IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐
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序章 『交差』 ‐暴風の竜騎兵と紅の姫君‐
第10話 『約束』 中編
――昔の私は『不器用』だった。 生きる為に他者から大切なものを奪い、そうすることでしか自分を表せなかった。
――だけど、そんな私をを変えたのは、一人の少年。空を愛し続ける一人の少年だった
『力』を得てしまった少年の覚悟と決意を聞き、私は考えた。
自分も、彼のようになれるだろうかと彼の隣に立てるだろうかと。
自分は彼の心に触れる事で『暖かさ』を知った、彼と過ごすことで、自分は変われた。
殺人鬼ではなく『一人の人間』として、決意と想いを持てた、未来を望めた。
――だけど 私が彼の『暖かさ』に触れる度に感じるこの感覚は、何? 前に進もうとする彼を見る度に感じるこの痛みと恐れは、何?
『少女もまた、新たな力を得る。そして未来への覚悟を決める――だが、心の奥底でそんな迷いが、戸惑いが生じた』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
デュノア社主催の晩餐会、あれから暫くが経過した。
あの日から、色々大変だった――まず、話にあった『デュノア社』と『ネクスト・インダストリー』の提携、その内容についての確認と俺とアリアの企業所属について。
それから、デュノア社とネクスト・インダストリーが提携し『仏蘭西国企業連』を結成、自分達が所属する『企業』についての話だ。
当初からの話だと、俺とアリアは『ネクスト・インダストリー社』に所属する事になっていた。
だが、先日の『連合』結成の話もあり、自分達の所属企業についてはどうなるものかと思っていた。
その件について確認すると、一企業ではなく『仏蘭西国企業連』所属として扱われる、という事になっており、企業所属に関しての書類や手続きに追われた。
デュノア社の協力もあってか、予定していたより早く話や手続きは進んだ。そして今日は…俺とアリアのISについての用件を予定していた。
先日から調整を重ねていた彼女のIS<ブラッディ・リーパー>の改修と調整が完了したのだ。なので今日は『ネクスト・インダストリー本社』へと行き、彼女のISの受け取りと説明について――それから、もうひとつ用件があった。
『本社』のIS開発主任である『アラン・グランヴァル』――俺自身は『主任』と呼び、主任は俺の事を『ユウ坊』、アリアの事を『アリア嬢』と呼ぶ。
数日前にその主任から連絡があった。内容は『テンペスト』の再調整案とデータ分析の結果についてだった。
『テンペスト』については、エディさんに教えて貰えた範囲、それと俺が『テンペスト』に今後の為にも開示可能な情報公開を要請したところ、ある程度の機体性能と武装データを開示してくれた。
それをレオンさんや主任が調査を行った結果、更に判明した事があったのだ
結論から言えば、『更にリミッターを掛ける』という事だった。
元々話を聞く限りでは『テンペスト』は『軍用IS』として製作されたためか現行の『競技用』のISと比べると、根本的なスペックがが違いすぎるのだ。
例えばコイツに搭載されているバスターライフル<インフェルノ>、一度アリアと戦った際に使用したが、加減をしたにも拘らず放出された収束砲は着弾点に大きなクレーターを作った。
俺がコイツに機体と武装のスペックを可能な限り提示させたところ――もし<インフェルノ>をリミッター無しの状態で放出した場合、軽く『絶対防御』を貫通し相手を消し飛ばしかねないほどの威力があることが判明した。
俺自身、覚悟はしていたつもりだった――
『軍用』という事である以上、間違いなくコイツは『人を殺す』為に作られている。
そう作られたとしても、俺はそんな風に力を振るいたくないし――きっとコイツも嫌がってるんじゃないかと思った。
『現行の競技用のIS』とはスペックと目的が違いすぎる――だからこそ、俺自身の意思で主任とレオンさんに『最も重い制限リミッター』を掛けてもらう事にしたのだ。
つまりは、俺が修正案を提示――具体的には全体的な能力を『第三世代』まで引き落とし、武装についての威力も競技用の物と同レベルまで威力制限を掛ける事を提案した。
俺自身のコイツに対する想いと、後々『男性操縦者』として公表する際に色々と都合が良いからというの理由だった――もしも『男性操縦者が現れて現行のISを遥かに上回るオーバースペックの『力』を持っている』と世界に知れたらどうなるか。
きっと、その段階で自分達のやって来た事、力を持ちながら未来をめざしていくという願いは、世界中の敵と認識されて消されるだろう。
自分の存在を公表して、それからどうなるかというのは――俺にはわからない。俺には未来が見えるわけじゃないのだから。
だけど、そんな中を歩きながら自分の望んだ『答え』をコイツ――『テンペスト』と見つけたいと思った。
そうして今、俺とアリアは『ネクスト・インダストリー本社』にある『IS開発研究所』に来ていた。
「少し遅くなりました――申し訳ありません、レオンさん、主任」
予定していた時間より僅かに遅れてしまったため、俺とアリアは部屋内に既に居た二人に対して謝罪する
『IS開発研究室』――その部屋は、多くの最新鋭と思われる機械とISを調整・研究するための各施設、それから部屋の所々にコードが伸びているというまさに『機械部屋』だ。
「いやいや、気にしなくてもいいぞー、どうせ道中で渋滞にでも引っかかったんだろ?」
「察しの通りです――それで、お願いしていた例の検案については?」
俺の言う例の検案、と言うのは『テンペスト』の再調整だ。数日前から一度俺の方から話を聞いて、その上で調整内容を提案――そして提示していたのだ。
「うん、君が言っていた調整内容で私はいいと思うよ――あれだけ調整とリミッターを重ねれば簡単にはあの機体が『第3.5世代』なんて気がつかないし、ましや軍用とも思わないと思う」
「私も目を通させてもらったが、ユウ君の提示してくれた案でいいと思う。『大幅なスペックダウン』、そして『武装の威力制限』をして再度調整すれば私も問題は無いと思うよ」
どうやら、二人は自分の案に納得してくれたようだ。
「では、再調整をお願いします――『コイツ』には、ちゃんと言う事聞くように言ってありますから――それじゃ頼みます」
そう言うと俺は、首に掛けていた灰銀色の剣と翼が象られたネックレスを外した
「テンペストについての調整は私がやろう――直ぐにできるとは思うが、アラン主任…貴方はアリアさんのISの事もありますからそっちを頼みます」
「了解しましたよ社長、それじゃあお願いしますわ」
レオンさんは俺から『テンペスト』を受け取ると奥にある部屋に入っていった。
レオンさんが部屋に入っていくのを見送ると、主任は俺達の方を再度見て
「それじゃあ――もうひとつの案件、アリア嬢――嬢ちゃんのISについての話だ」
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「それじゃあ――もうひとつの案件、アリア嬢――嬢ちゃんのISについての話だ」
私は、自分のISの話だと言われると主任の方を見た。
この主任――『アラン・グランヴァル』という人物は決して悪い人物ではないが…言って申し訳ないが『変人』だと思う。
私がそう思うのには理由がある。先日の晩餐会の少し前、今後の私とユウのIS関係の技術主任兼開発責任者という人物を紹介された。それがこの人だ。
正直に言えば、最初の印象がよくなかった――レオンさんに "預かったISについての話と開発主任を紹介したいから、『IS開発研究室』に向かってくれ" とあの日言われて、そこで私とユウが見たのは…
機械だからけの部屋の真ん中で空中、そして足元に浮かぶウインドウ型のキーボードを『手足』を物凄い速さで動かしながら操作していたのだ。笑顔で。
その光景を見せられて、一種のトラウマのようなモノを植えつけられそうになった事から、私の中での評価は『変人』だった。
だが、繰り返しとなるがこの人は『変人』であって悪い人ではない――と思う。
私は白衣姿の主任に向き合い、話を聞いた。
「…前に預けた私のISの事ですよね――それで、完成したんですか?」
「あぁ、完成したよ――先に物だけ渡しておこうか、ちょっと待っててくれな」
そう言うと主任は部屋の奥にある――恐らくISを調整するための機材だろう、そこにセットしてあった私のISの待機形態のチョーカーを取り外すと私に渡した。
「じゃあ、説明とかあるんだが――ちょっと長くなるからさ…ユウ坊もアリア嬢も、座ってくれ」
私とユウが研究室内にあるテーブルセットに腰を下ろすと、主任は再び口を開いた
「さて――前にも話したと思うが、アリア嬢、嬢ちゃんのISを調べた所かなりの面で改良点と、それから『拡張領域』にかなりの空きが見つかった」
聞いている。レオンさんと主任が調べた所、私自身は違和感が無かったためそうは思わなかったが、私のISは非常に特殊な機体だと言うことが分かったそうだ。
スペック的には『第三世代』、恐らくコンセプトは『高速機動による近接殲滅機体』だそうだ。それから、空いていた拡張領域には…私が使用していた大鎌型の近接武装<ハルパー>以外はあるものを除いて搭載されておらず、そして追加で武装を搭載しようとしても機体がエラーを吐いてしまい追加搭載できないらしい。
その原因は不明――そして、もうひとつある発見があった
「前に話をした時にに聞いたと思うけど余っている『拡張領域』に追加武装を試しに積もうとしたが不可能だった――だからまず、『拡張領域』の使用方法として『機動力』と『処理能力』、それから機体のオプションパーツに当てることにした」
「具体的にはどんな事をされたんですか?」
「基本的にはハイパーセンサーや他の処理能力や反応の向上と機体への伝達速度の向上、アリア嬢の機体は調べる限り『嬢ちゃんの反応についていけない』所があったからね――それでそれを改善するために行った最も大きな事が、『オプションパーツの追加』」
主任は立ち上がり、デスクから1枚の書類を取り出してくると、それをテーブルの上に置いた
「言ったように、機体の『拡張領域』に武装を搭載する事は不可能だった――私かが幾らやってもエラーしかでなかったよ。そこで考えた、『『拡張領域』を使用するオプションパーツ』ならどうだろうと」
「えっと…つまり?」
「試しにプログラムを組んでみて君の機体にテストして見ると――『オプションパーツ』なら通す事が出来たんだわこれが、それでな――急ピッチで君の機体のデータを基に作り上げたのが『ブースト・ウイングスラスター』、私の自信作だ」
主任は自信に満ちた表情をしながら言葉を続けた
「これを作るうえで参考にしたのはユウ君のIS"Tempest_Dragoon"に搭載されていたエネルギーウイング<ハイペリオン>"高きを往く者"だ。残念ながらブラックボックス化されている部分が多すぎるのと、あの非固定浮遊部位がエネルギー自体を翼として展開できるっていう原理は私も理解できん。あの武装は謎が多すぎて再現する事は不可能だったが――参考にする事は出来た。エネルギーウイングではなく、『拡張領域を使用する外部パーツ』として装備する。常時展開の装備となるが、そこはまあ仕方ない…話を戻すが、機体自体の推進力と加速能力を大幅に向上させるために『翼』のブースターを作った」
主任はここを見てくれ、と言うとテーブルの上の書類のある部分を指差した
「追加したのは4枚の翼、名は<スカイ・アクセラレータ>、非固定浮遊部位として背中に装備してある――そして、この『翼』は1枚1枚が推進力機関としての力、つまり非常に強力な加速を生み出すブースターだ。それを4枚装備した」
つまり――『オプションパーツ』として追加で装備されたこの翼、<スカイ・アクセラレータ>によって今までより遥かに機動力が向上した…ということだろう
「全体的な処理能力と反応速度の向上、それから今言った追加装備――少なくとも現段階で私が考えれる限りの事はやらせてもらったよ、恐らく機体が君についていけないなんて事はもう無い筈だ――それからもうひとつ…発見された特殊兵装についてだ」
これを見てくれ と今度は別の部分を指差す主任。
「嬢ちゃんのISを調べるにあたり発見されて、いきなり使えるようになった兵装――兵装名"Nightmare Mirage"<悪夢の蜃気楼>についてだ…これなんだが、技術者の私が言うのも何なんだが――とんでもないバケモノ装備だぞ、これは」
この言葉に私は どういうことだろうか と思う。主任は、そのまま少し『うーん』と唸った後に言葉を続けた
「"Nightmare Mirage"<悪夢の蜃気楼>――簡単に言ってしまえばこれは『非常に強力なジャマー』なんだわ。詳しく話そうか――この兵装は今言ったように非常に強力なジャマーで、起動してから一定時間の間、ISで例えれば『相手からのロックや電子機器、ハイパーセンサーを通しての視認』をほぼ無効化できる」
「それって――つまり『姿が消える』とか『相手に見えない』という事ですか?」
「いや、姿が消えるわけじゃないが――相手に見えないというのはあながち間違いじゃない。ISのハイパーセンサーを使用しなければ目視は出来る。だがハイパーセンサーを通していた場合は――相手には君の機体は『消えて』見える」
新しく見つかった兵装について詳しく聞いて、私は驚いていた――そして同時に疑問も浮かんだ。どうしてそんな物が自分の機体に積まれているのか、何故今まで見つからなかったのかと。
――ISが、まるで生きていて…今の私を見て『発現させた』とでも言うのだろうか?
「だが、この"Nightmare Mirage"には制限時間がある――そうさな…恐らく一度発動して効力が発動しているのは『30秒』。それから、一度使うと一定時間は使用できなくなる。確かに色々と制約はあるが、俺としてはバケモノ染みた兵装だ――対ISと考えた場合、これほど有力な兵装は中々ねぇと思うぞ…すまん、失言だった。『ISは兵器というだけではない』だったな――今の発言は技術者の俺がそれを忘れてたな…悪い、忘れてくれ」
と、申し訳なさそうに謝る主任。実は…それまでの主任の言葉に少し嫌そうな顔をユウはしていたのだ。
「主任も、悪気があった訳じゃないんですし…気にしないでください」
「…すまん、熱くなるといけねぇな――とまあ見つかった兵装については以上だ、それで最後になんだが…アリア嬢、嬢ちゃんにやってもらいたいことがあるんだわ」
「私に…ですか?」
「ああ、改修と強化自体は問題なく終わったんだがな――作業中に原因不明のエラーで機体に登録されていた『登録機体名』が消えたみたいなんだよ。それで、直そうとしたんだが――『管理者権限で変更設定を行って下さい』と出てな…それで嬢ちゃん、そいつにもう一度――名前をやってくれないか」
…どういう事だろうか? 私は確かにあの時――篠ノ之 束が自分の前に現れ、この子を渡された時にデフォルトの機体名と共に自分自身を搭乗者として登録したはずだ。
それなのに、今――この子の機体名が初期化されている?
そこでふと、隣に座って話を聞いている彼――ユウの言葉が思い出される。
――ISは、人殺しの兵器なんかじゃないと俺は信じたい。
もし、もしもの話しだ。ユウが信じる『可能性』の話だが――ISのコアに意思があるとしたら?
本当は…人みたいに楽しいとか嬉しいとか、悲しいとか、感じるような心があったとしたら?
そして昔の私が――そんなISのコアの心や感情に…ずっと気がつかなかったとしたら?
――私は、自分は変われたと思う。救われたと思う。それはどうして? 彼に助けられたからだ。 ユウに助けられて、『暖かさ』と『可能性』を示されて、私は『一人の人間』として進み始める事が出来たから。
もし、私の機体――『あの子』も、私みたいに変わったとしたら?
きっと、あの子も――昔の自分と決別して、私が『兵器』として使っていたあの子がそんな『兵器』としての自身と決別して、新たに進もうと思ったのなら?
思い込みかもしれない、だけど――私はそうだと信じたいと思った。兵器としてあの子を使って、きっと傷つけてきたのは私だ。だったら…
「――私は、この子を自分だと思います。そしてユウが否定する『兵器としてのIS』として私は、ユウに負けるまでこの子を使ってきました。だけど――そんな私も変われた、だから貴方も変わったんじゃないかな」
私は手渡された待機状態のチョーカーを見て言うと、続けて私の想いを告げる。
「あなたは、私――私自身だから、貴方に新しい名前をあげる。私の名前――今は未来を望むために共にあると決めて、背負うと決めた私のもうひとつの名前、<ブラッディア> それが――あなたの名前。約束するよ、私は――もう貴方を『兵器』としてだけ見ることはしないって」
この子は、私自身だから。だからこそ、私自身の罪と覚悟を込めた名前――<ブラッディア>という名前。『共にありたい、これからは一人ではなく共に進みたい』と願うから、その名前を私は託した。
―― 『 ありがとう 』
「―え?」
「アリア?」
「アリア嬢?どうかしたのか?」
確かに今、声が――『嬉しそうな少女の声』が聞こえた。
「あ…いえ、なんでもない――」
いきなり疑問の声を上げた私を不思議に思ったのか、こちらを見ているユウと主任を見るとそう返した。
あの声は―― 一体なんだったんだろうか ただ私の中にはそんな疑問だけが残っていた。
私の新しい『自分』――もう一人の自分であり、私の未来を望む『希望』。それが<ブラッディア>、私の――未来を望むための翼。
『過去』の私も『今』の私も、それからこれからの私もも――全てを背負って、進んでいくための翼。
それが、私の――私の『IS』を持つ覚悟。
この後、暫くして――奥の部屋からレオンさんが戻ってきて、ユウに調整を完了した『テンペスト』を渡し終えると、私とユウは二人に挨拶を終えると『本社』を後にした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――『少女』は自分の全てを未来へと背負っていくと約束する。自分に、そしてISという『自身』に。
自分の想いと、『自身』の想いを心に、先を望むために、彼女もまた進む。
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