オリ主達の禁則事項
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物語はここからだ!!
「…何でこんな事になった?」
疑問を口に出して見れば…秋晴の頭はどこぞの厄介な白い小動物の如く「さっぱり分からないよ」と返してきた。
禁則事項の第参条違反は厄介ではあるが、今回に関してはギリギリで何とか最悪の事態を避ける事は出来たはずだ。
後は最後の異世界人であるルイズの記憶を操作して、元の世界に戻せば万事解決…問題を起こしやがったオリ主はとっくに送還してあるので、本当なら今頃は大母神にその報告をしているはず…だったのに…まさかルイズがこの世界を見たいと言い出す事も予想外ならば、その為に貴族の、メイジの証であるマントと杖を差し出してきたことも予想外だった。
強制的に言う事を聞かせる事など簡単な事なのだが…それはちょっと難しい。
出来ないというわけではないが…。
「ここれは…ドットの風の魔法…じゃなくてカガク…そうカガクだったわね、忘れていないわよ。どういう仕組みなの秋晴?」
「……」
無言で向けた視線の先では、家電量販店の売り場で、扇風機とにらめっこをしているルイズ嬢の姿があった。
彼女はこの世界に興味津々で、先ほどから目につくもの全てを指さして秋晴に質問して来る。
そして…そんな彼女を見る店員さん達の目がとても痛い。
別に彼女を睨んでいるというわけではないが、その視線は嫌悪ではなく、明らかに微笑ましい物を見るそれである。
言葉が秋晴にしか理解できないので、外国から来たお上りさんを見る感じだろうか?
とても厳しい…関係者であるという事はばれているかもしれないが、それでもあの浮かれまくっている少女の元に駆けつければその予想を自分で認める気がして嫌だ。
しかも、この場から連れ出そうとするにしても人目が多過ぎる。
痴漢だの変態だの誘拐犯だの…それを理解することができなくてもニュアンスだけで大体の事は伝わる物だ。
昨今は人間同士のつながりが希薄になっている事を嘆かれる時代だが、それをどこまで当てにしていいものだろうか?
しかも、修復したとはいえルイズは道路のど真ん中を破壊した爆弾魔(仮?)である。
一応、あの場にいた人間の記憶は書き換えられているとはいえ、逃げ出した人間も相当数いたはずだ。
そんな人たちに発見されるかもしれないと思うと、秋晴は自分の胃が痛むのを感じた。
ルイズを放っておく事などできるわけもなく、かといって最初に自分から言い出した事だけに約束を反故にするのも気が退ける…我ながら人が良過ぎると思わない事もない。
ちなみに、ルイズのマントと杖はとりあえずコインロッカーに預けてきたので秋晴もルイズも手ぶらだ。
「キャ、これからも風が出てくる!!これも扇風機なの秋晴!?」
「…いや、それは扇風機じゃなくてエアコン…」
ルイズの質問地獄は絶好調だ。
これがもし科学好きな変人であるところのコルベールであったなら、この比ではなかっただろうと思うので、あるいはましな方なのかもしれない…などと思って見る。
「これが魔法を使っていないなんて…信じられないわ…」
「ああ、この世界には行き過ぎた科学は魔法と区別がつかないという格言があるくらいだ」
誰が言ったかしれないが、真坂言った本人も本当の魔法使い似断言されるとは思っていなかったはずだ。
そう考えると色々とんでもないなと、しみじみ思う秋晴の見ている前でルイズは今度は薄型テレビに興味が映ったようだ。
まずは正面の映像に目を奪われ、ついでどうしてこんな小さい箱に人が入っているのかと裏側を覗き込むと言うタイムスリップや異世界訪問系のお約束な事をしてくれている。
「え~マジっすか~?」
「ん?」
恥も外聞もなく驚き続けているルイズと…なるだけ他人に見られ様と視線を逸らしていた秋晴に声が届いた。
残念そうと言うか信じられないと言った風な声に振り返れば…高校生くらいの男の子がいる。
日本では特に珍しくない黒髪をツンツン立て、パーカーとジーンズという姿の少年は、何やら店員と向かい合って項垂れている。
両者の間に在るテーブルにはノートパソコンが乗っていた。
「申し訳ありません。修理に必要なパーツが不足していまして…こちらは秋葉原の本店の方に持ち込みとなります」
「…しゅ、修理費は…」
「そうですね…この位にはなるかと…」
店員が修理の見積書だろうプリントを少年に差し出した瞬間…少年が白くなった。
ムンクの様な恰好で固まってしまった。
ここからではプリントに書かれた金額は見えないが、彼の様子を見るに…安くはないのだろう。
こういった電化製品の修理となると、収入が小遣いかバイトしかない学生にとっては破格のはずだ。
店員の方も、少年の落ち込み様に、ひきつった笑みを浮かべている。
「その…修理はどうされますか?」
それでも話を薦めようとする店員さんに商売人の根性を見た。
気の毒ではあるがこれも仕事なのよねと言う事なのだろう。
慈善事業で修理は出来まい。
「…修理をお願いします」
「い、いいのですか?」
店員がひるむほどの金額とはいかほどだろうか?
二人のやり取り…と言うか、秋晴は先ほどから少年が別の意味で気になってしょうがない。
「お願いします!!代金はバイトしてでも支払いますんで!!」
「わ、解りました!!」
決意ゆえか…やたらと力のこもった少年の言葉に、店員も熱く答える。
売り場の一角だけが異様に気温が高かった。
「では、こちらはお預かりしてお送りしておきますので!!」
「よろしくお願いしマッスル!!」
蒸し暑かった。
何故そんなに熱くなれるのかと言うやり取りの後、必要な書類に必要事項を記入した少年はターンを決めて歩き出す。
やる事を終え、新たなる戦場…おそらくはバイトだろう…に向かう少年は、偶然にも出口に向かう途中にいた秋晴とすれ違うが、少年は秋晴に目もくれない。
その眼は確かに前を向いていた。
その瞬間…秋晴は確かに少年の呟きを聞いた。
出会い系サイトと言う言葉を…………………オリ主の介入で時間軸にずれが出来たか?
「おまたせ~この世界って色々すごい物があるようね、次は何処に行くの…って、どうかしたの?何かとっても疲れた顔をしているわよ」
「いや、別に…気にしなくていい」
秋晴自身にもよく分からない。
あえて言うなら精神疲労か?
「そう?じゃあ今度はあの鉄の馬車に乗りたいわ」
「あ~タクシーでいいかな?」
「よくわかんないけど、ちゃんとエスコートしなさいよね」
「はいはい…仰せのままに~」
「…何かに素直になったわね?」
何所か投げ出したくなっているのかもしれない。
自棄になっているというのだろうと思いつつ、秋晴は少年が出て行った方とは反対にある出口にルイズを促す。
この世界の事をよく知らないルイズは、素直にその誘導に従った。
今の彼女にその理由など知りはしないし、気にもしていないが、何と言うか…ここであの少年とルイズが出会っていたら色々まずいだろう。
記憶操作の相手が一人増える。
――――――――――――――――――
ルイズはその後も珍しい物を見かける度に、質問を秋晴にぶつけて来た。
彼女にとってはこの世界の全てが珍しく、興味の対象であるため、秋晴には休む暇さえない。
タクシーの窓にへばりついて外を見る事から始まり、歩道を歩けば赤信号で飛び出そうとする。
たち並ぶ店には片っ端から入りたがり、書店に立ち寄れば並んでいた≪ゼロの使い魔≫を手に取っていた時には世界崩壊か!!と戦慄が走った。
幸い…ルイズはこの世界の文字を読めなかったので事なきを得たし、最終的には記憶を消すのだから問題はないが…その間の秋晴の心労の度合いは推して知るべしである。
「……」
最終的に…秋晴はくたばっていた。
全国チェーンのハンバーガー店の一角で、机に突っ伏してうめき声も漏らさない。
「ねえちょっと…」
「……はい?」
「反応遅いわよ。ナイフとフォークはどこかしら?」
「…」
ハンバーガーのセットを前にして、ルイズはそんなお約束をのたまった。
流石はお貴族サマ…手掴みで食べるという発想がないようだ。
文化圏からして違うのだから、それをバカにしたり無知を笑ったりはしない。
秋晴は論より証拠と目の前にある自分の分のハンバーガーに手を伸ばして食べ始める。
このお嬢さんに付き合うにはちょっとばかり多めのカロリーが要りそうだ。
秋晴に倣い、恐る恐るながらも自分の分のハンバーガーを食べ始めたルイズは、初めて食べるハンバーガーの言葉の前半と後半がチグハグになった。
向こうの世界の文化圏は中世レベルなので、ハンバーガーはないのだろう。
似たような物ならあるかもしれないが、あまり貴族向けとは言い難い気がする。
四苦八苦しながらハンバーガーを食べる彼女を微笑ましく思ってしまうのは仕方がないだろう。
「それで、満足したかな?」
「……」
何とか食べ終わったところで話を振る。
流れでここまで付き合ってしまったが、秋晴の立場を考えれば褒められた物ではない。
余計どころか責められても文句は言えないし、さっきからどうにも嫌な予感がしている。
このパターンに覚えがあるのだ。
「…ねえ?」
ルイズは答えでは無く、疑問でかえしてきた。
それを聞いて予想が大当たりしたようだと内心で溜息をつく。
「魔法って必要なのかな…」
ここに、彼女の言葉を理解出来る物が他にいれば目を向いた事だろう。
赤髪褐色肌の女性がいれば、ルイズの正気を疑ったかもしれない。
それほどに、ルイズの言った事は意外であり、最も彼女からは遠藤い言葉のはずだった。
ルイズは…ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと言う少女はまともに魔法が使えない…と自分も周りも思っている。
そんな彼女だからこそ、人一倍の努力を重ね、貴族であろうとしたルイズがメイジの存在意義である魔法を否定する事を口にする事は本来あり得ない事のはずだが…。
…案の定価値観がぐらついているな…。
世界が違えば価値観も常識も違う。
そのギャップに打ちのめされるのが異世界訪問の第一の試練と言えるだろう。
原作に置いて、平賀才人がルイズ達の世界になじむまで時間がかかったように…いや、ルイズの場合はもう少し事情が複雑かもしれない。
魔法が使えない今の彼女はどちらかと言えばこちら側の世界の人間に近いだろう。
その理由が、彼女の系統が普通ではないからと言う事を秋晴は知っている…尤も、それを口にすることはしない。
例え記憶の改竄が出来るとしても、それは一人の少年との出会いの後、彼と駆け抜ける物語の中でするべきこと…脇役で黒子である自分が、結果が変わらないからと言って口にするべきことではないとおもうのだ。
ともあれ、彼女が魔法を使えない事で悩み、色々な壁にぶち当たって来た事は原作でも明らかだ。
それが、魔法が無くても発展した世界に放り込まれれば価値観の一つや二つ、揺れても仕方がないだろう。
「別に、化学はそこまで万能じゃない」
少し考えてから、秋晴はそう返した。
公害やそれに伴う病気、自然破壊などの問題がある。
その点、魔法はあくまで個人の能力であって汎用性に乏しいが、この上なくクリーンな技術と言えなくもない。
一長一短と言った所だろう。
「そもそも、比べる事に意味はないだろう?…この世界は最初から魔法がない形で文明が進化してきたんだから」
「……」
あるいは、魔法がもっと一般的で物質社会より優れていたなら、この世界もハルケギニア同様、魔法を伸ばす形で進化していたかもしれない。
「でも…あの呼び出された奴は貴族の収める社会を間違っているって思って、貴族をなくそうとしたんでしょう?」
「アレは馬鹿がバカな理由で暴走しただけで、それが貴族社会が劣っている事とイコールで結ばれるわけじゃない」
例えば、日本の社会システムは完璧かと聞かれれば、NOと答えるだろう。
政治家の不正や汚職など、それこそ新聞を開いてニュース番組を見ればいくらでも出てくる。
「…別に、貴族制が間違っているとは思わないよ」
「本当?本当に?」
「少なくとも、俺はそう思う」
むしろ人間の性質としては正しいのではあるまいか?
基本的に、人間とは群れを作って生きる者だ。
ならばそこには代表が現れ、それを補佐する為に周辺に幹部が集まる。
つまるところ、貴族制の形とはその発展形なのだ。
誰かに押し付けられたわけでは無く、自然発生的に成立したシステムである。
「で、でも…この世界に貴族はいないんでしょう?」
「いないわけじゃないけど…少なくはあるね…特にこの国にはいない。この日本と言う国では代表は国民が選ぶ者だ」
「平民が…」
「それでも問題がないわけじゃない」
問題がなければ、汚職政治家や賄賂なんて言葉は生まれないだろう。
表だっていないだけで、確実にいる。
「君の世界でも平民を虐げる貴族がいないわけじゃないだろう?」
「それは…」
「世界が変わっても人間の本質は変わらないというわけさ、間違うのは何時だって人間の方だ」
正しく運営されるのならば、貴族制でも民主制でも大差は生まれない。
問題はシステムを動かす人間がそのシステムの恩恵を悪用する時だ。
それが顕著に出やすいのが貴族制と言うだけの事である。
人間は代替わりをしていくもので、同じ人間など一人としていはしない。
「ルイズ…君が混乱しているのはそんな理由じゃないだろう?」
「……」
「自分で分かっているはずだ。君は“この世界に魅かれている”」
彼女の人生を考えれば無理もない。
貴族…メイジになろうとしてまともに魔法を使えない彼女、馬鹿にされてきた彼女だが、こちらの世界でならば馬鹿にされる事はない。
この世界には魔法が無い、貴族がいない…貴族のくせに魔法を使えないとバカにされる事もなければ上に立つ者としての責任も求められない。
設定とは言え…考えればむごい話だ。
読者も作者も、フィクションの登場人物であるルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールの描写されない人生を本気で思う事はないだろう。
彼女がどれだけ悩み、苦しんだかという、一番人間臭い部分…ある意味で、彼女はストーリーと言う概念の犠牲者なのかもしれない。
「私が…この世界に魅かれている?」
「出来ればこの世界にずっといたいと思っているんじゃないのか?」
これは、ルイズにとって悪魔のささやきに聞こえるかもしれない。
そして秋晴はそれを許すわけにはいかない。
もし、ルイズがYesと答えるなら、道草はここで終わりだ。
問答無用で記憶を操作してハルケギニアに戻す。
場所が場所だけに、あまり抵抗してくれなければ良いなと…そんな事を思っていたら、いきなり左の頬が鳴った。
「…ルイズ?」
見れば、泣きながら右手を振り抜いた彼女がいる。
考えるまでもなく、自分は頬を張られたのだろう。
周りの店員や他の客が何事かと注目しているのを感じるが、秋晴はその全てを無視した。
否、無視するしかなかった。
秋晴は目の前にいるルイズに目を奪われてしまっていたからだ。
「バカにしないで!!今更何もかも捨てられるくらいなら、こんなに苦しい思いなんてしていない!!」
うっかりしていたというべきか…ルイズは魔法をまともに使えないだけで、頭が悪いわけでは無かったのだ。
こちらの世界に自分の意志でとどまるという事は、魔法や貴族の身分を捨てると言うだけではない。
ハルキゲニアにいる家族とのつながりまで絶つという事だ。
死や京佐貫なっていた前半はともかく、物語の中盤で自分が才人を家族や友達と引き離した事に罪悪感を感じた彼女は、才人を元の世界に返し、いなくなる事に心が耐えられないと感じたルイズは彼との記憶を消そうとしたではないか。
ルイズにとって、魔法を使えない事は世界を捨てる理由にはならない。
「さあ、そろそろ戻るわよ!!」
「戻るって、ハルケギニアに?」
「他に何所があるのよ?」
「いいのか?また馬鹿にされるかもしれない」
「魔法を使える者を貴族と呼ぶんじゃないわ、逃げない者を貴族と言うのよ!!」
なるほどと、秋晴は納得した。
平賀才人が彼女に魅かれる意味が良く分かった。
確かに彼女には魅力がある。
同時に不器用で真っすぐで放っておけない。
文字やアニメでは伝わってこない迫力がここには在った。
勘違いしてはいけない。
彼女はこれからパートナーとともに様々な困難に出会い、それを乗り越えていく。
たとえそれがストーリーで運命であっても、そうなるべき素養と心の強さが彼女の中にはあるのだ。
「わかった」
秋晴はルイズの手を取る。
「え、ちょ!!」
そのまま引き寄せて耳元に口を寄せる。
彼女を支えるのは主人公の役目だ。
「もう少しだけ頑張ってみてくれ、もうすぐ、君の努力も何もかもが報われる時が来るから」
「え?」
だから、この程度の干渉で留めておく。
秋晴の言葉を聞いた直後、ルイズの世界は暗転した。
――――――――――――――――――――――――
「ルイズ」
…え?
「ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール!!」
「は、はい!!」
自分が呼ばれていると自覚した瞬間、ルイズは目覚めるように現状を知覚した。
見覚えのある草原、周りにはクラスメート達のバカにしたような顔、そばにいるのは担任のコルベール…いつの間にか、ロッカーに預けていたはずのマントをはおり、手には杖を持っている。
記憶に在る通り、春の使い魔召喚の儀だ。
「おい、ゼロのルイズ!まだできないのか?」
「3回目だ。お前の負けだよ。」
聞き覚えのあるヤジも記憶の中そのままだった。
何より、目の前には自分の爆発呪文の作ったクレーターがある。
あの男、よりにもよって召喚の偽の真っ最中に戻したようだ。
「え、なんで…」
口の中で言葉をかみつぶす。
どんどんと、向うの世界での記憶が薄れていくのを感じる。
この瞬間も、手で受け止めた水が指の間を流れおちるように記憶の流出は止まらない。
「あ、あいつ…」
たしか、秋晴は記憶を操作すると言っていた。
これがそうかと理解する。
コルベールや他の生徒達は何時も通りに見えるので、すでに記憶は改ざんされているのだろう。
他ならぬ秋晴がそう言っていたような気がする。
「わ、我が名は…あ…」
「ん?ミスヴァリエール?どうかしたのかね?」
「い、いえ…」
慌てて杖を掲げ、使い魔召喚の呪文を唱えようとした所で手と口が止まった。
ルイズが動きを止めたのは、最初の使い魔召喚の事が頭をよぎったからだ。
貴族は要らないと言い、いきなり自分を…自分達を向うの世界に放り込んだ男は秋晴が処理したと言った。
だが、また似たような奴が召喚される可能性もあるのではないだろうか?
「ミス・ヴァリエール?調子が悪いのなら後日と言う事も出来なくはないが…」
「…いえ、コルベール先生、やります」
逃げる者を貴族とは呼ばない。
ついさっき、自分は秋晴にそう言った。
ならば、ルイズが貴族であり続けるため、ここから逃げるわけにはいかない。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール…」
ルイズの背中を押したのは、耳に残っていた秋晴の呟くような励まし…もうすぐ報われるという一言だったような気がするが、次の瞬間に起こった爆発により、ただでさえ薄れていた記憶は完全に吹き飛んだ。
――――――――――――――――――
「ん、無事に主人公の召喚に成功したようだな~」
魔法学校の屋根の上、秋晴は舌を見下ろしながら薄く笑っていた。
例によって例の如く、ルイズの魔法は爆発したようだが、今回は煙の向こうに少年が一人腰を抜かしているのが見えた。
ルイズが心配したように、天文学的な確率で新たに召喚されたのが面倒なオリ主である可能性を考え、待機していたのだが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
見覚えのあるジーンズとパーカー姿は、電気店ですれ違った少年であった。
寄り道をしたが、ようやく本来の主人公の到着である。
ここから、この世界の物語は始まるのだ。
「それにしても、おっかないな~」
もはや苦笑するしかない。
中立で公平であるべき秋晴に、肩入れしたいと思わせるとは…ついつい助言と言うか励ましの言葉をかけてしまったが、あの程度ならば大筋を歪める事にはなるまい。
主人公補正というのかもしれないが、魅力があり過ぎるのも考えものである。
そんな事を思う秋晴の視線の先では、契約のキスをされた才人が目を白黒させ、ついで左手を濁って苦しみ出した。
「さて…じゃあお手伝いさんは撤収しますかね」
この世界は彼等が主人公になる世界、秋晴は彼等がこれから遭遇するであろう様々なトラブルや障害を思い、それを経験にしていく前途に幸あれと願いながら、世界を後にした。
たとえ誰かに考えられた世界であっても、彼等はそれを知らぬまま、自分の人生を全力で生きていく。
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