とあるIFの過去話
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三話
「いったい、なんだってンだ」
あのあと家に帰って買ったものを置き、連絡された場所に向かいながら一方通行はミサカが見せた表情について考えを巡らせていた
「分かるわけねェか、次あった時にでも聞きゃいいな」
そう結論を出し、少し前まであった周囲の喧騒がなく、人の気配がしない、まるで捨てられた工場跡地のような広場にたどり着く
『時間道理に着いたようだな、一方通行』
突然鳴り響いた声に周囲を見渡せば、上の方に取り付けられたいくつもの監視カメラがこちらを向いている
「おいおい、こンな所に呼び出してこのオレに何させンだ」
『もう少し進みたまえ。そこに今回の相手が待っている』
「ああ?相手ってのはどういうことだオィ」
そう言い返しながらも言われたとおりに歩いていく
『学園都市には能力者が最高でレベル5までしかいないのは知っているだろう』
「何当たり前のこと言ってンだ」
『しかし、【樹形図の設計者】による予測の結果、現存のレベル5の中に、まだ見ぬレベル6にたどり着ける可能性があるものが一人いることが分かった』
『それが君だよ、一方通行。ああもうそこでいい』
こちらの言い分が届いていないように続けられる言葉を聞き、言われたとおりに足を留め、続きを聞く
『【樹形図の設計者】の予測の結果、それには君が幾つもの戦闘経験を積むことが必要だと判明した』
「ああ、つまりそのためのオレが戦う場がここってことで、あれが相手か」
右手に銃器を持ち、上から雨合羽のようなフードをかぶり全身を隠した人物が薄暗い暗闇の中から歩いてきたのを見ながら言う
『ああ、そのとおりだとも。武器を持っているが一応能力者だよ。その相手を倒したまえ。他に質問はなければ始めるが』
「ああ、もういいぜ」
その言葉に離れた場所にいるフードの人物が反応する
「パスの確認をとります。**************」
それに対し、メールに暗号化されて添付してあったパスを返す
「パスを確認しました。ではこれより、実験を開始します」
言い終わるのと同時、銃口がこちらに向けられた
(声から判断した所女か。どっかで聞いたような気もするが、随分と容赦がねェなおい)
向かってくる銃弾を残らず弾きながら一方通行は思う
一瞬の躊躇いがあったようだが、よく容赦なく銃を人に向かって連射できるものだと思う。それも一撃で命を奪えるであろう大型口径の物をだ
(だが、意味はねえ)
それら全てを弾きながら近づく
意味がないと分かったのか、懐からナイフを出し投擲すると同時に電撃が一方通行に襲いかかる
(エレクトロマスターか。……ン?)
少し疑問に思いながらも地面をけり真っ向から近づき、それら全てを弾く
相手は伸ばされた手から逃げようとするが、すぐさま方向転換した一方通行につかまり、地面に倒され身動きが取れなくなる
「これで終わりってか。ちょろすぎンぞおィ」
『そう言わないでもらいたいな。この実験では毎回のデータが次に引き継がれるため、段々と強くなっていくはずだ』
「そういうもンかねェ。……ってやっぱそうか」
研究者に対して悪態をつきながら、一方通行は動きを封じられながらももがいている相手を確認し呟く
「随分と早ェ次だなおィ、ミサカ」
疑問が解け軽く息を吐く
恐らくミサカはこのことを知っていた。だからあんな顔をしたのだろう
ンなこと気にしなけりゃいいのにと思いながら顔を監視カメラに向ける
「これで実験は終わりだ。次はなンだ?」
『何を言っている?まだ実験は終了してはいない』
「……その通りです。まだ終わってはいないとミサカは警告します」
もがきながら何か言っているミサカを無視しながら一方通行は言葉を返す
「こいつは見ての通りもう戦えねェ。それともまだ誰かいるってのか」
『いや、相手はその一人だけだ』
「だったらもう終わりだろ。オレはもうこいつを倒した」
『倒した、か。ああ、どうやら誤解させてしまっていたようだな。言い換えよう』
そして、次の言葉を聞き、一方通行の思考は止まり――
『相手を殺せ、一方通行』
瞬間、銃声が鳴り響いた
「――――な!!!」
恐らく今の言葉で思考が止まってしまったせいだろう。なんとかミサカの右手が一方通行の拘束を逃れ、そのままゼロ距離射撃を敢行した
止まってしまった思考のせいで変に反射した結果、銃器を破壊しミサカの右手をその破片で傷つけるとともに、その弾丸はミサカの腹部を貫通し、暴発した残弾がミサカの体中を抉る
見たところ大切な臓器を避けており致命傷ではないが大量に血が流れ、このままでは危ないのは考えるまでもない
すぐさま幹部に触れて血の流れを操るとともに一方通行は携帯電話で救急車に連絡を入れる
『【樹形図の設計者】の予測に基づいた結果、一方通行はレベル5第三位、通称超電磁砲を百二十八回殺すことによってレベル6に至れることが分かった』
気絶しているミサカに一方通行が触れ、左手で血流操作を行い、右手で電話をかけている間もその言葉は止まらない
『しかし、超電磁砲を百二十八体も用意することは不可能。そのため、代案が出されることとなった』
『バンクに登録されていたDNAマップを使い、超電磁砲のクローンを作成。しかし、作成されたクローンが持つ力は高い個体でレベル3程度の物。そのため再度【樹形図の設計者】による予測を行った』
『その結果、クローン二万体を二万通りの戦場で殺すことによってレベル6に至れることが判明した』
『これはその第一実験なのだよ』
「テメェはもう黙ってろ!!!!」
電話が終わった一方通行は両手でミサカの体を支え、衝撃が一切伝わらないように気をつけながら表の道を目指す
早いもので、人通りがなく静寂に包まれた中、赤いランプを回し、既に到着していた無地の救急車から降りてきた隊員にミサカを預けると、すぐさま救急車は発進していった
学園都市製の救急車は設備が豊富で、下手な病院よりも物によっては整っている場合もあるため心配はいらないだろう
そのため、それを見送った一方通行はすぐさま怒りのままに行動を開始した
(糞科学者どもが、ふざけてンじゃねェぞ!!)
幾度か訪れた研究所に着くや否や、一方通行は秘匿の為にある幾つものセキュリティーを無視し、研究所の扉をぶち破る
ここまで来る際に鳴ったアラームのせいか、慌ただしく動いていた研究員たちが轟音と共に吹き飛んだ扉に反応して動きが止まる
そんな中、一方通行は侵入。責任者を見つけようと周囲を見渡し、そこにある大きなガラス管の中にミサカと同じ顔の少女が浮かんでいるのを見て怒りが増す
(あれが言ってたクローンで、あいつの言ってた妹達、か。見たところまだ肉体だけで意識まではねェか。それよりも此処の責任者はどいつだ。経験上、下っ端が潰れようと実験は終わらねェ。この糞どものトップはどこに―――)
「随分と早い到着だな、一方通行」
恐怖にかられた表情の研究者を見渡す中、カメラ越しに聞いた声が聞こえた
おそらくそいつがここの研究所の責任者なのだろう、唯一恐怖の表情を浮かべず、手に幾つもの書類を持った見なれない顔の白衣の男が立っていた
その事に対し、一方通行はわずかに疑問を覚える
今まで自分の研究に関わってきた相手は例外なく自分に対し恐怖の感情を向けてきた。どれだけ高い野望を抱こうとも、一方通行の高すぎる才能の前に顔をそむけてきた。だが、それを相手が理解するまでの間にはいくらかの時間が必要だ
理解するまでの間に自分に対し高圧的に出ようとした研究者もいなかったわけではない
恐らく、今自分の前にいる研究者もその類なのだろうと一方通行は理解し、相手の胸ぐらを掴んで壁に押し付ける
「おい、今すぐにでも実験を凍結しろ。これはお願いじゃねェぞ。命令だ」
「何を言っている。そんな要請を受け付ける訳にはいかない」
自分よりも小さな相手に身動きとれぬようにされていながら、男はいささかも調子を崩さない
「舐めたこと言ってンじゃねェ。一介の研究者がこの俺に意見できるとでも思ってンのか。テメェはただ言うこと聞いてりゃいいンだよ」
「既にこの計画は動き出している。今更子供の癇癪に着き合っている暇はないのだよ」
「――――なら勝手にしてやがれ。だが、俺はもうテメェらには協力なンざしねェ。そうすりゃ勝手に潰れンだろ」
「それは困る。だが、これは君にとってもいい話のはずなのだがな」
「は?何言ってやがる。一体いつ俺が―――」
「誰も傷つけたくない。その為に力を欲していたのではなかったか?」
その言葉に一瞬、一方通行の言葉が止まる
「君の経歴を見せてもらったよ。能力の暴走による事故。そしてその後の研究への自主的ともいえる参加。事故で周囲の人間を傷つけてしまったことから、能力を身につけて制御しようと思ったのだろう」
「だが皮肉なことに、そのために君はレベル5第一位と認定されてしまう。そのため、その地位を、最強という名声を狙った者たちに日夜襲われその者たちを傷つけ、望んだ平穏など手に入らないのではないか?」
「………それがどうした」
胸元を掴まれ、一方通行が少しでも気を変えれば次の瞬間には死体になるだろうことを理解しながらも、男の言葉は止まらない
「それは君がそこで止まっているからではないか?レベル5<最強>ではなく、レベル6<無敵>にでもなれば、挑もうと考える者たちはいなくなるのではないかね?」
「………だから実験に参加しろってか。馬鹿言ってンじゃねェぞ。その為に人殺したら意味ねェだろが」
「あれは単価十八万の量産品でしかなく、明確な人ではない。そんな劣化品を処理するだけでこの先の平穏が手に入り、その数以上の人間を傷つけずに済むのだぞ。それに、人ならば君はもうとっくの昔に殺しているではないか」
我儘を言う子供をたしなめるようなその言葉に、今までにはいなかった、こちらの内面を抉るような言葉に一方通行は動揺し、男の胸ぐらを掴む力が緩む
「何、言ってやがる」
「君の能力が暴走した際、どれだけの被害が出たか知らなかったかい?」
男の右腕が上がり、掴まれていた書類が一方通行の目の前に出される。どうやらその書類は一方通行の事に関しての物のようであり、一番上の書類に事故の事が乗っており、あの事故の被害の事について記載されている
自然、そこに書いてあることを目が追ってしまう
物的被害 詳細は別紙に記載
・周辺の建築物の損壊――大型ビル二棟・能力研究施設一棟
・荒らされた周辺地域――地面の陥没・隆起等
・破壊された備品・機材―――――――――
…………総計被害総額、約**億円
「ああ、被害額は気にしなくていい。今までの実験への協力で、すでに大半が補われてる」
そんな声など耳に入らず、視線は次に進む
人的被害 詳細は別紙に記載
・負傷者 一般学生――十八名。風紀委員<ジャッジメント>――十二名。警備員<アンチスキル>――三十三名
・被害内訳 軽傷者――四十八名。重傷者――十三名。
そして、それを見てしまう
死者――二名
「君は知らなかったのかもしれないが、あの事故の際、君は既に人を殺している」
そんなこと知らなかった。血が流れ、自分のせいで傷を負った人がいるのは知っていた。目の前で見ていた。だがそれでも、誰かを殺しているだなんて知らなかった
「………馬鹿なこと言ってンじゃねェ。そんなことあるはずがねェ」
ここの科学力は外の十年、二十年は先に進んでいると言われている。それは医療の分野に関しても同じだ。よほどの傷でもない限り、まず死ぬことはないだろう。そのうえ、あの際に用いられた弾丸は暴徒鎮圧用の非殺傷のゴム弾のはずだ。当たったところで骨は折れても、死には至らないだろう
そんな考えが頭の中を巡るが、すでに口から出た言葉に勢いはなく、胸ぐらを掴む手は僅かに震えている
それを見越したのかは定かではないが、男はその疑問に対して答える
「確かに、あの際に用いられたものは非殺傷のものばかりだ。それを受け、倒れたものは骨を折れさえすれど、命に別状はなかった。だが、あの場に現れた学生<能力者>は別だ。彼らが使う力に、そんな制限はない」
その言葉だけで理解した。理解してしまった
「彼らが君に対し恐怖を抱き、自分の身を守ろうと、または君を止めようと放たれた能力は無差別に跳ね返された。そう、地面に倒れ、動けなかった者にもだ。君が自分の能力で、自分の意思で弾いた力は既に人を殺している」
自分の手は、とうの昔に人を殺していることに
元をただせば、厳密にいえば殺したのはその力を放った能力者と言えるかもしれない。だが、その理由を作ったのも、放ちざるを得なくしたのも、放たれた力で殺したのも自分だ。そのことに、違いなどありはしない
「そんな君が今更、劣化品のクローンを殺すことで何をためらう。これから先、誰も殺したくはないのだろう。レベル6<無敵>になりたくはないのか?」
だがその言葉で意識を取り戻す
確かに自分は過去、人を殺したのだろう。だが、だからといってあいつ<ミサカ>を殺す理由にはなるだろうか?
―――いや、なるはずがない
ミサカが自分に殺されるために作られたクローンだとしても。実際に今日、ミサカと話し、店を回った自分は知っている。無表情だとしても、感情が薄くとも、ミサカ自身としての感情を持つ、劣化品などではない人間だということを
そんなあいつを、前に人を殺したことがあるから、自分がこれから先誰も殺さないために死んでくれと思えるわけがない
ああ、そうだ。簡単なことじゃないか。あいつが殺される理由なんかないじゃないか
「―――俺は昔、人を殺しただろうよ。だがな、それがあいつを殺していい理由になンざならねェ。あいつが死んでいい理由になンざならねェンだよ。
もう一度言ってやるよ糞野郎。俺はこんな実験になんざ参加しねェ。レベル6?あいつを殺さなきゃいけねェンなら、そンなンいらねェ」
「此処まで言っても参加してもらえないか。ならば仕方ない」
男がいうことなどもはや聞かず、言うこともないと一方通行は胸ぐらを掴む手を離し、こんなクソタレな研究所を壊すために拳を握り、振りかぶる。だが
「早急に、クローンを一体残らず破棄するとしよう」
その言葉に、拳を止めざるを得なかった
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