トーゴの異世界無双
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第七十八話 これは目が離せねえ展開だな
闘悟達も昨日と同じくVIPルームへ行く。
そこにはもうヒナがいた。
昨日と同じ面子(めんつ)で今日も観戦する。
「皆様おはようございます! よく眠れましたでしょうか! 本日は予選第二日目! なお、バトルロイヤルは今日が最後となります! 今日で予選通過者四十名が選抜されます! では第一回戦の方々、準備の方をよろしくお願い致します! 十分後、開戦となりますのでお願い致します!」
実況のモアの、よく通る声が響いている。
「トーゴ様、ミラニは大丈夫でしょうか?」
「結果はどうなるか分からねえよ」
「そんな……」
「この世界には強え奴は一杯いる。クィルだって昨日観戦してそれが分かったろ?」
「は、はいです……」
「ミラニは強えよ。だけど最強じゃねえ。勝てない相手だっている」
「トーゴ様のようなですか?」
「そうだな。でもオレ以外にもいる」
「ふ、不安ですぅ……」
涙目になりながらこちらを見上げてくる。
ちょっと厳しいことを言い過ぎたのかもしれない。
「オレ達にできることは信じることだけだって」
「信じる……ですか?」
「ああ、だからそんな顔して見ちゃ、ミラニだって力入らねえぞ?」
クィルはそれでも暗い表情を作る。
どんな顔をしていいか分かってないのだ。
「笑うんだよ」
「え?」
「笑って見てやるんだよ」
「笑って……ですか?」
「ああ、闘ってる奴にとっちゃ、笑顔で応援されてるって分かれば、結構気合入るもんなんだよ」
これは適当に作った話ではない。
どんな勝負でも、応援が賑やかであれば力が湧く。
特に親しい者の笑顔は何ものにも代えがたい特効薬になる。
苦しい場面でも、そんな細やかなことが大逆転を生むきっかけにもなるのだ。
「……分かりましたです」
クィルは決心したように頷きを返す。
そしてもうその表情には暗さは写ってはいなかった。
「そんじゃ、一緒に応援すっか」
「はいです!」
二人のやりとりを他の者は微笑(ほほえ)ましそうに見ていた。
「わたしもおうえんするぞぉ!」
ハロも気合を入れる。
「ミラニは……ルームメイト……だよ」
ヒナが闘悟の袖を引っ張りながら声を出す。
ヒナはミラニが、同じルームで学ぶ友達だと言っているのだ。
「トーちゃんの言う通り、張り切ってミーちゃんの応援するわよぉ~」
相変わらずの明るさでニアが言う。
「はい、彼女は強いですから」
リアがそれに付け加える。
「うん、やっぱいい雰囲気だわトーゴ達って」
ステリアが皆に視線を送りながら呟く。
グレイハーツの確かな絆を感じて、少し羨ましく感じたのかもしれない。
そしていよいよ、第一回戦が始まる。
ミラニは漆黒の鎧を身に纏(まと)い、最後に武器の点検をしていた。
「ふぅ……」
いい緊張感に包まれていると感じる。
体も変に硬くなってはいない。
体調は万全だと言える。
今回の対戦方式はバトルロイヤル。
かなり変則的な闘いになる。
それに自分は名が知れている方なので、もしかしたら昨日のヤーヴァスのように集中攻撃を受けるかもしれない。
いや、その可能性の方が高いだろう。
ミラニはそう思いクスリと笑う。
望むところだ。
闘いは厳しければ厳しいほど、達成した時、大きく自分を高められる。
ミラニは闘悟に敗北を喫した後、これまで以上に厳しい修練を積んでいた。
幾ら遠く及ばないほどの負け方をしたとはいえ、やはり悔しかった。
一矢報(いっしむく)いることもなく敗れた自分を恥じた。
まだまだ自分は弱い。
自分の憧れるあの人にもまだ届かない。
だから敗北が起爆剤(きばくざい)として発揮したのは、ミラニにとっては好都合なことだった。
自分は今の現状に満足していては駄目だと理解させられたからだ。
あの人に託された役目を全(まっと)うするためにも、もっともっと高みを目指す。
そのためにも、今回の大会でさらに飛躍してみせる。
「……よし、行くか」
ミラニは目に鋭さを宿して歩を進めた。
「時間になりました! それでは第一回戦の方々、よろしいですか!」
モアの声が、参加者の三十人の緊張を上げる。
「『ヴェルーナ魔武大会』予選二日目、第一回戦! それでは……」
昨日より確実に増している観客が、固唾(かたず)を飲んで見守っている。
そして、三十人はいつでも攻防(こうぼう)できるように身構える。
「始めぇっ!!!」
瞬間、誰かが動くものだと思っていたが、どうしたことか誰一人動かない。
互いに武器に手を掛け、対戦者と一定の距離を保っている。
昨日の一回戦とは違い静かな立ち上がりになった。
「これはどうしたことか! 誰も動きません!」
「恐らくですが、この中にチームを組んでいる者がいないのではないのでしょうか」
モアの言葉を受け解説してくれたのはヒナの母親で、三賢人(さんけんじん)でもあるフレンシアだった。
今までこのような静かな立ち上がりは無かったので、観客も現況に驚いている者が多数いる。
「ほうほう、すると、今回は全員がソロ参加者だと?」
「もしくは、しばらく様子見をしているだけなのかもしれないですね」
「なるほど、ではしばらくはこの状況が続くと思われますね」
「ええ、誰かが動いたら、それが引き金になって一気に場が動きます」
「場がどう動くのでしょうか?」
「もちろん、先に動いた者は注目を浴びることになるでしょう。下手をすれば全員からターゲットにされる恐れさえあります」
「ふむふむ。ということは迂闊(うかつ)には動けませんね」
「ええ、実力者であればあるほど、場を見る力が養われています。この場で動くことの重要さは、彼らなら判断できるでしょう」
闘悟はそんな二人のやり取りを聞いていて正しいと思っていた。
いきなりこんな状況になったのは少し意外だったが、彼女らの言う通り、皆が力を溜めている状態だ。
何かのきっかけでそれが一気に解放される可能性は十分に高い。
それに、先に動く危険性も含んでいるのだ。
ミラニが先に動けば、まず間違いなく標的にされる。
気をつけろよミラニ……有名人はその的になりやすいからな。
闘悟の懸念(けねん)はそれに尽きる。
まず最初に強者であるミラニを倒せば、対戦が楽になる。
全員が一丸となれば、ミラニでも厳しいだろう。
だが、見た所チームを組んでいそうな者は見当たらない。
それが唯一の救いになるかもしれない。
統率されたチーム戦略は、容易に単騎(たんき)を捻(ひね)り潰す強さを持っている。
今回は恐らく皆がソロなので、そんな戦略は無い。
だがそれでも、有名人にとって危険な立場なのは違いない。
場が動き、時間が経てば必ず強者が集中して警戒される。
ミラニは背中にうっすらと汗を掻いていた。
気温自体はそれほど高くは無いが、三十人が互いの隙を睨んでいる最中は、かなりの熱気を生んでいる。
この均衡(きんこう)状態は、異様な空気の中にいるせいか精神力が削られる。
これに耐えきれず、誰が先に行動を起こすか。
ミラニは周囲に視線を送る。
そこでふと思い浮かんだ顔があった。
それは闘悟の顔だ。
あの男だったら、こんな状況の時どうするだろうか……?
ページ上へ戻る