トーゴの異世界無双
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第百十一話 反則じみた不動ぶりだよな
ギルバニアがいるVIPルームでも、ギルバニア以外は闘悟の勝ち目は無いだろうと思っていた。
それどころか、あまりにも無謀な条件で闘う闘悟の思考を疑う者もいた。
「一体あの少年はどういうつもりなのか……」
そう言葉を発したのは、ランブリタル王国宰相(さいしょう)であるディグナスだ。
「こんな闘い、とてもではないが少年の気がふれているとしか思えない」
独り言のように呟くが、それを聞いていたシュレイエ王国大臣であるツートンも同調する。
「全くですな。確かに彼はとてつもない魔力を持っているようですが、事象が決定している魔法を敗れるとは到底思えませんな」
二人の言葉をその場にいる者は耳にしてはいるが、ザド王国代表のキュッラは、一言も発せず、闘悟を観察するように見つめている。
アーダストリンク王国国王のブラスと、その長男であるギレンも、二人とそう意見は違わなかった。
「ギルバニア王、彼は何を考えているのでしょうか?」
ギレンは首を傾げながら質問をする。
するとギルバニアは表情を動かさず口を開く。
「さあな。アレが考えることは俺にはサッパリだ」
「はあ」
「だがよ、きっと皆が驚くことをしてくれるぜ?」
「……その根拠は?」
「何たって、アイツはトーゴだからな」
「……はあ」
釈然としない気持ちで声を漏らしたが、それ以上は何も語ろうとしない雰囲気だった。
すると、ニヤッとして一言だけ言った。
「ま、結果を楽しみにしようぜ」
本人が一番楽しみにしているのではないかと疑うくらい、瞳がキラキラと子供の様に輝いていた。
その頃、クィル達も無茶苦茶な条件を飲んだ闘悟を心配していた。
「トーゴ様……」
「なあなあ、クー姉、トーゴだいじょうぶだよなぁ?」
ハロが心配そうに服を掴んできた。
まだ五歳なので、詳しい内容は理解していないようだが、周りの雰囲気を感じ取り、闘悟が気になっているようだ。
クィルは彼女を安心させるように微笑む。
「はいです。トーゴ様はいつも無茶ばかりなさるです。今回も、きっと大丈夫なのです」
そう自分にも言い聞かすように言う。
「そうですね」
試合から戻って来たミラニもそう言葉を放つ。
「ん……トーゴは……勝つ……よ」
ヒナが自信を込めて言う。
「そうよぉ~! ヒーちゃんの言う通り、トーくんは勝つわよぉ!」
ニアが王妃らしからぬ声を上げる。
「お母様、お声が大きいですよ」
リアがそれを窘(たしな)める。
「むぅ~じゃあリーちゃんは、トーくんが負けると思ってる?」
口を尖らせながら言う母親を見て、少し溜め息を吐き首を横に振る。
「いいえ、私も信じていますよ。トーゴさんが勝つと」
その言葉を受けて嬉しそうに笑みを作るニア。
「そうこなくちゃ~!」
「ですが、トーゴさんはどうやって勝つつもりなのでしょうか?」
「あ、リーちゃんもやっぱ気になる?」
「ええ」
「きっと……」
そう言葉を出したのはクィルだ。
皆が彼女に視線を向ける。
「きっと、私達が想像もつかない方法なのです」
彼女の言葉に皆が一斉に頷く。
どうやら彼女達は闘悟のことを理解し始めているのかもしれない。
いつも想像以上のことをやってのける闘悟を、もう誰も疑っていなかった。
もちろんクィルから心配は消えやしないが、闘悟の勝利と無事を誰よりも望んでいた。
「トーゴ様……頑張って下さいです」
両手を合わし、祈るような恰好をする。
(……それはそうと、ステリア様……お花を摘みに行かれて長いです……)
トイレに行くと言って、いつまでも帰って来ない彼女のことを心配するが、まさか闘悟と一緒に参加していたとは露(つゆ)にも思っていなかった。
「それでは両者が準備できたようなので、始めて下さい!」
モアの開始の声に、バンリドはすぐさま『不動(ふどう)魔法』を自身にかける。
「さて、やるか」
闘悟は首を回して気合を入れる。
まずはさっきのおさらい。
闘悟は魔力を少しだけ解放する。
そして勢いをつけてそのままバンリドに拳を突きつける。
結果は、やはりバンリドは不動のままだった。
「それくらいじゃ、無理じゃのう」
「分かってるよ、でもせっかくだしいろいろ試してみてえんだ!」
拳に力を込める。
「無駄じゃって」
バンリドは釘を刺すように言うが、闘悟はそんなバンリドの顔を見てニヤッとする。
「ん?」
「だったらこれでどうだぁっ!」
何を思ったか、闘悟は自らの拳をバンリドの足元に向ける。
かなりの衝撃音とともに足元の舞台が粉砕する。
バンリドを支えていたと思われる地面が砕けて消える。
闘悟はこれで勝負がついたのではないかと思った。
何故なら、バンリドがその場から一歩でも動けば闘悟の勝ちになる。
地面を破壊すれば、彼を支えるものが無くなり、必ず動いてしまう。
自ら動くのは条件の中で許されているが、こうして闘悟の攻撃によって生まれた状況で動けば闘悟の勝ちになる。
破壊された舞台の破片が周囲に飛び散る。
舞台の真ん中にポッコリ穴が開いたようになっている。
闘悟はその穴の中に膝をついている。
だが変だ。
何が変だって?
何故ならそこにいるのが闘悟だけだからだ。
もし闘悟の思惑通りなら、その穴の中にいるのは闘悟とバンリドの二人になっているはずだった。
「そっか! 即座に跳んで逃げたのか!」
足元が崩れる瞬間、穴に落ちるのを防ぐために、後ろなり横なり跳んで避けたのだと思った。
だがそれでも動いたことには変わらないので、闘悟の勝利となる。
闘悟はそのままの格好で、上を見上げてバンリドを探そうとした…………が、探すまでも無かった。
何故ならバンリドは…………
………………………………真上に存在していたからだ。
「え……はあ?」
呆けた声を出して、真上にいる、いや、真上に浮かんでいるバンリドを見つめる。
観客達も、目を限界まで開き驚愕の表情をしている。
それも無理は無かった。
バンリドは間違いなく、空に浮かんでいるのだから。
「うむ、なかなかの方法じゃが、今までその方法を試した奴がおらんかったと思うかのう?」
「……」
「不動は……伊達じゃないということじゃ」
そう言うと、彼は静かに降りてくる。
これは自らの意志で動いているので問題は無い。
闘悟は立ち上がり、降りてくる彼を黙って見つめている。
穴の中に着地すると、顎を触りながら話し出す。
「あくまでもじゃ、俺が使用した場所から不動を維持するのが『不動魔法』じゃよ?」
「……なるほどな」
「その程度で破られるほど、浅いもんじゃあないのう?」
使用した場所から不動を維持することが事象として決まっている。
それが『不動魔法』。
ということは、仮にこの場所全てを吹き飛ばし、無に変えたところで、『不動魔法』を解かない限りは、その場に存在してるというわけだ。
「やっぱ、すげえなアンタ」
「ん~褒められんのはくすぐったいのう。しかしどうするんじゃ? もう諦めるのかのう?」
「んなわけねえだろ! まだまだこれからだ!」
そう言うと闘悟は更に魔力を解放する。
「一パーセント……三パーセント……五パーセント!」
無論闘悟の魔力を感じている者達全員が開いた口が塞がらないでいる。
その理由は闘悟の異常なまでの魔力量だ。
これまで何度か闘悟が魔力を解放するところを見て、只者ではないと判断してきた者達も、まさか闘悟がこれほどの魔力を有していたとは思っていない。
「こ……これは……何という……」
モアでさえ、呟き声になるほどの驚愕ぶりだ。
「これが異世界人の魔力……」
フレンシアも誰にも聞こえないほどの小声で言葉を漏らす。
「うはは! これは驚いたわ! 何ちゅう魔力出しよるんや!」
バンリドも笑ってはいるが、頬が引き攣(つ)っている。
「行くぞボサボサ頭!」
闘悟がその場から動くと、舞台が破壊される。
動くだけでかなりの衝撃波を生んでいるようだ。
これまで感じたことが無かった魔力で攻撃される。
バンリドは、自分の『不動魔法』に絶対の自信を持っているが、未知で、予想できない破壊力を込めた攻撃だけは正直焦りを生んでしまう。
無意識に全身に力を入れて踏ん張ってしまう。
闘悟は右拳に魔力を集中させてそのまま突っ込む。
ドゴオゥッ!!!
そんな音が周囲に響く。
それは拳による風切音と衝撃音だった。
誰もが息を飲み結果を待つ。
これほどの魔力を込めて攻撃されたら、さすがの『不動魔法』も破られるのではないかと感じている。
しかし、目の前に写った光景は信じられないものだった。
そこには拳を突き出した闘悟と、一歩も動かず立ち尽くしているバンリドがいた。
「くっ!」
闘悟は歯を食いしばり、全身に力を込める。
「まだまだぁっ!!!」
そこからは闘悟の連撃が始まる。
サンドバックを殴るように、いろんな角度で攻撃を加えていく。
闘悟を中心にして突風が観客席にまで届いてくる。
帽子を飛ばされるほどなので、かなりの強風を生んでいる。
何度も何度も殴打するが、残念なことにバンリドはピクリとも動かない。
そして、闘悟は攻撃を止め風も収まる。
「ふぅ」
闘悟は一息ついてバンリドから距離を取る。
「さ、さすがの私も実況の口が挟めませんでした! 通常では考えられないほどの魔力を解放したトーゴ選手もさることながら、その攻撃を完全に防いだバンリド選手。一体どっちが勝つのでしょうか!」
モアはついつい見入ってしまって実況を忘れていたのを反省した。
「今の魔力……」
「フレンシア様?」
「今の魔力ですが、達人級が百人集まっても届かないでしょう。破壊力も恐らくは山くらいなら吹き飛ぶほどかもしれません」
「なっ!?」
「ですが、それでも『不動魔法』は崩せなかった」
フレンシアは真剣な表情で続ける。
「あれほどの攻撃を受けたのも彼は初めてでしょう」
「そ、そうですね。バンリド選手も驚いたというか焦ったと思います」
「最強とも思われる攻撃でも破れなかった。まさに絶対防御です……」
フレンシアの言葉を聞いて、ほとんどの者は結果を見出してしまっていた。
この勝負はバンリドの勝利だと。
だがその中でフレンシアは気づいていた。
確かに今の攻撃は、およそ人が肉弾戦で出せる最強のものだった。
それが傷一つ、揺らぎ一つ起こすことができなかった。
だがそれでもフレンシアは、決して闘悟の失敗を落ち込んではいなかった。
彼女は魔力視認の持ち主だ。
以前、闘悟の魔力を卵にして例えたが、その卵がまだ完全に割れてはいなかった。
それどころか以前と少しだけ亀裂が大きかっただけだった。
そこから漏れ出る魔力が、今の魔力だった。
闘悟はまだ全力では無い。
いや、全力どころか、遊んでいるのではと思うくらい闘悟から感じる魔力の根は深過ぎていた。
(トーゴくん……あなたはどこまで……)
自分の目を疑いたくなるくらい闘悟から感じるものは異質だった。
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