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久遠の神話

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第四十三話 病院にてその十一

「中田さんは戦いはね」
「そうね。嫌いだったわね」
「本当は戦いたくなくても」
「そうもいかないのね」
「こういうのって何て言うのかな」
 上城は首を捻りながら言う。
「難しい言葉になりそうだね」
「矛盾?」
 ここで樹里がこの言葉を出してきた。
「それかしら」
「矛盾かな」
「だって。中田さんは戦いたくないじゃない」
「中田さんもそう言ってたね」
「ええ。そうよね」
 しかしそれでもだからだというのだ。
「中田さんはそれでも戦うから」
「ご家族の為にね」
「戦わないといけないじゃないじゃない」
 戦いたくはないがそうしなければならない、それは即ちだというのだ。
「それってやっぱりね」
「矛盾だっていうんだね」
「ええ。その言葉にならないかしら」
「言われてみればそうなるかな」
 上城は樹里のその矛盾という言葉を今の中田に当てはめてみた。するとこれが実によく当てはまった。それでだった。
 彼自身も納得してだ。こう樹里に答えた。
「そうだね」
「そう思うよね。上城君も」
「うん。戦いたくないのに戦うのは」
「矛盾そのものよね」
「中田さんはその中にあるんだ」
 まさにその矛盾の中にだと。上城は思った。
「辛いだろうね。本当に」
「そうね。けれど上城君もね」
「僕も?」
「ええ。戦いたくないわよね」
「そうだよ」
 遠いものを見てそのうえでの言葉だった。
「けれど戦いを止める為には」
「その為にね」
「戦わないといけないから」
 剣士の戦い、それ自体を終わらせる為に戦い最後の一人にならないといけない、それは紛れもなく矛盾だ。
 そしてその矛盾についてだ。上城は遠い目になり樹里に述べたのだ。
「それはやっぱりね」
「矛盾してるわよね」
「僕もそうだったんだ」
「そうなるわ。けれどね」
「それでも。僕はね」
 戦うと決めていた。彼もまた。
 そして中田と自分は同じだとも思った。そのうえで出た言葉は。
「中田さんも僕も同じかな」
「戦いは好きじゃないのにそれでも戦わないといけないのは」
「うん。同じだよね」
「そうね。二人共矛盾してるのね」
「矛盾しているけれどそれでも」
「選んだのね」
「選んだよ。例え矛盾していてもね」
 それでもだった。今の上城の言葉は決まっていた。
「絶対に戦ってそして」
「戦いを止めるのね」
「中田さんもね。けれど」
 中田と彼の家族のことを思うとどうしてもだった。上城はその顔を俯けざるを得なかった。そのうえでの言葉だった。
「中田さんを止めたら」
「中田さんのご家族が」
「どうすればいいかな」
 上城は沈痛な顔になっていた。それは死を感じている顔だった。 
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