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ワルキューレ

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第二幕その五


第二幕その五

「御父様の為に、神々の為に。それで何が不安なのですか」
「それはだ」
「それは?」
「エルダがだ」
「御母様がですか」
「そうだ。わしに告げたことだ」
 それだというのである。
「巨人達もいる」
「あの者達が」
「そしてあの者達がだ」
 声がさらに暗いものになった。
「あの者達がいるのだ」
「それは一体」
「夜の世界の者達だ」
 彼等だというのだ。
「あの者達が来るのだ」
「あの者達が」
「アルベリヒの軍勢が」
 あの男の名前を憂いと共に出した。
「ニーベルングは激しい怒りを以ってわしを恨んでいる」
「指輪を奪われたことを」
「そうだ。それを恨んでいるのだ」
 やはりこのことだった。このことをおいて他にはなかった。
「だが夜の軍勢は恐れてはいない」
「それはですか」
「エインヘリャル達がいる」
 ここでこの者達の名前を出したのだった。
「御前達が集めてくれた英雄達がな」
「はい」
 ブリュンヒルテはここで己に顔を向けてきたヴォータンに対して頷いた。
「彼等がですね」
「そして御前達もいる」
「私達が」
「ワルキューレもいる。夜の軍勢に敗れることはない」
「では何の憂いもないのでは」
「しかしだ」
 だがここでヴォータンの顔も声もまた曇ってしまった。
「あの男が再び指輪を手に入れれば」
「その時は」
「ヴァルハラは終わりだ。愛を呪うあの男は指輪の魔力を意のままにできるのだ」
「意のままに」
「何もかもができるのだ」
 彼は苦い顔で言った。
「その指輪は今巨人族の男が持っているのだ」
「巨人族、それは確か」
「あのファフナーだ。兄であるファゾルトと争いそれを殺し手に入れた指輪を守っているのだ」
「その指輪を」
「あの指輪は取り返さなければならない」
 ヴォータンの顔には決意もあった。
「しかしだ」
「しかし?」
「あれは契約によって支払ったもの。わしの手出しできるものではないのだ」
 天を仰いだ。その天にありながらさらに上をだ。
「契約によりこの世の主となったわしが今ではその契約の奴隷だ」
「契約の」
「そのわしが出来ないことをただ一人の者が為し得る」
「その者は」
「その英雄はわしが少しも助ける必要のない者だ。神の恩寵なしに意識せず命令を受けず」  
 彼は言う。
「わしに許されていない行為さえあえて行いわしの希望と同じことだけを望む者だ」
「その英雄がなのですね」
「神に逆らいそのうえでわしの為に戦うことを辞さない」
 神に逆らいながら神の為にというのだ。
「友にして敵とも言うべきこの男をどう見出すべきだったか」
「それは」
「わしの庇護を要せずそれでいて自らの誇りを持ち」
 言葉を続けていく。
 
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