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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第百十話 面白そうな賭けじゃねえか

「賭け?」
「まあ、賭け言うても、単純な勝負じゃ」


 闘悟は彼が何を考えているのか探ったが、答えは見つからない。
 仕方無くその内容を聞くことにする。


「どんな賭けだ?」
「なあに、簡単じゃ。お前さんが俺をここから動かせられるかどうかを賭ける。もちろん俺は動かん方に賭けるからのう」
「……へぇ、ならオレは動く方に賭けるってわけか」
「そうじゃ、もし賭けに敗れたその時は、負けを認めてもらいたいんじゃ」
「賭けってことは、負けたら何かあんのか?」
「そうじゃのう、負けた方は一つだけ何でも言うことを聞くってのはどうじゃ?」
「ふ~ん……」


 闘悟はその提案の意図を考察する。
 バンリドは『不動(ふどう)魔法』を使って身を守る。
 その魔法を越えて、彼をその場から動かすことができれば闘悟の勝ち。
 できなければ負け。
 至極単純な提案に見える。
 だが彼の『不動魔法』の強固さはもう経験してしまって知っている。


 恐らくあの魔法は、防御力を上げる単純な魔法などでは無く、事象が決定している魔法だ。
 つまりはあの魔法の使用者は【絶対に傷つかない】という事象が決定しているのだ。
 どんな場所で、どんな魔法で、どんな攻撃で、どんな方法でも、決してその事象は覆(くつがえ)せない。
 朝を迎えて、時間が経てば夜が来るように、確定された魔法なのだ。
 故に絶対防御とも言える能力なのである。


「ずいぶんこっちが不利そうな要求だって言ってもいいか?」
「それはないじゃろ? そんなこと言っとると、お前さんの存在自体が反則みたいなもんじゃよ。それにのう、賭けなんてのはまあオマケみたいなもんじゃ。何かあった方が燃えるからのう」
「それにしても、存在自体が反則は言い過ぎじゃねえか?」
「いやいや、むしろ言い足りんぐらいじゃ」


 微笑みながら言う彼を見て、本当に楽しんでいるのではないかと感じる。
 いや、彼のことだからきっとこのやり取りを楽しんでいるだろう。


「普通にやってお前さんに勝てる奴はおらん」
「そこまで持ち上げてくれるなんて、いいのか? 仮にも『五色の統一者(カラーズモナーク)』で有名貴族なんだろ?」
「そんなもんで腹は膨れんて」
「腹って……」
「それにのう、一番大事なのは、身分や肩書やのうて、見極める目じゃよ」
「……」
「少なくとも、俺はそう教えられとる」
「……アンタには良い先生がいたみてえだな」
「幸いなことにのう」


 子供の様に嬉しそうに笑う彼の言葉を聞いて闘悟は見直す。
 今まで闘悟が出会った貴族の中でも、とんだ変わり種(だね)もいたと感じた。
 それと同時に、彼に好意を抱いている自分もいたことに気づいた。
 雲みてえな奴だな……ホントに面白え。


「だけどその提案、俺が断ったらどうすんだ?」
「ん~それは困るのう」


 真剣な顔で発言をする彼を見てプッと笑ってしまう。


「これは提案じゃのうて、頼みのようなもんじゃしのう。断られたらどうしようもないのう」


 言葉に邪気(じゃき)も何も感じられない。
 今までも言葉は全て本物。
 騙そうという気がサラサラ感じられない。
 頼みというのも本当なのだ。


「でも、お前さんは断らんよ」
「へぇ、何でそう思うんだ?」
「ん~何となく……かのう?」


 すると闘悟はニヤッとして言葉を放つ。


「まあ、正解だな。そんな面白そうな提案、飲まねえわけがねえ!」


 親指を立てながら断言する。
 するとホッとしたようにバンリドは息を吐く。


「それは良かったのう!」
「だけど、何か決まり事でも作らねえか?」
「ん?」
「まさか、オレの魔力が無くなるまで殴り続けるってのも面白くねえしな。それにそんなことしてると、時間が掛かり過ぎちまう」


 闘悟の言う通り、もしそんなことになったら、一日や二日で終わるようなものではない。
 確かにその方法を取れば、いつかバンリドも睡魔などに負けて、動くかせる可能性が高くなるだろう。
 だがそんなのは面白くない。
 闘悟はまっこうから彼の魔法を打ち破りたいと思っているのだ。


「そうじゃのう……」


 そこで二人だけの世界を作り、他の者達を放置しながら条件を作る。
 ウースイからは常に文句が聞こえてきたが、無論取り合ってはいない。
 ステリアも何か言いたそうだったが、闘悟の楽しそうな表情を見て、何を言っても無駄だと悟り黙って見ていた。
 そして、条件は決まった。


 一、時間制限は二十分間。
 二、攻撃は自由。(魔法可)
 三、攻撃を受け、バンリドが一歩でも動けばバンリドの負け。(自ら動くのは可)


 大まかに三つの条件を決めたが、これで十分だと判断した。
 もちろん時間内にバンリドの『不動魔法』を破れなかったら闘悟の負けだ。
 闘い方を決めたら、観客達も分かるようにモアに伝え流してもらった。
 すると観客達も、今までとは違った展開が気に入ったのか盛り上げてくれた。
 開始の合図と時間読みはモアに任せた。
 今はインターバルといった感じに、闘悟もバンリドも体をほぐしている。


「これは面白い展開になりましたねフレンシア様」
「ええ、さすがはトーゴくんよねぇ」


 両手を頬に当てて笑みを浮かべている。
 そんな三賢人の姿を見て、頬を引き攣(つ)りながらも声を掛ける。


「そ、そうですね。と、ところでフレンシア様、この勝負はどう見ますか?」


 するとフレンシアは途端に解説者としての顔を見せる。


「そうですね、正直に言えば、誰がどう見てもトーゴくんの不利でしょうね」
「その理由は?」
「事象が決定している魔法とは、言わば時の流れと同じです」
「はあ」
「絶対、当然、必然。覆すことのできないことです。そんな魔法を破ることなど到底できません」
「な、なるほど」
「例えば、高温度の炎に触れれば熱い。物を落とせば地面に落ちる。目を閉じれば何も見えない。私達は今……生きている。どれも確定された事実です」
「それと同じくバンリド選手の『不動魔法』は防御に関しては絶対無敵。そういうことですね?」
「その通りです」
「ではトーゴ選手には勝ち目は無いのでは?」


 モアの言葉に誰もが頷く。
 観客の中には条件の厳しさにバンリドに文句を言う者もいる。
 だがその中で、静かにフレンシアは語る。


「そうとは限りません」
「ど、どうしてですか?」


 モアだけでなくほとんどの者がフレンシアに注目する。
 どう考えても無理だと断(だん)ずるに値する条件だと皆が思っている。
 それなのに、そんな状況を打破(だは)できる方法があるとでも言うのかと、皆が訝(いぶか)しんでも仕方が無い。


「彼は……トーゴくんはこれまで皆が驚くようなことを平然とやってのけてきました」
「た、確かにそうですが……」
「今回も、トーゴくんなら何とかしそうな予感がします」
「そ、それは……ですが……」


 モアの疑問も最もだ。
 今までは無茶と思えることを闘悟は確かに乗り越えてきた。
 だが今回は無理、または不可能なことを乗り越えようとしているのだ。
 幾らフレンシアの言葉でも信じられないのも無理は無い。


「まあ、私達はただ見ていましょう。二十分後、舞台の上にいる勝利者を待って」


 フレンシアは静かな微笑をモアに向ける。
 彼女もそれに応えるように頷くしかできなかった。

 
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