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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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コラボ
~Cross storys~
  episode of cross:応報

直前まで聞こえていたプレイヤーのブーイングも、NPC露店商が立てる客寄せの声も、NPC楽技団が奏でる街のBGMさえもが一瞬にして消えた。

喧騒に慣れた聴覚に、しんとした静寂が耳朶を打つ。

……………………は?

ホークは完全に停止した思考で、ぼんやりと右手を見た。

先刻、というかほんの数秒前まで握っていた師匠である《鼠》のアルゴの感触は、跡形もなく消え去り、手のひらは早くも冷たくなっている。耳朶を打っていたアルゴの悪態さえも消えていた。

もはや何の信号も返さないその手を見、握ったり開いたりしたが、無論それで全てが元通りになるかと言ったら、まったく何も変わらない。

次いで、ホークはぐるりと首を巡らせて驚いた。

誰も居なくなったと思っていた周囲には、まだ人が自分を含めて五人居たのだ。

一人は、真っ赤なフードコートを着、首に漆黒のマフラーを巻いた小学生くらいの男の子だ。見たところ、武器の類は持っていない。今日は観戦のつもりで来たのだろうか。

二人目は、これまた真っ白なフードコートを着込んだ青年だ。こっちは大きな両刃の両手剣を背中に吊っている。

三人目は、萌黄色を基調としたコートという何と言うか凄いセンスの服を着用している男だ。武器は、腰に差している長めの刀のみのようだ。

四人目は、現実世界の学ランに似た真っ黒な長袖長ズボンだ。武器は、袖からちらりと見えるダガーらしきものだろう。

四人が四人とも、突然起こった怪奇現象に虚を突かれ、きょろきょろと辺りを見回している。

まるで、そうしているうちに消えた人々が戻ってくると信じているかのように。

これが夢ならば、そこから醒めたいと必死になっているかのように。

ここまで見て、ホークはさて、と思った。

───どうしたもんか。

プレイヤー達が消え、NPCまで消え去るというこの事態。もはやイレギュラーなのは間違いない。が、その原理は何なのだろうか。前兆も、転移光すら視認できない。まるで、掻き消えたように数百人に昇る人が消えた。それこそ、テレポーテーション。ゲーム要素をまるっきり無視した現象だ。意味が解からなすぎる。

だが───

───落ち着け。今はそんなことを考えている場合じゃない。とにかく、やるべきことをやらねぇと、なんかヤバい………!

浅く深呼吸をし、ホークはとりあえず、広場に残っている全員の顔を凝視した。その身体的特徴から、脳内にある攻略組プレイヤーの名簿と見比べていく。

突然の事態に混乱し、停止していた脳のギアが徐々に回転を再開する。

だが、一人目の確認を終えるよりも先に、ホークを含めた五人に声が掛けられた。

「……ようこそおいでくださった。物語を紡ぎし者達よ」

老齢なその声は、ホーク達にやっと現況の存在をわからせた。

気配を感じさせずに五人に近寄ってきた町長の姿をしたモノは、長い年月が刻まれた顔をほころばせていた。

学ラン少年がまず先陣を切った。唸るような声で、ソレに噛み付く。

「おいオッサン。何の冗談か知らねぇが、俺達はあんたに閉じ込められたってことでいいのか?」

その言葉に、ホークははっとする。そうだ。なぜその可能性について、もっと深く考えなかったのだろうか。そう、皆が消えてしまった。

そうではなく、その逆。自分達がこのアインクラッド第二十層という、途轍もなくでかい規模の檻に閉じ込められた。そう解釈することもできるではないか。

「……………………ッ!」

そして、その元凶というか、この状況を意図的に作り出した人物こそが───

「あんたが…これを………」

思わず口から漏れ出た声。

それは、ホーク自身もはっきり自覚できるほどに掠れていた。

それを町長の姿をしたモノは一瞥し、白髭の下の口をにやりと歪ませた。

それは、ねっとりとした悪意を感じさせるほどに、凄絶なまでに人間臭い笑みだった。

その笑みに、五人は意外なほど動揺した。

正体の全くわからないモノに対しての、本能的な拒否反応。五人を襲っているのは、恐らくそれなのだろう。

老人はそれには応えない。ただ、泣いているように顔を俯かせて、微動だにしない。

「何とか言えよっ!」

白いコートを羽織った男が、老人に詰め寄る。だが───

違う。泣いていたのではない。老人は、笑っていたのだ。

笑っていて、嗤っていて、哂っていた。

「く……ふふっふふふ。言ったろう?これはコロシアイだよ。再び己が世界に戻りたくば、私を倒せばいい。簡単な話ではないか」

嗤いながら、老人はそう言い切った。それを唖然と見ていた五人。

なぜだろう。こんなにまでイレギュラーな事態なのに、頭の芯が痺れたように働いてくれない。あまりにも非現実的すぎて、脳がついていけなくなっているのだろうか。

「───ああ、そうか。分かった」

その時、横に居た人物が声を上げた。

あの、赤いフードコートを着た小柄な少年である。

そう呟いて、その少年は老人に向かってゆっくりと歩き出した。尻尾のように、漆黒のマフラーの端っこが揺れる。

「つまり、おじさんを殺せばいいってことなんだよね」

「ああ、その通りだとも。《無邪気な暗殺者》殿よ」

「……………………」

スッと目を細める少年。そしてゆっくりと手を上げ始める。だがその手は、老人の放った言葉でぴたりと止まった。

「だが、そう簡単にできるとか思ってんじゃァねェよなァ」

あからさまに変貌した老人の口調。何か危険なものを感じ、咄嗟に距離を取る五人。その目の前で、老人だと思っていたソレが爆発した。










───嘘……だろ…………

再び思考停止しかける頭を必死で引き止めつつ、セモンは目の前で起きている出来事についてできる限り客観的に捉えようとした。

まず、目の前に居た町長NPCの姿が大きくたわみ、歪んだ。

次いで、メリメリという何かが裂けるような音が響き渡った。

やがて、屈んだ老人の背中から何かが飛び出した。ソレは───

「な…………」

翼だった。

それも、ただの翼ではない。まるで漆黒のエネルギーの塊でできているかのような光を放ち、四対計八枚もある。その先端は、まるで刃の切っ先のように異様に尖っている。あれに触れたら、おそらく問答無用で真っ二つにされるだろう事は想像に難くない。

同時にシワの刻まれていた顔の皮膚が、ベリベリと剥がれた。

その下から現れたのは、驚くほど無機質な男にも、女にも、善人にも、悪人にも、聖人にも、囚人にも見えるヒトの顔。

続いて、ヴン、ヴン、という羽虫がさえずるような小さな音とともに、老人だったモノの周囲に翼と同じ材質の漆黒の巨剣が次々と現れた。

「……………ッ!」

セモンの喉が、一瞬にして干上がった。こいつはヤバイ、という明確な危機感。

そして、ソレの手がゆっくりと上がった。その手の先に、ピンポン玉くらいの黒い小球が現れて

「………みんな、逃げろーッッッ!!」

思わず叫ぶ。その声が他の四人の聴覚を揺さぶり、全員が全力で跳躍するのと同時に───

視界が、純白の黒に染まった。

 閃光

 熱

 轟音

全身がギシギシと軋み、前進をタコ殴りにされたような、冗談みたいな衝撃が体を包んだ。

「ご………は…ぁ…………ッ!」

ぐるぐる視界が回転し、平衡感覚ががりがり削られていく。

どっちが上で、どっちが下か、次第に解からなくなってくる。

そう思ったとき、セモンは自分の体の左半身が堅くて平坦なものに激しくぶつかったのを感じた。

数瞬固まった後、ぺたぺた手をその平坦なものについて認識した。これは、地面だ。二十層主街区【サンカレア】の石畳の地面。

そう認識した時、セモンの視界が急にクリアになった。

ところどころで黒煙を上げる地面。そこに倒れ伏せる、自分以外の四人の影。

その遥か向こうに見える、異形の影が。

呻き声を上げながら、セモンは地に手を突いて立ち上がる。たったそれだけの行為でも、全身の血流が逆流するような痛みに襲われて、再び倒れそうになる。それに耐え、立ち上がるとほぼ同時に他の四人も立ち上がっていた。

紅衣の少年だけは、ガタイがガタイだけに踏ん張れなかったのか、多少足元がふらついている。

「だい……じょうぶ、か?」

掠れた喉で、セモンはどうにかそれだけを言う。幸いなことに、返事はすぐにあちこちから返ってきた。

「あ、ああ……」

「どうにか………な」

「だいじょーぶだよ」

「な、なんとか………」

その返事がきっちり四人分あるのを確認し、セモンは腰から己の得物《ソード・オブ・アマノムラクモ》をしゅりん、と音高く抜き放つ。

陽光が、澄んだ蒼い刀身を美しく煌かせた。そしてそれを、肩に乗せるようにして構える。直後、システムがソードスキルの発動を検知し、キイィィーン、と飛行機のジェットエンジンを思わせるサウンドエフェクトが響き渡り、刀身から血色のライトエフェクトが漏れ出でる。

《神話剣》専用片手剣技、《モエサカル・ストライク》

セモンは溜めていたエネルギーを引き絞り、一気に解き放った。

その絶大なるエネルギーは、しかし暴走などを引き起こすことなく、セモンの狙った箇所に正確無慈悲に突き刺さった。

すなわち、足元の地面へと。

「なにっ!?」

狼狽する声。だが、それすらもすぐに立ち昇った土煙が覆い隠した。

「走れェ!!」

誰かが発したその声に、全員が動いた。セモンも、ありったけの力と意思を両足に込める。

直後、足元の地面が爆発するようにはぜた。周りのテクスチャが溶け崩れ、放射線状に後ろに流れていく。薄灰色の煙がみるみるうちに後ろに流れていき、煙の端が顔を叩いてセモンは灰色の世界から脱出できた。

ちらりと横を見ると、同じように土埃から抜け出てきた四人の姿が見えた。

自然に横一列に隊列を組み、一心不乱に走り続ける。

「なぁ、おい。どこに向かうんだよ」

隣を走る、白いコートの男が訊いてきた。それにセモンは怒鳴り返す。

「そんなのわかんねぇよ!とにかくアレから逃げなきゃあ死ぬぞ!!」

セモンの言葉に、白いコートの端をはためかす男がまた何かを言いかけた時───

ゴッオオォォォォォォーンンンッッッ!!!

轟音とともに近くにあった、民家の瓦屋根がハリボテのように吹き飛んだ。瓦がバラバラになって、こちらに向かってくる。一つ一つがコンクリートブロックのような大きさで、充分な殺傷能力があることが窺える。

それを器用に避けつつ、五人は背後を見る。そして見た。

先刻の、ピンポン玉くらいの小球を数百個体の周囲に浮かせた《ヒト》がいた。

「…………クッソ!!」

セモンは激しく悪態を突いた。隣にいた学ラン少年が空中で体を反転させ、背後から飛んできた数百の致死のレーザーの前に体を晒した。

「お、おい………!!」

学ランの下から、ダガーを取り出す。そして

「フッ!」

鋭い呼気とともに学ラン少年が何かをした。

その動作は簡単だ。数百のレーザーを、ダガーで薙いだ。たった、たったそれだけの動作で漆黒の光の群は灰塵と化して消滅した。

驚いて硬直するセモンを含めた四人。視界の端で、《ヒト》の顔が苦々しく歪むのを見た。

二百メートル以上離れているのに、その口が動いて言葉を形作るのを五人ははっきり感じた。

「《直死の魔眼》、か…………」

ソレをしっかり視界の端に捉えることを決心して、視界を固定しつつも、セモンは他の四人に意識を集中させた。

「………んで、これからどうするよ」

「とりあえず、どこか隠れられる所に隠れよう。話はそれからだ……」

隣を駆ける、薄茶色のケープを羽織った男が言った。それに、紅衣の少年が返す。

「見える?圏外の岩山。あそこだったら、隠れられるところがたくさんありそうだよ」

「わかった」

全員が頷くのを確認し、セモンは改めて足に力を込めた。










見る見る小さくなっていく五つの影に、ソレは小さくため息をついた。

「存外、逃げ足が速ェなァ。もォ見えなくなっちまった」

砕けた口調は変わらなかった。八枚の異形の翅が、苛立たしげに擦り合わされる。それに呼応しているかのように、翼の漆黒の光がその輝きを僅かに輝かせる。

「さァっすが、《物語を紡ぎし者達》ってかァ?ハッ、相変わらずあのお方の考えるこたァわっかんねェなァ」

ぼりぼり頭を掻くソレの周囲には、変化が生じ始めていた。

空気の粘度が増したように、不自然に空間が歪み、多くの何かが出現しようとしていた。

ソレは、決してヒトではない異形の影達。モンスター。

しかし、ただのモンスターではない。巨大だ。途轍もなく巨大すぎる。

こんな物が存在するのは、各階層に一部屋しかない。

「さァーあ、宴の始まりだァ。油断してっと、愉快なグチャグチャの肉塊オブジェになっちまうぞ」

そして、それらが動き始めた。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「霊獣さんにはよ出せって言われたそうだな」
なべさん「な、なぜそれを!」
レン「そこでスタッフが愚痴ってたぞ。あいつはもうだめだって」
なべさん「言ってることが全然違う!俺はもはや、スタッフから見放されてるのか?」
レン「そーなんじゃないの?」
なべさん「そこは嘘でも違うと言ってぇ~!!」
レン「にしても今回は、急展開過ぎない?」
なべさん「あぁ。今回は言ってみれば起承転結の転だ」
レン「早いな。起は分かるが、承はどこ行った」
なべさん「歩いてどっか行ったんじゃね?」
レン「生き物なのか、承って」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー」
──To be continued── 
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