ハイスクールD×D ~銀白の剣士~
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第10話
Side 一誠
山に籠って一週間がたった。俺はベッドで天井を見上げている。毎日朝から晩まで修行をした。
そして、俺には才能がないことがわかった。
木場はすごい。修行すればするほどその差を実感する。そんな木場に勝てる渚はもっとすごいのだろう。いくら魔力を使っているといってもあいつは人間なのだ。あの二人にはおそらく何年もかけなければ追いつくことはないだろう。いや、もしかしたら追いつかないかもしれない。
魔力の修行では、俺の隣でアーシアは順調に成長している。炎や水、小規模ながらも雷を使えるようになっていた。俺は未だに米粒ほどの魔力の塊だ。
そんなことを考えていると、俺はたまらなくなり、寝床を飛び起きる。のろのろと立ち上がり、キッチンで水を飲んだ。
「あら? 起きたの?」
「こんばんは、イッセーさん」
「やあ、兄さん」
リビングから部長、アーシア、渚の声が聞こえた。
「みんな、どうかしたのか?」
「少しね。ちょうど良かったわ、少し話しましょう」
俺はテーブルを挟んでアーシアと対面の席に腰を掛けた。
テーブルにはフォーメーションなどが書き込まれた紙や地図が置かれている。俺が席に着くと部長は戦術の書かれたノートを閉じた。
「・・・・・・正直、こんなものを読んでも気休めにしかならないのよね」
部長はため息をつく。
「どうしてですか?」
「相手がほかの上級悪魔なら、これを読めば戦いはできるわ。この本は研究されたものだもの。でも、問題はそこじゃないわ」
「? じゃあ、いったい何が問題なんですか」
俺の問いに答えたのは渚だった。
「ライザー・フェニックスだよ。兄さんもフェニックスぐらい聞いたことがあるだろう? ゲームの中でも蘇生アイテムで出てきたりするだろうし。フェニックス―――つまりは不死鳥。伝承でのフェニックスは死んでも炎を纏いながら蘇る鳥。ライザーは不死身なんだよ」
おい・・・・・・それって・・・・・・・。
「最強じゃないですか! 不死身ってそりゃいくらなんでも強すぎる! 勝てないじゃないですか!」
「そうよ。ほとんど無敵ね。攻撃してもすぐに再生してしまうわ。そしてフェニックスの炎は骨すら残さない高熱の炎。ライザーの公式戦での戦績は八勝二敗。しかも二回はフェニックス家と懇意にしている家系への配慮でわざと負けているの。つまりは実質全勝ということね」
俺は絶句していた。そんな相手をどう倒せばいいのかわからない。
「でも、倒せないことはないんですよね?」
「ええ」
アーシアの質問に部長が答えた。
「方法は二つ。圧倒的な力で押し通すか、起き上がる度に何度も倒して相手の精神を潰すか。前者は神や魔王クラスの力か、光のような悪魔の苦手なものが必要。後者はライザーが倒れるまでこちらが保つこと。フェニックスでも精神までは不死身ではないから、精神を押し潰せば私たちの勝ちね」
「僕の神討つ剣狼の銀閃は?」
「たぶんそれでも無理だわ。ナギのすべての魔力を使えば話は別でしょうけど、戦場ではそんなことは不可能だもの」
確かに、戦場では予想のつかないことも起きるだろうから厳しいな。そう言えば、前から疑問に思っていることを聞いてみよう。
「部長」
「なにかしら?」
「どうしてライザーのことを嫌っている・・・・・・・・っていうか、今回の縁談を拒否してるんですか?」
部長は俺の問いに嘆息した。お家の事情なんかはよくわからないが、無下に断れないものだと思う。
「それは僕も思いました」
俺の疑問に渚も同調する。
「・・・・・・・・私は『グレモリー』なのよ」
「なるほど・・・・・・・・そういうことですか」
渚はわかったようだけど、俺にはよくわからない。アーシアも?を浮かべている。
「どういうことなんだ? 渚」
「つまり、リアス先輩は『グレモリーのリアス』としてではなく、『ただのリアス』として見てもらいたい。ただのリアスという一人の女の子として、愛してもらいたいんですね」
「ええ、そうよ。私はグレモリーに誇りを感じているわ。でもそれは私自身を殺している。私はナギが言ったように、グレモリーを抜きとして私を愛してくれるヒトと一緒になりたいの。ライザーは私のことをグレモリーのリアスとして見て、そんな私を愛してくれている。それが嫌なのよ。矛盾しているけど、それでも私はこの小さな夢を持っていたいわ」
部長はそう言って黙ってしまった。何か言うべきだろうが何も思いつかない。
「僕はリアス先輩のこと、リアス先輩として好きですよ」
そんな中、渚がそう言った。それを聞いて部長は目を丸くしている。
「グレモリー家のこととか、悪魔の社会のことはわかりません。っていうか人間の僕には、あまり関係がありませんからね。僕にとってはリアス先輩はリアス先輩で、それ以上でもそれ以下でもありません。僕はいつものリアス先輩が好きですよ。きっとほかのみんなも」
さすがは渚だな。俺が言いたいようなことを言ってくれたぜ。しかし、部長の顔が真っ赤になっているんだが大丈夫だろうか?
「リアス先輩? 顔が赤いですけど大丈夫ですか?」
「な、なんでもないわ!」
あわてて、頭を振る部長。
「しかし、天才の部長の初陣がそんな奴なんて、前途多難ですね」
「天才って言葉は好きじゃないわ。私の力はグレモリー家と私のものよ。神からもらったものなんかじゃない。だからこそ負けられないわ。勝たないといけないの」
部長は自分に言い聞かせるように言った。すごいな・・・・部長は。
「俺はダメです。山に来てから・・・・・てんでダメです」
「イッセーさん?」
「修行して強くなっているような気はします。でも、それ以上にみんなとの差を感じるです。剣の修行では、木場や渚のすごさがわかります。魔力の修行では俺の隣でアーシアはどんどん成長しています。俺にはなにもできなくて・・・・・・・赤龍帝の籠手があるから、大丈夫だ! って強がってみたりして・・・・・・」
「兄さん・・・・・・」
「イッセー・・・・・・」
俺はいつの間にか涙を流していた。みんなに比べて俺は弱すぎるのが悔しくてたまらない。
「どうしよもなく、俺が弱いってことがわかって・・・・・・」
「そんなことはありません!」
俺の言葉を遮ったのは、アーシアだった。
「イッセーさんは弱くなんかありません! イッセーさんは私を助けてくれました。友達になってくれました! そんなイッセーさんが弱いなんてことありません!」
「その通りよ。あなたは弱くなんかない。とりあえず、今は眠りなさい。明日、あなたに自信をつけさせてあげるわ」
アーシアが俺に抱き着いてくる。その温もりを感じられただけで今は十分だった。
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翌日
「赤龍帝の籠手を使いなさい」
部長が俺にそう言った。この山に入ってから使用を禁止されていた赤龍帝の籠手の使用が許可された。
「相手は祐斗でいいわね」
「はい」
木場が一歩前へでる。
「イッセー、模擬選を開始する前に神器を発動しなさい。発動から二分後、戦闘開始よ」
「は、はい」
言われるがままに赤龍帝の籠手を発動させた。以前にどれだけ倍加できるか試したが、せいぜい5分が限界だった。部長曰く、「積載量を越えた」と言うことらしい。倍加に俺自身がついていけなくなったということだ。
「イッセーさん、がんばってください!」
アーシアの声援が聞こえた。
二分後
「イッセー、ストップよ」
部長が俺に赤龍帝の籠手を止めるように指示してきた。
「いくぞ、赤龍帝の籠手!」
『Explosion』
赤龍帝の籠手から音声が響くと、今まで感じたことがないような尋常じゃない力が湧いてきた。
「その状態でイッセーは祐斗と戦ってみなさい。祐斗頼むわよ」
「はい、部長」
木場が剣を構えた。対して俺は拳を構える。
「それじゃあ、初め!」
その言葉を合図に木場の姿が消えた。
俺は瞬時に腕を交差させてガードをする。
騎士の駒の特性はスピードだ。目を離すのは危険だな。
「っ!」
木場が驚いて、足を止めた。俺はその隙を見逃さずに拳を放つ。
しかし、木場は当たる寸前で再び姿を消した。すぐさま目を配らせるが真正面と左右には、木場の姿はない。ならば後ろかと思い、振り返るがそこにもいない。そしたら、残るは上だ!
上空を見ると木場は木刀を下に突き出して降ってきた。
―ゴッ!
鈍い音が聞こえる。防御が間に合わず俺の頭部に一撃決まった。痛ぇぇぇ! だけど我慢だ!
地面に降りた木場を狙って蹴りを繰り出す。しかしこれもまた、躱されてしまった。ちくしょう! 速くて当たらん! やりずらい・・・・・・。
「イッセー! 魔力の一撃を打ってみなさい!」
部長が俺に指示を出す。しかしここで魔力の一撃ですか? 当たらないと思うけど、とりあえず部長の指示に従おう。
魔力を手の平に集中させる。相変わらずの小さい米粒ほどの魔力の塊ができた。それを木場に向かって放つ。
―グオォォォォォォォォォォンッ!
米粒ほどだった魔力は俺の手を離れた瞬間に、巨大な岩ほどのものへと変貌していた。
え、ちょっ!? なにが起きた? ああ、そうか赤龍帝の籠手のおかげか・・・・・・驚かせんなって。
木場に巨大な魔力の塊が迫る。速度もそこそこだ。しかし、木場はそれを軽やかに避ける。
はぁ。やっぱり当たらないか。そんなことを思いながら避けられた魔力の塊は隣の山に飛んでいった。
―ぴちゅーん!
効果音はおかしかった気がするが、隣の山が吹き飛んでいた。あれって大丈夫なんだろうか? 山ひとつ消したってことは地図変えちゃったんじゃね?
『Reset』
籠手から音声が流れ、増幅した力が抜けて行った。魔力が尽きたようで体の内側が空っぽになった感じがする。
「そこまでよ」
部長がそこで手合わせを止める。木場も木刀をおろした。俺は腰が抜けたように座りこんだ。
「お疲れ様、二人とも感想はどうかしら?」
「正直驚きました。最初の一撃で決めるつもりだったんです。でもイッセーくんのガードは崩せませんでしたし、二撃目もダメでしたし・・・・・・・。それにこのままやっていたら僕は得物を失っていたでしょう。あとは逃げ回るだけでしたね」
木場が掲げた木刀はすでに折れかけていた。
「ありがとう、祐斗。イッセー、そういうことらしいわよ?」
これが、昨日部長が言っていたことだったんだな。俺は自信を持ってもいいらしい。
Side out
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Side 渚
兄さんとリアス先輩が会話をしている。
確かに兄さんに才能はないだろう。でも、『赤龍帝の籠手』を使えばそれは別だ。
『赤龍帝の籠手』は持ち主の力を倍にしていく。鍛えたことにより、兄さんの初期値が少し上がるだけでも、赤龍帝の籠手により倍になっていく力も大きい。源がたった1だけ上がるだけでも大きな成長なのだ。
「あなたはゲームの要になるわ。イッセーの攻撃力が状況を左右する。一対一だったら力の倍加中は無防備だけど、レーティングゲームはチーム戦。あなたのフォローをしてくれる仲間がいる。私たちを信じなさい。そうすればイッセーも私たちも強くなれる。勝てるわ!」
リアス先輩が自信満々に言った。確かにその通りだろう。
「そういうとこさ、兄さん。フェニックスだろうと関係ない。僕たちがどれだけ強いのか見せてやろう!」
「そうだな、渚!」
昨日の落ち込んでいた兄さんはもういなかった。思わず笑みがこぼれる。
「渚の言う通りよ。ライザーに目にもの見せてやりましょう!」
『はい!』
全員が力強く返事をした。
こうして決意を新たにした、山籠もりの修行は順調に進み、無事に終わりを迎え、あとはゲームを待つのみとなった。
Side out
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