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ワルキューレ

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第三幕その四


第三幕その四

「そんな。それじゃあ」
「いいのです」
 ジークリンデが困り果てた顔になったブリュンヒルテに告げてきた。
「私の為に苦しまなくても」
「いえ、貴女は」
「私は死ぬべきでした」
 自分に顔を向けてきたブリュンヒルテに俯いて述べるのだった。
「あの場所でお兄様と共に」
「いえ、それは違うわ」
 ブリュンヒルテは今の彼女の言葉を打ち消した。
「貴女は生きないと」
「けれどもう私は」
 何もかもを捨て去った顔だった。今の彼女は。
「何もかもが」
「いえ、貴女は生きないと駄目なのです」
 だがブリュンヒルテはこう彼女に言うのであった。
「何があろうとも」
「何があろうとも」
「貴女に宿った命の為に」
 こう言うのだった。
「どうか。生きて下さい」
「命・・・・・・」
「そうです」
 それだというのだ。
「貴女とあの戦士の子です」
「あの人との子が私の中に」
「だから生きて下さい」
 だから生きろというのだった。
「どうかここは」
「子供の為にも」
「どうか。だから」
 ブリュンヒルテも必死だった。
「生きて下さい」
「わかったわ、ブリュンヒルテ」
「もう私達も」
 今の二人の言葉を聞いてだった。他のワルキューレ達も遂に意を決した。そのうえで二人に対してそれぞれ告げるのであった。
「その人を逃がして」
「早く」
「皆・・・・・・」
「その人だけは逃がせるわね」
「そうよね」 
 こう告げるのであった。それぞれ。
「だったらすぐに」
「今すぐに」
「私はここに残ります」
 ブリュンヒルテは今もジークリンデの前に立っている。そのうえでの言葉だ。
「その間に貴女は」
「貴女は一体」
「ここで御父様の怒りを引き受けます」
 彼女もまた覚悟を決めていた。毅然とした顔であった。
「貴女はその間に」
「有り難うございます」
「東へ行って」
「そうよ、そこよ」
「そこが一番いいわ」
 ワルキューレ達はジークリンデに対して告げた。
「そこには森があるわ」
「ファフナーがいる森が」
「あそこね」
 ブリュンヒルテにもその森が何処なのかわかった。
「あの森なのね」
「ええ、あそこよ」
「あの巨人が竜に姿を変えて指輪を守っているわ」
「けれどあそこは」
 ブリュンヒルテはその森のことを聞くうちに顔を曇らせてしまった。そのうえで言うのだった。
「女の人にとっては」
「けれどあそこなら」
「御父様でも」
「あの竜には誰も近寄れないから」
 神でさえもということだった。
 
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