トーゴの異世界無双
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第百十五話 ド、ドベなのか……
闘悟の隣にはミラニがいる。
だがモアの言葉を聞いても彼女は振り向かない。
闘悟も同様だ。
恐らく今頃クィルは混乱状態に陥っているかもしれない。
何せ自分の大切な者達同士が争うのだから、温厚で平和主義な彼女にとっては、心身穏やかではないだろう。
闘悟はそのまま前を見据えたまま静かに言葉を出す。
「思ったより早かったなぁ」
「そのようだな」
ミラニもそのままの状態で返答する。
「あの時以来だな」
「ああ、今度は私の全てを出させてもらう」
「そりゃ楽しみだ」
「ああ、楽しみだ」
互いに微笑する。
闘悟自身、あの時のミラニが全力で闘ったとは思っていなかった。
あの時は、あくまでも闘悟を試す模擬戦だったので、強力な魔法などは使用していなかった。
それに、剣術にしても本当の実力を出させる前に決着をつけてしまったので、彼女の全てを体験したわけではない。
そして、あれから凄まじい修練を積んできたことは、闘悟もよく知っている。
今度こそ、ミラニの全力が体験できると思うと、ワクワクしてくる。
「そしてこれがトーナメント表です!」
二次予選と同じく地面から石版が現れる。
そこには確かにトーナメント表が書かれてあった。
上から順に、名前が記載されてあった。
そしてそれを見た闘悟はいきなり膝をつく。
「くっ……またドベ……か……」
そうなのだ。
またも闘悟の名前は最後に書かれてある。
だがそこで思い出す。
二次予選では順番通りに試合は進まなかった。
最後に書かれてあるからといって、ドベの試合とは限らないかもしれない。
そうだ、まだ望みは……
「なお、試合は上から順に行います!」
叶わなかったみたいだった。
く、くそ……血を吐いてもいいですか……?
どうやら一番下に書かれてあるトーゴという名前は、まさしくドベという意味らしい。
「そう落ち込むな。貴様が最後ということは、私も最後なのだからな」
トーゴの名前の横には、対戦相手であるミラニの名前も記載されてある。
それでもミラニは別段気にしてはいないようだ。
だがこれまで全試合ドベだった闘悟にとっては、立ち直れないくらい精神的負荷を受けている。
闘悟は自分のクジ運の無さに絶望さえ覚えた。
「それではこれから本戦について説明致します! 本戦は一対一のタイマン! 時間無制限! どちらかが先に降参するか、戦闘不能に陥ったところで勝敗が決まります!」
なるほど、ホントにガチバトルってことだな。
「なお、本戦は三日間に分けられます! 明日は初戦、明後日は準決勝戦、明々後日は決勝戦になります!」
確かに、これほど実力が拮抗(きっこう)した相手と闘うとしたら、一日で連戦は正直辛いものがあるだろう。
たとえ一日でも体を休められるなら、ありがたいことだろう。
「説明は以上です! それではここで大会主催者であるギルバニア国王様に一言頂きましょう!」
モアがそう促すと、ギルバニアが皆に顔を見せる。
「うむ! これまで最高な試合を感謝する! そしてこの本戦、ここにいる誰もが楽しみにしてる! せっかくだ、思う存分闘って悔いのないよう是非大会を盛り上げてくれ! 以上だ!」
観客達から拍手と歓声が響く。
「それではフレンシア様からも是非お願いします!」
小さく咳ばらいをしたフレンシアは微笑する。
「素晴らしい試合でした。ですが本番はこれからです。皆さん、優勝を掴むためにも全力で臨んで下さい」
一際大きな拍手と歓声が聞こえてくる。
「ありがとうございました! それでは皆さん! 明日に向けて英気(えいき)を養って下さい!」
「まさかミーちゃんとトーちゃんが初戦でぶつかるなんてねぇ」
今日も皆で会食をしている。
その最中、やはりその話題が、皆の興味を一番惹いた。
楽しそうに破顔し、ニアは闘悟とミラニを見つめる。
「ねえねえ、意気込みは? 意気込みは?」
「は、はっ! 私はその、全力で持って臨む所存であります!」
「む~固いよミーちゃん! 公の場でもないんだし、気楽にして!」
頬を膨らませて、ミラニの態度を改める。
「は……はい。ですが……その……」
ミラニが口籠(くちごも)るのも仕方無い。
幾ら公の場ではないとはいえ、ここには他国の王族であるステリア達や、グレイハーツ貴族のヒナ達もいるのだ。
軽はずみな言動は慎まなければならないのが普通だ。
顔を俯かせて恐縮してるミラニを見て、「可愛い!」と言ってさらに縮こませるニアがいる。
そんな様子を見てミラニの気持ちを察してか、闘悟はつい苦笑する。
彼もどちらかというとニアの接し方が苦手なタイプなので、ミラニの気持ちが分かるのだ。
だがそこで、自分が笑っているところをミラニに見られ、厳しい視線をぶつけられたので、咄嗟(とっさ)に目を逸らした。
「あ、あのトーゴ様?」
「何だクィル?」
「その、やはり闘うのでしょうか? その……ミラニと……」
クィルは不安そうな表情で言う。
彼女の言いたいことは何となく分かる。
恐らく自分と親しい闘悟とミラニが闘うところを見たくは無いのだろう。
以前、確かに模擬戦として闘ったところを見たことがあるが、今度は模擬戦などではない。
正真正銘、互いに全力を尽くす大会なのだ。
クィルにしてみれば、どちらにも勝ってほしいし、どちらにも負けてほしくは無いのだろう。
だが勝者は一人。
そして闘えば怪我をしてしまう。
それが何よりも不安が膨らむ要素に違いない。
優しいクィルらしいと闘悟は思った。
「大丈夫だって」
「え?」
「オレ達は殺し合いをするわけじゃねえぞ?」
「……はいです」
それでも納得はいかないのだ。
やはり傷つくことが何よりも恐ろしい。
だからこそ不安になる。
そんなクィルの不安を消すようにそっと彼女の頭を撫でる。
「ふぁ……ぁう……」
突然のことで声を漏らして驚く。
「んじゃさ、試合が終わったらクィルが怪我を治してくれるか?」
「私が……ですか?」
「ああ、聞いてるぞ? 補助魔法……とりわけ治癒魔法が得意なんだろ?」
「トーゴ様……」
「クィルが治してくれるなら、オレもミラニも安心して試合できる」
「……」
「だから、な?」
頭を撫でながら微笑むと、クィルは頬を染めてこちらも笑みを浮かべる。
「はいです!」
まあ、オレは時間が経てば怪我が治る体質になったけど、多分ミラニは多少の怪我はするだろうし、こう言っておけば、クィルも安心するだろうしな。
闘悟は不老不死の恩恵で、死なない体を手に入れ、怪我なども時間が経てば自動的に治癒するのだ。
その後も大会の話で盛り上がり、お開きを迎えた。
お開きを迎えて解散する時、ステリアの近くにやって来た、彼女の兄であるギレンが耳元で囁(ささや)くように言う。
「スティ、あまりおいたはいけないよ?」
「……へ? に、兄様?」
咄嗟のことで何を言っているのか分からず聞き返す。
ギレンは二人きりになれる場所へ向かう。
「あのスレンという女性、お前だろ?」
「なっ!? なななななっ!?」
言葉にならないほどの衝撃を受ける。
すると彼はステリアの頭に手を置く。
「安心しなさい」
「ふへ?」
「父上には話していないよ。もちろん気づいてもいない」
「あ……」
その言葉で正直にホッとする。
「だけどね、スレンがスティだと気づいた時の、この兄の気持ち……分かるかい?」
「ギレン兄様……」
スレンがステリアだと気づいたのは、やはりその闘い方もそうだが、兜が半壊した時、露出した赤い髪を視認した時だった。
それまで漠然と疑問を持っていただけだったが、その時確信したのだ。
「本当に怖かったよ。あんなに吹き飛ばされて、心臓が止まるかと思った」
「ごめんなさい……」
ステリアはシュンとなって俯く。
そんな彼女を見てフッと微笑を作る。
「これからは、あんなことはしないでおくれ」
「……」
「ううん、出るなとは言わない。ただ、ああいうことをする時は、一言言っておいてほしいんだ」
「……出るなって言わないの?」
「ああ」
その言葉にステリアは驚いていた。
当然、危険なことは禁止されると思っていたからだ。
「言っただろう? 僕はスティには自分の思った通りに行動してもらいたいって」
「う、うん」
「だから僕は止めろとは言わない。ただ、何か危険なことをする時は言ってほしいんだ」
「それで……いいの?」
「もちろん、僕だって父上と同じように、本当は止めてほしいんだよ?」
「うん……」
ステリアだってそれは理解している。
「だけどね、スティはスティだ。スティの人生はスティのものだ」
「兄様……」
「でも、これでも僕は兄だ。何も知らず結果だけ知らされるより、きちんとスティから事情を聞いてるのとでは全く持って違う」
「……」
「だから、これからは僕に言ってくれ、僕の可愛い妹」
ギレンは穏やかに頬を緩め、優しく言葉を放つ。
「うん!」
「いい子だ」
そう言って優しく頭を撫でる。
気持ち良さそうに目を細めるステリアを見て、ギレンはまた微笑む。
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