とあるIFの過去話
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六話
―――できるなら、もう一度―――
PiPi。携帯の着信の音で一方通行は目を覚ました。何か、忘れてはいけないものを見ていたような気がするが、所詮夢だと思い、携帯に届いたメールを見る
暗号化された添付ファイルが付いた、もはや見なれた文面を読み、目を覚ますために何か飲もうと冷蔵庫を開ける
珍しいことに荒らされておらず、買いだめしたブラックコーヒーに手を伸ばした
一方通行は実験を続けた。一日に何十体もクローンを殺し、日々数を積み重ねていった。殺し方も変化し、なるべく穏やかに死ねるようにと殺していたのが、数を重ねるごとに残虐になり、相手を罵倒し、人としての形を保たないようなものを作るようにもなった
傍から見れば、それは逃避だったのかもしれない。クローンとはいえ、人を自分の為に殺し続ける自分は人ではないのだと、化物なのだと思いこませようとしたのかもしれない。自分の言葉に対し、何か言い返してくるのを期待したのかもしれない
何百、何千と殺し、それでもまだだと殺し続ける。もはや、最初の一体をどうやって殺したのかも一方通行は忘れてしまった
最初にいた責任者らしき男も実験が進むうちに自分から遠ざかって既に去り、代わりの人間が収まった
それ自体いつものことであり、ああ、またかとしか一方通行は思わなかった
そしてまた今日も、彼は殺し続ける。自分が望んだ、レベル6になる為に
「対象者の到着を確認。パスを確認します。**********」
「*********だ」
「パスを確認しました。実験開始まで、あと二分三十二秒だとミサカは伝えます」
指定された場所で、もはやとうに見なれた顔が並ぶのを見る
「いつもいつも同じことばっかで、耳にタコが出来らァ。なンか他の事言えねェのかよ」
「? いくら同じことを聞こうとも、耳に海洋軟体動物は出来ません。とミサカは疑問を表します」
「そういう意味じゃねェよ。ちっ、単価十八万のクローンじゃその程度の事も分からねェのか。俺に殺されるしかできねェ量産品に期待した方が馬鹿ってか? つゥか、別々に喋ってんじゃねェよ、紛らわしい」
「ミサカは04789号です。先ほどのミサカは04792号です」
「いちいち覚えてられっか。ミサカミサカうるせェ。俺はさっさと帰ってブラックコーヒーが飲みてェンだよ」
「苦味は元々、毒に対してのものです。あのコーヒーを飲むことがミサカには理解できません」
「それはテメェらの味覚がガキなだけだ。だからうるせェ」
その言葉を皮切りに、会話が途切れる
ミサカ達は誰一人として動かず、その表情も相まって、まるで人形ではないかと錯覚してしまいそうだ
しばし静寂の時間が流れる
「開始まで、十秒を切りました」
その言葉を聞き、一方通行はポケットに入れていた手を出す。動きを止めていたミサカ達も、距離をとり、広がる
「さあ、こいよ。いつもいつも愉快にケツふりやがって。リクエストがあればその通りのオブジェ作って殺してやるぜェ!じゃあよ―――」
「あと五秒です。とミサカは返答します」
「リクエストはありません。とミサカは答えます」
「今回の実験は、第4788から、第4793です。とミサカは最終確認をします」
「後三秒です。二、一。とミサカは告げます」
「……時間です。ではこれより」
「―――派手に死ねやァ!!」
『実験を、開始します』
後書き
これにて終わり
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