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万華鏡

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第二十七話 江田島その一

                  第二十七話  江田島
 ホテルは十階建ての綺麗なホテルだった、内装も立派で和風の部屋も整っている。
 琴乃達は五人共同じ部屋だった、だが一緒なのは五人だけではなく。
 先輩達も一緒だった、その先輩達がこう言って来たのだ。
「お酒は駄目よ」
「あと煙草もね」 
 まずはこの二つが禁止となった。だが。
「それ以外は何でもありだから」
「枕投げでも何でもね」
「というか普通学校の合宿でお酒は飲まないですよ」
「幾ら何でも」
 タバコは問題外だった。
「確かに私達飲む方ですけれど」
「それでも」
「煙草はともかくとしてね」
 先輩達は二人だった、合わせて七人だ。
 その二人の軽音楽部の二年の先輩達が制服姿で同じく制服姿の五人に部屋の中で卓を囲んで言うのだ。
「お酒は飲むでしょ」
「持って来てるか買うかして」
「まあビール位は」
「八条町じゃなくても」
 とにかく飲む八条町の伝統はここでも引きずろうとしていた、だがだというのだ。
「お部屋の中ではお酒禁止よ」
「そこでは駄目よ」
「じゃあ何処でならいいんですか?」
 美優が右手を挙げてそのことを問うた。
「ここでだと駄目なら」
「ちゃんと食べる場所で出るから」
「広島の地酒がね」
「あっ、そうなんですか」
「そこで飲んでね」
「お部屋では駄目だけれどね」
 つまりそこ以外では飲むなというのだ。
「ここは八条町と同じ決まりだけれどね」
「八条グループの中だから」
 だからお酒も大目に見てもらえる、だがだというのだ。
「お部屋の中で飲んだらお互いリミッター効かないからね」
「とことんまで飲むでしょ」
「はい、確かに」
 美優も部屋の中で飲む場合を考えてみた、確かにだった。
「もう好きなだけってなりますよね」
「私達も飲む方だからね」
「それでなのよ」
 何と自分達への戒めという意味もあった。
「お部屋に入る時はちゃんとお酒も抜いてね」
「そうして入って来てね」
「わかりました」
 こうして部屋の中での決まりごとの話が済んだ、とはいっても二つだけだった。
 五人、先輩達も入れて七人はこの話の後でだった。
 それぞれ動きやすいジャージ姿になってから話した、琴乃が黄色のジャージのズボンと白い体操着姿で黒髪をショートにした先輩に尋ねた。
「あの、宇野先輩ですけれど」
「どうしたの?」
 宇野と呼ばれた先輩は先程の厳しい態度から一転して優しい声で言って来た。
「私のことよね」
「はい、先輩は確か広島生まれですよね」
「ええ、そうよ」
 その通りだとだ、宇野先輩は琴乃に返した。見ればそのショートは少し膨らみがありおかっぱにも見える。垂れ目で背は一五〇程だ。
「広島の府中のね」
「広島のそこですか」
「広島っていっても広くてね」
 こう話すのだった。
「私は府中の生まれで高校の時に神戸に来たのよ」
「八条学園に合格してですね」
「そうなの」
 それで今は寮に住んでいる、八条学園の女子寮である。 
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