リリカルなのは 3人の想い
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5話 林道 五也side
目が覚めると見知らぬ部屋に寝かされていた。
いまだにぼーっとする思考をまとめ始める。
ああ、そういえば見知らぬ男によってぶっ飛ばされたんだったか。
「う……うう………」
隣を見ると武藤も目が覚めたのか呻き声を上げている。
「あっ! 目が覚めたのね!」
声のした方を向こうとしたが体が痛みでまともに動かず、首だけを動かしてそちらを見る。
そこには焦げ茶の髪を三つ編みにした眼鏡の女性がいた。
「待っててね、今なのはを呼んでくるから」
そう言い残して女性はどこぞへと立ち去ってしまった。
彼女の話から察するに、彼女はなのはの知り合いか親族なのだろう。
「おい、目は覚めてるか?」
「うっ……す、つか……何起きたんすか?」
「何か知らないがいきなり出てきた男にぶっ飛ばされたようだ」
「何それ怖い」
全くだいつから日本はそんな暴力の横行する国と化したのやら。
それはともあれ最も大きな問題はそこではなかった。
「お前体動くか?」
「いや全然っすね」
一撃しか受けてないはずなのに何故か体を動かせないという現状、本当に何をどうやったらこんな現象が起きるのだろうか。
「大輝君! 五也君! 大丈夫!?」
などと考えていると息を切らしてなのはが走ってきた。
それに続くように入ってきた人物を見た瞬間、俺は思わず叫んでいた。
「出たな暴力魔!」
「誰が暴力魔だ!」
そう、それは公園で俺と武藤を吹き飛ばした張本人だった。
「や、やばいっすよ! きっととどめを刺しに来たんすよ!」
「くっ、逃げるぞ!」
そう言って跳ね起きようとするが、やはり体は痛みで動かない。
「隊長体が動きません!」
「根性で何とかしろ!」
とっさに返事をしつつ集中力をかき集める。
「聖なる活力、此処へ ファーストエイド!」
一瞬光に包まれ体の痛みの大半が消える。
「え!?」
「な! 何だ!?」
なのはと暴力魔が驚いているが、気にせず跳ね起き窓枠に手をかける。
「1人だけずるいっすよーーっ!! つか人に根性とか言っときながら何使ってんすかーーー!!」
取り残され犠牲になった武藤は諦め、1人窓から飛び降り宙に身を躍らせた。
わずかな空中浮遊の後、かなりの衝撃が体を襲う。
どうやら一階ではなく二階だったようだ。
体が痛いが暴力魔に捕まるのに比べれば――スタッ――スタッ?
「おい! 何をしてるんだ危ないだろう!」
「危ない人が落ちて来ただと!?」
「誰が危ない人だ!」
どうやらこの暴力魔、ただの暴力魔ではないようだ。
たたかう
術技
アイテム
→逃げる(連打)
選択するものは決まりきっていた。
「さらば!」
「あ! こら待て!!」
全力で脱兎のごとく走り出す。
だが悲しいことに現状の俺の体は小学生ぐらい、対して相手は少なくとも高校以上の体格をしてなんとも理想的なフォームで距離を詰めてくる。
夜道で必死に逃げる俺とガンガン距離を詰めてくる不審者、悪夢だ明らかに普通の子供なら泣くだろう。
よって俺は最後の手段に移る。
「おーまーわーりさーん!! 助けてーーーー!! 変態に襲われるーーーーーー!!」
「なんて事を叫んでるんだあ!!」
わかった事は国家権力なんて当てにならないという事だけだった。
▼▼
首根っこを掴まれて来た道を引き返す。
暴力魔がさっきの悲鳴で出てきた近隣の住民に見つからないように、かなりの速度で走ったせいで逃げ出す暇もなく、あっという間についさっき逃げ出したばかりの家に来ることになった。
「ああ、俺もここまでか……」
「人聞きの悪いことを言うな!」
軽口を叩き合いながら、といっても相手にその気はないだろうが。
首根っこを掴まれたまま二階へと移動する。
「お兄ちゃん、さっきから騒がしいけど……って何してるの?」
足音でも聞こえたのか、ちょうど部屋から先程の女性が扉を開け顔を出した。 何というのはやはりこの場合、俺の事を首根っこを掴んで運んでいるという現状についてだろう。
「助けて下さい、この人児童暴行に加え誘拐の現行犯です」
「お兄ちゃん……流石にもうフォローしきれないかも」
「誰が誘拐犯か! 美由紀もそんな話信じるなよ!」
「とか何とか言いつつ暴行は否定しないんだ」
「うっ……そ、それは………」
自覚はあるのだろうか、誘拐犯は俺の言葉にたじろいだ。
「だ、大丈夫だよお兄ちゃん、自覚があるだけましだから」
女性がフォローを入れようとしたが明らかに、失敗していると思うのは俺だけだろうか?
案の定誘拐犯は肩を落とし、凹んだ。
「そ、そうか……」
しょうがない慰めてやるか。
「元気出せよ、不審者」
「わざとか! なあわざとなんだよな!?」
せっかく慰めたというのに、何故か急に声を荒げた不審者はそのまま一つの扉を開けると中に入っていった。
そこは先程窓から逃げ出した部屋で、中にはなのはと寝たままの武藤がいる。
「あっ! 五也君!」
「戻ってきたっすね」
2人はこちらを見てそれぞれ声をかけてくる。
「拉致られた」
「相手は北っすか」
「物騒な事言ってるんじゃない!」
見た目は子供でも中身は男子高校生だからこそ通じるブラックジョークだった。
その証拠に理解できないのかなのはの方は首を傾げている。
「そ、それよりも! さっきのって一体何なの!?」
話を逸らすのは失敗か。
「ああ、それについては俺も聞きたい、なにせ―――」
それもそうだろうやった本人が一番俺たちの状況を理解してただろうしな。
「全身至るとこに打撲に擦り傷、特に肩の脱臼に足の捻挫、とてもじゃないが動けるはず無かったんだがな」
ちょっと待て。
「あんたどんだけ容赦なく攻撃してきたんだよ!」
「いや、その………妹をいじめられてると思ってつい……な」
「な、じゃねえよ!」
何この人どこの戦闘民族だよ。
「因みに何で俺は体が動かないんすか?」
「大体はこいつと同じなんだが、両股関節の脱臼とこいつが偶然にも顔面に決めたエルボーで出た鼻血のせいで血が足りないんじゃないか」
「漫画でもめったに見ない奇妙な光景になってるじゃないっすか!」
少し俺のせいが入ってるとこに多少罪悪感を覚えないでもない。
なので治してやることにするか。
「しょうがない、聖なる活力、此処へ ファーストエイド」
武藤の体が一瞬光に包まれ、すぐに消える。
それを高町兄となのはがやはり少し驚いた顔をしている。
「一体それは何なんだ」
詰問口調の高町兄、おそらく妹に危害を加える力かどうかが心配なのだろう。
「魔法だシスコン」
「魔法!?」
抗議しようとシスコンが口を開くより早く、なのはが興奮したように口を開く。
そのせいでシスコンは口をパクパクとさせるだけに終わった。
「あ、あの! お願いがあるの!」
なのはが興奮したままこちらに近づいてくる。
まあお願いの内容は大体予想がつくが。
「父親を治して欲しいんだろ」
「え? そ、そうだけど何でわかったの?」
出鼻をくじかれ、なのはは戸惑っているが普通に予想がつくだろうに。
「何でわかったかは考えたから、そしてそのお願いは別に聞いてもいい」
「本当!? だったら今から」
「今から行っても面会できないんじゃないか?」
外は相変わらず暗く、少なくとも家族でもない俺が入ることができるかは怪しいだろう。
「なんにせよ日を改めた方がいいだろう」
「あうぅ……」
なのはが明らかに凹んだのを見てシスコンが殺気をビシバシととばしてくる。
「どうせ明日も会うんだその時でいいだろ」
「………うん」
理解はしたが納得はしていないのだろう、不承不承といった感じで頷いた。
「あの~、すまねえんすけど」
今まで何故か沈黙を守っていた武藤が情けない声を上げた。
「何だ?」
「俺まだ体動かないんすけど……」
予想以上にダメージが大きかったようだ。
怪我が治り切らなかったことで、自分の父親も完治しないのではないかとでも思ったのだろう顔を曇らせる2人を置いて。武藤に術の重ね掛けをした。
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