とある六位の火竜<サラマンダー>
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伝えるということ
前書き
今回でオリジナルの話は終わりです。
「……降参だ…」
松野が呆然と項垂れてそう言うと蓮は炎を収める。水を全て蒸発させるほどの圧倒的な火力。その炎を前にした松野に勝ち目はなく、勝負は蓮の勝ちとなる。
「ふぅ……大丈夫か?」
「あ、ああ、ありがとう。」
闘っていた時の緊張感から解放されて一息つく蓮。そして膝をついていた松野に手を貸す。
「しかし、さすがレベル5って感じだな。」
「勝った俺の方がボロボロだけどね。」
「それは神谷が負けようとして手加減してたからだろ?」
「ここまでボロボロになる前に倒れる予定だったんだけどね…。それに、俺の炎が当たったら松野が大怪我しちゃうし。」
レベル3から4の能力者ではレベル5の蓮も手を抜きすぎる訳にもいかない。手を抜きすぎると手を抜いていることがバレてしまう。だからある程度はちゃんと闘っていたのにここまでボロボロにされたのは驚きだった。負けるつもりが結局勝ってしまったのだが。
「それにしても……」
「うん、やりすぎたか……」
そう言って周りを見渡す蓮と松野。周りの様子はひどいもので、地面は松野が水を出しまくったために穴だらけ。工場の外壁にはいくつもの穴が空き、蓮の能力で一部が溶けてしまっていた。
「これは……」
「よし、バレる前に逃げ……」
「逃がしませんわ。」
風紀委員《ジャッジメント》や警備員《アンチスキル》に見つかる前に逃げようとした蓮と松野の肩に、おそらく今1番聞きたくない声と共に手が置かれる。
「ん?なんか声聞こえない?」
「肩に手が置かれた気もするね。」
笑いながら肩の手を振り払おうとする2人。決して後ろを振り向かないのは現実逃避。
「いい加減にしてくださいの。」
しかし、そんな声と共に蓮と松野の視界が上下逆さまになり、頭から地面に落下する。
「テ、テレポート……?」
「痛っ……!!白井!てめえな……あっ……」
「あら?気づいてましたの?てっきり気づいてないものだとばかり。」
呆然とする松野の隣で思わず後ろを振り向いて叫ぶ蓮。そこで自分のミスに後から気づくが既に遅い。こうなっては目の前のテレポーターからは逃げられない。
「で?言い訳はありますか?」
「「すみませんでした!!」」
手を鉄の矢の入ったホルダーがある太ももに当てて聞いてくる白井に全力で土下座をかます2人。
「あれ?佐天さん、初春さん、なにしてんの?」
「ちょっ……!御坂さん!しーーーっ!」
「なにやってんだよ、2人とも……」
白井と一緒に来たのであろう御坂に見つかり、慌てる佐天と初春。こうして4人は風紀委員《ジャッジメント》177支部に連行された。
「……まぁ、今日はこれくらいにしてあげますの。」
「「はい、ありがとうございます。すみませんでした……」
反省文に始末書を書かされ、散々怒られた後、ついに解放された蓮達は床から立ち上がる。
「で、なんでお前らはあそこにいたのかな?」
「え、え~っと……」
言いよどむ佐天に対して笑顔で優しく訊く蓮。
「な・ん・で・だ?」
「面白そうだと思って2人のあとをつけてました……」
完璧な笑顔で目が全く笑っていない蓮を見て佐天が怯えながら言う。御坂や白井はやれやれという感じだ。
「ったく……、まぁいいか。」
「……怒らないの?」
おそるおそる訊く佐天に蓮は言う。
「まぁ、俺としては見られて困るものでもないし。なんか恥ずかしいこと言ってた気もするけど。」
蓮はそう言って笑う。佐天は蓮の言ってたことを思いだし、なにか温かい気持ちになりながら怒られなかったことに安堵の息をつく。
「でもなんで2人は闘ってたの?」
「え、え~っと……」
御坂に訊かれて松野を見ながら言いよどむ蓮。そんな蓮の視線を受けて松野が口をひらく。
「俺が喧嘩売ったんですよ。佐天にフラれた腹いせに。」
「「「え?えーーーっ!?」」」
松野のカミングアウトに御坂と白井、初春が驚きの声をあげる。佐天は少し予想はしていたのか、驚きはしているものの声はあげなかった。
「ちょっ…え?佐天さん、告白されてたの!?」
「佐天さん!聞いてないですよ!?」
「ちょっ……!御坂さんと初春落ち着いて!!なんでそれが神谷と闘うことに……」
驚きのあまり、佐天につめよる御坂と初春を落ち着かせつつ佐天は松野に訊く。ちなみに白井は
「私もいつかお姉様と……」
などと言って完全にこちらの話しは聞いていない。
「神谷に勝てば佐天に認めてもらえるかなって……」
佐天の問いに対して、少し伏し目がちに言った松野をみんなが見つめる。この考えが間違っていると理解している松野はなにも言えない。蓮はそんな松野を見て
「ふぅ……まぁもう遅いしとりあえず帰るか。」
「「「え?」」」
そう提案する。みんなのきょとんとした顔を無視しつつ蓮は続ける。
「初春たちはまだ仕事あんの?」
「あ、はい。まだ少し……」
「じゃあとりあえず御坂さんと佐天を送って帰るか。」
「べ、別に私は送ってもらわなくても…」
「そうですの!お姉様を男に送らせるなど……!!」
初春の答えを聞いて話を進めようとした蓮を、いきなりこちらの話しに復活した白井が止める。
「でも白井さん、神谷さんに送っていってもらえば御坂さんに絡んだ不良の被害が減りますよ?」
「で、でも……なら私が……!!」
「仕事残ってるじゃないですか。」
「私とお姉様の楽しい帰宅路が……」
初春にいろいろ指摘されてがっくりと項垂れる白井。とりあえずは納得したらしいので蓮は話を再開する。
「じゃ、俺は御坂さんを送るから松野は佐天をよろしく。」
「ちょっ……だから私は……」
「え?ちょっと神谷!?」
そう言うと蓮は有無を言わさずに御坂の背中を押してドアから出ていく。
「「「「…………」」」」
「……と、とりあえず帰るか。」
「あ、うん。初春、白井さん、じゃあね。」
蓮の行動に呆然としてしまい沈黙になるが、ギクシャクしながらも松野と佐天が出ていく。それを見送りながら初春と白井の2人は同じことを思っていた。
((本当に大丈夫でしょうか……))
「ねえ!ねえってば!」
「はぁ……なんですか?」
少し後ろを歩く御坂の声に歩みをとめないまま振り返って御坂を見る。
「一体なにがしたいの?」
「なにって……ラストチャンスですよ。」
「ラストチャンス?」
御坂は蓮の答えに首をかしげる。
「ええ。俺は自分の気持ちもはっきりしてないのに松野の邪魔しちゃいましたから。だから松野が佐天に気持ちを伝えるチャンスをもう1度つくりたかったんです。」
「でも、佐天さんにその気はないんでしょ?だったら……」
「そうじゃないんですよ。」
蓮の説明を聞いて、御坂がもう答えが分かるなら言わなくても。と言おうとすると蓮が遮る。
「結果が分かってるとか分かってないとかは関係ないんです。自分の気持ちを口にして伝える。それが重要なんです。そうすれば、諦めるにしても諦めないにしても前を向いて進むことができる。それに…」
そこで蓮は少し笑いながら言う。
「それに松野は諦める必要ないですよ。俺に喧嘩売るやり方は間違ってますけど、松野の気持ちは間違いじゃない。自分の気持ちがはっきりしてるならそれに向かって突き進めばいいんだけなんですから。」
「そうね。私もそう思うわ。」
蓮の言葉に御坂も笑顔になる。
「そういうことであの2人を一緒に帰らせたんです。分かったら帰りましょう。」
「そうね。ってなに1人でスケボー乗ってるのよ!?普通女の子を歩かせて自分はスケボーなんて有り得ないわよ?」
「俺は普通じゃないんですよ。送ってるんだから感謝してくださいよ。」
「神谷くんが送るって言ったんじゃない!!」
「いいから早く行きますよ。」
「あっ!ちょっと待ちなさいよ!!」
こうして蓮と御坂は騒ぎながら帰って行った。
松野と佐天は並んで歩く。微妙な距離をあけて。
(き、気まずい……)
松野だって蓮の考えは分かっていた。だが、どう話し出せばいいか分からなくなっている。
(神谷のやつ、余計なことしやがって……)
こちらをチラチラ窺う佐天の視線を感じることから佐天もなにを話せばいいか分からなくなっているのが分かる。内心冷や汗をかきながら松野がいろいろ考えていると佐天がいきなり声をあげた。
「……あっ!!」
「え?どうした?」
「猫がいる!」
佐天がそう言って近くの公園に入っていく。松野も見てみるとそこには確かに猫が1匹いた。
「可愛い~!!」
「本当だ。可愛いな…」
「迷子かな?」
「首輪ついてるから飼い猫じゃないか?」
「あ、ホントだ。迷子になっちゃったの?」
佐天が猫を撫でながら話しかけているのを見て、松野はいつの間にか普通に会話していることに気づく。
(なに緊張してたんだろうな、俺は……)
松野は小さく笑う。結果は分かってるんだ。ただ自分の気持ちを口にするだけじゃないか。
「松野?」「なぁ、佐天。もう1回だけいいか?」
松野の様子が変わったことを不思議に思った佐天に声をかけられ、松野は真剣な顔で言う。佐天は猫を抱き抱えながら真剣な顔で立ち上がり、2人は向かい合う。
「1回言ってるけど、もう1回だけ伝えます。俺は佐天が好きです。付き合ってください。」
松野は自分の気持ちをはっきり口にして伝える。それを受け止めた佐天は、
「気持ちは嬉しいんだけど、今は付き合うとか考えてないから……ごめんなさい。」
と真剣に考えたうえでの答えを返す。松野はそれを聞いて小さく、だが深く息を吐く。
「ホントに気持ちは嬉しいんだよ?でも……」
「ああ、うん。いいって。ありがとうな。もう1回聞いてるから分かってたし。」
松野はそう言って笑う。
「……まだ友達として一緒にいれるか?」
「そ、それはもちろん!あたしたちは友達だよ!」
「良かった……」
「にゃー?」
2人の真剣な空気が緩んだのが分かったのか猫が鳴き声をあげる。真剣な話をしてた間もずっと黙って佐天の腕の中で大人しくしていた猫がこのタイミングで鳴いたのがなぜか面白くて2人は笑う。そして顔を見合わせてお互いに口をひらく。
「これからもよろしくな、佐天。」
「うん。よろしく、松野。」
そして、2人は猫を抱えて公園を出る。公園に入る前の気まずい空気は跡形もなくなっていた。
「この子どうしようか?」
「う~ん…明日にでも初春に相談してみる。その間はあたしの家に連れて帰るよ。」
「そっか。じゃあ遅くなっちゃったし早く帰るか。」
「うん、帰ろー!」
「にゃー!」
またもやタイミング良く鳴いた猫に笑いながら、2人は帰路につく。こうして松野は自分の気持ちをはっきり口にして伝え、気持ちに整理をつけて前を向いて進みだした。
後書き
なんかうまく書けなかった……
もうちょっといい感じに書きたかったのに…
感想よろしくです。
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