トーゴの異世界無双
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第八十七話 やっぱ敵に回すと危険だこのメイド!
最近闘悟は魔力の扱いの修練をしていたせいか、自身の魔力が増えたのを感じていた。
そのため、いつもと同じように一パーセントを出してしまうと、前よりも遥かに強い魔力になってしまう。
そこで闘悟は本当に微かに漏れ出す程度しか魔力を出さないように心掛けていた。
「ま、まさかまだ成長しているのかお前……」
さすがのギルバニアも頬を引き攣(つ)らせている。
ブラス側はもうトーゴが何者か分からないようにポカンとしている。
ステリアは一度三十パーセントの魔力を感じているので、それほど驚きはしないが、さすがにまだ成長していると聞き、呆れて半目で闘悟を見つめている。
「た、確かにトーゴくんの魔力には驚かされましたが、まだ……何か隠してるんじゃない?」
闘悟を見つめながらフレンシアが言う。
それを受け、微笑しながら返答する。
「ま、いろいろと……ですね」
まだここで全てをさらけ出すつもりなどなかった。
しばらく闘悟を真剣に見つめていたが、ふとその表情を崩して微笑する。
「……な~るほど! さっすがは娘の婚約者ね!」
「ちょっとフーちゃん! だからそれは違うって言ってるじゃない!」
ニアが噛みつくように会話の間に入ってくる。
「だって~ヒナだってトーゴくんのこと好きよねぇ?」
するとヒナはトーゴの顔を見つめる。
目が合ったせいか、急に恥ずかしくなった彼女は、いきなりサッと顔を伏せてしまう。
「き……嫌いじゃ……ない……よ?」
消え入りそうなか細い声で確かにそう言った。
それを聞いた闘悟もドキッとした。
お、お、落ち着けオレ!
ヒナは十歳ヒナは十歳ヒナは十歳……。
念仏のように心の中で唱えて心を鎮める。
「わたしもトーゴすきだぞぉ!」
ハロが叫ぶように言う。
闘悟は素直に嬉しいと感じたが、次のハロの言葉で全身が凍る。
「それにトーゴは、わたしのことをろりこんでびみだっていったもん!」
空気も同様に凍結する。
ああ……ハロ……ここでその話は止めてほしかった。
「どういうことですかトーゴ様!」
「けしからんぞ幼女鬼畜め!」
「そうよ! 何で幼女趣味なのよアンタは! 美味ってどういうことよ!」
クィル、ミラニ、ステリアの言葉がナイフのように突き刺さる。
混沌(カオス)だな……どうしよ……。
その後、闘悟は必死に弁明し、何とか納得してもらった。
今日は本当に精神ポイントを減らされる日だと溜め息を吐く。
「ところでトーゴのパートナーは誰だ?」
話を戻すようにギルバニアが問う。
「変な鎧女(よろいおんな)です」
その瞬間ステリアが、食事に喉を詰まらせたのか咳き込んだ。
「落ち着きなさいステリア」
ブラスが窘(たしな)める。
「も、申し訳ありませんでした……」
ステリアは喉を潤すために飲み物を口にする。
ギルバニアがそんなステリアを見て苦笑しつつ闘悟に質問する。
「その鎧女というのは?」
「スレンとかいう奴です」
「どうして変なんだ?」
「全く喋らないんですよ。無言で頷くだけで……あれでパートナーが務められるのか不安なんだよなぁ」
「ですが、そのお方はかなりの強者でしたです」
クィルの言う通り、強さ的には問題は無いように感じる。
「う~ん、強いのはいいんだけど、せっかく一緒に闘うんだから、やっぱ意思疎通はしっかりしておきたいじゃん」
まあ、いざとなったら自分一人で相手二人を倒してしまえばいいので、大きな問題は無い。
しかし、どうせ一緒に闘うなら、近くでスレンの実力を見てみたい。
だからできれば会話できるくらいは親密になっておきたいと思う。
「ま、全ては明日だけどな。変な鎧女とも上手くやることにするよ」
「ちょ、ちょっとトーゴ?」
ステリアが無理矢理に笑顔を作り話しかけてくる。
「何だ?」
「変な変なって、それはちょっと失礼なんじゃない?」
「ええ~だってホントに変なんだぞ?」
「何か理由があるのかもしれないでしょうが!」
「……お前何でそんな必死になってんだよ?」
そう、何故かスレンのことを庇うような物言いに、おかしく思った。
「べ、別に必死になってなんかないわよ! ただ……そう! 常識的に言って人の悪口は良くないのよ!」
尤(もっと)もらしい言い訳をするが、言い訳すること自体を不審に感じる。
それはギレンも同様だったみたいで、ステリアに穏やかな声で聞く。
「一体どうしたというんだいスティ?」
「え……えっと……な、何でもないわ!」
そう言って食事に戻る。
皆の視線は彼女に注がれているが、もうステリアは何も話さなかった。
ギルバニアが咳払いをして、皆の視線を集める。
「まあ、何はともあれ、明日は頑張れよトーゴ、ミラニ」
「はっ!」
「分かりました」
それからまた闘悟はニアとフレンシアの言動にドギマギする時間を過ごしたが、何とか五体満足で会食を終えた。
ヒナ達が帰宅するというので、途中まで闘悟が送ることになった。
「それじゃトーゴくん! また明日ね! ん~それ!」
「んむ! む~っ!」
フレンシアがギュッとしがみついてくる。
彼女の豊満な胸に顔を埋められているので、全く息ができない。
「ママ……トーゴが……死ぬ?」
疑問形じゃなくてホントに死にそうなんだよヒナ……。
「これこれフレンシア、寂しいのは分かるがそろそろ行かないと」
オルトロが呆れながら言葉を放つ。
名残惜しそうに闘悟を話すフレンシアだが、突如(とつじょ)思いついたように笑顔を作る。
「そうだ! ねえトーゴくん! 今度また家に来なさい!」
「へ? 家に……ですか?」
「ええ、ヒナも喜ぶし、それに実はトーゴくん、うちのメイド達もまた会いたいと言ってるのよ」
初めてヒナの家に行った時、たくさんのメイドに囲まれて殺意を向けられたことを思い出す。
どの人も美人メイドだった。
「そうよねニコ?」
近くに控えていたメイドのニコが頷きを返す。
相変わらず綺麗なオレンジ色の髪の毛がゆらゆらと揺れている。
「はい奥様。我々メイドも女です。若く逞(たくま)しい煮(に)え滾(たぎ)った男魂(おとこだましい)を持つトーゴ様に、興味を持っても致し方ありません」
言い方! 何か言い方が嫌だ!
「変な言い方しないで下さいよニコさん」
「はて? 変とは……申し訳ございませんトーゴ様。私にもう少し学(がく)があれば理解はできたのでしょうが…………もしよろしかったら教えて頂けませんか? どこが変だったのか事細かにお願い致します……トーゴ様?」
いきなり顔を近づけてくる。
よく見ると、この人もただならぬ美女なのだ。
気品の良い香水のような香りが鼻腔(びこう)をくすぐる。
ていうか、絶対わざとだよなこれ!
だって意地が悪そうに微笑んでるし!
「い、いや……」
「それとも二人きりの方が話し易いですか? トーゴ様がそこまで仰(おっしゃ)るなら仕方ありませんね。それなら奥様達をここでしばらく待たせておいて、二人で馬車でしっぽりと……しますか?」
「しないからっ! あと近いっ!」
とりあえずいろいろ突っ込むところが多過ぎる!
ご主人のはずの三人を外に待たせて自分だけが馬車にって、この人ホントにメイドなのか!?
あと何気なく腕をからめてくるのはホントに止めてほしい!
闘悟は必死にニコと距離をとる。
ニコは闘悟と離れても、一切(いっさい)表情を変えずに続ける。
「それは残念です。あ、これは配慮が足らなくて申し訳ございません。そうですよね、順番というものも大切ですよね?」
「はい? 順番?」
「ではヒナお嬢様と……しっぽり?」
「だからしねえってっ!」
何が順番だ! つうか自分はやる気満々かよ!!!
「しっぽりって……なあに?」
ほら興味持っちゃったじゃんか!
幼気(いたいけ)なヒナを邪(よこしま)な世界へと連れて行かないでくれ!
「ニコもどうやらトーゴくんのことが気に入ったみたいね」
フレンシアが嬉しそうに何度も頷きながら笑う。
「はぁ……からかわれてるようにしか見えませんが?」
「ふふ、ニコはね、心を許した者しかからかわないわ」
「できればもっと違う表現の仕方がいいんですけど……」
「ふふ、慣れるわよ。ううん、慣れてもらわなきゃ! その内ヒナのお婿(むこ)さんになるんだから!」
フレンシアは嬉々(きき)として言葉を放っている。
「本当にすまないねトーゴくん」
申し訳なさそうにオルトロが言う。
「いえ、楽しい人達です」
「あはは、だが家にはまた来てくれ。それは私も楽しみにしているから」
「はい」
オルトロもニコッと笑い頷く。
それはこちらとしても嬉しい誘いなので楽しみだ。
「トーゴ……また……ね」
ヒナが軽く手を振る。
「おう、おやすみヒナ」
「ん……おやすみ」
コクッと頷き、フレンシアに手を引かれて馬車へと向かう。
彼女達を見送って闘悟は空を見上げて溜め息を漏らす。
「今日は……疲れた……いろんな意味で……」
間違いなく永眠(えいみん)に近い爆睡(ばくすい)ができるだろうと思った。
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