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戦国異伝

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第百二十五話 独眼龍の上洛その一

              第百二十五話  独眼龍の上洛
 いよいよその時が近付いていた、そのうえで。
 佐々が信長に険しい顔で言ったのだった。
「殿、常に後ろにいますので」
「何かあればじゃな」
「伊達の首挙げてみせまする」 
 声もまた強いものだった。
「わしがいつもいますので」
「うむ、頼りにいている。しかしじゃ」
「伊達も仕掛けることはないというのですな」
「その心配はほぼない」
 確実ではないがそれでもだというのだ。
「伊達政宗という者、そこまで愚かではない」
「だといいのですが」
「向こうも来るのは少しじゃ」
 政宗の他にはというのだ。
「二人位かのう」
「二人といいますと」
 滝川が言ってきた。今信長の周りにいるのはその佐々と柴田達表の護衛の四人と忍として潜んで行う彼の五人だ、その滝川の言葉だ。
「片倉小十郎、そして伊達成実ですな」
「独眼龍の両腕じゃ」
 そう言われている二人だった。
「文の片倉、武の伊達じゃ」
「その二人ですな」
「他にも優れた者はおるがまずはこの二人じゃ」
 政宗の家臣といえばというのだ。
「この二人がおっての伊達政宗じゃ」
「だからですな」
「うむ、上洛はお忍びじゃ」
 潜んで行われてる、それならというのだ。
「連れて行く者も限られるわ」
「その二人しかおりませぬな」
「そういうことじゃ。わしも忍ぶとなると連れて行く者は限られる」
 信長にしてもそうだというのだ。
「その時じゃが今はな」
「我等ですか」
「この五人ですか」
 今度は毛利と服部が言う。
「多くの家臣の中でも」
「この五人ですか」
「大勢でいていい場合とそうでない場合がある」
 そして今はだというのだ。
「独眼龍にしては今はじゃ」
「その二人ですな」
 柴田も目を光らせて述べる。
「伊達家の両輪である」
「あの独眼龍を支えるな」
「でしたな、伊達家も一枚岩ではありませんでしたな」
「独眼龍には弟がおる」
 ここで一つ重大でかつ深刻なことが指摘される、信長の口から。
「一人な。同じ父、同じ母のな」
「同じ、ですか」
「完全に血を分けた」
「そうじゃ、そうした弟はな」
 信長は話をしながら信行のことを思い出した、危うく手にかけねばならぬところだったその弟のだ。
「余計に厄介じゃ」
「下手に担ぐ者が出ますし」
「吹き込む者も」
「あの者は父には可愛がられてきたが母には嫌われておる」
 このことも言う信長だった。
「その母は最上家からの姫じゃ」
「義姫ですな」
 柴田が答える。
「最上家の当主義光殿の妹君の」
「うむ、大層美しいというが」
 だが、だった。信長は言葉を続けた。
「しかしその気性はかなり強い」
「伊達と最上の戦を止めたとか」
「両軍の間に己が乗った籠を入れてな」
 そうして両家の戦を止めた、このことが遠い美濃の信長達のところまで届いていることにその凄さが出ている。 
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