トーゴの異世界無双
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第七十七話 頑張れよミラニ
その夜、大会の一日目が終わり、帰って来たクィル達(主にハロとステリア)にどうして帰ったのか詰め寄られたが、事情を話すと何とか分かってもらえた。
ハロはいきなり自分を置いて帰ったことに怒りを露(あら)わにしていたが、今度欲しいものを買ってあげる約束をしたらすんなり許してもらえた。
大会は一回戦から二十回戦まで大いに盛り上がり、今までにないくらいの大盛況ぶりにギルバニアは喜んでいたらしい。
内容については、詳しいことは聞かなかった。
その方が楽しみだからだ。
どんな相手が勝ち進んだのか、実際に会って闘う方が面白そうだ。
だが、ほとんどの対戦はやはり前評判が高いものが勝ち進んだらしい。
中には番狂わせ的な展開もあったようだが、それも予想していたことだとクィル達の話を聞いて闘悟は納得していた。
今日の内容の中で、闘悟が少し興味惹かれたのは、勝ち進んだ者のほとんどが平民だったことだ。
バトルロイヤルで、貴族達は、平民から集中攻撃にあったのだろうと闘悟は予想していた。
そんな結果になるということも、闘悟は最初から予測していた。
確かに一個人で闘えば、貴族に劣る者達も、そうやって徒党(ととう)を組めば勝ちを手にできる。
貴族は互いにプライドが高いから、チームを組むという考えすら邪道と捉える者が多い。
今回の結果で、数の力がどれだけ強いか知ったかもしれない。
もともと今回は平民の参加者の方が多いので、貴族達にしてみれば、辛い闘いになるかもしれないが、それは今まで平民が感じてきたことそのものだ。
そうして平民の気持ちが少しは理解できた者が、中にはいるかもしれない。
もしかして、そんなことを考えてギルバニアは今回のようなバトル形式にしたのかもしれない。
さすがは大国を束ねし国王だけはあると、闘悟は見直すことになった。
明日はいよいよ闘悟の番だ。
残念ながら出番はドンケツだが、いろいろ楽しみがある。
今日出会ったフービという男のこともあるが、自分の力をいろいろ試せると思うと楽しみで仕方無かった。
そこでふと思ったことがある。
ミラニとカイバも自分と同じ明日が対戦日だ。
気になったのはメイムのことだ。
彼女は今日戦ったのだろうか?
それとも明日なのか?
それだけが気になったのでクィルに聞いてみることにした。
「メイムさんですか? 彼女でしたら確か第十回戦で見ました。その……残念ながら負けてしまいましたが……」
クィルが残念そうに顔を伏せる。
やはり同じルームで学ぶ者同士、勝ってほしかったのだろう。
だが、メイムはまだギルドランクDだ。
実力ともに、まだ勝ち残れるほど成熟してはいないだろう。
そんな彼女が勝ち残れるほど甘い大会ではなかった。
「そっかぁ、それは残念だったな」
「は、はいです。で、ですが精一杯頑張っておられましたです! それこそ何か鬼気迫(ききせま)るような表情で!」
クィルの鬼気迫るという言葉が気になった。
闘っているのだから真剣になるのは分かる。
ただクィルがそういうふうに表現するということは、彼女は何が何でも勝ちたいと思っているということだ。
単に優勝したいと思っているだけかもしれない。
それでも闘悟には、何かが引っかかっている。
「そんなに必死だったのか?」
「あ、はいです。見たこともないような顔つきでしたです。その……少し怖いと感じてしまいましたです」
闘悟は第一回戦を振り返る。
あの時見たメイムの表情。
それは今まで接してきた彼女からは考えられないほど鬼気感を感じた。
一体メイムは何を思って闘ったのか……。
闘悟が急に黙ったので、気になったクィルが恐る恐る声を掛ける。
「あ、あのトーゴ様? どうかされましたか?」
「ん? いや、メイムは怪我とか大丈夫かなと思ってな」
「あ、それは大丈夫なのです。大会では優秀な治癒魔法を使える方が控えていますから」
確かにこんな危険な大会なのだから、アフターケアがしっかりしていなければ重症者が多数出てしまい、大会自体がなくなる可能性がある。
だが、医療関係が充実しているならその心配が限りなく低くなる。
「そっか、それなら安心だ」
「はいです!」
クィルは闘悟の言葉を受けて微笑んだ。
悪いなクィル。
今この場ではメイムのことは話せない。
話しても余計心配させるだけだし、闘悟自身詳しいことを何も知らない。
今は静かに事を見守った方が得策だと感じたので口を閉じることにしたのだ。
とにかく今はメイムのことは置いておいて、明日のことを考えることにした。
そして、夜は更けていき朝を迎える。
今日はいよいよ闘悟の対戦日だった。
ただ闘悟は本日一番最後の出番なので、それまでは宮殿で大人しくしていようと思った。
だが、クィル達に無理矢理闘武場まで引っ張って来られた。
せっかくミラニが第一回戦で闘うのだから、見てあげてほしいとのことだ。
そう言われて断る理由が思いつかなかったので、闘悟は流されるまま闘武場までやって来たのだ。
ミラニとも一緒に来たのだが、やはりいつもと違い、少しピリピリした雰囲気を纏(まと)っていた。
彼女も大会参加は初めてらしいが、王国の魔法騎士団団長として恥じない闘いを志さなければならないと感じているに違いない。
闘悟に言わせれば、そんなものに縛られず自分の思う通り自由にやればいいと思うが、ミラニはミラニなので、闘悟の意見を押し付けるつもりはない。
ただやはり、闘悟にとってもミラニは家族みたいなものなので、是非全力を出して結果を得てほしいと思っている。
闘武場に到着すると、ミラニだけが別れて行動する。
すぐに第一回戦が始まるからだ。
「ではクィル様、行って参ります」
丁寧に頭を下げる。
「私は無事だけを祈っていますです」
クィルが不安そうに言葉を放つ。
ミラニが強いということは知っているが、それでもやはり心配なのだろう。
だが闘悟はそんなクィルにある言葉を掛ける。
「おいおいクィル、掛ける言葉が違えよ」
「え?」
クィルは何か間違ったのかと眉を寄せる。
「こういう時は、頑張って……だ」
闘悟の言葉にクィルはハッとなりミラニを見つめる。
すると、ミラニは軽く微笑する。
「ミ、ミラニ!」
「はい」
「が、頑張って下さいです!」
「畏(かしこ)まりました」
クィルの言葉を受け、ピリピリしていた雰囲気が、少し温和(おんわ)になる。
どうやら彼女は緊張をしていたみたいだ。
それがクィルの激励で幾分和(やわ)らいだようだ。
「オレからも一言」
「な、何だ?」
ミラニが意外そうに目を見張る。
おいおい、オレでも激励ぐらいは送るっつうの!
「決勝で闘(や)れるといいな」
「…………無論だ」
ミラニは力強く頷きを返す。
「では」
ミラニはオレ達から離れて闘武場の舞台がある方へ足を伸ばしていった。
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