ジークフリート
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第三幕その十
第三幕その十
「ジークフリート、勝利の光」
「そしてブリュンヒルテ、貴女は私の」
「私はいつも貴方を愛していた」
彼のその両手を握った。
「そう、いつも」
「いつも私を」
「貴方を愛することこそが今の私の全て」
「何という言葉か」
ジークフリートもブリュンヒルテのその言葉を聞いているうちに恍惚となっていた。
「何という不思議な響きなのか。けれど」
「けれど?」
「私にはよく分からない」
こう言うのだった。
「貴女の瞳の輝きを明るく見る」
「私の瞳を」
「貴女の温かい息吹も感じる。歌声も甘く響く」
それでもなのだった。
「けれど貴女が歌いつつ教えてくれた言葉は驚くばかりだ」
「分からないのですね」
「そんな遠くの事柄はわからない」
彼はまた言った。
「私の感覚は全て貴女を見て感じるだけだ」
「それで充分なのです」
「ですが私は」
ここであの感情を思い出してしまったのだ。
「恐れを抱いている。貴女が教えてくれたこの教えを」
「ですがそれは」
「勇気が抑えられている」
こう感じていたのである。
「それはどうしても感じてしまう」
「そう考える必要はありません」
「ないというのですか」
「そうです」
これ以上はないまでに優しい声と微笑みで彼に告げるのだった。
「それはです」
「それは何故ですか?」
「あれを」
ここで後ろを指差す。するとそこには何時の間にか一頭の馬がいた。
「あれは馬です」
「馬、ですか」
「森には居なかった筈です」
このこともわかっているブリュンヒルテだった。馬は森の奥にはいないからである。
「あの馬の名前はグラーネといいます」
「グラーネですか」
「そうです」
「いい名前ですね」
半ば無意識のうちに出て来た言葉だった。
「それが馬の名前ですか」
「ええ」
「わかりました」
その名前を聞いて頷いたジークフリートだった。
「その名前は」
「あの馬はです」
グラーネのことも話すジークフリートだった。
「私と共に眠っていたのを貴方が目覚めさせたのです」
「私がですか」
「はい、そうなのです」
そうだと告げたジークフリートだった。
「それでなのです」
「私が起こしたと」
「その通りです」
「馬を私が」
また言うジークフリートだった。
「ですがそれが何を」
「ワルキューレを護った盾が」
「ワルキューレ、盾」
今のジークフリートの言葉は知っている声だった。
「戦場を駆け巡るヴァルハラの乙女ですね」
「そう、盾は」
「私は使ったことはありません」
それはないというのだった。
「ですが聞いたことはあります」
「そうなのですか」
「そして兜も」
それも指し示したのだった。
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