トーゴの異世界無双
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第九十六話 絶対捕まえてやる!
カイバは闘悟に見せてもらった紙の内容を見て驚愕の声を上げる。
「この大会が盛り上がれば盛り上がるほど、その名誉や金に執着した奴が出てくる。そこに書いてある内容は、この国でも知らねえ奴らが一杯だ。それを行ってる奴は、なかなか尻尾を掴ませねえ。だから、この大会を利用して、そいつらを見つけようとした」
「じゃ、じゃあ『黄金の鴉』のグレイクも?」
「ああ、繋がりはあるだろうな。だけど、深いとこを知ってんのは、頭だけだと思う。なあカイバ、お前『黄金の鴉』のガシューには会ったんだろ?」
「おう、会ったぜ。いけすかねえ眼鏡だ」
カイバは不機嫌そうに言葉を放つ。
余程腹を立てているのだ。
自分達にしたことを思えば無理も無い。
「そのガシューも、多分ホントの意味でのトップじゃねえ」
「ん? どういうことだ?」
「ギルドパーティにはな、出資者(しゅっししゃ)っていう存在がいることもある。まあ、店で言えば、店長がガシューで、経営者が出資者といったところだな。もちろん全ての権利を持ってんのは経営者だ」
カイバは資料を見て、闘悟の言葉を聞いてまだ半信半疑だ。
話が大き過ぎて理解できてはいない。
それはヨッチやリールもそうだ。
「オレはその経営者を探してる。だけど、そのために大会を盛り上げた結果、こんなふうにカイバを、ヨッチちゃんを巻き込んじまった。だから謝りたい」
闘悟はもう一度頭を下げる。
それを見たカイバ達は、互いに顔を見合わせ、頷き合う。
「頭を上げろって、俺達はお前に感謝こそすれ、謝られるいわれはないっての」
カイバは闘悟に笑顔を向けるが、闘悟自身、その笑顔に救わる思いを感じた。
「そうですよ! トーゴさんがいなきゃ、わたしはあの男の人に……」
ヨッチは監禁されていたことを思い出し、表情を曇らす。
その肩を優しく抱えたリールも、闘悟に向けて微笑む。
「その通りです。ですからもう謝らないで下さい」
闘悟は三人の顔を見て、小さく頷く。
「ありがとうございます」
三人は闘悟が納得してくれたことにホッとして、もう一度笑みを浮かべる。
「だけどよトーゴ、その……この紙に書かれてる内容がホントだとして、このことを知ってんのはお前だけか?」
「いや、ミラニには話を通してある。一応騎士団の団長だからな。まあ、アイツも信頼がおける部下にしかこのことを話してねえみてえだけどな」
まあ、ミラニのことだから、もしかしたらギルバニア王には話を通してるのかもしれないけどな。
あの王のことだし、知っててオレに任せてくれてると思う。
ハロは闘悟達の会話の意味が分からず、頭の上にハテナマークを浮かばせている。
「そっか……」
「オレの考えじゃ、この大会で必ず黒幕は動く」
「そうなのか?」
「ああ、実はな、この一か月、黒幕を引っ張り出すために、ある噂を流したんだ」
「噂?」
カイバは首を傾げながら闘悟に注目する。
「この大会の優勝者には、ある物が授けらる。そんな噂だ」
「……どういうことだ?」
「その紙に書かれてる内容は読んだろ?」
カイバは眉間にしわを寄せて、もう一度紙に目を通してハッとする。
「ま、まさかお前?」
「ああ、もちろん表立って授けられるわけじゃなくって、優勝者には国王直々に手渡されるという噂も流した。その方が信憑性(しんぴょうせい)も出るしな」
つまり隠された優勝賞品ということだ。
それを目にするには、優勝しなければならない。
そんな噂を闘悟は、ギルドの依頼をこなして、その途中に出会った人々に流した。
「カイバの言う通り、その紙に書かれてる内容がホントなら、黒幕は絶対食いつく」
そこでカイバはガシューと出会った時のことを思い出していた。
彼は「欲しいものがある」と言っていた。
それはこのことだったのだとようやく理解できた。
だが、彼が望むのは闘悟の流したデマだ。
それを思うと少しざまあみろといった気分が湧いてきた。
「…………ところである物って何だ?」
「『禁覚(きんかく)の書』の一部」
「き、きんかく? 何だそれ?」
カイバは聞き覚えの無い言葉に首を傾げる。
「何でも、禁じられた文書の一つらしいな」
「お前も知らないのか?」
「詳しいことはな。ただ、有名な『禁書(きんしょ)』の一つらしいから、その噂を流しゃ、食いつくと思ってな」
「なるほどな……」
ヨッチとリールは、二人のやり取りを聞いてはいるが、話半分で理解してはいない。
「とにかく、『黄金の鴉』が動いた以上、黒幕は必ず優勝賞品を手に入れるために尻尾を出すはずだ」
闘悟はカイバから紙を受け取る。
そして、その紙にチラリと視線を落とす。
その見出しにはこう書かれてある。
【希少種(きしょうしゅ)・特能魔具(とくのうまぐ)の回収及び、奴隷商・武器商人の確保 手段問わず】
絶対食いついてくる。
珍しいものを狙ってんなら絶対にな。
闘悟は確信めいたものを感じていた。
「さて、オレは戻るわ」
闘悟の言葉を受けてカイバ達は頷く。
「ん~? もういくのかぁ? よっしゃあぁ~」
ハロは今までよく分からない話を聞いてて暇だった。
どこか別の所に行きたいと思っていたので、闘悟が動くと聞いて喜んでいる。
闘悟は背を向けて去ろうとした時、何かを思い出したように声を発する。
「あ、そういや、これぐらいはさせてくれ」
カイバは闘悟の言葉の意味が分からず首を捻っていたが、瞬間闘悟から魔力が自分に流れてきた。
「えっ!?」
いきなりのことでカイバ達は驚く。
だが、次に感じた事実にもっと驚愕する。
今まで感じていた体の痛みが嘘のように消えたのだ。
「え……? い、痛みが消えた……?」
カイバは自分の体を確認するように見回す。
「どうしたのお兄ちゃん?」
ヨッチが不思議そうに尋ねてくる。
「治癒魔法であらかた治ってるみてえだけど、全快ってわけじゃねえだろ?」
「え? あ、ああ……」
「だから治しといた」
「…………あ、改変魔法!?」
カイバは闘悟の言った意味をようやく理解した。
「ご名答」
闘悟は改変魔法でカイバの傷ついた体を改変して元に戻したのだ。
「これで万全な体調で本選に出れるだろ? あ、そういや言うの忘れてたけど、本戦出場おめでとさん」
すると、カイバは言い難そうに顔を歪める。
「そ、そのことなんだけどな、実は本戦は断ったんだよ」
「な、何でだ?」
「ほらよ、俺ってハッキリ言って運でここまで来れたろ? 確かに本戦に出れるのは嬉しいけど、いろんな人にも迷惑かけたし、何よりさ、本戦ではみんなすっげえバトルを楽しみにしてるだろ?」
「……そうだろな」
「俺じゃ、その期待に応えられるようなバトルできそうにねえしな」
カイバの言わんとしてることは分かる。
ここまで勝ち残ってる者は、腕に覚えがある者ばかり。
本戦に出場できるのは、その中から十人だ。
この大会を見に来た者は、より高度なバトルを楽しみにしている。
本戦の十人は、その期待にそぐわない闘いを見せてくれると信じている。
だが、カイバは一応本戦にまで残ったが、それはパートナーであるヤーヴァスのお蔭である部分が大きい。
グレイクに勝てたのも、奇跡とも呼ぶべき僥倖(ぎょうこう)だ。
そんな見劣りする実力で、本戦を闘えるわけがない。
「それにいくら相手を選んだからと言って『毒針』まで使っちまったしな」
カイバが言うには、いくら仕返しだからと言って、『毒針』を使ってしまったことを後悔していた。
カイバの中の正義では、そんな暗器めいたものを使って勝ち残ったということを認めるわけにはいかないようだ。
だから自分の中のケジメとして、これ以上は大会に参加しないと決心したのだ。
「どうせなら本戦は、もう少し鍛えてからやりたいと思ってな。まあ、大会は毎年あるしな!」
「今度は自分自身の力で……ってことか?」
「ああ」
カイバの目を見つめる。
その瞳に濁(にご)りは無い。
自分の決断にハッキリと満足している。
そんな思いが伝わってくる。
だから闘悟は静かに目を閉じて言う。
「そっか、カイバがそう決めたんなら何も言わねえよ」
「おう」
するとカイバは拳を握って闘悟にポスッと当てる。
「だから楽しませてくれよトーゴ!」
闘悟はカイバに笑いかけながら答える。
「ま、見ててくれ」
そう言ってハロを伴って、その場から再びVIPルームへと戻って行った。
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