戦国異伝
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第百二十五話 独眼龍の上洛その二
「そうしたのじゃ」
「義姫といいましたな」
「その義姫が伊達政宗の母じゃ」
東北一の猛女、その彼女がだというのだ。
「そしてその母が嫌っておるのじゃ」
「まさかその理由は」
佐々が顔を曇らせて信長に問うた、その話を聞いて事情を察してである。
「弟君を偏愛し」
「察するか」
「はい、こう言っては何ですが」
「母上はまだよかった、勘十郎もわかっておった」
信長にとって幸いなことはこの二つだった。
「母上は勘十郎を可愛がっても主はわしだと認めてくれておった」
「そして勘十郎様もまた」
「あれは賢い」
一門衆筆頭であり所司代を任されているのは伊達でjはない、信行は政においては信長を十分に補佐しているのだ。
だからそれで言うのだ。
「己に出来ることと出来ぬことがわかっておる」
「勘十郎様は殿の下においてこその方です」
二人を幼い頃から知っている柴田の言葉だ。
「勘十郎様は戦が出来ませぬ故」
「それがあ奴の難点じゃ」
彼は戦下手だ、それで当主としてはどうかと見られていたのだ。
「だからわしも戦の場にはあまり連れて行かぬ」
「ですな」
「人には向き不向きがある」
こうも言う信長だった。
「あ奴はそれじゃ」
「戦ですな」
「それが出来ぬからな」
こう話すのだった。
「あの津々木にそそのかされたとはいえな」
「勘十郎様はわかっておられる故に」
「お家騒動にはなりませんでしたな」
「それがよかった」
信長と信行にとってだけではない、織田家全体にとってもだ。
「わしも傍におる者を失わずに済んだ」
「ですな」
「織田家はそれで済んだ、しかしじゃ」
「伊達はですか」
「義姫は兄より弟を可愛がっておる」
その弟である。
「そしてその弟をじゃ」
「伊達の主にせんとしている」
「そうなのですな」
「しかもその後ろには最上がおる」
さらに複雑なことに、である。
「義姫の実家のな」
「剣呑な話ですな」
「全くでござる」
毛利と服部は信長と柴田の話を最後まで聞いてから苦い声で述べた。
「戦国の世、いえその前からある話とはいえ」
「兄弟の争いとは」
「源氏もそうでしたが」
「それは家を潰す元です」
「しかも後味が極めて悪い」
信長も面白くなさそうに話す。
「そうした話はな」
「それが伊達家でも起こっていますか」
「当家と同じく」
「上杉でもあったしな」
謙信も結果として兄を隠居させる形で主になっている、病弱な兄では戦国の世を生きていけぬと家中の者達が判断してである。
それで謙信が主に擁立された、それが結果としてなのだ。
「毛利もな」
「あれは特にですな」
滝川が応じる、顔を顰めさせて。
「元就殿は弟殿を殺めたくはなかったですが」
「それでもじゃ」
毛利家でもお家騒動があった、元就はかつて己の危機に真っ先に駆けつけてくれた弟を殺さねばならなかったのだ。
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