とある星の力を使いし者
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第181話
前書き
前回の最後辺りの土御門の会話がおかしかったので修正しました。
いくら『顔の無い王』を纏っていても、姿が見えないだけで触ればそこに居ると分かる。
教皇庁宮殿まで能力を使って向かう事もできるが、それだと能力使用時間が勿体ない。
街にはダゴン秘密教団らしき人物の姿も確認されている。
一分一秒でも使用時間は残しておきたいが、ゆっくりしていればC文書を奪取できない。
急がば回れ。
焦る気持ちを抑え、麻生は足音を極力立てず、されど急ぎ足でまずは教皇庁宮殿に向かう。
透明になっているので裏道を通らず、表通りを走って行く。
屋上にあがった時に教皇庁宮殿の位置と方角を確認した際、距離もぱっと見だが確認した。
暴動の眼を引き付ける時に裏道を走ったが、むしゃらに走ったのが災いして結構な距離が空いていた。
(当麻と五和は地脈を乱しに向かっているが、俺の方でC文書を回収、もしくは破壊した方がいいな。
土御門が言っていた人物も気になる。)
狭い道は極力避け、回り道になる道を敢えて選んでいく。
時間がかかるが、狭い道で人と出会えば避けるに避けれずぶつかってしまう。
暴動はさらに激化して、爆発音やガラスの割れる音がより大きく聞こえる。
確実に教皇庁宮殿に向かっている。
その時だった。
空気を引き裂くような、飛行機音が聞こえたのは。
音が聞こえたと同時に突風が吹き荒れる。
『顔の無い王』が吹き飛ばされないように手で押えながら上空を見る。
空には一一機の黒い物体が超音速の速度で飛んでいた。
超音速ステルス爆撃機HsB-02。
当然、アビニョンには軍隊が所有しているような戦闘機はない。
何より、あれは今の科学では発明する事のできない、何十年先の技術が使われている。
何十年先の技術。
それが意味するのは。
(学園都市が攻撃を仕掛けに来た?
だが、どうして・・・・)
その場に立ち止り、様々な可能性を巡らせる。
一機のステルス機が再び地上すれすれまで低空飛行する。
瞬間、ステルス機から何かが降りてきた。
それらは地上に降り立ち、姿を確認した麻生を含めた全員が眉をひそめた。
西洋の金属鎧のように全身を特殊な装甲で覆い、関節を電力駆動で動かす事によって、生身の人間の数倍から数十倍もの運動能力を叩き出す学園都市の新兵器。
HsPS-15、通称は『ラージウェポン』。またの名を駆動鎧だ。
全長二・五メートルほどの大きさの金属の塊がステルス機から何体も降下している。
青と灰色の特殊な迷彩を施された機体は、それぞれ二本の手足を持ったロボットのような『装甲』で、指も五本ついている。
しかし、その駆動鎧が『人間らしい』かと言われれば、答えはノーだ。
『頭』にあたる部分が巨大で、膨らんだ胸部装甲もあるせいか、まるでドラム缶型の警備ロボットを被っているようにも見えた。
首はなく、胸に直接固定された『頭部』が回転している。
手には不格好なほど銃身の太い特殊な銃器が握られている。
戦車の砲身を強引に短く切り詰めたような銃は大型のライフルにも見えるが、厳密には違う。
それはリボルバー方式の対障壁用ショットガンだ。
この銃器に使われる弾丸は特殊なもので、たった一つの外殻の中へ、俗にアンチマテリアルと分類される弾丸を数十発詰め込んでいる。
一発一発が戦車を撃ち抜くほどの破壊力を秘め、近距離から数発撃ち込めば核シェルターの扉であってもこじ開ける。
敵が籠城するシェルターの分厚い出入り口を真正面から打ち破って蹂躙する為に開発された大型銃器を、数十の駆動鎧は一斉に銃口を市民に向ける。
『敵勢力を発見』
短く無機質のような声が聞こえ。
ゴン!!、という音と同時にショットガンから聞こえ、市民が簡単に薙ぎ倒れた。
本来、対障壁用のショットガンの実弾を受ければ、人間なんて一発で藻屑になる。
だが、市民が人の形を留めて、あまつさえ息をしているのはそれが空砲だからだ。
リボルバーの回転シリンダー内で偶数発と奇数発で扱う弾の種類を分けていて、二発ずつ回転させたりしているのだ。
仲間が空砲とはいえ簡単に吹き飛ばされ、気絶するのを見てその場にいた全員が青い顔をし、無意識に全身が震えていた。
実弾ではないとはいえ、ショットガンの銃口を突きつけられれば普通は脅えるに決まっている。
四人くらいは仲間が倒されたのを見て、手に持っている鉄パイプなどで殴りにかかるが、駆動鎧は冷静に空砲を撃ち込み、鎮静化させていく。
完全に怯え、抵抗の意を見せない市民には何もせず素通りし、抵抗の意を見せる者には容赦なく空砲を与える。
そこに先程の暴動の影は消え、一方的な蹂躙だ。
麻生は『顔の無い王』で姿を消している。
これは魔力の感知やサーモグラフィーでも発見する事はできない。
つまり、このまま素通りして教皇庁宮殿に目指せるのだが。
小さく舌打ちをして、『顔の無い王』を外し、能力で一気に駆動鎧に近づく。
拳を作り、駆動鎧の『顔』に向かって突き出す。
横からの奇襲に反応できなかった駆動鎧は、住宅街方面に吹き飛ぶ。
衝撃音と駆動鎧が吹き飛ばされたのを見て、他の駆動鎧の視線が一気に麻生に向けられる。
助けられた市民は麻生の顔を覚えているのか、呆然と麻生の顔を見つめている。
「ど、どうして・・・」
助けたのか疑問に思ったのだろう。
自分達は麻生達を殺そうとしたのだ、彼が助ける理由は見当たらない。
言葉を聞いて面倒くさそうな顔をしながら。
「気に喰わなかったから殴っただけだ。」
ただ一言、簡潔にそう告げた。
「行け。
出来る限り遠く逃げろ。」
麻生が告げたのと同時に、複数のショットガンの銃口が向けられた。
同じ学園都市の人間のはずなのに、銃口を向けてくるあたり、アビニョンにいる者全員、所属など関係なく攻撃対象に設定されているのだ。
しかし、相手は森羅万象に干渉し、あらゆる物を創る事ができる能力者。
たかが空砲くらいでは傷一つ付ける事はできない。
能力で空砲を全て打ち消し。
「悪いが時間がない。
さっさと決める。」
手には木で作られた和弓と鉄の矢が地面に刺さっていた。
矢の数は九。
視界に入る駆動鎧と同じ数。
能力で九本全てを弓に装填し、狙いを定める。
狙う箇所は一点。
駆動鎧を関節駆動させるに必要な電力を発生させる核。
既に眼を変化させ、駆動鎧の構造は把握している。
核となる装置は背面の中央に設置してある。
駆動鎧達はどうやって弓と矢を出現させたのか分からないが、鉄の矢では駆動鎧の装甲に弾かれる。
だからだろうか、銃口を向けたままその場で麻生を観察している。
限界まで弓を引き絞り、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ手を離す。
九本の矢は同時に放たれ、直線ではなく蛇のようなでたらめ軌道を描く。
それぞれの矢は最後に九体の駆動鎧の装甲を貫き、電力を発生させる核を破壊する。
瞬間、駆動鎧の関節は固定され、動かなくなった。
表情は見えないが、驚愕の表情を浮かべているに違いない。
矢が不規則な動きと装甲を貫通したのは能力のおかげだ。
眼を元に戻し、一番近くにいる駆動鎧の『顔』の部分を軽く叩く。
「んじゃあな。
暴動は動かないのを見ると攻撃してくるぞ。
早くしないと大変な事になるな。」
息を呑むような声と共に、ガキガキという音が聞こえた。
助けるようなことはせずに麻生は上空を見る。
ステルス機から何十の駆動鎧が降下してくるのが見える。
ステルス機とは別に気球のような黒いバルーンが何十も浮かんでいる。
眼を変え、中を確認すると人が入っていた。
狭いアビニョンの中を闊歩する暴徒達は作戦に支障をきたす。
C文書を持った敵は暴徒に紛れて逃げ出す可能性もある。
よって、まずは暴徒を黙らせて上で本命を叩こう、と。
(学園都市の狙いは俺達と同じ、C文書か。
どこでこの情報を仕入れたかは知らないが、面倒な事態になってきたな。)
この騒ぎを聞きつけて、おそらく魔術師はアビニョンを出ようとするはずだ。
逃げられれば二度とC文書は奪還できない。
学園都市にC文書を渡しても、それはそれでまずい事態になる。
その時、携帯が震える。
画面を見ると、土御門の名前が表示されている。
「土御門か。」
「キョウやん今はどこにいる?」
いつもの飄々とした口調はなく、焦りの色が含んだ声が聞こえる。
「学園都市の駆動鎧と接触した。
とりあえず機能は停止させた。
そっちでは何が起こっている?」
「カミやんとイツワがパイプを乱そうとして、神の右席と接触した。
『左方のテッラ』。
それが名前だ。」
「『神の右席』。」
麻生はヴェントの事を思い出す。
あいつは学園都市を攻めに来た時、ダゴン秘密教団と協力していた。
もしかしたら土御門が見かけた人物とテッラは繋がっている可能性がある。
出来る事ならテッラと接触したい所だが。
「カミやんとイツワにはC文書の破壊に向かって貰った。
キョウやんには駆動鎧を止めてくれ。
あいつらを放っておくのは非常にまずい。」
土御門がそう提案してくるのは何となく分かっていた。
実際問題、彼らを放置していれば戦闘などの邪魔になる。
早めに止めておくのが一番良い。
「分かった。」
「助かるぜい。
俺の方も出来る限り止めてみる。」
「体は大丈夫なのか?」
土御門は超能力開発の影響で、魔術を発動すれば副作用でダメージを負う。
駆動鎧は一体だけではない。
確実に土御門が戦うのは分が悪い。
「真面に戦う訳じゃない。
腕より口を使う。」
「そうか。
こっちはこっちで好きに止めさせてもらうぞ。」
最後にそう言って通話を切る。
とりあえず近くで壁を壊す音と轟音が聞こえるので、そこに足を向ける。
向かったそこにはちょうど三体の駆動鎧が市民を鎮圧している所だった。
能力を使い、後ろから駆動鎧に跳び蹴りを与える。
蹴られた駆動鎧はレンガの家に突っ込み、土煙を巻き上げる。
残りの二体が麻生の襲撃を見て、銃口を向ける。
だがそれよりも早く腕を無造作に振う。
すると、駆動鎧はだらしなく腕をぶら下げ、動きを止める。
麻生が行ったのは空間座標を使った攻撃。
腕を振るった際の衝撃を駆動鎧の中にいる人物に直接与えたのだ。
水月に拳の衝撃を叩き込まれ、気絶している。
倒れないのは駆動鎧が足腰を支えているのだろう。
システムで設定されていても、それを操るのは人だ。
人が意識を失ったのだがら、駆動鎧が動いていても何の問題はない。
(次はどこに。)
次の駆動鎧を捜そうとして辺りを見回し、動きを止めた。
麻生はただ一点を見つめている。
その先には白衣を着て下には白いカッターシャツ。
ズボンは黒のジーンズを履き、長い茶髪に穏やかな笑みを浮かべた男か女か分からない人物が、こちらに向かって歩いていた。
一目見ただけで頭痛を感じ、確信した。
『奴ら』だと。
後書き
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