俺と一夏は、ただ頭の上に疑問詞を浮かべているだけだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その後の授業時間、休み時間のやり取りの後の授業は山田先生ではなく、織斑先生が教壇に立っていた。そして山田先生は、その教壇の横でうんうんと頷いていた。
確か、この時間はISの基本装備と各種装備についての説明だったか、しかし――織斑先生が教壇に立っているのは何故だろうか?
うーん、と頭の中で考え事をしていると織斑先生が口を開いた。
「さて、授業に入る前に話がある――再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を選出しなければならないのだが、誰か居ないか?クラス代表というのはIS学園の委員会や生徒会の会議への出席、先程も言ったが対抗戦への出場、そうだな――分かりやすく言えば単純にクラス長でクラスの代表だと思ってくれればいい、誰か居ないか?自推他推は問わない」
事前知識として確かにその事については勉強してはいる。そして――恐らくだが、俺の考える限りじゃきっと――俺か、一夏が推薦される。
何故か?そんなもの簡単だ。『単純にそのほうが面白い』からだ。そのほうが盛り上がる、楽しい、たった世界に2人しか居ない男性操縦者を代表にすれば確実に楽しい事になる――きっと、そんな理由で推薦される。
そんな俺の当たって欲しくない予想は見事に当たる事になって、そして俺はため息をつくことになる。
「はいっ!織斑君を推薦しますッ!」
「じゃあ私はお兄さ――月代君を推薦しますッ!」
ほらな、そうなると思っていた。俺は内心で毒づいた。
その後も何人かの女子生徒が一夏と俺の名前を呼ぶ、きっと――その時の俺は嫌そうな顔をしていただろう。そして、ふと目が合った織斑先生は、顔は笑っていたが、どことなくすまなさそうな顔をしていた。
「……さて、では織斑と月代以外に誰か居ないか?居ないならばどちらかに決定するぞ?」
「お、俺!?ちょっと待ってくれ千冬姉、俺はそんなの――」
「織斑先生だ、馬鹿者――自推他薦は問わないと先程言った、無論他薦されたものは拒否権などない――月代、お前はどうだ?」
俺は内心でため息をつく、本当に今日は疲れる日だ――そう思いながら。
だけど、そんな疲れもある出来事で吹き飛ぶ事になるなんて、今の俺は知らなかった。
「自分は構いません、クラスの総意として自分が推薦されるのでしたら――それに従うだけ――」
「待ってくださいッ!納得がいきませんわッ!」
俺の言葉は最後まで続く事はなくて、 バンッ!と机を強く叩いて立ち上がったのは――オルコットさんだった。
「そんな選出認められませんわ!大体、男がクラス代表などといい恥さらしで――私、このエリートであるセシリアオルコットにそのような屈辱を1年間味わえと申されるのですかッ!」
俺はただ、それを黙って聞いていた。考え事をしながらオルコットさんの言葉を聞いていた
「実力から考えればこのセシリア・オルコットこそがもっとも代表に相応しいのは目に見えています!それを――男性だからという理由で男を代表にされては困ります!そのような、極東の猿が演じるサーカスに付き合う気など毛頭ございませんわッ!いいですか?代表とは実力が最もある者、『力』が最もある者こそが相応しいのです!そして――それは私、セシリアオルコットですわっ!」
一夏が何かを言いたそうにしており、流石に限界が来たのか言葉を放とうとしていたが――俺はそれを制止した。
「ならば、君が代表になるといい、オルコットさん――君が最も力があるというなら、最も相応しいと『自分で』思うならそうするといい。俺も一夏も、喜んで辞退しよう――だがその前に、教えてくれないか?オルコットさん」
「何ですの……?」
「――君の言う『力』とは何だ?そして『力』を持つ者としての君の覚悟は――何だ?俺に、教えてくれ」
「そ、それは――私は力があるから、実力もありますから、それを考えれば――私が最も相応しいという事くらい――」
「違うんだよ、『セシリア・オルコット』さん――それはよくわかったよ、君が自信を持って、胸を張って言った事だ。だけど――君のその力を持つ者としての覚悟は何だ?」
「それ…は……」
「それとも、君は――ISという力を持っているだけで、自分は他人より上だと、力があると思っているのか?」
「ッ――!貴方、馬鹿にしてますの……?いいですわ、決闘ですわッ!月代悠、そして織斑一夏――貴方達2人に決闘を申し込みますッ!一番力があるのが誰かわからせてあげますわ!――恐れをなしてわざと負けたりしないでくださいね?もしそんな事をすれば――私の小間使い、いいえ、奴隷にしますわ!」
「……いいだろう、その勝負受けよう。やるからには全力だ、手加減はしない 一夏、お前もいいか?」
「――上等だっ!俺も男だ、その勝負受けてたつぜ!逃げも隠れもしない、やるからには覚悟しろよ!」
すると、突然教室がざわめき出す
「お、織斑君も月代君も――本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって――もう大昔の事だよ?謝って許してもらったほうが…」
「そうだよ、月代君も織斑君も相手は代表候補生だよ?勝てる訳ない――」
「そ、そうだよー、ハンデもらいなよー」
クラスの中から、そんな言葉が聞こえてくる。確かに――今の社会と現実を見れば、そうだろう。
だけど、俺は『それでも』と言い続ける。確実に負けるという保証はないのだ。ならば戦おう、そして俺は……『セシリア・オルコット』は間違っていると思うから。
一夏も思うところがあるんだろう、ふと一夏の手を見ると――強く握り拳を作っていた。
そして、クラスの生徒達の言葉が自分への追い風と思ったのか、オルコットさんは言葉を紡ぐ――それが、引き金になるなんて知らずに
「その通りですわ、男では女には勝てません――そう、それは決まっているのですわ。ですが逃げる事は先程も言いましたけど許しませんことよ?まぁ?私は寛大ですから?――地面に這いつくばって許しを請うのなら私も考えますけど?そう、結果は変わりませんわ。『貴方達は何も変える事ができませんわ』」
バァンッ!という大きな音が、教室に響く。
そしてその言葉が引き金となった。
いきなり先程オルコットさんが机を叩いた時より遥かに大きな音を立てて机を叩き、立ち上がって――オルコットさんを睨み付けている存在があった、それは――アリアだった
あの馬鹿ッ……完全にキレてるな――! 俺は内心そう思った
そこには、俺が知っているアリアの――いつも笑顔で笑ったり、怒ったりしているような彼女はなくて、その時の彼女の目は――完全にキレていた。
「ねぇ――オルコットさん」
「は、はぃっ!」
そのアリアの声は、とても冷たくて――まるで冷たいナイフみたいに鋭くて。今にもオルコットさんの喉を切り裂くのではないかと思うほどに冷たかった。
「さっきから聞いてれば、結構好き勝手に言ってくれるね?だけど、それは私いいんだ――でもね、オルコットさんは言っちゃいけない事を言っちゃったんだよ」
「い、言ってはいけない事――?」
まるで天使みたいに、それでもとても冷たい笑顔を――オルコットさんに歩み寄ると、アリアは彼女に向けた
「『何も変えることはできない』そう、言ったよね――私はね、ユウの事を何も知らないくせに、『何も変えられない』と言った貴女を許せない――それだけは絶対に、私が許さない――織斑先生」
「……なんだ、ローレンス」
「先程、自推他薦は問わないと申されましたよね?」
「ああ、確かに言ったが――」
「だったら私が自推します。私が、『入試次席』のオルコットさんに勝負を挑みます――ねぇオルコットさん、提案があるんだ」
先程から変わらず、ニコニコと笑顔をオルコットさんに向けながら、アリアは言った
「な、何ですの…?」
「もしオルコットさんが勝ったら、オルコットさんを認めてあげる。実力も何もかも、認めてあげる――そして奴隷でも小間使いでも、何でもそっちがしたいようにしてくれていいよ?けどね――もし、私が勝ったら」
アリアは、オルコットさんに更に近づくと、彼女の金色の髪に指を入れて梳かしながら――変わらぬままの笑顔で言った
「謝ってね? ユウと、織斑君に――『自分が間違ってました』ってね。 そんな提案を私はしたいの。勿論、『受けてくれるよね』オルコットさん?」
「う、受けて立ちますわッ!私を誰だと思って――私は、『セシリア・オルコット』ですのよっ!」
「うん、それじゃあ――楽しみにしてるね? 織斑先生、勝手に話を進めましたけど……『私とオルコットさん、そしてユウに織斑君』この4人で勝負をして、最終的な結果で判断した上でクラス代表を決める――それで、どうでしょうか?」
織斑先生は、ふむ と一言言った後に少し考えてから
「いいだろう、ではローレンスの言ったように4人で試合を行い、その最終的な結果でクラス代表者を決定する事とする。試合は1週間後の月曜日、場所は第三アリーナだ。各自、悔いの残らないように準備をしておく事、いいな?では、中断したままだったが授業を始める」
そう言った時の織斑先生は、どことなく楽しそうだった。
まさかアリアがキレるとは思っていなかった、だが――自分と一夏の為にああして怒ってくれたアリアに対して、心の中で俺は『ありがとう』と言った。
とにかく、入学早々大変な事になってきた――本当に、初日から疲れるし大変な事になってくるし、やれやれだ
そう心の中で思っていても、きっと――俺は心のどこかでこれからの事を期待していたと思う。
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――2人の少年は出会う。出会い、友となり、運命という道を歩いていく。 そして、未来で互いの事を知ったとき、一体何を思うか。
――少女達もまた、出会い、ぶつかり合い、知ろうとする。 相手の事を、自分自身の事を。
『物語はまだ始まったばかりだ、今はまだ、始まったばかり。 そんな始まりで、新たな存在と2人は出会う』
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