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なのは一途のはずがどうしてこうなった?

作者:葛根
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第三十二章 そして、誰も喋らない



 選択肢は時として人生を左右する。
 最悪の結果を導く選択肢は、何もしないという選択肢である。
 公開意見陳述会に置いて、聖王教会カリム・グラシアの予言を選択肢として提示されたが、地上防衛の責任者である、レジアス・ゲイズは頑として信用しなかった。
 その裏に「アインヘリアル」と呼ばれる地上防衛兵器の生産計画があり、その生産計画が通るのであれば、予言も、レアスキルも、強力な魔導師も必要なくなると、確信していたからである。
 一人でも人間の被害が無くなる様に、一人でも多くの人を助けられる様に奔走した集大成が、レジアス・ゲイズを盲目にさせてしまった。
 自分の力の無さを自覚していた。魔法の力も、人を育てる力もなかったが、政治的手腕はあった。
 地上の正義は安く見られる。
 やるせなかった。だからこそ、非情な手を使ったし、暗躍もした。
 その結果として、部下を失い、友を失った。等価交換として、信頼と信用を得た。
 代価を払い、夢と理想に手が掛かったのだ。
 その夢と理想に裏切られるはめになるとは、未来でも見えない限り予測は不可能であった。



 嵐の前の静けさ。静寂だ。
 公開意見陳述会に至るまでに、コレといった事件らしい事件が起きなかった事にミウラ・ケイタはえも言われぬ不気味さを感じていた。
 カリム・グラシアの予言を参考程度にしているが、陳述会に大きな動きがあると不思議と確信を持っていた。
 ミウラ・ケイタは防衛の面で、外部からの襲撃の可能性があると陳情報告書を上げたのだが、レジアス・ゲイズは考慮するに値するが、希望的観測であり、不確実な情報に人員も、予算も割けられるわけがないと通達が来たのであった。
 返答通達は、強めの表現が含まれており、それは、それ以上の陳情は、陳情であれ内政干渉とするというものであった。
 結局の所、事が起きたら後手に廻るしかない事に漠然とした不安を抱えるしかできなかったのだ。
 それに、カリム・グラシアの予言が曖昧で確実でないことから何も起きない可能性もあるのだ、とミウラ・ケイタは不安を抱えたまま、自分自身に言い訳をした。



 選択肢として、最善の選択肢は事が起きてから俯瞰し、客観的な情報を得ることで、あの時こうしておけば良かった。あの時の対応はこうしておけば、良かったと過去を眺める事でしか最善の選択肢は分からない。



 最悪の状況を想定する事は大切だ。
 公開意見陳述会に襲撃があると想定して、その最悪の状況とは何か。
 地上本部の内部、外部の同時襲撃である。
 内部の最悪の状況は、侵入者、または、裏切り者による攻撃。
 内部への侵入は容易ではないことから少数精鋭と考え、少数が多数を圧倒する場合の制圧手段は奇襲と広域的な攻撃である。
 また、動きを封じるための策をとり、外部襲撃に援護できないように陥れる必要性がある。
 まず考えられるのは、魔力の制圧。魔力の制圧の次は行動の制圧。
 武力と行動力を制圧することにより、内部にいる人間をそのまま、人質とする事も出来る。
 その場合、制圧を担当する少数精鋭は魔力を封じられた状況でも他者を圧倒できる武力が必要となる。それが、質量兵器か、何らかの方法で一方的に相手の魔力を封じる方法を取るはずである。
 外部の制圧は内部よりも単純なはずだ。
 質量で包囲すれば良い。
 最善の選択肢は、質量とプラスして、極めて高い戦闘能力を持つ精鋭を用意することだ。
 不測の事態に動ける戦闘要員がいれば襲撃が成功する公算が高くなる。
 俺なら、そうするとミウラ・ケイタは思考した。

 誤算が在るとすれば、敵は思った以上の質量と、思った以上の少数精鋭の戦闘要員と、思った以上の消耗戦を強いられたことだった。
 付け加えて、最大のミスは敵の狙いを読み切れなかったことであった。
 ジェイル・スカリエッティという狂人の考えを理解できるのは、ジェイル・スカリエッティ本人以外には存在しないのであった。
 相手の、ジェイル・スカリエッティ一味の最優先事項が、まさか一人の少女を誘拐する事であったなど、誰にも予測できなかったのである。
 リスクとリターンを度外視した相手の陽動作戦が全て理解できたのは、最愛の娘であるヴィヴィオを拐われてから後悔と無念の中でイヤという程、気付かされたのであった。



 地上本部襲撃事件で最たる功労者を生み出したのは、機動六課のメンバー達である。
 その中でも、最も過酷を強いられたのは、ミウラ・ケイタであったと言える。
 事件後、確認された敵勢力の内戦闘機人の殆どをミウラ・ケイタ一人が相手にしたのだ。
 総合管制ウーノ、現場指揮及び、後方支援のクアットロ、内部侵入作業員のセインを除く、実戦リーダーをトーレとした、チンク、セッテ、オットー、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ、ディードの8人と相対したのであった。
 ミウラ・ケイタの人生の中で、トップ3に入る危機であった。
 選択肢は時として人生を左右する。
 しかし、幸運は人生を決める。
 運が良かった。
 早々に、内部から脱出した高町なのは率いる隊長格がミウラ・ケイタの元に駆けつけたことにより、ミウラ・ケイタは不敗のまま、しかしながら、重症を負った程度で済んだのだ。
 戦略としては、相手の目的を達成されたが、戦術としては、地上本部及び、機動六課庁舎半壊で済んだことはミウラ・ケイタの戦術的勝利の結果であった。



戦略的敗北。
戦術的勝利。
配点:(盾として) 
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