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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第百十二話 不動魔法破れたりっ!!!

「さすがに驚きですね」


 ミラニが舞台を見つめながら声を出す。


「は、はいです」
「まさかあの攻撃でもビクともしないとは」
「でも……トーゴ……すごい……よ?」
「はいです。ヒナリリスさんの仰る通り、トーゴ様は凄いのです」
「おお~トーゴはつよくてすごいんだぁ!」


 ハロも皆に同意するように元気よく笑う。


「とにかく、奴がこれからどうするのか、見ていましょう」


 ミラニの言葉にその場にいた面々は頷きを返す。





「いや~今のは正直言って焦ったのう」


 バンリドが大きく息を吐いて言う。


「よく言うぜ。ビクともしなかったくせに」
「あんなバケモンじみた攻撃なんか受けた経験ないしのう。もしかしてとか思ってもしょうがないじゃろ?」


 するとモアから残り時間が告げられる。
 どうやら後十分しかないようだ。


 闘悟は今までの攻撃の感触から様々な可能性を考察する。
 確かに五パーセントの魔力解放でもバンリドを動かすことはできなかった。
 だがそれでも本当の本気で全魔力を注ぎ込んで攻撃すればきっと破ることができるだろう。
 いや、全力でなくとも、半分も出せば十分かもしれない。
 何故なら世界の崩壊を防ぐ力なのだ。
 この世界の事象であるバンリドの魔法が破れない理由は無い。
 ただ、それほどの魔力を解放するとなると、周囲にも多大な影響が出る。
 極力周りに広がらないように集束(しゅうそく)はするが、それでも魔力に当てられた者達に被害が及ぶのは目に見えている。
 闘悟の攻撃意思を含む魔力はそれだけ危険だということだ。
 だからあまり周囲に被害が出るような量の魔力は出せない。
 それに手加減が難しい攻撃では、『不動魔法』を貫いてバンリドを殺してしまう可能性が高い。
 そう考えると、あまり破壊力を超過(ちょうか)した攻撃を選択するのは気が進まない。


「ふぅ……出せるのは三十……いや、その半分の十五くらいか?」


 それでもギリギリだろうと考える。
 ただ先程と同じように防御に特化した魔法を、攻撃力を上げた拳で敗れるのか不安だ。
 十五パーセントじゃ尚更だ。
 出せる魔力は十五パーセント。
 攻撃するのではなく、何か別の方法があれば……。


 その時、またモアから残り時間が知らされる。
 あと五分。
 大分考えていたようだ。
 闘悟は何かを決意したように目を細める。


「事象が決まってるなら、その事象を何とかすればいい……か」


 すると、闘悟はバンリドのもとへ歩いて行く。
 そして、手を伸ばせば触れられるくらいの距離まで来る。
 さすがに闘悟の行動に訝(いぶか)しんだバンリドが首を傾げてしまう。


「何じゃ?」


 だが闘悟は答えない。
 そのまま、ゆっくりと手を上げバンリドの胸に触れる。
 服を触っているのではなく、その周囲に覆っているバンリドの魔力の壁を触っている。


「い、一体どういうつもりじゃ?」


 すると、闘悟はニヤッと笑って一言だけ言う。


「これが最後の……手段だ!」


 ブウォッ!!!


 いきなりの強風が闘悟から発せられる。
 バンリドには闘悟が何をしようとしているのか理解できなかった。
 魔力は先程と同じく凄まじいが、攻撃の意思が全く伝わってこない。
 攻撃せずにどうするというのだと、誰もが眉を寄せる。


「五パーセント……十パーセント……」


 どんどん闘悟の魔力が上がっていく。
 一番近くで感じているバンリドは確かに不動を保ってはいるが、精神的に苦痛を強いられていた。
 これほどの魔力を直に感じているのだから仕方無いのかもしれない。
 その表情を見て闘悟はなるほどと思った。
 だが、それはまた別の話だと一度忘れる。


(し、しっかりするんじゃ! あと四分程、これに耐えれば俺の勝ちじゃ!)


 バンリドは気合を入れ直す。


(しかし、何ちゅう魔力じゃ! まだ増えとる! どこまで化け物なんじゃこの男は!?)


 未だに衰えることを知らない闘悟のとてつもない魔力に足が竦(すく)みそうになる。
 そして、その膨大な闘悟の魔力がバンリドの周囲を覆っていく。


「これでどうだぁっ! 十五パーセントッ!!!」


 すると、舞台が二人を中心にして全て弾け飛ぶ。
 また、二人を中心にして、魔力が台風のように渦巻き始める。
 あまりに高密度の魔力のせいか、誰の目にも見えるように魔力が具現化している。
 これはとても異常な事だった。
 普通魔力を視認できるのは限られている。
 だが例外があるとするなら、こんなふうに膨大で濃密な魔力が目の前にある時だ。
 達人が何百人も集まって、ようやくそのような状況を生めるのに対して、闘悟はそれを一人でこなしている。
 誰もが唖然と見つめるのも無理は無かった。


 青い魔力の竜巻が二人を中心にして回転力を増していく。
 闘悟は解放した魔力全てでバンリドを包んでいく。
 ステリアとウースイはその場から避難するように離れる。


「ト、トーゴ選手! とてつもない魔力です! その魔力は肉眼でハッキリ見えるほど高密度のようです! しかもそれが舞台を吹き飛ばしてしまいましたぁ!」
「これほどの魔力を制御している彼には脱帽(だつぼう)、いえ、それ以上ですね」


 モアとフレンシアの言う通り、先程起こったタイセーの魔力暴走の比ではない。
 もし闘悟の魔力が暴走してしまうと、闘武場など一瞬で吹き飛んでしまうだろう。
 いや、グレイハーツそのものがといった方が正しいかもしれない。
 だからこそ、そんな予測ができたフレンシアは闘悟に対して一抹(いちまつ)の不安を覚える。


「で、ですが、トーゴ選手は攻撃しようとはせずに、ただバンリド選手に触れているだけです! 残り時間はもう三分を切りました! このままではトーゴ選手の敗北になります!」


 凄まじい魔力を解放してはいるが、それだけで、目立った動きが何一つ見当たらない。
 何よりも、その魔力に攻撃意志が感じられないのがフレンシアには不思議でならなかった。
 攻撃しないのなら、一体どうしようというのか、彼女には答えが見い出せなかった。


「さすが、大した魔法だなホントに!」


 闘悟はバンリドを見つめながら言う。


「お、お前さんも、これは驚かせ過ぎじゃ!」


 彼も歯を食いしばり全身に力を込めている。
 肉体的な衝撃は何一つないが、魔力の圧力に精神に負担が掛かっているのだ。
 額から汗が滲(にじ)み出ている。


「じゃがのう、俺の魔法はどうやらこれでも耐えとるようじゃのう!」
「くっ! こんだけ魔力解放してんのになぁ! どんだけだよアンタの不動ぶり!」
「はは! それは嬉しい褒め言葉じゃのう!」


 当初の予定通り、十五パーセントの魔力解放で行動を起こしてはいるが、いまいち手応えが伝わってこない。
 どうやらバンリドの魔法は思った以上の強度だったのかと歯噛(はが)みしていると……。


 …………ピキ……


 ん? 何の音だ?
 確かに耳に違和感のある音が聞こえてきた。
 バンリドには聞こえていないのか、表情は変えない。


 ……ピキキ……


 また聞こえた。
 今度は幻聴なんかではなかった。
 闘悟は目を凝らし音の方向を追った。
 そこには空間に赤い筋のようなものが走っていた。


 何だ……これ?
 じっくり見ていると、また先程と同じ音がした。
 そして、その筋が明らかに広がっている。
 そうか! そういうことか!
 そう心の中で叫んで何かを確信する。


「ん? 何を呆(ほう)けとるか知らんけど、もう時間ありゃせんぞ?」


 そんなバンリドの言葉を聞いて、闘悟はニヤッと笑い彼の目を見つめる。


「これで終わりなんかじゃねえぞ?」
「は?」
「うおぉぉぉぉぉっ!!!」


 闘悟は気合を入れるために叫ぶ。


「な、何を!?」


 これで終わりだと思っていたのに、まだ何かをしようとしている闘悟を見て焦燥感にさらされる。


「事象が決まってんなら、その事象そのものを変えたらいいんだぁっ!!!」
「ぐぅっ!」


 さらに闘悟の魔力が上がるのを感じて、片目を閉じ耐えるような仕草をする。


(ま、まだ上がるんか!? 何者なんじゃホントに!?)


 その時、モアの声で残り時間が一分になったことを知った。
 トーゴはもう一度声を張り上げて言う。


「二十パーセント改変魔法っ!!!」


 瞬間、魔力の青い竜巻が空へ向けて飛び、二人の姿がハッキリと確認できる。
 そして空中に飛んだ竜巻は、姿を変えて玉のようになり、再び二人に向かって物凄い速さで落ちていく。
 二人に触れたその瞬間、とてつもない突風が周囲を襲う。
 観客達からは悲鳴が聞こえる。


 ピキ……ピキキキ……


 ガラスにヒビが入るような音が確かに皆の耳にも届いてきた。
 その音を探してキョロキョロとする者も見える。
 そして……


 パリィィィンッッッ!!!


 何かが割れるような音が周囲に響いてきた。
 突風のせいで舞った粉塵(ふんじん)がトーゴとバンリドの姿を隠している。


「の、残り時間はあと三十秒です! 二人はどうなったのでしょうか!?」


 吹き飛んで姿も形もなくなった舞台の中心を皆は見つめる。
 すると、いきなり粉塵が強風によって晴らされる。
 その中にはトーゴの姿と………………………………


















 ……………………尻餅(しりもち)をついているバンリドがいた。


 
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